人工天使:第4回
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『首筋の毛がそそけ立つ、そんな感覚がその場を支配していた。
空気中の成分が何か変化しているような、そんな印象を誰もが感じていた』
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『倫敦 東端区』にて
「キャシーの奴、最近見ないね」と、一人が言った。
「ああ、言われてみればそうね」
声をかけられた女は、ちびた紙巻煙草を口の端にくわえ、余り乗り気がしないといった感じに応えた。
「あの娘、一昨日くらいに売れ残ってたけど、それから見ないね。いい旦那でもくわえ込んでいるんじゃないかねぇ」
「はん、そんだったらわたいもあやかりたいもんだよ」
「そういえば、怪物が歩いてるって? 噂が流れてきたけど……」
「へ、どうせ、いつも通りガセだよ。わたいら娼婦を街から消しちまおうって、警察のデマだろうよ。その手に乗るもんかい」
くわえ煙草の女が路に唾を吐いた。
もう夏だというのに、倫敦の裏通りを吹く風は妙に冷たかった……。
『西ビクトリア医院にて』
博士がヒステリーを主な要因とする自傷発作を起こしてから既に三日が経とうとしていた。その間、日々は何ごとも無かったように、通り過ぎていった。
GM: 若い看護婦が事務室にやって来て「ジェフリー先生、マリア先生、外科局長室においで下さいとの事です」待機している二人に告げます。
ジェフリー: 「分かった……ありがとう」と残して外科局長室に向かいます。
マリア: 「ふわわわわ〜。……眠いです〜」連日博士に付き添っているので少し寝不足です。あくびをかみ殺しながら外科局長室に向かいます。
ジェフリー: 「マリア先生……ご苦労様です」
GM: 外科局長室に着きました。ノックをして入ると、例の太った局長が、厳しい顔をしています。
ジェフリー: 「局長、どうかなさいましたか?」
マリア: 「お呼びでしょうか〜」
GM: 「ああ、君たち、忙しいところ御苦労だね、まぁ、かけてくれたまえ」
ジェフリー: 促されるままに椅子にかけて「ご用件は何でしょうか?」と切り出します。
マリア: 「ふわ……んぐ……」あくびを手でおさえながら座ります。
GM: いっとき、その場を重い沈黙が支配します。その沈黙が暫く続いた後で、「実は、話しにくい事なんだが……」と局長がようやく口を開きます。「……ブラウンリング博士の件なんだが。彼の治療についての事で、ちょっと問題が生じているのだ」
マリア: 「問題?」真顔になります。
ジェフリー: 「問題……ですか?」
GM: 「実は、すぐに退院をさせるという方向で決定がなされてしまったのだ」局長は厳しい顔を崩さずにそう言うと、君たちの視線から逃れるようにふと椅子から立ち上がり、窓の方に向いた。「仕方のないことなのだ。残念だが、もう決定されてしまったのだ。これは患者の後見人からの申し出でね」
マリア: 「退院!? 無理ですよ! まだ手術して3日しか経っていない野は、局長もよく御承知ではないですか」
ジェフリー: 「主治医として納得がいきません、なぜ私に何の相談もせずに……患者はまだ傷もふさがっていないのですよ!!」立ち上がって怒鳴ります。
GM: 「私としても患者をあのままの姿で退院させるのは忍びないのだ。しかし、もう決まってしまったことは仕方ない。まぁこれで君たちもあの患者の担当からは開放されたというわけだ」そう言うと、深く深くため息をついた。「これは上の決定なのだ。決定には従うように。以上だ」と局長は告げます。彼は君たちの方に向き直ろうとはしません。
マリア: 「解放……だなんて、そんな、そんな考え方……」怒りで震えています。
GM: 「以上だ」局長がくり返します。
ジェフリー: 無言で部屋を出ていきます。扉を思い切り強く閉めて。
『ブラウンリング博士の病室の前にて』
GM: 看護婦のサリーさんが病棟を巡回していると、ブラウンリング博士の病室から、声が聞こえてきます。その声はチャールズ医師の声に似ています。
サリー: 「あら? なにかしら、博士の部屋から話し声が……。誰?」近づいていきます。「チャールズ先生……?」こっそりと病室の中をうかがいます。
GM: 病室から聞こえてくる声は、明らかに患者に話し掛けているようです。
サリー: 必死に耳を澄まします。
GM: 「……は昨日彼に会いました。でも見事に期待を裏切ってくれましたね。あんなに醜い姿とは。正直失望しましたよ」
サリー: (「彼」? ……何のお話かしら?)さらに耳を澄まします。
GM: 「博士、御存じですか? もう貴方は何も期待されていないのです。援助も打ち切られました。どうやら、局長が言うには、入院費も出し渋っているようです」——「博士もそのままの姿で残りの一生を過ごして下さい。貴方の30年は、あんながらくたを作り出すためだけに費やされたという訳です」
サリー: いつも知っている先生と口調が違うのでどきどきしてきました。
GM: 「もう、貴方が歴史の表舞台に立つことはないでしょう。残念ながら」——「では御機嫌よう、もう会うことはないでしょう」そう言うと、チャールズは扉の方に歩き始めます。
サリー: 「きゃっ」あわてて見つからないよう物陰に隠れます。
GM: 足音はサリーの方に近づいてきますよ。
サリー: 廊下のストレッチャーの陰に必死でしゃがみました。
GM: 足音は通り過ぎたようです。
サリー: 「……ふぅ(大汗)」
『倫敦 東端区にて』
GM: 今回から新登場のキャラクターは自己紹介をお願いします。
ローマン: クリストファー・ローマン、28歳。「The Daily LONDON」紙記者——社会のあらゆるところに出没し事件を追います。
GM: それではローマン記者の導入を行ないます。
GM: 「本当だって、信じておくれよ」と警官にくって掛かっている有色人種の男がいます。「そんな話は信じられないよ。ヤードはそんな眉唾のデマでは動く訳にはいかないんだ。さ、帰った帰った」と、すげなく警官に追い払われた男は、がっくりと肩を落とし、すごすごと帰ろうとします。
ローマン: 「何かあったのかね」とその男の様子を見ながら警官にたずねます。
GM: 「ああ、よくある眉唾話さ、詳しくはそっちの男から聞いてくれ、本官も忙しいのでな」と面倒臭そうに言って、警官は道を歩いていきます。
ローマン: 男の方へ駆け寄って声をかけます。「何かあったのかい」
GM: 「聞いてくれよ、だんな。俺っち見たんだよ」男は話を聞いてくれそうな人を見つけて興奮して話し出します。「すげぇのを見たんだよ、いや、信じないかもしれないけどね。本当、マジ、嘘じゃ無いんだって」
ローマン: 「私は記者だ。話なら聞こう」
GM: 「記者さんなのかい、それはすげぇなぁ。簡単に言えば、こうだ」といって、男は昨晩の話を始めます。
ローマン: 「何をだい? まぁ落ち着いてゆっくりしゃべるんだ」
GM: 「自分がジンをしこたま飲んで、そのまま女と寝所に転がり込んだ時の話だ。夜中にふと目を覚ましたんだよ。隣に寝ている女を置いて、ちょっと酔い覚ましに街をふらふらしてたら、変な格好をした奴を見たんだ」
ローマン: 「変な恰好?」
GM: 「身体中から太い棒みたいなものを生やした変な奴さ。身長は少年くらい。華奢だったが、なんだか作り物のような機械のようなものを背中に背負っていた」
ローマン: 「太い棒……大方機械主義者たちだろ。少年というのは気になるがな」
GM: 「そいつに話し掛けたんだが、全く反応が無かったんだ。で、なんだか薄気味悪くなったんで女の所に戻って朝までジッとしていた」そんな話を一通り話すと、男は自分の名前と連絡先を告げた。
ローマン: 「そうかい、また何かあったら話を聞くよ」自分の名刺を渡します。
GM: ローマンが男の名前などを分厚いメモに書き留めると、男は「また何かあったら連絡するよ、だんな」と言って、何かもの欲しそうな目でローマンを見ます。
ローマン: 「しょうがない奴だな」5シリングを渡します。
GM: 「だんな、ありがとう」と言って、男は去ります。
『西ヴィクトリア病院待ち合い室にて』
GM: レイデスが博士の見舞いのために西ヴィクトリア病院の待ち合い室にいると、そこをサリー看護婦が足早に通り過ぎようとする。
レイデス: 「あ、サリーさん」と声をかけます。
サリー: 「あら! レイデスさん!!」振り返ります。
レイデス: 「お仕事? 忙しそうだね」
GM: 二人が話をしていると、チャールズ医師が、「やぁ、レイデスさんじゃないですか。あの機械調子良いですよ」と声をかけてくる。
サリー: 「あ、先生、こんにちは(汗)」驚きながらも挨拶します。
レイデス: 「ああ、チャールズさんですか。いやぁ、そう言って貰えると嬉しいです」
GM: 「そういえば、また局長が次期システムの話をしたがってますから、何かの折にでも連絡お願いしますね」とにこやかに言い、「では急ぐので、失礼」と足早に立ち去ります。
レイデス: 「次期システムか。そう言えばそうだなぁ……。あ、博士のお見舞い、まだ時間有るかなぁ」
サリー: 「あ、そうそう、先日のあの博士! 退院しちゃうのよ!」先生が去ったのを見届けてから、どとーのように話し出します。
レイデス: 「え!? そうなの! いや参ったなぁ。折角色々話を聞けるチャンスなのになぁ」
サリー: 「なんかね、さっきあのチャールズ先生が博士の病室で変なこと話してたの! あたしなんだか怖くって」
レイデス: 「変なこと? どうせまた何かをたかってたんでしょ(笑)」
サリー: 「博士もなんだか怖い感じの患者さんだったし……」
レイデス: 「うーん。それ(博士)については何とも言えないなぁ……」
サリー: 興奮してきて、さっき聞いたことを勢い込んで話しだしました。
レイデス: 「……良いのかい? そんな話僕にして」とかなんとかいいつつ相づちうってます。
サリー: 「それがね、先生までなんだか怖くって!」——後の内容は繰り返しになるので略させてください(笑)
レイデス: 「分かった。今度マリア先生あたりにも相談してみよう。この話はここでおしまいにした方がいい」
GM: 二人は話を続けています。一方そのとき、元ブラウンリング博士の担当医二名は、事務室で紅茶を飲んでいます。
GM: そこに看護婦が来て、「報告します。患者は翌日10時に退院だそうです。また、詳しい話は局長の方から患者には連絡をするとおっしゃっていました。以上です」と告げます。
マリア: 「まったく……上は何を考えているのかしら」
GM: 「ん? 何かあったのかい?」と報告している看護婦の後ろからチャールズが顔を出して、ジェフリーに聞きます。
ジェフリー: 「どうもこうもないさ……全く」
GM: 「どうしたんだい。マリア先生も恐い顔をしているぞ、ん?」とチャールズは聞きます。
ジェフリー: 「上の決定でブラウンリングさんの退院が急遽決まったんだよ!!」と言葉を荒立てて言います。
GM: 「え……、それは本当かい? あんな患者を退院させるって?!」チャールズは呆れた顔をしています。
マリア: 「博士はまだ抜糸もすんでいないのに、退院だなんて」
ジェフリー: 「傷だってまだほとんどふさがっていないんだ……それを退院させるだと? 冗談も程々にしろ」と机を大きく叩いています。
GM: 「おいおい、局長がそんな事を許すはずはないじゃないか? 何かの間違いだろ?」
ジェフリー: 「その局長が話し合いの余地さえ与えずに僕らに一方的に言ったんだよ……」
マリア: 「上の決定だそうですわ。どうしてこう、患者のことを第一に考えないのかしら」
GM: 「ふぅ」とため息をついて、チャールズは「それだったら、博士を僕の知り合いの医者の所にでも預けるってのはどうかなぁ。教会関係の病院だから、入院費用も安いと思うし、ちょっと勧めてみてくれないか?」と言います。
マリア: 「……患者の後見人とかいう方が同意されるなら、その方がよろしいでしょうね……」
ジェフリー: 「そこは信頼できる所なんだろうな?」
GM: 「ああ。当然だろ。困っている患者を見捨てるようじゃ、医者も終わりだよ」とチャールズは腹だたしげに言います。
ジェフリー: 「すまない……気が立っていて……悪かった。君に当たる事じゃないな」と、苦笑いします。
『三年目の夏が訪れようとしている
あの事件からこちら、彼の噂を聞いた人間は一人もいない。
もし、彼に会う事が有れば、あの時のあの台詞の意味を、もう一度詳しく聞いてみたい。そんな気がしている。
それが叶うかどうかは、彼の行方と同じく、誰にも解らないことなのだが……』
『本日の上演はここまでです。次回をお楽しみに』
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