人工天使:第6回
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『霊的には、あらゆる存在の機能は形態に依存しない。そんな科学とは異なる奇妙な学説が科学界を席巻した事は記憶に新しい。だが、この学説を強硬に主張したジョン・ブラウンリング工学博士の死後、この学説は急速に廃れ、もはやその影は見ることも出来ない。
銀の細糸のような雨が倫敦に降り注いでいた。リチャードの姿は見えず、外科局長も探していたようだが、彼は葬儀が終わっても姿を現さなかった。
葬式の雨は冷たく、棺にかけられる土が、博士をこの世から遠く旅立たせることを、はっきりと参列者に思い抱かせた』
そして葬儀の夜が明けた。
『葬儀の後、整理された博士の遺品は病院の購買部で購入したと思われる便箋だけであった。そこに記載してあったのは、担当医師をはじめとする数名に宛てた遺言とも言えるものであった……』
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博士が遺したと見られる三通の手紙は、それぞれ医師三名、看護婦一名、そして導引機械技師に対して宛てられていた。
ジェフリー、マリア、チャールズの三名の医師、サリー看護婦、そしてレイデス導引機械技師の名が、便箋に記されていた。
『局長室にて』
GM: 「ああ、君たち、集まってもらったのはほかでもない、ブラウンリング博士から君たちに宛てられた手紙をここに預かっているのだが……」と、局長が君たちに向って言う。
ジェフリー: 「手紙……ですか?」
GM: 「ああ、この書き付けが君たちに宛てた手紙らしい。勿論内容については私は責任を持たんがね」と局長は言っています。何か含むところはあるようです。
ジェフリー: 「僕たちに宛てられたものなのであれば、受け取ることにします。博士は……何かを僕たちに伝えたかったのでしょうから」
GM: 「無論、君たちには今後も病院での活躍を期待している。プライベートで何があろうとも、君たちは当病院に期待された存在として動いてくれたまえよ」と局長は言います。三人は手紙を受け取りました。
サリー: 「あの、……私、技士さんとはよく会うので、技師さんの分のお手紙、届けましょうか?」と申し出てみます。
GM: 「ああ、そうかね。では頼むとするよ」と言われ、サリーは局長からレイデス宛の手紙を受け取りました。 君たちが局長室を出て行こうとすると、背後から局長の声がします。「ああ、チャールズ君を知らないかね? この間から見て無いのだが……」
マリア: 「……? いえ、存じません」
ジェフリー: 「そういえば……見ていないですね」
GM: 「困ったな」と局長は言い、「ああ、わかった。御苦労」 で、扉が閉ります。
『私が自分の生涯を掛けて追い求めて来たものが、私の手をすり抜け、暗闇に羽ばたき去ったのは、まだほんの一週間ほど前の事だ。しかし、私にはその一週間が、研鑽を重ねた遥かなあの日々と同程度の重さとなってのしかかってくる……』
博士の手記は、そういう出だしで始まっていた。
手紙には科学技術への賛美、生命への冒涜、その果てに辿り着いた『霊的機能主義』についてのさわりなどが記されていた。
そして、博士の生み出した『霊的機能主義的人工天使』が、彼の手をすり抜け、倫敦の闇夜に飛び去ったという節で絞められていた。
『私が最期に出会えた君たちよ。君たちは燃える心を持つ者だ。私はもはやこの世から去るべき定めだ。私の生み出した『天使』もまた去るべき定めにある。
ただ、私に天使を創るように命じた者たちは、決してアレを諦めないだろう……。このような事は頼めた義理ではないのだが、遺されたアレを君たちに託す。君たちの好きにして構わない。
私は私の行なって来た事を君たちに託す。全ては私の研究室にある。鍵となる言葉を伝えよう。
それはアレの名でもある……。Moonstone それが鍵だ……』
GM: 少なくともジェフリー、マリア、サリー三名の手紙は全て同一の文章でした。
サリー: 「『Moonstone』……。あの天使が、博士の造りだしたものだったなんて……」
マリア: 「……『去るべき定め』、とはどういう事なのでしょう」
ジェフリー: 「この手紙だけでは……分からないことが多すぎる」
マリア: 「他ならぬ博士の頼みですから……かなえてあげたいとは思いますが……でも……」
サリー: 「……先生方は、どうなさいますか?」
ジェフリー: 「博士の研究室へ出向かなければ、分からないことが多すぎるよ、サリー。行ってなにが分かるという保証もないが……」
サリー: 「もしも、この博士の研究室に行くのなら、私もご一緒したいです。あと……技士さんも一緒だといいかしらと思うんですけど……。技士さん、博士のお見舞いに何度もいらしてたし。手紙も預かってますし」
マリア: 「何か、危険な香りがしますね…」
サリー: (……チャールズ先生……)
『病院近隣のパブにて』
GM: ジェフリーは行きつけのパブでサンドウィッチ片手に遅い昼食をとっていると、背中から「ところで、ジェフリー。僕の仕事を手伝ってくれないか?」と声をかけられます。
ジェフリー: 声に反応して後ろを向きます。
GM: 勿論チャールズ医師です。彼はにやりと笑って、「医学に携わる者ならこの機会を逃すべきでは無いと思うよ。F&Cの代価としてはちょっと高いかなとも思ったが、他ならぬ君の事だからね」と言います。
ジェフリー: 「それだけじゃ分からないな……どんな仕事だ? ああそれと、さっき局長が探してたぞ」
GM: 「今は言えないさ。まぁ、簡単に言えば『狩り』に当るのかな?」とチャールズはにやにやして、「局長? ああ、別にいいんだよ。もうあの病院とは縁が切れたんだから。僕は同僚としてではなく、友達として誘っているんだよ」と言うと「マスター、ビール!」とカウンターに向って叫びます。すぐにビールが運ばれてきます。それを君の前に差し出して、「いつも奢ってもらってばかりじゃ悪いんでね」と言い、「良い返事を期待しているよ」と言ってチャールズは振り返りパブから出て行こうとします。
ジェフリー: 「少し……少し考えさせてくれ。君のことだ、話に偽りはないと思う。だが、患者にあんな死に方をされて、少し精神状態が不安定なんだ……」と、言います。
GM: 「ああ、あの患者ね。おい、ジェフりー、患者になんか入れ込むとロクな事はないよ。最初に言ったろ、機械主義の患者の事なら僕がバックアップするって。僕を信じた方が良いぜ」そう言い残して彼は去っていきました。
ジェフリー: 「患者に普通の人間も機械主義者もないさ……全ての患者は平等であるべきだ……」
サリー: パブに入って来て、あたりを見回して、ジェフを見つけました。「あら、ジェフリー先生、マリア先生を見かけませんでしたか?」
ジェフリー: 「おや? サリー君」
サリー: 「今、先生とお話してたの、チャールズ先生ですよね?」戸口をちらっと見ながら聞きます。
ジェフリー: 「ん? ああ、そうだけど……それがどうかしたのかい?」
サリー: 「私、ちょっと、チャールズ先生のことで気になることがあって……。マリア先生にもお話しようと思ってたんですけど——博士のことで」
GM: 君たちが話していると、同僚がどやどやと入って来ます。「おぉ、どうしたぁ」と声をかけられます。ここでは話どころではなくなるでしょう。河岸を変えた方がよさそうです。
マリア: カラン…とドアのベルを鳴らしてパブの中に入っていきます。
サリー: 「あ、マリア先生! ここです! こっち!」背伸びをして手を振ります。
ジェフリー: 「あ、マリア先生……。サリー君、場所を変えた方がいいみたいだ。ここじゃ話にならない」
『デイリーロンドン編集部にて』
GM: ローマンが徹夜明けでうとうととしていると、「おい、ローマン。お前のカンも捨てたもんじゃないな。この間な、西ビクトリア病院に変な光るものが出たってんだ。ああん? わかったら早く取材に行かんか!」と編集長に怒鳴られます。
ローマン: 「ははっ、だから言ったでしょうが……。もっと面白いものありそうですよ。一面開けて待ってて下さいね」と言って街へ出る。
GM: 「ああそうそう、先日のご婦人に使った馬車代、お前の給料からさっ引ぃとくぞ!」と背後から声がしていたのが気になりますが(笑)、ローマンはとりあえず眠気を払うために、パブで軽い食事でもしようかという気になります。
ローマン: 西ビクトリア病院へ向かう途中近くのパブへ立ち寄ります。
『パブ 空飛ぶ牡牛亭にて』
『空飛ぶ牡牛亭』は、奥の方でサイコロを何個も使って賭け事らしき遊びをしている人々が、時折歓声をあげる以外は静かなパブです。もう昼時は過ぎて客も少なくなっています。
ジェフリー: 「ここなら少しは落ち着いて話ができるかな?」
マリア: 「……そうですね。サリー、それで話というのは何ですか?」
サリー: 「ええと……すみません、わざわざつきあっていただいちゃって。でも、私どうしても先生方にお話しておきたいことがあって……」恐縮しながら話しはじめます。
レイデス: 僕はこのパブで遅い昼食を取っている最中です。「あ、ジェフリーさん。それにマリアさんにサリーさんまで。どうしたんです? いつもはここじゃないでしょう?」
サリー: 「あ、レイデスさん! いいところに!」
マリア: 「あら、レイデスさん。こんにちは」
ジェフリー: 「いつものパブだと話をするには賑やかすぎてね……こっちに逃げてきたんだ」
レイデス: (もぐもぐ)「ふえ? 『いいところに』って何がです?」
サリー: 「局長から、レイデスさん宛の博士のメッセージを預かってるの! よかったらこちらのテーブルに来てくれないかなぁ?」
レイデス: 「あー、はいはい。何かな?」と言いながら食べてる料理の皿とカップを持って移動します。
ローマン: ちょうどその時パブに入ってきた私は、とりあえずマスターに話かけよう。「最近、変わったことはないかい?」
GM: 「変ったこと? ああ、あんたが来たことかな」とひげもじゃの親父が読んでいる新聞から目を離さずに言います。「ああ、あとはあの一団は最近見なかったね。西ビクトリア病院のお医者さん達だろうけどね。まぁ……。そんな感じかな」と親父は冷たくローマンに言います。
ローマン: 「うぅん そうかい。まぁこの辺はやっぱり医者が多いようだねぇ」辺りを見回します。
GM: 周りでは客がざらざらとサイコロを振って笑っています。
ジェフリー: 「サイコロが一寸うるさいな……」
サリー: 「手紙は、えっと……はい、これね。この先生方と私も手紙いただいたのよ」と言いながら預かっていた手紙をレイデスに渡します。
レイデス: 「確かに。ありがとう」と言って手紙を読み始めます。
サリー: 先生方の方を向き直って、「博士の退院が決まった日、チャールズ先生が博士のお部屋で何かお話していたんです……」先ほどの話を再開します。「チャールズ先生、何かとても怖い感じで、博士の事を非難しているようで……こちらの、レイデスさんには前に話したことなんですけど……」
マリア: 深刻な話なので聞きながら周りを見回します。同僚がいないかどうか確かめて。
サリー: 「……博士に向かって、『もう、期待されていない』とか、『援助はうち切られた』とか、『醜いガラクタを作って』とか……私そのときは何のことを言ってるのか全くわからなかったんですけど、でも、チャールズ先生がとても怖い感じで」
マリア: 「醜いガラクタ……例の天使のことかしら」
ジェフリー: 「そういえば……あいつ、妙に機械主義者に詳しそうだったな」
サリー: 「博士に、『そのままの姿で残りの一生を過ごしてください』とかって、すごく冷たい口調で」思い出して、すこしぶるぶるっと頭をふりました。
ジェフリー: 「チャールズ……何を隠しているんだ。君には謎が多すぎる……」とつぶやきます。
サリー: 「そのあとすぐ、チャールズ先生は病室を出ていって。とても怖い表情でいつもと全然雰囲気が違って……、私、そのことが頭から離れなくって——そ、そうしたら、その晩に博士があんなことになってしまって……(涙)」思い返しているうちに、なんだか怖いのと混乱で泣き出しました。
マリア: 「博士を知り合いの病院に引き取る、と言った事も、なにか裏があったのでしょうか」
ジェフリー: 「さっき僕に言っていた『狩り』の意味も気になる……今のサリー君の話をまとめると、どうやら博士と関係してきそうだが」
レイデス: 手紙から顔をあげて「博士? 博士がどうかしたんですか? サリーさん」
サリー: 「だって……博士が私たちに手紙を遺すなんて……(涙)」ちょっとべそべそし始めてます。
ジェフリー: 「レイデスさん……博士はお亡くなりになられたんですよ」
レイデス: 「いや、それは私もお葬式に参列しましたから。……ってまさか新聞に載ってるのは嘘?」
サリー: 話そうとずっと思い詰めていたことの反動で、気がゆるんで泣きべそをかいてます。
GM: 店の中を見回していたローマンはそこに見覚えのある顔をみつけました。
ローマン: 「おや、あれは技師のレイデス氏ではないか……こんなところでどうしたんだろう。——先日はどうも。こんな所で逢うとは奇遇ですな、レイデスさん」
レイデス: 「ああ、貴方は、え—————と?」
ローマン: 「『デイリーロンドン』のローマンです。先日はワトキンスさんとご来社されたでしょう」
レイデス: 「いやいやすみません、ローマンさん。私、人の名前を覚えるのがどうも苦手でして……(苦笑)」
ローマン: 「博士というのは、先日の西ビクトリア病院での話ですかな」
GM: 【病院側の発表では『術後の容態急変』になってました。どうやら博士の後見人という人がそうするようにと指示したという噂が看護婦から聞けました】
マリア: 泣いているサリーにハンカチを差し出します。
サリー: 「すみません、私ったら。」感謝してマリア先生からハンカチを受け取ります。
ジェフリー: 「失礼だが……貴方は?」と闖入者をいぶかしそうに見上げます。
ローマン: 「はじめまして、私はクリストファー・ローマン。デイリーロンドン紙の記者です。病院の方とお見受けしますが……」
ジェフリー: 「あのデイリーロンドンの名物記者のローマンさんですか。色々なところで噂は伺っていますよ」と、愛想笑いでこたえます。
ローマン: 「ははっ、そうですか。これは光栄ですな」
ジェフリー: (記者がいたらレイデスに伝えたいことすら伝えられないじゃないか……)
マリア: 少し疑わしい目をローマンにむけつつ、サリーをなだめます。
サリー: 私はマリア先生のおかげでだいぶおとなしくなりました(笑)
ローマン: 「おや、どうかしましたかみなさん。何かお話しなさってるのでは」
レイデス: 話を止めてじと目でローマンを見てます(笑)
ローマン: 「ははっ、心配することはないですよ。どうぞかまわずお話を続けて下さい。秘密は守りますから……」
ジェフリー: 「僕とこちらの先生は仕事の話ですよ、ローマンさん。今度のオペの話を……ね。行きつけのパブが混んでいて、たまたまきたここに偶然レイデスさんがいた、というわけです」
レイデス: (ジェフリーに続いて)「僕は普段からここで昼御飯食べてるのでね」
ローマン: 「どうも、こういう仕事してるとねぇ、みなさん話をしたがらないのですが……。そうですかお仕事の話ですか。なるほどなるほど」と続け、「最近、病院の方でおかしな光を見たって話があるんですけどねぇ 見ませんでしたか」
ジェフリー: 「さぁ? 私たちもなにぶん忙しいので」
サリー: 「光……」小声でつぶやきます。
マリア: 「さぁ……知りません」小声で、しかも声が震えています。
ローマン: 「そうですか、見ませんでしたか。まっ、何かあったら言ってきてくださいな。悪いようにはしませんから」
サリー: 「青い光……天使の光……」と一人、物思いにふけってしまいました。
ローマン: そして再び辺りを見回すと、ローマンは街へと消えて行った……。
GM: 新聞記者さんは新しい取材先を見つけにパブを出ました
『レイデスに宛てられた手紙(一部抜粋)』
『……科学の徒として、あらゆる生命に対する冒涜を行なった事を告白しよう。その道は長く、険しく、厳しいものであったが、錬金術の分野の先達が人造人間を創り上げ、科学装置が電気を増幅し、あの天使物質に通電をさせたのだ。『機能は形態に優先する』。信じられまいがまさにアレは機能的に天使そのものであったのだ。
君にアレの力を告白しよう。アレは現在の人類を殲滅するためのものだ。魂なき人類に明日はない。人類という種は霊的に終わったと、私はそう考えていた。しかし、それは間違いだった……。私にはアレをこの世から去らせる義務がある。その能力を狂信的な一団に渡さないためにも……。だが、私はその役を果たせおおせまい。
君に託す。アレをこの世から解き放ってやってくれ。勝手な願いだとはわかっているが、宜しく頼む。そのための方法は、私の研究室に残っている……。
ジョン・ブラウンリング』
『本日の上演はここまでです。次回をお楽しみに』
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