先行研究からみたQNKSの優位性(文章理解)
今日の学校教育において、文章理解に関する指導も文章産出に関する指導もされてはいるが、授業場面で提示される知識は文章理解、文章産出活動を断片的に切り取ったものでしかなく、子どもたちはいつまでたってもそれらの知識を統合できずにいる。だから“使えない”のである。
そこに読むこと、書くことを統一的に定義した「QNKS」という概念があれば、教科書で学習する個々の知識はすべてQNKSという概念に統合させていきながら学ぶことができる。文法的な学習は“文章の中でどの情報が重要なのか”を見極めるNのときに使うための知識であると認識できるし、起承転結や、順接や逆説、並列や対比といった論理に関わる接続詞はKをするときに意識すべき知識であるとわかる。表現技法や、総括型、尾括型などの述べ方に関する知識はSの段階において“他者への伝わりやすさ”を意識するときに使うべき知識であることがわかる。
さらにQNKSは「読むこと」と「書くこと」を統一的に定義しているため、「読む」ときに得た上に挙げたような知識をそのまま、「書く」ときに活用するところまで接続することができる。例えばQNKSを使って説明的文章を読み解けば、Kの情報の組み立ての段階でその文章の論理展開の形を学ぶことができる。その知識は、QNKSを使って自分で文章を書く時、題材を抜き出してきて、組み立てる際にそのまま応用することができるのである。
このようにQNKSの“統一的な定義”という特性は、「読む」「書く」それぞれの領域の中においては、教科書で提示される断片的な知識を統合する役割を果たし、「読む」「書く」を統合的に見た言語活動という大きな領域の中では、「読む」行為と「書く」行為を接続し、それぞれで得た知識を横断的に活用することを促進する。
QNKSの妥当性を示すために引用した先行研究はどれもその分野で代表的な研究である。QNKSは文章の読み書きの両方を統合的に定義したという点で引用した先行研究に比べて新しさはあるが、それぞれの分野では既に「読む」という行為、「書く」という行為そのものの認知プロセスは明らかにされている。これをみると、本稿の問題意識で指摘している、行為全体を表す統合的でダイナミックなモデルの欠如」という点は、わざわざQNKSという新たな概念を作らなくとも解決しているかのように思える。しかし現場でこのような研究成果について話題になることはほとんどなく、指導者の間で話題にのぼらないものが子どもたちに紹介されるはずがない。これを「現場の指導者の勉強不足」として片付けてしまうのは簡単だが、本稿では別のアプローチを取る。
研究上明らかにされた文章理解と文章産出における認知プロセスは、文字通り、文章を正しく読んだり書いたりする時の認知のプロセスを明らかにしている。つまり文章理解や文章産出に熟達したければ、その認知プロセスを正しくスムーズに再生できるように努力をすればよいということになる。では先行研究で明らかにされた認知モデルを子どもたちに提示して「コレを成立させましょう」というだけでそこに向かって努力を開始することはできるだろうか。ましてや小学生相手に。それはおそらく不可能であろう。研究的に明らかにされた認知プロセスは、子どもたちが理解して使える形にはなっていないのである。
現場において研究の知見が意識されないのはここに起因するとは考えられないだろうか。研究的に明らかにされた知見をしった現場の指導者が即座に抱く問いが「では、その知見を、現行の指導要領、その学校の教育課程、自分の受け持つクラスでどのように活用すればよいのか」という問いである。この問いの主語を学習者に変えると、「ではどの知見を、今の学習にどう使えばいいのか」となる。指導者は究極的にはこの学習者の問いに答えなければならない。そこでQNKSはその学習者から投げかけられる問いに直接答えられる。文章を読むときも書くときもQNKSの流れを意識して、各過程に対応する図を書きながら進めればいい。
このように、QNKSは研究上明らかにされた知見を、実際の教室における学習場面で真備の主体者である子どもたちがそのまま使えるように言葉を変換し、図によって補強している。一言で言うなら、QNKSは研究上の知見を、小学生が使える形に変換した概念であるということだ。ここまで平易かつ具体的に変換して初めて子どもたちは学術研究で明らかにされている認知プロセスを意識的に使えるようになる。
認知活動を効率的に展開するには、自分が展開している認知活動について認知しようとするメタ認知的な自己モニターが必要であると多くの研究が明らかにしている。メタ認知的自己モニターを促進する一つの有効な方法として「外化」がある。外化とは自身の内的な思考を文字にしたり図にしたりして外側に出してくる、という方法である。QNKSでは外化を積極的に行わせるために、QNKSの各過程で書くべき図というものをひとまず示すことにしている。
各過程で表出すべき図的表現を一旦規定しているので、子どもたちは各過程の理科表象を外化しながら 過程をすすめることになる。この構造が自身の理解状態を正確にモニターしながら過程を進行させることになり、より確実な理解構造を構築することができる。このように表象をモデリングして外化しながら、それを精緻化していくという理解方略は、モデベルベース学習や、精緻化方略といった理論でもその有効性は指摘されており、効果が期待できる。
QNKSを実際の指導現場で活用し、その効果を確かめる。