プ譜とは何か:その成り立ちと基本
プ譜(プロジェクト譜)の成り立ちと経緯
プ譜とは、プロジェクトの進め方を表現するためのフレームワークです。
未知なる取り組みの全体像を「現在の状況」「将来においてありたき状態」「実現のためのアクション」に着目し、その方針について、意図や狙い等の文脈として表現する技法です。
プロジェクトの計画表現には、WBSやガントチャート等、成果物や作業、スケジュールなどに着目する方法が知られていますが、プ譜は当事者自身の意志や大局観に重きを置く点に独自性があります。
https://gyazo.com/e03ed6e5f629820d7907726377c04290
※画像引用:「紙1枚に書くだけでうまくいく プロジェクト進行の技術が身につく本」(翔泳社,2020)
プ譜とは、ある取り組みの、ある時点における現状認識と将来像、またそれをつなぐ過程を一枚の局面として描く、というものです。
ミソは、これはあくまで「ある時点における過去、現在、未来についてのビジョン」であって、このビジョンは、時々刻々と、変化し続けている、ということです。
どういうことか
プロジェクト管理、というと、作業計画や担当者の割り振り、スケジュール、といったものをイメージします。それらの発想の根底にあるのは、きちんと計画を立てて、計画通りに現実を動かしていこう、という考え方です。
しかし、ある時点で思い描いた未来が、後日、変わってしまうこともあります。ある時点で思っていた過去への認識や、それへの思いが、ふとした瞬間に、変わってしまうこともあります。
そもそも、「現在」というやつだって、私たちは、完全な情報を手にしているはずなど、ないのです。
未知なる取り組みとは、そういうものです。VUCA、なんて言葉が生まれる何千年も前から、そうなのです。
プ譜は、人間が有する認知能力の限界を前提とし、「いま、こう思っているよ」ということを、スナップショットとして切り取るための、考えの整理をするためのものです。
プ譜における項目
獲得目標 その取り組みを開始するときに目指す成果物。 勝利条件 どのような状態を迎えたら、その取り組みが一件落着するか。 廟算八要素 その取り組みにおける状況。びょうさんはちようそ、と読みます。 ひと、お金、時間:獲得目標を達成するために必要な資源
クオリティ:生み出したい価値、到達したいレベル、使用技術等
商流/座組:お金の流れや契約関係、指揮系統、ビジネスモデル等
環境:国、地域、企業、コミュニティ、社会情勢等
ライバル:同じ成果や資源を取り合う存在
外敵:積極的に目的達成を阻むヒトやコト
どういうことに役立つのか
大きく分けると、プ譜のメリットには4つの方向性があります。
①状況を大局的に、ざっくりとつかむ
②優先順位が考えられるようになる
③施策のアイデアが出てくる
④意思疎通の具合が良くなる
以下、少し詳しくご説明します。
状況を大局的に、ざっくりとつかむ
プロジェクト活動が複雑化すると、どうしても、ひとつひとつの枝葉の話が気になり、木を見て森を見ず、ということになりがちです。
A4〜A3サイズぐらいで、このような形で表現すると、その取り組みを進めるにあたって、なにを大切にして進めたいか、という、ざっくりとした方向性がわかりやすくなります。
優先順位が考えられるようになる
人もお金も時間も限られた活動では、やりたいすべてのことが実行できる訳ではありません。
上記のように、やりたい方向性を大まかに表現し、それを要素分解することで、なにをやるか、やらないかという比較検討が可能になります。
施策のアイデアが出てくる
プロジェクトを前に進めるにあたっては、具体的な行動をする、ということが、なくてはなりません。またそれは、招きたい結果と噛み合うアクションでなければなりません。
しかし、人間誰しも、「こうすればああなる」という経験則を持っていて、そうした考えをもとに自身の行動を立案し、着手するものですが、その大部分が、過去の経験や固定観念、先入観の制約を受けているものです。
取り組みの主要成功要因である中間目的を、曇りなきまなこで見直して見ると、もっと簡単で、確実で、素早く達成ができるアクションというものが、見えてくるものです。
意思疎通の具合が良くなる
プロジェクト活動は、ひとりだけで進めるというものではなく、複数の関係者同士が寄り集まって一緒に動いていくものです。
ここで大きな問題となるのが、その場に集まった人同士が、必ずしも同じ価値観や利害、動機や温度感を持っているとは限らない、ということです。もっといえば、その状況についての大局観からして無意識のうちにすれ違っていることが、実に多いのです。
そこで、プ譜の形で、自分の考えを表現し、相手に見せることで、思わぬすれ違いを防止することが可能です。
WBSや工程表、要件定義書、仕様書、設計書といった表現も、もちろん、意思疎通に役立つツールであるには違いません。しかし、それらはどうしても、個別具体の「モノ」の話に意識が偏りがちで、そこにこめられた「意図」や「状況」といった、文脈的な情報が抜け落ちてしまいがち、という弱みがあります。
プ譜は、表現形式の特性上、文脈や意思、思いや狙いといったものが表現されるため、意思疎通を補うものとしても重宝します。
どんな用途で使うのか
ひとりで使っても構いませんし、チームでも、あるいは顧客と一緒に活用することも可能です。工夫次第で使い道は無限大です。以下に例示してみます。
取り組みが行き詰まったときの立て直し
開始時のチーム立ち上げ
上司部下の関係改善
現場で起きていることを経営側が理解
部署や組織をまたぐ取り組みの計画作り
新規事業の手始めにおけるアイデア出し
カスタマーサクセスにおける伴走ツール
受託開発の要件定義
経営戦略の立案、実行、振り返り
複雑な社内プロジェクトの調整
中堅リーダーの相互レビューによる育成
若手メンバーへの心構えセットアップ
社内事例の蓄積、次世代への継承
デジタル経営変革のビジョン表現
心療内科における治療の補助ツール
読んだ本の内容を要約する
project based learningの補助ツール
https://gyazo.com/b5c06595acd43d3b17f86808a3a1608d
これらはすべて、実際に実践されてきたものですが、棚卸ししてみると、改めて、用途がかなり多岐に渡っているなぁと思います。
なぜ、このようなことが、可能なのか。それは、プ譜が人間の思考形式そのものを、極めて素直に反映しているからだ、と、考えています。
活用のポイント
プ譜は、あくまでその時点での認識をスナップショットとして言語化、記録するためのものです。
つまり、その取り組みの現在、過去、未来について、いまはこう考えているけど、この先どこかで違ってしまうかもしれない、むしろ、違っても構わない、いや、もっといえば、違っていて当たり前だ、という考えを前提としています。
施策が狙いとする中間目的に、寄与しないかもしれません。いやそれ以前に、獲得目標や勝利条件にしても、正しい認識を持っているとは限らないのです。
廟算八要素についても、外部環境や取り組みの与件が、自ずと変化してしまったときにそれを止めることはできませんし、もしかしたら、そもそも自分の認識があやまっているかもしれません。
よく、正しいプ譜の書き方を教えて欲しいと言われますが、そんなものは、ないのです。そして、「正しく書くこと」は、必ずしも、大事なことではないのです。
大事なことは、いまここ、目の前、この瞬間の、等身大の、そのままの考えをあらわすことです。それで、良いのです。
なぜ、良いのか。
人間は不完全な生き物だからです。
完全な計画や実行は、確かに理想ではありますが、端的にいって幻想であり、不可能なのです。つまり、人間とは、考えてみて、実行してみて、振り返り、反省するということを繰り返すことしかできないものです。
その繰り返しによってこそ、本当の意味での「確からしさ」に、近づいていけるのです。
プ譜とは、基本的に間違いばかりをおかしてしまう、不完全な存在であるいち個人が、ありのままの現在を見つめ、ありたき未来を探し、次の一歩を踏み出すための、勇気を支える相棒のようなものです。ルーチンワークの世界では、正解への道は、すでに知識として与えられていますので、成功するのは実にたやすいのです。しかし、プロジェクトは、正反対の法が支配する世界です。既成の知識が役に立たない世界です。
だからこそ、試行し、思ってもみなかったものごとと出会うことが、前進のための、唯一の突破口となるのです。そこには成功も失敗もありません。新たに知っていく、ということだけがあります。
プロジェクトとは、成功させるべきものではない。失敗を恐れるべきものでもない。プロジェクトとは、成就への、願いなのです。
どんなプロジェクトも、一度限りのことであり、同じことを繰り返すことは二度とない、と、よく言われます。確かにその通りです。しかし、あらゆるプロジェクト活動には、共通の「構造」があるのも事実です。プ譜とは、プロジェクトという現象そのものの構造を抽象化したものである、と言えます。だからこそ、「初めての取り組み」においては必ず、活用できるのです。
右往左往と試行錯誤の道しるべに、ぜひ、プ譜を使っていただきたいなと思っています。
https://gyazo.com/8a421128adef503beb2e5a1ea319ae98
おわりに
さて、以上で、プ譜の基本についての解説は終了です。
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