勝利条件
定義
勝利条件とは:取り組みが成就するためにプロジェクトの状況が満たすべき状態
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※画像引用:「紙1枚に書くだけでうまくいく プロジェクト進行の技術が身につく本」(翔泳社,2020)
なぜ「勝利条件」が大切なのか
勝利条件とは「その取り組みそのものやその主体者、あるいはそれらを含む状況が、どのような状態を迎えたときに、確かに成就し、一つの起承転結を迎えることができるのか」ということです。
よく、プロジェクトマネジメントの本には「プロジェクトとは、期限のある(つまり、いつか終わりを迎える)取り組みである」ということが書かれています。
私たちは、本当にそうなのか?ということを、問い直さねばなりません。
世の中のビジネスプロジェクトには、契約書に書かれた検収条件を、確かに満たしたはずなのに、なぜか終わることができない案件というものが、いくらでも存在するのです。
納品物に対して、なんだかんだと難癖をつけられ、修正作業がいつまで経っても終わらない、とか。
難癖のような悪意のあるものではなくても、成果物の引き渡し後に、あれが足りない、これが足りないと、あとからあとからなにかが発生し、いわゆる残対応とか事後対応が終わらない、ということも、よくあります。
それ以外にも、色んなパターンがあります。「確かに成果物を作り上げることができたけど、お蔵入りになってしまった」
「途中で方向転換をしすぎて、なにがなんだかよくわからなくなり、作り上げることができなかった」
「中間成果物を引き渡したあと、連絡がしばらく途絶えて、いつの間にかフェードアウトしてしまった」
「開発の停滞や迷走がきっかけで訴訟に発展し、何年もにわたる泥沼の争いになってしまった」
などなど。
プロジェクトは、始めることは簡単です。しかし、終わらせる(正しく終わらせる、キッチリ終わらせる、けりをつける、本来の願いを成就させる)ことは、難しいのです。
一度始めた取り組みが、うまくいかないからといって、誰か意思決定権を持っている人が、一方的に「終わり」を宣言したからといって、それで本当に「終わり」にはならないものです。成就されなかった願いは、必ず、「悔い」や「恨み」が、残るのです。そうして残ったものは、必ず末代まで因縁を残し、時に直接的に、時に間接的に、何かの形で復讐を遂げようとするものです。そういった因果や因縁というものが、人や組織に、強いストレスを与えることは、言うまでもありません。
プロジェクトの4段階
いかなるプロジェクト活動であれ、必ずそれは、以下に図示する4つの段階によって構成されているものです。
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しかし、これはあくまで理想であって、特に、実務としてビジネスプロジェクトに直面するとき、なかなかこのフェーズとフェーズの間をつなぐことに難渋します。
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アジャイルという言葉が広く浸透するなかで、こうした問題がうまく整理されたかというと、実際のところは全然そんなことはなく、迷走を助長していまっているだけだと感じる現場も、数多くあります。
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プロジェクトは、仮説としての獲得目標を証明するための勝利条件を見つける旅である
数学の世界では、新たな仮説を証明しようとして、それに成功した時、その仮説は「肯定的に解決された」というそうです。
その仮説が、実は誤りであったということがわかった場合、「否定的に解決された」というそうです。
プロジェクトもまったく同じで、あるべき形で成果物が完成し、世の中に生かされ、取り組みが成就する(肯定的に解決される)ことを目指すわけですが、始めたときにはそれはあくまで「あったらいいな」という願いや、「できるかもしれない」という予感によって駆動されているだけであり、なにがどのようになれば、決着するのかということは、やってみなければわからないのです。
いわば、暗黒領域のようなものが、必ず残っているものです。
逆に言えば、着手する前から成功するプロセスが明快な取り組みのことを、数学的にたとえれば、証明された公式を再び使うことを、ルーチンワークと呼ぶのです。
そして、プロジェクトとは、己が信じる仮説を、証明するのことなのです。
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例えば大きな開発プロジェクトがあったとして、契約書や要件定義書に書かれていることさえ満たせば、それで仕事が終わる、といったような案件があったとしたら、それは非常に幸いな案件であったと言えるでしょう。
そういう状況があったとしたら、それは、構想、組成の段階で、何をどのように作るべきかがよく吟味され、勝利条件が高い精度で見定められていた、ということを意味しています。
そうなるのは、おおむね3パターンあります。
それがルーチンワークに近い取り組みだったからそうだった
プロジェクト推進者が天才的に有能だった
偶然たまたまそうなった
たとえば一局の将棋をあらわす言葉に、序盤、中盤、終盤というものがあります。
序盤が巧みであればあるほど、中盤、終盤が楽になっていくものですが、序盤における指し手が、のちのち盤面にどう影響するかをただちに見定めるのは不可能に近いところがあります。そのことは、プロジェクト活動における構想、組成フェーズの難しさと、よく似ています。
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さて、概念的なことをお話ししてきましたが、以下に、もう少し実務に近いところのコツや考え方を、ご紹介してみたいと思います。
勝利条件の導き方
勝利条件は、任意に恣意的に「設定」するものではない
発見するもの
そのプロジェクトにおいて、唯一無二のもの
発見するためのヒント、あるいは勝利条件が成立するための条件
関係者全員にとって、その条件を満たすことが「現実的に可能」と思える
関係者全員にとって、その条件を満たすことに「意味がある」と思える
よい勝利条件とは
フォーカスすべき問題がなにかを示唆する
解くべき問題はなにかについての優先順位を示す
具体的なアクションに結びつく
豊富な選択肢の発想を助ける
アクションをとった結果が良かったかどうかの判断がしやすい
駄目な勝利条件とは
みんながなんとなく合意できる、玉虫色な表現
解くべきを問題を導かない、優柔不断な表現
勝利条件の立て方についてのtips
SMARTである等、一般的な「あるべきゴール設定の仕方」のイメージに縛られる必要はない
むしろ、もっと自由になったほうがいい
定性的でも、一見、表現があいまいでもかまわない
大切なのは、プロジェクトの当事者たちにとって、腑に落ちる表現、ピンとくる表現であること
そのためになら、こんなことをやってみようか、あんなことをやってみようか、という施策が色々と発想できるような表現
行動計画が、当初思った結果を招かなかったとしても、落胆せずに、次は他の手を考えられる表現
ある取り組みにおいて、本当に満たすべき勝利条件を発見できたら、そのプロジェクトは、その時点で成就したも同然なのです。
逆にいえば、プロジェクト活動がなぜ困難なのかといえば、それは、勝利条件がわからないからだ、とも言えます。どんな取り組みも、その原資である時間、資金、知識といったものは、有限です。しかし、人間の欲望は、無限なのです。無限の欲望を、有限の資源で実現するのは、原理的に言って矛盾していますし、不可能なことです。
しかし、これは実に不思議なことなのですが、あるべき人が、そしてあるべきものが、あるべきように、ピタリと噛み合った瞬間に、奇跡のようにワクワクするような、これまでに見たこともないような新価値が、目の前に顕現する、ということが、起きることが、実際に、経験的に、あるのです。
#プロジェクトとは 未知なる価値を生み出したい、という「願い」です。日本語に「悲願という言葉がありますが、まさに、プロジェクトは悲願のことなのです。 それは、ごくわずかな、乏しい原資を、あるべき場所で、あるべき時間で最大限に活用したときに初めて成就するものです。
では、良い勝利条件を見極めるコツは?
廟算八要素を徹底的に吟味すべし、ということになります。