『誤解の心理学』
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目次
はじめに
序
1.本書の目的と構成
2.「コミュニケーションのメタ認知」とは
I 事例編
1章 日常の中の誤解
1.笑って済ませられる誤解
2.笑っていられない誤解
コラム1 ある主婦の災難
3.かなり深刻な誤解
コラム2 ある大学院生の悲劇
Ⅱ 解説編
2章 誤解の言語学的背景
1.言語表現の誤解調査
(1)誤解経験の意識化と誤解内容の言語化
(2)誤解内容の分類
2.音韻論的誤解(聞き取りの誤り)
3.統語論的誤解(文法解釈の誤り)
(1)省略表現に関するもの
(2)修飾語-被修飾語,主語-述語,主語-目的語の関係づけに関するもの
4.意味論的誤解(意味解釈の誤り)
(1)方言に関するもの
(2)同音異義語に関するもの
(3)多義的表現に関するもの
コラム3 「のび太」に似ていると嬉しいか?
(4)抽象的表現・専門用語・流行語に関するもの
(5)主観的表現に関するもの
5.語用論的誤解(意図解釈の誤り)
(1)間接的要求に関するもの
(2)間接的拒否に関するもの
(3)その他の間接的表現に関するもの
(4)指示表現に関するもの
コラム4 誤解で絞首刑になった男がいた!?
6.発話意図の解釈と心の読み取り
3章 誤解の心理学的背景(1):言語内容の誤解
1.情報の非共有に起因する誤解
(1)語の意味の非共有
(2)省略語の非共有
(3)含意(発話意図)の非共有
コラム5 高くついた冗談
2.予想・期待に起因する誤解
コラム6 わかりにくい話
3.記憶の歪みに起因する誤解
コラム7 いつの間にか「亡くなって」いたキング夫人
4.他者視点の欠如に起因する誤解
5.気分・感情に起因する誤解
4章 誤解の心理学的背景(2):言語内容以外の誤解
1.コミュニケーション・メディアに起因する誤解
2.あいづちとうなずきの乏しさに起因する誤解
3.パラ言語と表情に起因する誤解
コラム8 誤解を招いたメラビアン
4.その他の非言語に起因する誤解
(1)アイコンタクト
(2)物理的距離
(3)着席位置
(4)身体接触
(5)服装や持ち物など
(6)文字フォント
コラム9 「エレガント平成」騒動
5章 誤解の文化論的背景
1.日米のコミュニケーション文化の違い
2.日米摩擦の裏にある誤解
3.日米の表情差
4.男女間のコミュニケーション文化の違い
コラム10 あるカップルの破局
5.日本国内でのコミュニケーションの文化差
コラム11 お茶漬け伝説
6章 コミュニケーションに関わるメタ認知と脳機能
1.メタ認知とは何か
2.コミュニケーションに関わるメタ認知
コラム12 メタ認知を働かせすぎると…
3.コミュニケーションにおけるメタ認知と関連する概念
(1)視点取得
(2)心の理論(theory of mind: TOM)
(3)共感(empathy)
(4)メンタライジング
(5)マインド・リーディング
4.コミュニケーションとメタ認知を司る脳領域
コラム13 急に人間関係がうまくいかなくなった青年の謎
5.社会脳
6.メタ認知と脳
Ⅲ 予防・対策編
7章 誤解の予防と対策
1.予防・対策を要するコミュニケーションの悩みとストレス
2.メタ認知を促すコミュニケーション・トレーニング
(1)誤解事例分析シートを用いた演習
(2)不十分な説明材料を用いた演習
(3)自らのスピーチ・プロトコルを作成する演習
(4)討論を評価し合う演習
(5)「言わなかったこと」を「言った」と思わせる演習
(6)誤解を誘発するメッセージを作る演習
(7)非言語情報の伝達演習
コラム14 「なべなべ,そこぬけ」の動作を言葉で説明してみると…
(8)概念や考えを図で表現する演習
おわりに:メタ認知によるコミュニケーションの改善に向けて
引用文献
事項索引
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はじめに
序
1.本書の目的と構成
誤解の例
「午後一時、雨が降るでしょう」
留学生「ぴったり午後1時に雨が降り出す予報ができるなんて、日本の技術は素晴らしい!」
2.「コミュニケーションのメタ認知」とは
I 事例編
1章 日常の中の誤解
1.笑って済ませられる誤解
2.笑っていられない誤解
コラム1 ある主婦の災難
3.かなり深刻な誤解
コラム2 ある大学院生の悲劇
Ⅱ 解説編
2章 誤解の言語学的背景
誤解の分類
1.言語表現の誤解調査
(1)誤解経験の意識化と誤解内容の言語化
誤解は意識化、言語化が難しい
(2)誤解内容の分類
誤解する場合、誤解された場合でも同じような傾向が認められる
2.音韻論的誤解(聞き取りの誤り)
音韻論(phonetics)
聞き取り、音の取り違えによる誤解。
・発音不明瞭
・早口
3.統語論的誤解(文法解釈の誤り)
統語論(syntax)
文法解釈の誤りによる誤解
・省略表現による誤解
・修飾語の関係づけの読み解きミスによる誤解
(1)省略表現に関するもの
話し手は一般に自分にとって自明である部分を省略する結構がある。しかし、省略された部分は、聞き手にとっても自明であるとは限らない。文の意味解釈のためには、省略部分を復元することが必要だが、しばしば聞き手は、誤った復元を行ってしまう。
ある日の夕暮れ時、女の子が犬を散歩されているのに出会った。すると猫がこちらに走って来て、彼女の犬が激しく吠えて暴れ出した。そこで、僕が「猫ですか?」と聞いたら、彼女は「いいえ、犬です」と答えたのである。いかに暗かったとはいえ、犬と猫の区別くらいつくのに。
この例では主語が省略されており、話し手は「犬を吠えさせている原因は」という主語を念頭に置いて「猫ですか?」と訊ねたのだろう。ところが聞き手は、この省略部分に「あなたが連れているのは」という主語を当ててしまい、「いいえ、犬です」と答えたものと思われる。
夜、知人の家へ電話をした時、私は今のことを指して、「お忙しかったですか?」と聞いたのに、相手はその日一日のスケジュールをお話ししてくださった。
このように、「今」という言葉が省略された時、聞き手は訪ねられている範囲を拡大して解釈し、その日一日と受けとったのだろう。場所や方向を表す副詞(句)も、場合によっては省略される。
(2)修飾語-被修飾語,主語-述語,主語-目的語の関係づけに関するもの
・修飾語がどの語にかかっているかを誤解する
小さなネコの声
・主語と述語が離れすぎていて、対応づけに失敗する
母が祖母と父が出かけた後で帰ってきた
・助詞を抜いて、主語と目的語の配置が逆転した
彼、私好き
4.意味論的誤解(意味解釈の誤り)
意味論(semantics)
言葉の意味の取り違え
意味論的誤解
1.方言
2.同音異義語
3.多義的表現
4.抽象表現・専門用語、流行語
5.主観的表現
(1)方言に関するもの
(2)同音異義語に関するもの
(3)多義的表現に関するもの
コラム3 「のび太」に似ていると嬉しいか?
(4)抽象的表現・専門用語・流行語に関するもの
(5)主観的表現に関するもの
5.語用論的誤解(意図解釈の誤り)
語用論(pragmatics)とは、発話の意図つまり含意(implicature)を対象とする研究分野を指す。
発話の含意は辞書的な言葉の意味を知っているだけでは解釈できない。その発話を通して話し手が伝えたかったこと(発話意図)は何かという、推測が必要になる。
「何か書くものを持っていませんか?」の意図
書くものを持っていたら貸して欲しいを意図している。
「ちょっと難しいです」は、断りを意図することがある。
語用論的誤解の分類
・間接的要求
・間接的拒否
・その他間接表現
・指示表現
(1)間接的要求に関するもの
大人同士で、礼儀正しく何事かを要求したい時には、要求そのものを直接的に言語化することは少ない。すなわちある行為を要求する場合、「〜していただくことはできますか」「〜していただけると助かりますが」といった間接的表現を用いることが多い。
これらの表現を話し手の要求としてとらえることができるのは、言語表現の用い方に関する知識が、話し手と聞き手に共有されているからにほかならない。このような慣用についての共通認識が不十分である時、次のような誤解が生じる。
ゼミの教授が「○月○日に学会の受付のお手伝いに来て下さると助かるのですが、皆さん」と言ったのを、強い要求と受けとらずに単なる願望と誤解してしまい、その日行かなかった。あとで、ほかの連中は来ていたとさんざん皮肉を言われた。
ほのめかしと搾取
自分がある人に物を貸した時、早く返してくれるよう催促するために、わざわざ「いつまで借りていてもいいよ」と言ったことをそのまま受け取られ、いつまでも返してもらえなかったことがある。
ここでは、話し手はたぶん、催促がましい表現を使いたくないため、逆に寛容さを示す表現を用いて、借りていた物を相手に思い出させようとしたのだろう。しかし。話し手の意図は聞き手に通じなかった。間接要求表現があまりに間接的すぎ、しかも一般的な使い方として定着していないものは、相手に通じない可能性が高い。
一方、話し手が直接的な意味しか念頭に置いていないのに、聞き手の方が気を回して、間接的な意味を見出す場合もある。「家庭教師に行った先で『おいしいコーヒー豆を買って来たので飲んでみて下さい』と言ったところ、そのコーヒー豆を使って僕にコーヒーを、入れてほしいのだと思われ、純粋に喜んでもらえなかった気がして、悲しかった」
間接要求表現は相手に負担を強いる場合に使われる
間接要求表現が使われるのは、主として、要求を受け入れる時に相手の負担が大きくなる場合である。岡本(1986)は、日本語においては、相手に対する要求量が大きいほど、「〜して下さい」のような直接表現が用いられにくくなり、「「〜してもらえませんか(〜していただけないでしょうか)」といった否定疑問形や「〜していただきたいんですが」などの間接表現の使用が増加することを実験的に示している。
※相手の負担が少ない場合に間接要求表現を用いると、誤解される場合がある。
(2)間接的拒否に関するもの
・要求・依頼・提案を拒否する際に間接表現が用いられる事がある。
・年齢が進むにつれて拒否表現が間接的になっていく(仲, 1986)
論文
仲真紀子. (1986). 拒否表現における文脈的情報の利用とその発達. 教育心理学研究, 34(2), 111-119.
・成人が要求を断る際に「だめ」「いや」といった直接的拒否の表現はめったに用いない。
誘いを断るつもりで、「考えとくわ」と冷淡に言ったのに、相手はそれを言葉通りに受け取り、後でまた、「どうするつもりか」と尋ねてきた。
(3)その他の間接的表現に関するもの
要求や拒否以外にも間接的な表現をする。
・冗談を本気で受け取られた
・皮肉を真に受けられた
・疑問形で苦情を伝える
・別のものを指すことが、その他のものと比較として捉えられてしまう(「あてつけ」に捉えられてしまう)
タバコを吸っている女性に対して、「あなたはタバコを吸うのですか?」と尋ねると、「ああ、けむたいですか」と言われた。女性でタバコを吸う人は男性より少ないから尋ねただけだったのだが。
※吸っている人に吸うのですかと聞いている時点で文脈が言葉通りでは受け取れない。
私が友人の車に乗っていた時、まわりを走っている車を見て、「あの車かっこいい、いいなあ」などと言っていると友人は、「この車降りてその車に乗せてもらったらいいでしょ」と言って怒ってしまった。私は別にその友人の車がいやだなんて思ってないのに…。
(4)指示表現に関するもの
コラム4 誤解で絞首刑になった男がいた!?
「これ」「それ」といった指示表現による誤解。
・指示対象の取り違え
・連想の違い
・論理の違い
6.発話意図の解釈と心の読み取り
グライスの公準
3章 誤解の心理学的背景(1):言語内容の誤解
言語内容の誤解要因
・情報の非共有
・予想と期待
・記憶の歪み
・他者視点の欠如
・気分と感情
1.情報の非共有に起因する誤解
(1)語の意味の非共有
送り手にはわかっている言葉の意味が、受け手にはわからないことがある。
気の置けない人の誤用と誤解など。
(2)省略語の非共有
省略された語による誤解。
「もう時間も遅いから」と思ったので「帰ろうか」と言った。すると相手は、「私といても楽しくないので、帰ろうと言ったのだ」と受け取り、傷ついた。
理由の説明を省いたことによる誤解は少なくない。この例のように、受け手が送り手の発言を否定的な意味合いでとらえた背景には、「相手に好かれていないのではないか」という自信のなさ、不安感があるものと考えられる。
(3)含意(発話意図)の非共有
コラム5 高くついた冗談
一般に大人は、他者からの誘いや依頼を断る時には、直接的な断り方を避ける傾向がある。「いや」「だめ」などとストレートに断るのは、通常、小さい子どもだけである。大人は、代わりに湾曲表現を用いる。仲(1986)の発達研究においても、年齢が上がるにつれて、他者からの要請を断る際の拒否表現が間接的になっていくことを明らかにしている。
したがって、受け手は、湾曲表現の中に送り手の発話意図を読みとらねばならない。しかしながら、「用事があるので」「時間がないので」といった拒否の湾曲表現は曖昧であり、送り手が本当はどう思っているのかを知ることは難しい。
(「一緒に食事に行きませんか」という誘いに対して)「用事があるので行けない」と答えたところ、「一緒に行きたくない」と誤解された。
言葉で何かを伝えようとする時、どのような言語表現を用いるかが問題であり、ものの言い方は、単なる言語的な意味だけではなく、社会的な意味を伝達する(Tannen, 1986)。人によって、直接表現と間接表現の使い分けやウェイトのかけ方が異なり、これが会話スタイルの差であるとタネンは言う。会話スタイルの異なるふたりが会話をすれば、発話意図の誤解が生じ、人間関係が悪化しかねない。
2.予想・期待に起因する誤解
コラム6 わかりにくい話
受け手は送り手の発話である言語情報を、自分の予想や期待に基づいて解釈することになる。そのため、予想・期待に合致する方向に解釈が歪められることが多い。
一般に私たちが他者の言葉すなわち言語情報を処理する際には、2種類の処理過程が同時に働く。1つは、部分情報の処理を積み上げて全体の意味を把握するボトムアップ型(bottom-up)処理がある。送り手の言葉を解釈する際には、音声情報をそのままの形で取り込み、語や句の意味の同定、文法情報の活用、言語外知識の活用などにより、発話全体の意味解釈へと至るものである。
これに対して他の一つは、上から下へと降りて行くトップダウン型(top-down)処理と呼ばれる。こちらは、ボトムアップ型処理とは逆に、状況や文脈などから、あらかじめ何の話かという全体の意味がわかっており、まず来るべき言語情報への予想・期待が形成され、この予想・期待に基づいて情報の細部の解釈がなされる。
このトップダウン型処理に大きく関与するものとして、解釈の枠組みとなる知識のまとまり、すなわちスキーマ(schema)(Bartlett, 1932)がある。スキーマは、あるテーマについての知識のまとまりを意味する。たとえば、職業スキーマの1つである教師スキーマとして、私たちがもっているスキーマは、「教師はまじめである」「教師は親切である」「教師は子ども(や若者)が好きである」といった内容である。
活性化拡散モデル(spreading activation model) (Collins&Loftus, 1975)
私たちの知識(長期記憶)体系においては、関連のある概念どうしの結びつきによるネットワーク構造が存在し、ある1つの概念が処理されると、関連のある他の概念にも、自動的に活性化が拡散していく。
したがって、聞き手の側にあらかじめ先行情報がある場合には、その情報の意味の影響を強く受けた形で、後に続く情報の意味が解釈されることになる。
意味的プライミング効果
私たちの言語理解は、先行する情報に大きく左右される。果物という言葉を聞いていれば、牡蠣より柿を思い浮かべやすいというのは、この例である。これは、文脈効果と見なされる。また、「果物と柿」のような上位概念-下位概念の関係だけでなく、「パンとバター」のような横並びの連想関係においても、意味解釈の促進が起こり、「バター」のみを呈示するよりも、先にプライム(先行情報)として「パン」を呈示した場合の方が、「バター」という語の意味を認知しやすくなる。こうした促進効果は意味的プライミング効果(semantic priming effect)(Meyer&Schvaneveldt, 1971)と呼ばれる。
直接プライミング効果
もちろん、同じ言葉どうしでも促進効果は生じる。そのため、後続の単語の一部分しか聞き取れなかった場合にも、先に呈示された語が強い影響を及ぼす。たとえば、「ニガウリ」という語を先行呈示しておくと、「ニ□□リ」のように聞き取れない音があったとしても、「きっと、ニガウリと言ったのだろう」と考えやすい。一般に言葉としては、より出現頻度の高い「ニワトリ」という語を凌ぐ形で、こうした補完(単語完成)が生じるのである(直接プライミング効果)(Tulving&Schacter, & Stark, 1982)。このように、直接の経験も含めて、受け手の過去経験からある予想が働いた場合には、その予想に合致する方向へと情報の解釈が歪められることがある。
3.記憶の歪みに起因する誤解
コラム7 いつの間にか「亡くなって」いたキング夫人
ヘレンケラー実験(Sulin&Dooling, 1974)
キャロル・ハリスの物語
キャロル・ハリスは生まれた時から問題のある子だった。彼女は野蛮で、強情で、乱暴者だった。キャロルの8歳になっても、まだどうしようもなかった。彼女の両親は彼女の精神衛生をとても心配していた。その州では、彼女の治療のためのよい施設が見つけられなかった。彼女の両親はついにある処置をとる決心をした。彼らはキャロルの世話をしてくれる家庭教師を雇った。
ヘレン・ケラーの物語
ヘレン・ケラーは生まれた時から問題のある子だった。彼女は野蛮で、強情で、乱暴者だった。ヘレンの8歳になっても、まだどうしようもなかった。彼女の両親は彼女の精神衛生をとても心配していた。その州では、彼女の治療のためのよい施設が見つけられなかった。彼女の両親はついにある処置をとる決心をした。彼らはヘレンの世話をしてくれる家庭教師を雇った。
1週間後、参加者は「彼女は耳が聞こえず、口もきけず、目に見えない」という一文が、先の文章の中に含まれていたかどうかを答えるテストを受けた。すると、実際にはこの一文が含まれていなかったにもかかわらず、キャロル・ハリスの名を用いたグループの5%が「はい」と答え、ヘレン・ケラーの名を用いたグループでは50%が「はい」と答えたのである。
さらに、ドゥーリングとクリスティアーンセン(Dooling&Christiaansen, 1977)は、こうした誤りがどの段階で生じたのか、つまり文章を読んだ時なのか、それともテストを受けた時なのかを調べる実験を行った。彼らは、実験参加者にキャロル・ハリスの物語を読ませ、1週間後のテストの直前になってから、実はキャロル・ハリスがヘレン・ケラーであることを告げたのである。すると、やはり同じ誤りが生じた。このことから、彼らは、文章を読んだ時ではなく、思い出す時に誤りが生じるのだと結論づけた。
メモと伝達の誤り
メモは正しいが、伝達する際に誤った(言い誤るなど)
メモ段階ですでに誤っており、その誤りのまま伝達した
メモが不十分(省略し過ぎ)であり、伝達する際に、省略部分の復元を誤った
もとの情報をメモし損ねており、伝達も誤った
4.他者視点の欠如に起因する誤解
5.気分・感情に起因する誤解
感情は情報の一種である
自分が好きではない人の言った言葉は悪く取る
4章 誤解の心理学的背景(2):言語内容以外の誤解
1.コミュニケーション・メディアに起因する誤解
2.あいづちとうなずきの乏しさに起因する誤解
3.パラ言語と表情に起因する誤解
コラム8 誤解を招いたメラビアン
パラ言語と表情の一致
速い発話と遅い発話
4.その他の非言語に起因する誤解
(1)アイコンタクト
(2)物理的距離
(3)着席位置
(4)身体接触
(5)服装や持ち物など
(6)文字フォント
コラム9 「エレガント平成」騒動
5章 誤解の文化論的背景
1.日米のコミュニケーション文化の違い
額にEを書く実験(Hass, 1984)
アメリカ
カメラを向けられて正しい向きでEを書いた 55%
カメラが向けられず正しい向きでEを書いた 18%
日本(戸田・伊藤・喜井・岡部・吉田, 2010)
カメラが向けられず正しい向きでEを書いた 50%
2.日米摩擦の裏にある誤解
3.日米の表情差
4.男女間のコミュニケーション文化の違い
コラム10 あるカップルの破局
5.日本国内でのコミュニケーションの文化差
コラム11 お茶漬け伝説
6章 コミュニケーションに関わるメタ認知と脳機能
1.メタ認知とは何か
2.コミュニケーションに関わるメタ認知
コラム12 メタ認知を働かせすぎると…
メタ認知を用いた会話
親しい友人との雑談であれば、私たちは、その場の思いつきで話すことも多い。しかし、失敗すると深刻な事態を招きかねないコミュニケーションにおいては、自分がコミュニケーションについてもっているメタ認知的知識を活用しながら、慎重に対処する。つまり、事前段階で「どう話そうか」とプランを練り、「たぶん相手は、こんなふうに反応するだろう」と相手の反応を予想し、「少し言い方を柔らかくしてみよう」などとコミュニケーションの手立て(方略)を考える。実際に会話を行っている間ももちろん、相手の様子を見ながら、表現や話の展開を調整する。また、話しが終わってからも、ふりかえりを行う。
話し言葉だけではなく、文章を書く際にも、メタ認知は重要な働きをする。文章の誤字脱字をチェックする必要があることは言うまでもないが、とりわけ、特定の個人ではなく不特定の読者を想定する場合には、読み手にうまく伝わるかどうかを慎重に吟味しなければならない。そこで、書きっぱなしではなく、読み返して修正を行う遂行が必要になる。
不適切なメタ認知的知識 p150
獲得したメタ認知的知識が適切でない場合がある(三宮, 2016)たとえば、「何かを人に説明する場合には、最初からできるだけ詳しく具体的に説明するとよい」といったメタ認知的知識を獲得してしまうと、細部にこだわりすぎて、なかなか先に進まず、聞き手を苛立たせてしまうかもしれない。あるいはまた、話しが細かくなりすぎて大枠がつかみにくくなり、聞き手が話しの要点を誤解してしまうこともあるだろう。
高いメタ認知能力を備えていたとしても、時と場合によっては、これが発揮されないことがある。それは、おもにメンタルリソースつまり心的資源(認知資源)の現象が生じた場合である。たとえば、睡眠不足や体調不良といった原因から、あるいは、他の考え事や心配事によって、さらには多忙さから、利用可能なリソースが減ってしまっている場合である。リソースが減ると、認知活動だけで手一杯になり、メタ認知にまでリソースが配分される余裕がなくなる(三宮, 2014)こうした場合、人に何かを伝えたり他社の言葉を解釈する際にメタ認知的活動が不十分となり、誤解が生じやすい。
あるメタ認知的知識やメタ認知的活動が適切か否かを考えることは、メタ認知をもう一段上からとらえることになるため、メタメタ認知と呼ぶ。
※うーん、あやしい。鈴木宏昭のメタ学習とメタ認知のレイヤーが一致する気がする。三宮によるメタ認知の解説には一次学習が多いのではないか。 3.コミュニケーションにおけるメタ認知と関連する概念
(1)視点取得
・空間的視点取得(位置的に変えて見る)
・社会的視点取得(他社の立場から見る)
//・時間的視点取得(過去から考える、未来から考える)
(2)心の理論(theory of mind: TOM)
動物行動学者のプレマックとウッドラフによって命名された概念。
(3)共感(empathy)
共感は一般に、他社の心の状態を理解したり共有したりすることを意味する。
二種類の共感
(4)メンタライジング
(5)マインド・リーディング
他者に対するメンタライジング
マインド・ブラインドネス
高機能自閉症者が心の理論を十分に獲得できないこと
マインド・リーディング
心の理論を用いて他者の心を推測すること
(Baron-Cohen, 1995)によるもの
※超能力的な読心術とは無関係
4.コミュニケーションとメタ認知を司る脳領域
コラム13 急に人間関係がうまくいかなくなった青年の謎
ウェルニッケ言語野の損傷
ブローカ言語野の損傷
5.社会脳 p167
6.メタ認知と脳
Ⅲ 予防・対策編
7章 誤解の予防と対策
1.予防・対策を要するコミュニケーションの悩みとストレス
大学生の問題意識(三宮, 2011)
拒絶敏感性(rejection sensitivity)
社交不安(social anxiety)
発話の誤解は苛立つ
2.メタ認知を促すコミュニケーション・トレーニング
コミュニケーションプロセスを外化(可視化)して、トレーニングする。
(1)誤解事例分析シートを用いた演習
(2)不十分な説明材料を用いた演習
(3)自らのスピーチ・プロトコルを作成する演習
(4)討論を評価し合う演習
(5)「言わなかったこと」を「言った」と思わせる演習
私たちのコミュニケーションの中で、「言った・言わない」が問題になることがある。「あなたは、あのときこういった」「いや、そんなことは言っていない」という水掛け論になることもある。たいてい、どちらも譲らない。本当は、いずれかが誤解しているケースが多いのだが、それぞれが自分の主張に固執し、次第に険悪なムードになりかねない。 (6)誤解を誘発するメッセージを作る演習
(7)非言語情報の伝達演習
コラム14 「なべなべ,そこぬけ」の動作を言葉で説明してみると…
1.それぞれのチームに分かれて、おしくらまんじゅうといった遊戯を言葉を用いて説明する。
2.各チームの説明をみんなで検討する
3.何が誤解を生みにくくしたかを検討する
1.二人に別れる
2.または単純な図形の組みあわせを、言葉で説明し相手に書いてもらう。
(8)概念や考えを図で表現する演習
例
ダブルバインドコミュニケーションを絵で表現する
(顔をしかめている母親が「遊びに行ってもいい」と答えている)
おわりに:メタ認知によるコミュニケーションの改善に向けて
引用文献
事項索引