mixi
日本最大のSNSサービスで、2005年1月にはユーザー数30万を突破するなど急成長している。SNSサービスの基本どおり、認証が必要なクローズドな空間をつくり、実生活での友人関係を可視化したり、新しい人間関係の構築のための場として利用するもの。 特に、マイミクと呼ばれるフレンドリストに登録されたユーザーにのみ、日記の閲覧を許可する「アクセス・コントロール機能」で知られている。 現在、もっとも有名な例はmixiですね。mixiでは三段階のアクセス制限を設けていて、自分が登録している友達、その友達の友達まで、mixi全体となっています。また「足跡」という機能があって、誰が自分の日記を読んだのかが把握できるようになっています。また、はてなダイアリーにもプライベートモードという機能が存在し、特定のユーザーにのみ閲覧を制限できます。ただしフォームから直接IDを入力しなくてはいけないため、インターフェイスの面では洗練されていません。また先進的なブログサービスとしては、「DI:DO」があります。たとえば記事単位でアクセス制限を行う、ひみつ日記機能があり、DI:DOの内部だけでなく、Type Keyのアカウントを持っているユーザーを対象にできます。さらに閲覧者をグループ分けすることもできる。たとえば会社の同僚と高校時代の同級生といった具合ですね。 このアクセス・コントロールによって、従来では検索エンジンや荒らしや個人情報の悪用などを恐れるがゆえに、ネット上では晒すことのできなかったような情報を、信頼できる友人の範囲で公開・共有しあうことができる。たとえば、顔画像もSNS上では平気で晒すことができるというように。また、SNSでは個人情報をサイト内で公開するために匿名性が薄く、荒らしや誹謗中傷などの悪さをしにくい環境となっている。こうしたSNS的アーキテクチャがもたらす「匿名性の排除」「信頼の醸成」が、ネットの情報流通を円滑なものにすると考えられているのである。 こうしたアクセス・コントロールを備えたSNSツール(特にmixi)は、日本では特にブログサービスの延長的発展という傾向が色濃い。一度ログインしてしまえば、柔軟なグループの作成や、mixi内での日記のアクセス設定を行うことが出来るために、ブログサービスから乗り換えるユーザも多いという。 また倫理研第4回で加野瀬未友は、ブログで小さな炎上やサイバーカスケードが頻発してしまうのは、ブログのコメント欄などが、誰でも閲覧可能で、簡単に検索エンジンにひっかかってしまう公的空間にすべて晒されてしまっているためであると指摘。その解決案として、アクセス・コントロールによって、ブログを公的空間から私的空間にかくまう(保護・隔離する)ことを提案した。 ブログというのは、インターネットにアクセスできれば誰にでも見られますし、検索エンジンにもひっかかるという意味で「公的領域」です。公的領域である以上、誰にも見られる前提で文章を書かなくてはいけませんし、だからこそ、近所の話題といったプライベートな話題は微妙に書きづらくなってしまう。また公的領域としてのインターネットは、閲覧を基本的に制限することはできませんし、誰にリンクされるのかもわからない。そこで、自分の予想しないところからリンクをはられて、自分の想定しない範囲に情報が広まる可能性があります。たとえば自分の身内の2,3人で、なにか裏話的なことを話しているつもりでも、いつの間にか広まってしまい、慌ててその書き込みを消す、ということもしばしばです。
その書いた人間の意図がわかれば、リンクする側も事前に配慮することが可能ですが、そのような意思表示が毎回可能なわけではありません。そこで、読める人間を制限できるアクセス・コントロールがいいのではないかと考えるわけです。すなわち、前回の結論にもなった、インターネットの私的領域を確保するということです。 mixiという共通するアーキテクチャのうえで、たがいに巧みにゾーニングされた「マイミク」や「コミュニティ」が林立する、というあのサービスのシステムは、現代社会の欲望をあまりに正確に反映してしまっているからです ここでいう「現代社会の欲望」とは、以下の2つに表現できるだろう。
アメリカ社会における「ゲーテッド・コミュニティ」に象徴されるように、多様な他者との接触機会を低減させるような都市空間の分断化が指摘されている。仲俣暁生は、はてなを(地縁的・ムラ的コミュニティのようにベッタリの関係ではなく、)「一刻館」のような風通しのよい集合住宅のような居心地であると比喩的に表現していたのに対して、いわばmixiはインターネット空間におけるこの「ゲーテッド・コミュニティ」といえるだろう。 日経ネット時評:「オンライン・コミュニティーは「村」か?」仲俣暁生
日経ネット時評:「寂しさ再生産」が作り出す新たな人間関係とは?」澁川修一
ARTIFACT ―人工事実― | あらためて寂しさ再生産―SNS流行後の人間関係―
mixi独特の仕様として、「足跡システム」と呼ばれるものがある。これはmixiのなかのどのユーザがいつ自分のページを訪れたかを記録・リストする、一種の監視的機能で、Web日記やブログであれば、アクセスログやトラックバックなどの機能で実装されてきたものであって、特段珍しいものではない。 しかし、この仕様をめぐるユーザの解釈の多岐性が興味深い。これはmixiユーザに対して強制的に発動される「アーキテクチャ」であるため、ネットでの「受動的な匿名性(自分がなにを読んだか、どこに存在していたかといった消極的な個人情報は知られたくない)」を重要視する者からは嫌われる機能でもある(この足跡の呪縛から逃れるための裏技的な手法が一時期話題になったことからも伺える)。 一方でこの機能は、いちいち知人の日記にコメントを書くなどの「社交辞令的なコミュニケーション」にかけるコストを削減してくれる意味合いも持つ。つまりフェイストゥフェイスにおける「相槌を打つ」ようなもので、足跡が付けば読んでくれたと安心できるため、個人ページを運営するときに漠と感じる孤独感を満たすことができる。
こうしたmixiの特性から中毒的にはまるユーザは多く、実際のmixiへのアクセスデータの分析によれば、非常にリピート率が高いという結果が出ている。このようなmixiに見られる利用状況を、澁川修一や加野瀬未友は「寂しさ再生産」と表現。(「寂しさ再生産」とは、澁川が若者に見られるケータイを通じた頻繁なコミュニケーションが「つながり」を求める様をそうキーワード的に表現したもの。) 日経ネット時評:「オンライン・コミュニティーは「村」か?」仲俣暁生
日経ネット時評:「寂しさ再生産」が作り出す新たな人間関係とは?」澁川修一
ARTIFACT ―人工事実― | あらためて寂しさ再生産―SNS流行後の人間関係―
倫理研第4回: 共同討議 第2部(2): アクセスコントロールによる私的領域の確保は処方箋となるか 白田さんが訝しむように、チラシの裏的なものを書いて見せたい、という特殊なコミュニケーション欲求を持っている人々が現実には数多く存在します。彼らがいったいなにを期待して書いているのかを考えてみると、よく私が見かけるのは「こんな個人のどうでもいいことに反応してくれる人がいてくれた」と喜んでいる感情なんですね。つまり、よくわからない通りすがりの人が、自分なんかに興味を持ってくれるということを求めているわけです。となると、この期待は決してアクセス・コントロールの世界では実現できないんですよ。アクセス・コントロールとは、よくわからない通りすがりの人を排除するものですから、この手の欲望を満たすことができない。 (中略)
アクセス・コントロールを求める人というのは、そもそも公/私の区別ができ、「私はプライベートの人にしか公開しません」と判断可能な人であって、しかもそれは、そういう私的領域を曝してもいい友達がいる人に限られる(笑)。しかし、それはすでに強い人なのではないか。弱い人はむしろアクセス・コントロールを求めないはずではないか。なぜなら、彼らはインターネット上で誰も友人がおらず、なんとかして注目されたいはずだから。そのためには、公/私の区別なんてどうでもいいと思っているはずだから。少なくとも、北田さんが「繋がりの社会性」と呼んだように、そのような欲望はいまのネットに満ちている。だとすれば、弱い人はアクセス・コントロールを行って私的領域に閉じこもり、強い人はネットの荒波に打って出ればいい、という構図は成立しない。 これはたいへん説得力があります。弱い人はアクセス・コントロールして閉じる、強い人たちは公的な空間で開かれる。僕たちはこの二分法を暗黙に前提としてきたけど、実はそもそも、その二分法が成立していないから問題が起きているのではないか。20世紀末の日本で、2ちゃんねる的なメンタリティ、繋がりの社会性だけが特化した新しい公共性とでも呼べるものがどうしてあれだけの力を持ったのか、というのが、僕たちの議論の軸だと思いますが、それを支えていたのが、まさに、「弱いからこそ開かれたい」という欲望だったんだと思うんです。 ■ ネットのケータイ化
こうしたインターネットにおける「セキュリティ」(人間関係の切断・管理)と「繋がりの社会性」強化の方向性について、鈴木謙介は「儀礼的無関心」などの議論を参照しながら、「議論する公共圏」というオールドタイプなインターネットの捉え方が変質している指摘。それを「ネットのケータイ化」(ケータイによる流動的で選択的な人間関係が、ネットに逆輸入され始めている)と表現した。 ネットは何か、何でないか - SOUL for SALE
■ 参考
mixiの会員数が30万人を突破--SNSビジネスの基盤着々と進む - CNET Japan