ホルモン
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化学構造による分類
作用機構(受容体)からの分類
生体内でつくられ、その個体の形態形成、代謝、成長、行動発現その他の生理的過程に特定の影響を及ぼす物質をいう。
彼の定義、「動物体内の特定の腺(内分泌腺)で形成され、血液中に分泌され、その腺から遠く離れた体内の他の器官(標的器官とよぶ)に運ばれ、そこで、微量で特殊な影響を及ぼす物質」はただちに一般に受け入れられたが、その後、血液を介して運ばれず、すぐ隣の細胞や自らの細胞に作用するものも含まれるようになり、広い意味をもつようになった。 なお、植物ホルモンや、自然界に存在するものと化学構造は異なるが化学的に合成され類似の作用をもつものもホルモンとよぶ。 ホルモンの化学的分類
ホルモンの研究(内分泌学)の歴史においては、ホルモンの作用機構の研究と併行して、ホルモンの精製、分子構造の決定、合成、ホルモンの受容体や遺伝子の研究が行われてきた。ホルモンを純化することは、微量でも別のホルモンが混入していると作用が異なるためにその意義が大きいのであるが、血糖量の調節にあずかるインスリンとグルカゴン(膵臓のランゲルハンス島の細胞が分泌する)の純化にその好例をみることができる。すなわち、本来血糖値を下げる粗製インスリンを注射すると、逆に一時的に血糖値が上昇する現象がみられた。これを調べるうちに、粗製インスリン中に別種のホルモンが含まれていることがわかり、グルカゴンの発見につながった。 ホルモンの作用
自律神経系と多くの内分泌系の中枢は、間脳視床下部にあり、活動が調節されている。たとえば、ヒトの血糖は100ミリリットル当り約100ミリグラムに保たれ、体温は1日の間に1℃以内の変動しかない。血液中の塩分濃度が一定に保たれているのは、内分泌系と自律神経系が働いた結果であり、とくにホルモンの果たす役割が大きい。 ホルモンは成長の仕方や分化の方向も決定する。
渡り鳥が新しいじょうぶな羽に換羽してから渡りを開始したり、雄ネコが雌ネコを追い回したり、サケが産卵のために生まれた川をさかのぼるなどの動物の行動発現にも、ホルモンは直接的または間接的に作用している。 脊椎動物のホルモン
これらが分泌するホルモンのうち主要なものについて述べる。
視床下部は、下垂体前葉や中葉に達し、そこで個々のホルモンの分泌を促進したり抑制したりするホルモンを生産する。 「――因子」という用語は、その物質の化学的性質が解明され、それが生理的に働いていることが確認されれば、「――ホルモン」という名称に変更される。
神経分泌物質は軸索の中を通って後葉に運ばれ、必要に応じて血液中に放出される。 下垂体前葉および中葉のホルモン
前葉と中葉のホルモンはすべて下位の標的器官に作用する。
副甲状腺を摘出された動物では、血液中のカルシウム濃度が低下するために神経の興奮性が高まり、テタニーの発作をおこして窒息死を遂げることが多い。 PTHの分泌調節は血液中のカルシウム濃度の副甲状腺に対する直接作用でなされ、下垂体の直接的支配は受けていない。 胎盤のホルモン
その他のホルモン
無脊椎動物のホルモン
神経分泌現象は腔腸(こうちょう)動物から高等な節足動物、軟体動物、棘皮(きょくひ)動物に至るまで認められている。無脊椎動物のホルモンはほとんどが神経分泌物質であるが、ある種の無脊椎動物には特別に分化した腺性の内分泌器官があり、ホルモンを体液中へ分泌する。無脊椎動物のホルモンは甲殻類と昆虫類についてよく調べられている。[川島誠一郎]
甲殻類のホルモン
甲殻類は外骨格を周期的に脱ぎ捨てて成長する。この脱皮は拮抗的に働く脱皮促進ホルモンと脱皮抑制ホルモンによって調節されている。脱皮促進ホルモンは、腺性の内分泌器官であるY器官から分泌される。Y器官は甲殻類の種類により存在位置が異なり、カニでは前胸部側面に分布している。脱皮抑制ホルモンは、眼柄(がんぺい)内の神経節終髄にあるX器官で生産され、サイナス腺に運ばれて放出される。
甲殻類には目覚ましい体色変化をする例が知られており、サイナス腺の色素胞刺激ホルモンが調節している。また、サイナス腺は甲殻類の卵巣の発育を抑制する卵巣発育抑制ホルモンも分泌している。このため、スジエビ、ザリガニ、サワガニなどの眼柄を除去すると、繁殖期以外の時期に卵巣を成熟させることができる。
多くの甲殻類で、雄性ホルモンは輸精管の末端または精巣の先端に位置する造雄腺(雄性化腺ともいう)から分泌される。造雄腺は精巣の分化と雄性器官と二次性徴の発達に必要で、造雄腺を除去すると雌に似てくる。[川島誠一郎]
昆虫のホルモン
昆虫の孵化(ふか)後の成長はホルモンによって調節されている。カイコではアラタ体のホルモンと前胸腺のホルモンが共同して作用すると幼虫脱皮をおこし、前胸腺ホルモンだけが作用すると脱皮して蛹(さなぎ)になる。したがって、通常は幼虫脱皮をする時期にアラタ体を摘出すると、前胸腺ホルモンだけが作用して蛹化(ようか)する。アラタ体ホルモンは幼虫形質を維持させる働きがあるため、幼若ホルモンという。幼若ホルモンには分子構造がわずかに違う3種類が同定されている。前胸腺ホルモンはステロイドホルモンの一種で、エクジソンという。エクジソンは、脳の神経分泌細胞で合成され、側心体があればそこを通過したのち、アラタ体から放出される前胸腺刺激ホルモン(PTTH)によって分泌が促される。前胸腺刺激ホルモンには分子量約4400と約2万の2種のポリペプチド系ホルモンが知られている。
卵巣の発達と生殖腺付属器官の発達がどの程度アラタ体に依存しているかは、昆虫の種類によって異なる。ゴキブリ、ハサミムシ、クロバエなどは脳間部の神経分泌細胞を除去するとアラタ体が退化して卵巣が成熟しない。逆にカイコでは、アラタ体を除去すると、早熟的に蛹化するだけでなく卵巣も成熟する。昆虫の種類によっては、前胸腺ホルモンが卵巣の成熟を積極的に促進する。前胸腺ホルモンは一般に成虫形質の発現を刺激し、これがなければ脱皮も変態もおこらない。[川島誠一郎]
その他のホルモン
以上のほかにも多くの無脊椎動物ホルモンが知られている。たとえば、軟体動物の頭足類(タコ、イカ)では、脳と視葉の間に眼腺(視柄上にあるため視柄腺ともいう)という内分泌腺があり、生殖腺刺激ホルモンを分泌する。このホルモン分子自体に雌雄差がないのは哺乳類と同じで、雄がつくるホルモンで卵巣が成熟するし、雌がつくるホルモンで精巣を成熟させることができる。眼腺は視柄下葉によって抑制的影響を受けている。
環形動物の多毛類(ゴカイ)のある種では脳の神経分泌細胞が発達している。このゴカイを切断しても、体の前方はただちに再生する。しかし脳を除去しておくと再生がみられないことから、再生促進ホルモンの存在が確かめられた。[川島誠一郎]
ホルモンの受容体
ホルモンは血流にのってすべての細胞に到達するのに、ホルモンに反応する細胞と反応しない細胞とがある。 これは、反応する標的細胞にはそのホルモンと結合する受容体があるからである。 これらのホルモンの受容体は標的細胞の細胞膜上に分布していて、ホルモンはこれに結合して細胞内に情報が伝えられる。伝えられた情報は、最終的に転写調節領域を活性化して転写を調節する。 ホルモン分子は進化の過程で変異し、多様性を増大してきたが、それらの受容体も変異し、働きの多様性を増してきた。