近世渋谷の仏教:総合講座(渋谷学)
2025度後期:総合講座(渋谷学) 第4回
担当:遠藤潤(國學院大學神道文化学部)
最終更新:2025-10-12 05:05
要旨(シラバス掲載):
現在の渋谷区の範囲を対象として、近世のこの地域の町と農村のあり方、江戸における宗門と寺院統括のあり方などを説明した上で、この地域に存在していた寺院の特徴や信仰について考える。
4.1. 江戸の触頭制度—前提として:鈴木理生『江戸はこうして造られた』pp.311-314、参照
浄土宗
江戸浄土宗四ヶ寺(触頭四ヶ寺)…田嶋山快楽院誓願寺(小田原→浅草→(関東大震災後に府中市に移転))、光明山和合院天徳寺(知恩院末・西久保巴町)、当智山重願院本誓寺(知恩院末・小田原→深川)、東光山西福寺(知恩院末・駿府→駿河台→浅草南元町) 三縁山増上寺派
曹洞宗
曹洞宗江戸檀林…諏訪山吉祥寺(上州永源寺末・和田倉→神田台→駒込)、竜谷山功運寺(参州竜門寺末・三田)、普陀山長谷寺(下毛大中寺末・笄) 真言宗
真言四ヶ寺(真言宗江戸四ヶ寺)…金剛宝山根生院(湯島切通町)、万徳山弥勒寺(醍醐寺三宝院末・本所)、摩尼珠山真福寺(愛宕下)、愛宕山円福寺(愛宕) 高野学侶在番屋敷…「長寿寺は明治四年高野学侶在番屋敷を改称。江戸時代は触頭であった。1927年高野山東京別院となった(寺社書上など)。」(「芝二本榎町二丁目」日本歴史地名大系) 一向宗
一身田(高田)派…(高田山無量寿院専修寺末江戸三寺として)光沢山称念寺(浅草)、(同上)至心山唯念寺(浅草)、(同上)静竜山澄泉寺(溜池)[現在] 法華宗
身延末触頭…大光善立寺(浅草寺町)、慈雲山瑞輪寺(下谷)[谷中上三崎南町] 伊豆玉沢触頭二寺…長昌山大雄寺(谷中)、蓮紹山恵光寺(市ヶ谷) (ほかに)
日蓮宗未勝劣派…徳栄山本妙寺(本郷菊坂町)…寛文7年から触頭(『東京市史稿』宗教篇3、pp.464-468)[1910年に巣鴨に移転(現在)] 天台宗
熊野本願中目代所
虚無僧番所
江戸番所四ヶ所…金竜山梅林院一月寺(浅草東中町)、神明山青山寺(橘町)、廓嶺山鈴法寺・普化宗(武州青梅→市谷田町)、甲州安楽寺普化禅宗触頭(武州布田→鈴法寺兼帯) 時宗
黄檗宗…紫雲山瑞聖寺[ずいしょうじ](白金)[現在]、永寿山海福寺(万年町二丁目〈深川〉) 願人
鞍馬円光院判下願人(日本歴史地名大系)…宝泉坊(芝新網町)
鞍馬方大蔵院配下願人(日本歴史地名大系)…山本坊(下谷山崎町二丁目)
4.2. 近世渋谷の寺院
4.2.1. 概観
寺院創建の要因
2. 在地の農民による創建…渋谷ではさほど多くない。
3. 有力寺院の関連寺院の創建
渋谷区域での創建過程
瑞泉山祥雲寺とその子院・関連寺院(祥雲寺、景徳院と東江寺、霊泉院、香林院、天桂院、真常庵、棲玄庵、大聖寺、天桂庵など) 近世中期以降の転入
有力寺院の門前町屋
渋谷
妙祐寺門前(寛永5 (1628-)/町奉行支配 延享3 (1746-1817) 長谷寺門前(天和元 (1681-) /町方支配 延享2 (1745-)) 青山
4.2.2. 青山家に関わる渋谷の寺院
青山家の人々
川口長三邸の内室(法名:玉窓秀珍禅尼) -1601没:忠成の娘
(青山忠成は芝の増上寺に葬られた。)
玉窓寺(忠成の娘 玉窓秀珍禅尼の葬場・位牌所に由来) 金王八幡社―東福寺(忠成の次男 青山忠俊が八幡社を整備) 4.2.3. 各宗派の寺院
浄土宗
曹洞宗
臨済宗
塔頭…鳳翔山景徳院、霊泉院、香林院、天桂院、真常庵、棲玄庵
(景徳院の合寺)妙高山東江寺
妙心寺派
真言宗
一向宗
西本願寺末…妙祐寺…もと宮益坂。(地下鉄建設・戦災を経て渋谷駅近くから転出、世田谷区北烏山に。) 法華宗
天台宗
4.3. 中世からの金王丸伝説と近世寺社
金王八幡
「金王麿影堂」
「金王麿産湯の水」(堀の内[現・渋谷警察署あたり])
(参考)水のつながり:「甘露水」、「玉池」
谷と川の地形
4.4. 近世渋谷の別当や修験と神仏関係
『渋谷金王桜八幡宮霊仏霊宝記』(研究開発推進機構学術資料センター所蔵)
4.5. 庶民信仰
開帳
梅窓院(青山)泰平観音の開帳:文化14(1817)年3月 高徳寺(青山久保町)の十一面観音の開帳:宝暦11(1761)年 玉窓寺(青山)観音の開帳:文化14(1817)年3月 金王八幡:宝暦11(1761)年(「渋谷金王桜八幡宮霊仏霊宝記」など)、明和3(1766)年4月、享和2(1802)年4月、文化11(1814)年4月(『武江年表』)
千駄ヶ谷:仙寿院の鬼子母神(1839)、聖輪寺の如意輪観世音(1768)、など 鳳閣寺(青山)で百日芝居の興行(1862年3月):青山ではめずらしいこととして多く人が集まったという。 巡拝:渋谷およびその周辺地域も多くの巡拝の一環をなした。
江戸三十三所観音参り
…
…
弁財天百社参り
江戸南方・山の手・東方各四十八地蔵尊参り
南方…(39) 楔地蔵(青山梅窓院)、(40) 満米地蔵(青山原宿長安寺) 閻魔参り(百ヶ所参り)
(青山)
青山泰平観音境内
青山教覚院(ならびに脱衣婆)
青山善光寺境内地蔵堂内
(渋谷)
福昌寺(十王脱衣婆)
渋谷氷川社内
弘法大師江戸八十八所参り
4.6. 渋谷の寺院が迎えた近代
修験や別当の廃止
羽黒修験の法性寺(幡ヶ谷)は真言宗の荘厳寺(幡ヶ谷)に合併された。
宮益町の修験で御嶽権現社の別当だった学宝院は廃寺となった。
東福寺(金王八幡宮別当)、と宝泉寺(氷川社別当)、福泉寺(代々木八幡宮)などの寺院は、神社とは独立した寺院として新たに出発した。
都市建設(代々木練兵場の設置、明治神宮外苑の造営、環状5号線の開通、東京高速鉄道の延伸)や戦災の影響による移転・転出
雲照寺…慈雲尊者飲光の影響を受けた僧侶雲照 (1827-1909) の近代仏教運動に起源。 参考文献
有田肇『渋谷町誌』渋谷町誌発行所、1914年
倉石忠彦編著『渋谷学叢書1 渋谷をくらす―渋谷民俗誌のこころみ―』雄山閣、2009年
上山和雄編著『渋谷学叢書2 歴史のなかの渋谷―渋谷から江戸・東京へ―』雄山閣、2011年
遠藤潤「渋谷の寺院―近世を中心として―」(石井研士編著『渋谷学叢書3 渋谷の神々』雄山閣、2013年、所収)
鈴木理生『江戸はこうして造られた』筑摩書房(ちくま学芸文庫)、2000年(初出、『幻の江戸百年』筑摩書房、1991年)
『新修渋谷区史』全3巻、東京都渋谷区、1966年