プ譜とは何か:その成り立ちと基本
プ譜の成り立ちと経緯
プ譜(プロジェクト譜)とは、未知の要素を多く含んだプロジェクト(ルーチンワークではない、あらゆる取り組みや試み)を、どう進めたいかを考えるための表現技法です。
音楽家にとっての楽譜、あるいは棋士にとっての棋譜のように、人やチームが「どう動くのか」をわかりやすく、直感的にあらわすことができます。
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※画像引用:「紙1枚に書くだけでうまくいく プロジェクト進行の技術が身につく本」(翔泳社,2020)
プロジェクトの計画表現には、WBSやガントチャート等の、作業や分担、期日を整理する手法が知られていますが、プ譜は当事者自身の意志や大局観に重きを置く点に独自性があります。
取り組みにおける「現在の状況」「将来においてありたき状態」「実現のためのアクション」に着目し、その方針について、意図や狙い等の文脈として表現します。
つまり、通常、プロジェクト計画といえば「成果物やその部品」「作業やその担当、日程」を書きますが、プ譜では「いま現状がどうなっていて、何を目指すために、どうなりたいのか。またそのために、なにをやっていこうとしているのか」を表現します。
どんな項目であらわすのか
獲得目標 その取り組みを開始するときに目指す成果物。つまり「何を目指すのか」 勝利条件 どのような状態を迎えたら、一件落着するか。つまり「どうなりたいか」 中間目的 勝利条件を満たすためには「なにがどうなっているべきなのか」 廟算八要素 その取り組みにおける状況が「いま、どうなっているか」びょうさんはちようそ、と読みます。 ひと:実行主体者の強み弱み、価値観等
お金:事業計画上の予算や目標等
時間:時間軸における制約や資源
クオリティ:成果の合格ラインと技術
商流/座組:契約関係や指揮系統など
環境:国や地域、業界などの活動領域
ライバル:成果や資源を取り合う存在
外敵:積極的に目的達成を阻む存在
施策 現状とありたき未来をつなぐアクション。つまり「なにをやっていくのか」 どういうことか
プロジェクト、というと、反射的に「プロジェクト管理」「プロマネ」の言葉を連想する方も多いかと思います。それらの発想の根底にあるのは、きちんと計画を立てて、計画通りに現実を動かしていこう、という考え方です。
しかし、未知なる取り組みに、初めて取り組む際に、やってみるまえから正しく計画し、正しく実行するというのは、大変難しいものです。
ある時点で思い描いた未来が、後日、変わってしまうこともあります。状況への認識も、ふとした瞬間に、変わってしまうこともあります。
プロジェクト活動の難しさは、内面にある価値観の違いや言葉の解釈の違いによって意思疎通に齟齬がきたされるという問題が、その根本にあります。
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「現在」に関する情報の不完全さも、厄介なものです。
どなたにも、計画を立てたはいいものの、現実との齟齬をきたして、計画が計画倒れになってしまった、という経験をお持ちではないでしょうか。
通常、未知なる取り組みに挑戦するときは「わからないことがわかっているもの(既知の未知)」が行動の目的になります。
(顧客の要望がわからないから、聞きに行く 等)
しかしプロジェクト活動とは「わからないことすら、わかっていないこと(未知の未知)」によって、当初描いたシナリオや計画が乱されるものです。
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未知なる取り組みとは、そういうものです。頭のなかのビジョンも、外部環境における状況も、時々刻々と、変化し続けるものです。
誰にも、初めて取り組むプロジェクトに対して「どこから始めたら良いか、わからない」と、呆然としたことがあるのではないでしょうか。その「取り付く島もない感じ」「あいまいで、ぼんやりした感じ」は、こうした事情からきています。
プ譜は、そのような人間の能力の限界が「ある」ことを認めたうえで、最善を尽くすための技法です。
人間が考えられるは、せいぜいあくまで「いまの時点における過去、現在、未来についてのビジョン」です。それ以上のことは考えられないから、とりあえずは「いま、こう思っているよ」ということを、スナップショットとして切り取るための、考えの整理をするのが、プ譜です。プ譜とは、未知なる価値を生み出す行為における「意思」と「現実」、「計画」と「実情」の間の、バランスを取るためのツールなのです。
どういうことに役立つのか
大きく分けると、プ譜のメリットには4つの方向性があります。
①状況を大局的に、ざっくりとつかむ
②優先順位が考えられるようになる
③施策のアイデアが出てくる
④意思疎通の具合が良くなる
以下、少し詳しくご説明します。
状況を大局的に、ざっくりとつかむ
プロジェクト活動が複雑化すると、どうしても、ひとつひとつの枝葉の話が気になり、木を見て森を見ず、ということになりがちです。A4〜A3サイズぐらいで、このような形で表現すると、その取り組みを進めるにあたって、なにを大切にして進めたいか、という、ざっくりとした方向性がわかりやすくなります。
優先順位が考えられるようになる
人もお金も時間も限られた活動では、やりたいすべてのことが実行できる訳ではありません。上記のように、やりたい方向性を大まかに表現し、それを要素分解することで、なにをやるか、やらないかという比較検討が可能になります。
施策のアイデアが出てくる
プロジェクトを前に進めるにあたっては、具体的な行動をする、ということが、なくてはなりません。またそれは、招きたい結果と噛み合うアクションでなければなりません。しかし、人間誰しも、「こうすればああなる」という経験則を持っていて、そうした考えをもとに自身の行動を立案し、着手するものですが、その大部分が、過去の経験や固定観念、先入観の制約を受けているものです。
取り組みの主要成功要因である中間目的を、曇りなきまなこで見直して見ると、もっと簡単で、確実で、素早く達成ができるアクションというものが、見えてきます。
意思疎通の具合が良くなる
プロジェクト活動は、ひとりだけで進めるというものではなく、複数の関係者同士が寄り集まって一緒に動いていくものです。
ここで大きな問題となるのが、その場に集まった人同士が、必ずしも同じ価値観や利害、動機や温度感を持っているとは限らない、ということです。もっといえば、その状況についての大局観からして無意識のうちにすれ違っていることが、実に多いのです。
そこで、プ譜の形で、自分の考えを表現し、相手に見せることで、思わぬすれ違いを防止することが可能です。WBSや工程表、要件定義書、仕様書、設計書といった表現も、もちろん、意思疎通に役立つツールであるには違いません。しかし、それらはどうしても、個別具体の「モノ」の話に意識が偏りがちで、そこにこめられた「意図」や「状況」といった、文脈的な情報が抜け落ちてしまいがち、という弱みがあります。プ譜は、表現形式の特性上、文脈や意思、思いや狙いといったものが表現されるため、意思疎通を補うものとしても重宝します。
どんな用途で使うのか
ひとりで使っても構いませんし、チームでも、あるいは顧客と一緒に活用することも可能です。工夫次第で使い道は無限大です。以下に例示してみます。
行き詰まった取り組みの立て直しを立案
キックオフMTG時のチーム立ち上げ
上司部下の関係改善
現場で起きていることを経営側が理解
部署や組織をまたぐ取り組みの計画作り
新規事業の手始めにおけるアイデア出し
カスタマーサクセスにおける伴走ツール
受託開発の要件定義
経営戦略の立案、実行、振り返り
複雑な社内プロジェクトの調整
中堅リーダーの相互レビューによる育成
若手メンバーへの心構えセットアップ
社内事例の蓄積、次世代への継承
デジタル経営変革のビジョン表現
心療内科における治療の補助ツール
読んだ本の内容を要約する
project based learningの補助ツール
通常のプロジェクト管理の計画ツールの多くは「成果物」と「部品」「タスク」が具体化されなければ利用できませんが、プ譜はそうしたものがあいまいな状態でも利用可能です。いやむしろ、あいまいな状態なときにこそ、真価を発揮します。
なぜ、それが、可能なのか。
それは、プ譜は「人間の心のなかにある思い」を表現するものだからです。
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活用のポイント
プ譜は、あくまでその時点での認識をスナップショットとして言語化、記録するためのものです。つまり、その取り組みの現在、過去、未来について、いまはこう考えているけど、この先どこかで違ってしまうかもしれない、むしろ、違っても構わない、いや、もっといえば、違っていて当たり前だ、という考えを前提としています。
施策が狙いとする中間目的に、寄与しないかもしれません。いやそれ以前に、獲得目標や勝利条件にしても、正しい認識を持っているとは限らないのです。廟算八要素についても、外部環境や取り組みの与件が、自ずと変化してしまったときにそれを止めることはできませんし、もしかしたら、そもそも自分の認識があやまっているかもしれません。
ときどき、正しいプ譜の書き方を教えて欲しいと言われることがありますが、「正しく書くこと」は、必ずしも、大事なことではないのです。
大事なことは、いまここ、目の前、この瞬間の、等身大の、ありままの、自分の考えをあらわすことです。
もちろん、考えが間違っていたり、認識がおかしかったりするところもあるかもしれませんが、表現してみて、誰かに見せてみて、初めてそれが、明らかになります。おかしな点を明らかにして、そこから再び、考えを前に進めていけばよいのです。
実行しようとしているアクションが、明後日の方向を向いているかもしれません。でもそれも、やってみなくては、わかりません。塞翁が馬、という言葉もあります。禍福は糾える縄の如し、とも言います。
書いてみなくちゃわからないことは、書いてみよう。
やってみなくちゃわからないことは、やってみよう。
プロジェクトマネジメント、なんていうと、いかめしい雰囲気が出てしまいますが、本当は、書いてみよう、やってみよう!ということで、よいのです。
どんなプロジェクトも、一度限りのことであり、同じことを繰り返すことは二度とない、と、よく言われます。確かにその通りです。しかし、あらゆるプロジェクト活動には、共通の「構造」があるのも事実です。プ譜とは、プロジェクトという現象そのものの構造を抽象化したものである、と言えます。だからこそ、「あらゆる初めての取り組み」においては必ず、活用できるのです。
右往左往と試行錯誤の道しるべに、ぜひ、プ譜を使っていただきたいなと思っています。
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おわりに
さて、以上で、プ譜の基本についての解説は終了です。
このscrapboxでは、プ譜の書き方だけでなく、ビジネスプロジェクトにおける諸問題やプロジェクト設計の発想法、プロジェクトを考えるための教養など、様々な角度からの考察や論考をリアルタイムで更新し続けています。
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この記事と、この記事の著者について
この文章は、プ譜の共同考案者のひとり、後藤が執筆しております。これまで、色んな本や寄稿文のなかで、プロジェクトやプ譜について語ってきたのですが、数多くの出版と実践を経て、少しずつ、考えがブラッシュアップされています。「これが決定版、最新版」というものをきちんと提示したいな、との思いで、このページを作成し、無料で一般公開しています。
執筆者の詳しい紹介は、以下を御覧ください。
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