優位性②:子どもたちが実際に“使える形”で言語化している
QNKSの妥当性を示すために引用した先行研究はどれもその分野で代表的な研究である。QNKSは文章の読み書きの両方を統合的に定義したという点で引用した先行研究に比べて新しさはあるが、それぞれの分野では既に「読む」という行為、「書く」という行為そのものの認知プロセスは明らかにされている。これをみると、本稿の問題意識で指摘している、「行為全体を表す統合的でダイナミックなモデルの欠如」という点は、わざわざQNKSという新たな概念を作らなくとも解決しているかのように思える。しかし現場でこのような研究成果について話題になることはほとんどなく、指導者の間で話題にのぼらないものが子どもたちに紹介されるはずがない。これを「現場の指導者の勉強不足」として片付けてしまうのは簡単だが、本稿では別のアプローチを取る。
研究上明らかにされた文章理解と文章産出における認知プロセスは、文字通り、文章を正しく読んだり書いたりする時の認知のプロセスを明らかにしている。つまり文章理解や文章産出に熟達したければ、その認知プロセスを正しくスムーズに再生できるように努力をすればよいということになる。では先行研究で明らかにされた認知モデルを子どもたちに提示して「コレを成立させましょう」というだけでそこに向かって努力を開始することはできるだろうか。ましてや小学生相手に。それはおそらく不可能であろう。研究的に明らかにされた認知プロセスは、子どもたちが理解して使える形にはなっていないのである。
現場において研究の知見が意識されないのはここに起因するとは考えられないだろうか。研究的に明らかにされた知見をしった現場の指導者が即座に抱く問いが「では、その知見を、現行の指導要領、その学校の教育課程、自分の受け持つクラスでどのように活用すればよいのか」という問いである。この問いの主語を学習者に変えると、「ではどの知見を、今の学習にどう使えばいいのか」となる。指導者は究極的にはこの学習者の問いに答えなければならない。そこでQNKSはその学習者から投げかけられる問いに直接答えられる。文章を読むときも書くときもQNKSの流れを意識して、各過程に対応する図を書きながら進めればいい。
このように、QNKSは研究上明らかにされた知見を、実際の教室における学習場面で真備の主体者である子どもたちがそのまま使えるように言葉を変換し、図によって補強している。一言で言うなら、QNKSは研究上の知見を、小学生が使える形に変換した概念であるということだ。ここまで平易かつ具体的に変換して初めて子どもたちは学術研究で明らかにされている認知プロセスを意識的に使えるようになる。
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