プロジェクトのゴールは、四つのフェーズから考える
もしかしたら、プロジェクト活動における悩みの第一位は「どのようにゴールを設定したらいいかわからない」ということではないかと思います。
まさしく、プロジェクトという取り組みにおいて、これほど重要な問題は他にはないのです。
しかし同時に、これほど難しい問題もない。プロジェクトにおけるゴールは、どのように設定すると良いのか。
この問題を安直に考えると、だいたいの場合、よい結果を招かないので、よくよく注意しなければなりません。
では、なにをどのように、考えるべきなのか。そもそもここでいう「どのようにゴールを設定したらいいかわからない」には、実に様々ニュアンスが含まれている、ということから、考えていく必要があります。
成果物の概要はある程度想定しているものがある
しかし、具体的にどんな仕様や仕上がり具合であるべきなのかが決められない
売り上げや利益率、コスト等の金銭的な面での達成条件が設定しづらい
日程のデッドラインも、どう設定すればいいか迷う
こうしたものは、実際的な意味における「ゴールの決め方がわからない」と言えます。
もっと定性的な、アバウトな、悩みもあります。
そもそも自分たちが目指している成果物が、それでいいのか、自信がない
「業界一位になる」「テッペンを取る」「とにかく話題になる」「お客様の満足のために」といったような、スローガン的なゴールの設定の仕方がわからない
そうしたスローガン的なゴールを設定してもいいのか駄目なのか、それとも、するべきなのか、そのあたりが、わからない
いわゆるSMARTな決め方、つまり、Specific(具体的に)Measurable(測定可能な)Achievable(達成可能な)Related(経営目標に関連した)Time-bound(時間制約がある)決め方をしなければならないと聞いて、その通りにやってみたことがあるが、結局のところ、最終的にそれでよかったのかどうか、わからない
具体的に、といっても、なにをどのように表現したら十分に具体的といえるのか、ピンとこない
こうしたものも、「ゴールをどう決めたらいいかわからない」の、一例です。
叶いようもないゴールを決めても仕方ありません。
さりとて、確実に達成はできてもやりがいのないゴール設定、というのも、いただけません。
しかし、決めるのが難しいからといって、一応はゴールを決めないと、方向性も定まらないので、歩き出すことすらままならない。
ことほどさように、「プロジェクト活動における、ゴールの決め方」というのはプロジェクトにおける最大の難事であります。
実は、ゴールを決めることが難しい場合に、ゴールの決め方に悩んでいても、あんまり意味がないのす。少し別の角度から状況を眺めたほうが、かえって突破口が見つかるものです。
ゴールが決まらない、あるいは、ゴールの決め方が決まらない状態、とは、つまりその人はプロジェクトの「構想期というフェーズにいるのだ」と、考えてみるとよいのです。そして、プロジェクトをどのように終わりたいか、ではなく、プロジェクトの構想期を、どのように進めると良いか、を考えるとよいのです。
構想期を順序正しく進められれば、結果的に、プロジェクトのゴールについても、随分と的を射た定め方ができるのです。
そのために、そもそもプロジェクト活動には、4つのフェーズ(段階)があるのだ、ということから、認識しなければなりません。
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どんなプロジェクトだって、最後は終了を迎える(べき)ものです。
その手前には、なにかしらの実作業を行い、成果物を生み出すための「実行期」があるはずです。
さらに逆算すると、その実行者や関係者がなんらかの取り決めを行うための「組成期」があるはずです。
そして、まさにその「組成」をするためにこそ、仕掛け人の考える全体像を固める「構想期」があるのです。
構想期において、「ゴールが定めづらい」のは、当たり前の話です。何のために、何を・誰と・どのように・いつまで・どこまで、どんな取り引き条件のもとで進めていくのか、という、これからの未来を決めるための、あらゆる変数の自由度が最も高いからです。構想期とは、プロジェクト活動においてもっとも自由度が高い、フリーハンドな段階です。
逆に言えば、それらの各変数が、具体的に決まっていくと、ゴールも、ゴールの決め方も、論理的に定まっていくのです。
table:プロジェクト構想における変数とその例
変数 例
誰の、何のためにやるか 自分の幸福 / 会社の業績 / 社会の福祉 / 学問的な真実 etc
どんな効果を出すか 根本的な変革 / 漸進的な改善 / 確実な収益 / 一か八かの大逆転 etc
どのような成果物を生み出すか 作り方が既知の、手慣れた有形物 / 効果測定のし辛い、イベント的な有形物 etc
どのような手段を用いるか 枯れた技術や手慣れた手段 / 新しい技術 etc
どんな進行管理手法を採用するか ウォーターフォール / アジャイル / コンカレント / トライアド
誰と一緒にやるか 昔からのよく知った仲間 / 新しく出会う取引先 etc
コストやリスクの配分方法をどうするか レベニューシェア / 製作委員会方式 / 委託・受託式 etc
どんな資源を、いかに獲得するか お金 / 士気 / 承認 etc
繰り返しますが、各変数においてどんな値を選ぶかは、自由であり、それはどんな組み合わせであっても、よいのです。各変数に対して自分が取りうる選択肢をずらっと並べて、順列組み合わせを作れば、その取組がいかなるプロットのもとで進行していくかについて、すべての可能性を洗い出すことができます。
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構想のコツは、考えられる限りの選択肢を、一度、テーブルにあげてしまう、ということです。
各変数は、独立ではありますが、その値によっての相性の問題はあります。また、いかに自由度の高い局面とて、構想、組成、実行、終了という四つのフェーズで見立てた時点で、おのずと限定されてしまう制約条件や所与の条件もあるでしょうから、それも考慮しておく必要もあります。
そうやって考えていくと、プロット、つまり仮説的な全体シナリオの候補は、変数に応じて上図のような等比級数的な増加はせず、少なく見積もって松竹梅の三通り、多くても十通りぐらいに落ち着くと思います。
構想とは、あらゆる可能性を考えたうえで、最善と考えるプロットを選択する、ということです。
これが最善だ、と、確信を持つことができたら、その時点で、事態は組成期へと移行します。
選択肢が広いフェーズで、やみくもに具体的なゴールを決めるのは、実に愚策であると言えるでしょう。むしろプロジェクトとは、フェーズが前方に進むに従って、ゴールの立て方を徐々に具体化していくのだ、と、考えるべきなのです。
もちろん、事前に考えた通りに現実が展開するとは限りません。どのような道をたどる選択肢があるのか、そして、それぞれの選択を、いつどこで行うのか、それによって未来の可能性はどのように変化するのか。これらの変動幅を考慮に入れた構想ができるようになれば、プロジェクトの達人であると言えるでしょう。
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