世界で最も美しい問題解決法
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第一部 思考について考える
心理学の研究から心の働き方について3つの大きな気づきが得られた
世界についての理解はつねに解釈の問題であるーーすなわち推測と解釈が関わってくるという説
自分自身の置かれている状況が、思ったよりはるかに大きく自分の思考に影響し、行動を決定している
人の気質などは思っているよりもはるかに影響が小さい
心理学者は無意識の重要性をますます認識するようになってきている 1章 すべてのことは推測だ
知覚の仕組みによって縦の長さ、横の長さを見るように仕向けられている
人間の脳は自分から遠ざかっていくように見える線を引き伸ばすようにできている
網膜に映る像に手を加えないとしたら、遠くにある物体を実際よりも小さく知覚してしまう
絵画のような二次元の世界では知覚が誤った方向に導かれる
架空の人物「ドナルド」の実験
被験者は偽の知覚試験を受ける
半分は「自信」「独立心」「冒険心」「不屈」を含む10の単語が見せられた
残りの半分には「無謀」「自惚れ」「超然」「頑固」
ドナルドについての文章を読む
魅力的な冒険家であるか、魅力のない無謀な人かについて、どちらとも読み取れるような書き方
「自信」「不屈」などの単語を目にすることでドナルドに対する概ね好意的な判断が形作られた
これらの単語がスキーマを生み出した
世界を理解するために適用する認知的な枠組み、テンプレート、あるいは規則体系
物質量保存について子供が用いるスキーマ
確率について子供が使うスキーマ
スキーマは判断だけでなく行動にも影響する
ばらばらの単語の集まりから文法に則った文章を作らせる
被験者の一部には「フロリダ」「年老いた」「灰色」「賢明な」などの多数の単語が老人のステレオタイプを想起されることを意図して見せられた
実験者は被験者達がどのくらいの速度で実験室を出て歩いていくかを観察
老人を彷彿とさせる単語を見せられた被験者は、そういった概念を提示されなかった被験者よりもゆっくりとエレベーターに向かって歩いて行った
ステレオタイプには2つの問題がある
いくつかの点、あるいはあらゆる点において間違いがあったり、人についての判断に不適切な影響を及ぼしたりすることもある
プリンストン大学の心理学者がハンナと名付けた小学四年生についてビデオテープを学生に見せる
ハンナが上流中産階級に見えるものと、労働者階級にみえるもの
ハンナの学習到達度テスト25題を回答する様子を見せる
ハンナの出来は不安定
上流中産階級条件ではハンナの成績は平均より上、労働者階級条件では平均より下と推測した
社会的な階級について知らないよりも知っている方が正しい予測をする可能性が高まるというのは残念ながら本当
さらに残念なことに労働者階級のハンナの場合、人々のハンナに対する期待や要求が低くなり、ハンナの成績を悪いと感じる
スキーマやステレオタイプが、無関係だったり誤解を招いたりするような偶発的な事実によって生じることがある
ある刺激に遭遇すると、関連する精神的な概念が活性化される
偶発的な刺激はある主張の真偽を判断するスピードだけでなく、実際の考え方や行動にまで影響する
感覚によって、世界についての直接的で媒介されていない理解が与えられると信じている
実際には自然や出来事がもつ意味についての私たちの解釈は蓄積されたスキーマと、それらがきっかけとなり始動し、導かれていく推測プロセスに大いに依存している
「私がコールするまで何も存在しない」という審判
すべての現実は単に世界の任意の解釈でしかない
世界はテクストであり、それについての読み方のどれかが他よりも正確であるとみなすことはできないという考え方を支持している
活性化拡散によって、偶発的な刺激が思考や行動に影響する場合がある
女性名のハリケーンの方が男性名のものより危険でなさそうに受け止められるため、用心を怠る
社員の創造性を高めるにはアップル社のロゴを見せてIBM社のロゴは見せない
創造性を高めるには職場の環境を緑色か青色にすれば良い
何としても赤色は避ける
デートサイトのアクセスを増やすには、赤いシャツを着たプロフィール写真にするか、少なくとも写真を赤い枠で囲む
納税者に教育債の発行を支持してもらうには、学校を主な投票場にするように働きかける
コーヒー代金を入れる箱にちゃんとお金を入れてもらいたいときは、コーヒーサーバーのすぐ上にある棚に人間の顔のようにみえるココナツを置く
人間の顔を思わせると人は意識下で自分の行動は監視されていると感じる
3つの点をその配置どおりに描いた絵を貼るだけで十分
文章の内容を信じさせたいときは、文字のフォントが明確で目を惹くものにする
見た目が乱雑な文章では説得力が大きく低下する
読み手がfishyを疑わしいという意味で用いる文化の場合は魚介類の店か波止場で文章を読めばその主張に同意してもらえないかもしれない
セクシーで面白い名前の企業は消費者や投資家の興味をもっと惹く
イスラエルの判事を対象とした調査で判事が食事を終えたすぐ後では仮釈放に賛成の票を投じる確率が66パーセントになるということがわかった
昼食の直前に審理された案件では仮釈放となる確率はゼロに等しかった
相手に温かいコーヒーを手に持ってもらうと、自分のことを温かい心を持った人だと思われる
吊り橋に立った状態で女性からのアンケートに答えた男性は地面の上で質問を受けた場合と比べてその女性とデートしたいという気持ちがはるかに強くなる
よくわかっていないのは次の2点
偶発的な刺激の効果は非常に大きくなりうるか
どのような種類の刺激ぞどのような種類の効果を生むか
アダム・オルター著『Drunk Tank Pink』(邦題『心理学が教える人生のヒント』)に今までに分かっている多数の効果がまとめられている
対象や出来事についての私たちの解釈は特定の文脈において活性化させられるスキーマだけでなく、下すべき判断の捉え方によっても影響を受ける
フレーミングは相入れないラベルのどちらを選ぶかという問題になりうる
赤身が75パーセントを占める自社の加工肉は脂肪を25%含む他社の加工肉よりずっと魅力的
成功率90パーセントのコンドームと失敗率10パーセントのコンドーム
コンドームの成功例についてばかり聞かされている学生はコンドームの失敗例についても時折聞かされる学生よりも前者の方が良いと考える
医師の一部には、手術を受けた患者100人のうち、術直後まで90人が生存し、一年後には68人、5年後には34人が生存していたと話した
82%の医師が手術を勧めた
別グループには、100人のうち術直後まで10人が死亡し、1年後には32人が、5年後には66人が亡くなっていたと話した
手術を勧めたのは56パーセント
私たちはしばしば問題の解決法を示してくれる経験則を使って判断に到達したり問題を解決したりする
労力のヒューリスティック
長い時間や多大な費用がかかった事業は、それほどの労力や時間を必要としなかった事業よりも価値が高いと考えるように仕向けられる
価格のヒューリスティック
だいたい同じ種類に入るものの中では、より高価なものは価格の安いものよりも優れていると考えるように仕向けられる
親しみのヒューリスティック
アメリカ人はマルセイユの方がニーズよりも人口が多く、ニーズの方がトゥールーズよりも人口が多いと見当をつけさせられる
出来事がその種の出来事の典型例に似ている場合は、似ていない場合よりも起こる可能性が高いと判断する
リンダについての文章
短い文章の後にリンダが将来なりそうな人物像
「銀行の出納係」と「銀行の出納係であり、フェミニスト運動に積極的に関わっている」(リンダ問題) 大抵の人が後者の方が高いと答えた
論理的な誤り
カーネマンとトヴェルスキーは統計学の授業を受けたことのない学生に問題
大きい病院と小さい病院で逸脱値が生じやすいのは?
小さいほう
好調な選手が今シーズンで似たような成績を挙げている他の選手と比べて、シュートを決める確率が高いわけではない
神は病気の治療法を人間が見つける手助けをしようと思われ、色や形、動きという形でヒントを授けたという神学的な信念に由来
18世紀の医師たちは信じていた
ウコンは黄色なので肌が黄色になる黄疸の治療に効果があるとされた
中央アフリカに住むアザンテ族はかつて、てんかん患者の発作の動きに似た動作をするレッドブッシュモンキーの頭蓋骨を焼いた物事てんかんに効果があるとされた
ホメオパシーや中国の伝統医学などの代替医療の根本には代表制ヒューリスティックが以前と変わらず存在 将来の行動を最も的確に予測するものは過去の行動
出来事の実例が容易に浮かぶほど、その出来事がいっそう頻繁に起こるものやもっともらしいものに思われる
最初にkがつく単語と三番目にkがつく単語
代表制ヒューリスティックであれ利用可能性ヒューリスティックであれ、ほとんど自動的に、たいていは無意識のうちに作動する
まとめ
あらゆる認知や判断や信念は推測であり、現実から直接読み出したりしたものではないと覚えておくこと
スキーマが解釈に影響するということに気づくこと
偶発的で無関係の認知や判断や認識が判断や行動に影響することを覚えておくこと
判断を下すにあたりヒューリスティックの果たしうる役割に注意すること
2章 状況のもっと力
この誤りを犯す傾向は文化によって大きく異なる
1960年代に行われた古典的な実験
親キューバ的な内容を書くように指示されたものと、反キューバ的な内容を書くように指示されたものと説明
前者の方が後者の学生よりも著しく好意的であると評価した
筆者の友人はスタンフォード大学で学部生の授業を2つ担当
統計学の授業を受けた学生は教授のことを厳しくてユーモアがなく、どちらかというと冷たい人だと評価
地域支援の授業をとった学生は教授を柔軟で面白く、とても温かい人だと評価
緊急事態と言えるような状況を多数設定すると、人が犠牲者に手を差し伸べる可能性は他人がその場にいるかどうかで大きく変わった
別の目撃者がいる場合は助ける確率ははるかに少なくなった
多数の目撃者がいる場合は助けようとすることがほとんどなかった
発作実験では、発作を知っているのが自分だけだと思った場合には被験者の86%が急いで助けに行った
傍観者が2人の場合は62%
4人の場合は31%
ダーリーと同僚のダニエル・バトソンは神学生(困っている人を助ける可能性がとりわけ高いと思われている人達)を対象に実験 キャンパスへの向かいの建物へ移動させる
十分に時間があると告げられたグループとすでに遅刻していると告げられているグループ
明らかに助けを必要としている男のそばを通った
急いでない学生のうち2/3が男に手を差し伸べたが、遅刻条件では男を助けたのは10%
質問者と回答者に分ける
質問者は難解ではあるが回答不可能ではない質問を考える
回答者と傍観者はどちらも、質問者が回答者や大学の平均的な学生のどちらよりもはるかに知識があると評価した
被験者を管理職と事務職にわける
事務員たちは技術を必要としない反復作業が与えられ、自主性はほとんど認められなかった
管理職たちは実際の職場と同じようにかなり高い技術を要する作業を行い、事務員の仕事を指図した
管理職と事務員は役割に関連したさまざまな特徴について自分自身とお互いを評価
これらすべての特性について、管理職は自分と同じ管理職を事務員に対する評価よりも高く評価した
勤勉性以外の全ての点において、事務員は自分と同じ事務員よりも管理職の方を高く評価した
根本的な帰属の誤りの結果、私たちは将来の行動には現在の行動から推測されるその人の気質が反映されるものとみなす
さきほどの過去の行動が将来の行動の最適な指針であるという主張と一致しないと受け止めないように
たくさんの多様な状況において観測された長期にわたる過去の行動であることに留意
数例の状況、とりわけ種類がどれも同じである数例の状況においてしか観測されていない行動とは異なり、優れた予測の根拠となる
社会的な影響
自転車競技のタイムは単独よりも競い合ったほうが速くなることを発見
競争している時だけでなく、他の人からただ観察されているときでもいっそう熱心に物事を行う
犬やオポッサム、アルマジロ、カエル、魚にも認められている
年齢が若いほど友人の態度や行動に受ける影響が大きくなる
経済学者のマイケル・クレマーとダン・レヴィが、ルームメイトが無作為に割り当てられた大学一年の男子学生達の学業平均値を調査
学生達が高校生の時にどの程度アルコールを摂取する傾向にあったのかを調べた
アルコール摂取量の多かった同級生がルームメイトになった学生は、酒を飲まない同級生がルームメイトになった学生よりも学業平均値が4分の1ポイント低かった
B+とA-やC+とB-の差ぐらい
自分自身も酒をたくさん飲んでいた学生はルームメイトが酒を飲まなかった場合よりも飲んでいた場合の方が平均値がまるまる1点も下がった
評判の良い医学部に進学できるのとそもそも医学部に行けないくらいの差
女子学生にとっては酒を飲むルームメイトがいても別に影響はなかった
ちなみに学内でどれだけ飲酒されているかを知らせるだけで大学生の飲酒を減らすことができる
飲酒量は学生達が思っているよりも大幅に少ない傾向
学生達は自分の飲酒量を仲間のレベルと同程度になるよう調節する
これを行わない人と出会うと気まづくて不満の残る体験となる
何が悪かったのは当事者にはわからない
白人の高校生達に多数の社会的な問題について意見を求めた
人種統合を目指したバス通学も含まれていた
数週間後にバス通学についての討論会に参加
4人ずつのグループが作られ、3人は似た意見を持ち、4人目は実験者が雇った偽の被験者で、グループの残りのメンバーの意見とは反対の、説得力のある多数の理論で身を固めていた
もともと反対していた人は大幅に立場を変えて賛成に近くなっていた。
バス通学に賛成していた生徒の大半は反対の立場へと転向していた
最初はどう答えていたのかをできる限り思い出すように求めた
元の意見の評価値が手元にあり、記憶が正確であるか確認できると告
討論会に参加しなかった被験者は元の意見を正確に思い出すことができた
もともとバス通学に反対だった被験者は自分の元の意見は賛成に近かったと思い出した
もともとバス通学に賛成していた被験者は自分の最初の意見はバス通学におおむね反対だったと思い出した
行動の原因を評価するときの行為者と観察者の違い
行為者にとっては文脈が常に目立ってみえる
観察者は行為者が対応している状況的な要因には気付きにくく、他人について判断する時に根本的な帰属の誤りを犯す傾向が強くなる
文化、背景、根本的な帰属の誤り
社会的な志向の違いは経済に由来するという説を提示した
ギリシア人の暮らしは交易や漁業、畜産など1人で行うことの多い職業や、家庭菜園やオリーブの木の栽培なとの農業の上に成り立っていた
中国人の暮らしはとりわけ人との協力をさらに必要とする米の栽培の上に成り立っていた
ギリシア人と違い、中国人は社会の文脈に注意を払うことが必要だった
日本人とアメリカ人に漫画の中央にいる人物の表情を評価させた
日本人の学生は周囲の人物の感情に影響を受けていたが、アメリカ人の学生はそれほど左右されなかった
増田と筆者の実験
水中を写した22秒のカラーの動画
日本人は文脈をしっかりと説明してからようやく、アメリカ人にとって最も目立って対象に着目する
全体的に日本人はアメリカ人よりも背景にある対象を60パーセントも多く認識した
韓国人の社会心理学者の研究
ある人がその人の置かれた状況でほとんどの人がするような行動をとったという話を韓国人にすれば、韓国人はとても合理的に状況にある何かがその人の行動を動機づけた主な要因であると推量することがわかった
東洋人は根本的な帰属の誤りを犯すが、西洋人ほどではない
人は、課題で指定された意見をレポートの筆者自身の意見であると思いがちであると示した、ジョーンズとハリスによる研究に似た研究
韓国人の被験者がアメリカ人と同じ間違いを犯したことを示した
しかし、その後に読むことになっているレポートの筆者と同様に強制的な状況に置かれた韓国人は、要点を理解し、筆者の実際の意見がレポートに書かれたものと一致するとは考えなかった
しかしアメリカ人は状況がそれほど明確になっても保護から何も悟らず、レポートに書かれたことは筆者の意見の一部であると考えた
東洋人は世界を全体論的な視点で見る傾向がある
文脈において対象を見て、行動の原因を状況的な要因に求めがちであり、人と人との関係や、対象と対象との関係を注意深く観察する
西洋人はもっと分析的な見方をする
対象に注目し、その属性を認め、そうした属性に基づいて対象をカテゴリーに分類し、その特定のカテゴリーに入る対象に適用されると想定する規則に従って対象について考える
まとめ
文脈に常に注意を払うこと。そうすればあなたの行動や他人の行動に影響を及ぼしている状況的な要因を正確に見分ける確率が高まるだろう
状況的な要因は普通、見た目よりももっと、自分の行動や他人の行動に影響を及ぼしており、一方で人の気質的な要因は普通、見た目よりももっと影響が少ないということを認識すること
他の人は、あなたがそう思う傾向よりももっと強く、自身の行動が状況的な要因に反応したものであるとみなしているということを認識することーしかも、彼らの方があなたよりも正しい可能性後高い
人は変われるということを認識すること
3章 合理的な無意識
最初の実験で2つ1組になった単語を被験者に記憶してもらった
例えば「海ー月」
第2回の実験で行われた単語連想作業では洗剤の名前をあげるように指示
タイド(潮汐)をあげる傾向が強まった
なぜその名前を思いついたのか尋ねると記憶した単語のペアにはほとんど一切言及しなかった
単語の手がかりが何らかの影響を与えなかったかと具体的に質問したところ、被験者のおよそ3分の1がいくつかの単語はおそらく影響してのだろうと答えた
だが、こう答えた被験者達がそのつながりを実際に意識していたと想定するだけの根拠はない
影響を与えるような単語のペアの一部については被験者は誰1人として商品名の連想に影響を与えなかったと答えた
他のいくつかの単語のペアについては、多くの被験者が影響を与えたと答えたが、それらに実際に影響を与えたのは、ごくわずかの被験者だけだった
単語のペアを記憶することが実際にどの程度、対象となる商品を思いつく確率に作用するかということがわかっている
この実験によって、人が自分の頭の中で起こっているプロセスに気づくことができないばかりか、そのプロセスについて直接的に尋ねられてもプロセスを取り出すことができないということが立証される
筆者達が行なったいくつかの実験で被験者に自身の下した判断についての理由を述べてもらったところ、実際には現実の因果関係とは方向が逆になっていた
被験者の学生達にヨーロッパ風のアクセントで話す大学教師のインタビューを見せた
被験者の半分には教師は心が温かく、愛想が良く、熱心な人のように振る舞った
残りの半分には教師は冷たく独裁的で、規律に厳しく、学生を信頼しない人物のようにふるまった
被験者は教師の好感度と、どちらの条件でも本質的には変わらない外見、身振り、アクセントについても評価した
教師の属性についての学生の評価を見ると、学生達が非常に顕著なハロー効果を受けていたことがわかった ある人についてとても良い何かを知っていることが、その人のあらゆる種類の判断を色付ける
温かく振る舞う教師を見た被験者の大半は、教師の外見と身振りが魅力的だと評価し、アクセントについての評価は大抵中間
冷たく振る舞う教師を見た被験者の大多数は、全ての性質が、不快で苛立ちを感じさせるものであると評価
被験者は教師に対する肯定的あるいは否定的な感覚は、教師の属性の評価には一切影響しなかったと断言した
これとは逆に教師の属性についての感覚がどの程度、教師への全体的な好感度に影響したかという質問
温かく振る舞う教師を見た被験者は教師の属性についての自分の感覚が教師の全体的な評価に影響することはなかったと答えた
冷たい方の教師を見た被験者は3つの属性それぞれについての嫌悪感がおそらく教師への全体的な評価の一因になっただろうと感じていた
被験者達は物事を全く逆の方向に捉えていた
「閾下の」
人が意識の上で気づいていない刺激を指すために用いられる
心理学における有名な発見に、何らかの種類の刺激にさらされる回数が増えるほど、その刺激がいっそう好きになるというものがある
もともとその刺激が嫌いでなければという条件
片方の耳には何らかのやり取りを再生して聞かせ、もう一方の耳には音の連なりを聞かせるという実験によって明らかにされている
音が発せられていることに全く気づいていない場合にも、実験が終わった後に何度も聞かされていた音の連なりと、一度も聞いたことのない音の連なりとを区別することさえできない場合にも当てはまる
コンピュータの画面に単語を0.1秒間だけ表示してから、被験者が見えたものを意識しないようにするためにXという文字を並べた遮蔽刺激を単語のあった場所に表示
被験者の一部は敵意のある意味を持つ単語に触れさせられ、被験者の一部は中立的な単語に触れさせられた
それから被験者はその行動が敵意あるものにも中立的なものにも解釈できるドナルドについての文章を読んだ
敵意に関係する単語に触れさせられた被験者は中立的な単語に触れさせられた被験者よりも、ドナルドを敵意を持つ人物であると評価した
サブリミナル説得が存在するのしないのかについての疑問
存在するかしないかが確信できるほと巧みに行われた実験はほとんどなかった
最近行われたマーケティング研究によって、サブリミナル刺激が実際に、製品の選択に影響を与えうることが示されている
被験者の喉を乾かせてから、気づかないほど短時間だけ特定の商標名を提示すると、その商品と商標名が提示されなかった商品のどちらかを選択するように求められると、商標名が提示された商品を選ぶ傾向が強くなる
スプラリミナル(意識レベルの上にある)の刺激が一見すると偶発的なものであり、ほとんど気づかれることがなくても、消費者の選択に作用しうることに疑いの余地はない 消費者調査にオレンジ色のペンで記入している人は、緑色のペンで記入している人よりも、オレンジ色の製品をより多く選択する
世間では、無意識とは主に、暴力やセックスなど、口に出さないことが最も望ましい事柄についての抑圧された思考の宝庫だとされている
実際のところ、意識の中にはおびただしい数のセックスと暴力が駆け巡っている
大学生にブザーを持たせて、そのブザーが鳴るたびにそのときに考えていたことを書き出させると、大抵はセックスのことを考えている
しかも、大学生の大多数が、人を殺す考えにふけったことがあるお解凍している
無意識は私たちのために前知覚する
思考の中に多数の要素を保持する能力も無意識の方がはるかに優れている
無意識の思考の中に保持される要素の種類は意識の場合よりもはるかに多岐に渡っている
意識を活動に参加させると物事の評価が台無しになることがある
ポスターやジャムなど、それぞれの対象についてどこが好きでどこが嫌いかを口にするように求められると、ただ対象についてしばらく考えてから選択するよりも上手に選択できない可能性が高くなる
選択について意識的に考えると、言葉で描写できる特徴のみに注目しがちになる
選択のプロセスから意識を締め出せば、ときには良い結果が得られる
オランダ人研究者が学生達に四つのアパートの部屋から最も良いものを選ぶよう求めた
それぞれのアパートには魅力的な特徴がいくつかと魅力的ではない特徴がいくつかあった
あるアパートが他よりも優れている
八つの肯定的な特徴と四つの否定的な特徴、三つの中立的な特徴というほかのアパートを上回る組み合わせ
直ちに選択しなければならないグループと、3分間入念に考えるグループと、同じ情報を意識的に処理するのが難しいとても難しい作業を3分間こなすグループ
正しいアパートを選ぶ確率は
難しい作業に従事していたグループが、意識して考える時間が豊富に与えられたグループやりも3倍近く高かった
時間が豊富にあったグループの選択は、考える時間がほとんど与えられなかったグループの選択よりも劣っていた
学習
無意識は意識よりも上手に非常に複雑なパターンを学習することができる
意識が学習できないことも学習できる
区域の一つにXが現れるので、被験者は次にどの区域に現れるかを予測してボタンを押す
Xの出現場所は非常に複雑な一連の規則によって定められている
複雑な規則体系を学習できた
被験者が正しいボタンを押す速度が時間とともに早くなっていた
規則が突然変化すると被験者の成績が著しく低下した
しかし、意識は起こっていることに関わってはいなかった
どんなパターンがあるかをはっきりとわかっていないばかりか、パターンが存在するということさえ意識上で気づいていなかった
無意識はあらゆる種類のパターンを見出すことにとても長けている
なぜ意識があるのか
無意識が扱うことのできないような種類の規則がある
確かにある特定の作業は意識の規則、無意識の規則のどちらを用いても実行できるということがわかっている
ある一つの規則に従って導き出された解答はその時々によってまったく異なる場合がある
思考を声に出しながら問題を解決している人は、その解決のプロセスを正確に描写することができる
この例はプロセスを観察しているということを示しているのではない
意識を使って問題を解決するとき私たちは次のことに気づいている
頭の中にある一定の思考と知覚
そうした思考や知覚の処理の仕方を決定する(決定すべき)と私たちが考える特定の規則
実行されている心のプロセスがどのようなものであれ、そこから生み出される認知的および行動的な多数のアウトプット
自分の判断の根底にあるプロセスに近づくことができない
私たちは判断や行動の根底にあるプロセスを知っていると主張するが、知覚や記憶からの情報の取り出しの根底にあるプロセスに気づいているとは主張しない
なぜ認知のプロセスがそれとは違うということになるのか?
進化論的な観点から見るならば、心のプロセスに近づくことがなぜ重要になるのか?
意識にはやるべきことが十分にある
まとめ
なぜこういうことを考えているのか、なぜこういうことをしているのかを自分は分かっていると決めつけない
他の人々が自身の理由や動機について行う説明が、あなたが自身の理由や動機について行う説明よりも正しい可能性が高いと決めつけない
無意識が自分を助けてくれるように、無意識を手助けしなければならない
問題への取り組みが捗らないならそれを放置してほかの何かをする
4章 経済学者のように考えるべきか
いわゆる期待価値分析を行うには一連の選択肢それぞれについてのありうる結果を列挙し、それらの価値を決定し、それぞれの結果の確率を計算する 価値に確率をかけるとその積が一連の行動それぞれの期待される価値となる
期待価値が最も高い行動を選ぶ
パスカルは誰もが神の存在、不存在を信じるかどうかを決めなければならない大運有名な賭けについて考えるという設定で、彼なりの決定理論を説明
table: 利得行列
神存在 神非存在
神の存在を信じる +∞ -1
神の存在を信じない -∞ +1
無神論者は愚か者ということになる
ぶつぶつ文句を言いながらとりあえず神を信じることにするという態度は許されない
信念の方が行動と調和する方向へと動いていく
期待される価値を計算する手法
純便益(便益-費用)が最大になるような行為を考えられる行為の中から選ぶべきであるというもの 具体的にすべきこと
代替可能な行為を列挙する
影響を受ける当事者を特定する
各当事者の費用と便益を特定する
測定形式を選ぶ
たいていはお金
対象期間における各々の費用と便益の結果を予測する
これらの結果の予測に、それらが起こりうる確率をかけて重み付けをする
時間の経過とともに減少する量だけ、結果の予測から割り引く
たとえば費用と便益の推定において起こりうる間違い、もしくは確率を推定する際の誤りから生じた費用便益分析の結果を調整する
実際に行うとこのリストから想像されるよりかなり単純ですむことがある
もう少し難しい選択
ホンダ車かトヨタ車か
ひとつめは選択余地の問題
マツダは?日本車にこだわるのはなぜ?
二つ目は情報収集をどの時点でやめるか
最適化選択は実生活における決定の多くが目指す現実的なゴールではない 哲学者がよく引き合いに出す、二つの干し草の間で腹ペコになっているロバ
選択を最適化しようとすることは合理的でない場合が多い
コンピュータがやるべきことであり人間がやるべきことではない
私たちの意思決定にはその代わりに、限定された合理性という特徴がある
satisfy+sufficeの造語
ある決定に対してはそれの持つ重要性に応じて時間とエネルギーを使うべきである
サイモンはこの原理を評価されてノーベル経済学賞を受賞した
サティスフィスという概念にも問題がある
規範的な規定としては申し分ないが、実際に人々がとっている行動を現実にはあまり上手く表現していない
そもそも費用便益分析をするのはなぜなのか
より多くの情報に基づいた判断ができ、軽率な決定をする可能性が低くなるから
しかし、分析をすれば常に何をすべきか教えてくれる数字が出現するというような甘い考えを持つべきではない
フロイト「あまり重要ではないことについて決定するときにはいつでも、賛成と反対の理由を全て検討することが役に立つ。だが、とても重要な問題となると…決定は、無意識から、自分自身の内側にあるどこかきら来るべきである」 無意識はありうるすべての関連情報を必要としており、そうした情報の一部は意識的なプロセスによってのみ生成される
意識的に獲得した情報はそれから無意識の情報に加えられることができる
無意識が答えを計算し、意識へと伝達する
組織の選択と公共の政策
全く異なる性質の費用と便益をどのように比較するかという問題
貧しいマイノリティの子供達に質の高い就学前保育を提供することは割に合うか
不明なことが大量にあるが費用に対する便益の比を8.74と算出
感度分析
多くの数値が極めて曖昧なのはわかっている
回避できた犯罪コストが10倍膨張されているとしても、それでも純便益はプラス
重要なことにヘックマンらは知られていないから、あるいは推定することが明らかに無意味であるからという理由で、多くの便益を考慮に入れなかった
見落としているのは便益だけであることから、質の高い保育プログラムは成功であり、トクな買い物だったことがわかる
費用便益分析を行う狙いは政策に影響を与えようとするところにあった
1981年にロナルド・レーガンが大統領に就任した時、左派の強硬な反対を押し切って、政府が発効するすべての新しい規則について費用便益分析を行うべきであると宣言
この方針はその後歴代大統領たちが継承している
オバマ大統領はすべての既存の規制に費用便益分析を実施せよと命じた
人命の価値はいくらか?
特定の根拠にもとづいて導き出した値
何かの価値は、人がそれを得るために支払うつもりの額で示される
保険会社は炭鉱夫は自ら危険な職業を選んだのだからその生命の価値が低いのは明らかだとして、会社員の命よりも炭鉱の命に対して支払われる保険金の額が少ない
フォード・モーター社が安全なガソリンタンクと取り替えるためにピントをリコールする決定を下さなかったのは、リコールすると一億四千七百万ドルの費用がかかるのに対し、理不尽な死を遂げた所有者たちに支払う弁償金がたったの4500万ドルで済むから
それでも人命の価値を示す何らかの基準値は確かに必要
質調整生存年がわずかに増えるだけの規制を実施するために多額の金を費やす危険
質調整生存年を何百倍や何千倍も伸ばすための方策に適度の金額をかけることができないかもしれない
費用便益理論には、私の便益があなたの費用になりうるという問題がある
羊飼い1人にとって羊を一頭増やすことから得られる利得は+1だが、共有地の劣化を引き起こす責任は-1の数分の一でしかない
統治を始める
汚染も共有地の悲劇に似たものを生み出す
経済学者が負の外部性と呼ぶものは地球上の全員に害を与える 快楽の合計は+1であり、費用は70億分の1
70億人が自己統治することは個人のレベルでは不可能
まとめ
ミクロ経済学者は、人が決定を下す方法がどのようなものであるか、あるいは、どのように決定を下すべきなのかについて、合意していない
しかひ人々は通常、数種類の費用便益分析を行なっており、それを行うべきであるという点においては意見が一致している
決定が重要で複雑なものであるほど、そのような分析を行う重要性が高くなる
明らかに欠陥のある費用便益分析でさえ、ときには、どのような決定を下すべきかをはっきりと示すことがある
費用と便益についての完全に適切な測定基準はないが、大抵の場合、とにかく比較することが必要だ
人命の価値を計算することは不愉快なことであり、ときにはひどく誤用されるが、懸命な政策決定をするためには、それでもなお必要とされることが多い
私の利得があなたの負の外部性を生むような共有地の悲劇にたいしては、一般的に、拘束力があり強制的な介入が必要とされる
5章 こぼれたミルクとただのランチ
埋没費用の原則とは、将来の費用と便益だけが選択の中で考慮されるべきであるというもの
過去に払った費用は埋没していて取り返すことはできない
経済学者のモットーであり、あなたのモットーともすべきことが、人生の残りは今始まる、というもの
ある一連の行動を行うことによって、次善の行動を行った時の利益を失うことから生じる費用
選ばれなかった選択肢すべての合計ではなく、選ばれなかった選択肢のうち最善のものの費用
機会損失を気にしすぎると、埋没費用を気にしすぎる場合と同様の費用が発生するということを心に留めておくべきだ
機会費用の計算はそれ自体が費用になりうる
経済学者は正しいか?
二つの論を提示
費用便益理論は論理的にしっかりしている
あまり一般的ではなく、おそらくたいていは冗談で言われることが、会社が専門家にお金を払って経営についての費用便益分析をやらせているくらいだから、費用便益分析は有益に違いないというもの
議論が正しくなくても論理的であることはありうる
ハーバート・サイモンが現れて、最善の方策とは実はサティスフィスするものであると言うまでは、基本的には最適化が推奨されていたということを思い出して欲しい
費用便益の原則に理論上は賛成しているという身近な人を多く知っているほどこの原則を利用する可能性が高くなるのだとしたら
しかし、このような調査結果は自己選択の好ましくない影響を受けている SATとACTの言語検査の得点と費用便益のルールを使用しているという本人の報告との相関は約0.4
より賢い人はあまり賢くない人よりも経済理論に従って選択を行う
筆者の行なった実験では、費用便益の原則を短時間だけ教えると、その原則を用いてなされた選択を支持する可能性が高くなることが示された
したがって、より賢い人、費用便益の規則体系を教えられた人は、あまり賢くなく、規則について教えられていない人よりもこの原則を使う可能性が高い
実際、この原則を使う人達の方が裕福
費用便益分析に従って決定していると答えたミシガン大学の教職員は著しく高い報酬を得ている
この関連性は経済学の教授たちよりも、生物学と人文科学の教授たちについてさらに強い
さらに生物学と人文科学の教授たちが経済学について学ぶほど稼ぐ金額が大きくなる
さらに過去5年間における昇給が、教授たちが自身の選択を費用便益原則を用いて報告する程度と関連する傾向が強い
費用便益の規則に従って選択を行うと答えた学生の方が、そうではない学生よりも成績が良い
規則を使う人の方が頭が良いからだけではない
規則を用いることと成績の間の関連性は、SATまたはACTの言語検査を式から除くと一層強くなる
なぜ、費用便益の規則によって、人がいっそう有能になるというのか
一部には、規則を用いることで、最善の効果が出るところにエネルギーを集中させ、うまくいきそうにない計画を捨てる方向に促されるから
埋没費用の罠を避け、機会費用に注目する
筆者がもらった中で最高の助言をくれた人は、計画を三つに分類せよと教えた
非常に重要かつ緊急のもの
重要かつ速やかに行うべきもの
いくらか重要だが急ぐ必要のないもの
どんなときも第一の区分に入るものだけに取り組み、残りの二つの区分には手をつけないこと
効果がいっそう高まるばかりか、のんびり楽しむ時間が多くなる
まとめ
すでに使い切られて取り戻すことのできない資源が、そうした資源を用いて得られた何かを消費するかどうかについての決定に影響を与えさせてはならない
今か将来にすることができるだろう他の行動よりも純利益の少ない行動に関わることを避けるべきだ
埋没費用の罠に陥ると、いつも不要な機会費用を支払うことになる
埋没費用と機会費用を始めとして、費用と便益に注目することは割に合う
6章 行動経済学で弱点をつぶす
私たちにはすでに持っているものを手放すことを避ける一般的な傾向がある
様々な状況において、何かを得ることで幸せになる度合いは、同じものを失うことで不幸せになる度合いの半分程度でしかない
カップを持っている人は、カップを持っていない人が平均して払っても良いとする金額の2倍の額をもらえる場合にのみ、カップを売ってもよいとする
背景に損失嫌悪
チケットの購入に使える20ドル分のクーポン券を送るほうが、20ドルを割引してもらえるコード番号を記載した手紙を送るよりも売り上げが70%も高くなる
手元にあるクーポンを現金化せず失う方が怖い
経済学者のローランド・フライヤー率いる研究チームは生徒の成績が上がったら教師の給料を引き上げようと提案しても生徒の成績には影響がないことを発見 学期の初めに同じ額のお金を教師に渡し、生徒の成績が目標に届かなかったら全額返さないといけないと告げると、生徒の成績に著しい好影響が見られた
授かり効果を費用便益の観点から正当化することは不可能だ
授かり効果は経済学者のリチャード・セイラーがワイン愛好家である経済学者の同僚の行動について考察していた時に思いついた概念 損失嫌悪にある最大の問題は、これにより現状維持バイアスが引き起こされるというもの ドイツ人は12%しか政府による臓器摘出を認めていないが、オーストラリア人は99%が認めている
オーストラリアでは臓器摘出についてオプトアウト方式をとっている
正しい選択を後押しするような選択設計とそうではない選択設計との違いが微妙な場合もある
選択 少ない方が多くなりうる
1日のうち半分は6種類、もう半分は24種類
24個のジャムがある方が6個しかない時よりはるかに多くの人が足を止めた
しかし、24個ある時より6個しかない時の方がジャムを買う人の数が10倍も多かった
選択肢を検討する機会費用
本書の中心となるメッセージの一つに、行動は金銭的な要因だけでなく、その他多数の要因によって支配されており、金銭的なインセンティブが役に立たないか他よりも劣る場合に、いくつかの非金銭的なインセンティブか
とても効果を発揮するというものがえる
社会的な影響
他の人たちが自分の思っているよりも優れた行動をとっていると知ることは、説教よりもはるかに効果的である場合が多い
金銭的なインセンティブを与えたり、強制しようとしたりすることは、相手がインセンティブや強制を行わせようとしている行為があまり魅力的なものではないと示すものだと受け止めるのであれば逆効果になる可能性が高い
フェルトペンで絵を描くと契約した子供達とフェルトペンで絵を描きたいか尋ねただけの子供達
契約した子供達は全員賞をもらい、契約なしの子供達にも賞を与え、何人かには賞を与えなかった
一、二週間後、再びフェルトペンを使った活動
契約した子供達の絵を描く時間は契約しなかった子供達の半分以下だった
まとめ
損失について考えることは、利得について考えることと比べて、とても大事なことであるように思われがちだ
私たちは授かり効果の影響を受けすぎるー自分のものだからという理由だけで、それを必要以上に大事にする
人間は怠惰な生き物だ。これまでそうだったからという理由だけで、現状にしがみついている
選択は非常に過大評価されている
他人の行動に影響を与えようとする時、すぐに慣習的なインセンティブ、すなわち飴と鞭という観点から考えてしまう
第3部 符号化、計数、相関、因果関係
統計学の原則を日常生活に適用する能力がとても伸びた学生もいれば、あまり伸びなかった学生もいた
伸びた学生はソフトな領域の心理学を専攻する傾向
社会心理学や発達心理学、パーソナリティ心理学
伸びなかった学生はハードな領域を専攻
生物心理学、認知科学、神経科学
ソフトな領域を専攻する学生達は学んだ統計学を日常的な種類の出来事へいつも当てはめている
統計学の原則と関連性が明らかになり、そうした原則との接点が得られるような方法で、日常生活の出来事をフレームに入れる
統計学のルールに近いものを出来事に適用できる方法で、出来事を符号化する
代表制ヒューリスティックや利用可能性ヒューリスティックなどの直感的なヒューリスティックだけを当てはめるような出来事が減るだろう
医学生についても調べると、日常的な問題について統計学的に考える能力をかなり培っていた
医学部では早い時期に一冊のテキストが配布され、統計学の訓練を積むことが求められる
7章 確率とN
2007年、テキサス州知事リック・ペリーが、テキサス州内の12歳の女児全員を対象にヒトパピロマーウイルスのワクチンを接種するという行政命令
このワクチンは子宮頸がんを引き起こす可能性がある
2012年の共和党予備選でリック・ペリーと競っていたミッチェル・バックマンは「ワクチンを接種した娘が、精神遅滞になってしまった」という話をある女性から聞いたと発言
母集団のサンプルについての報告とするとNの値が低い
Nが非常に大きい
精神遅滞の割合が高いことを示す事例は確認されなかった
I know a man who ...
バックマンのサンプルは場当たり的なサンプルとすら言えない
彼女にはこの一つの症例を一般大衆に提示する強い動機があった
バックマンや情報提供者が本当のことを言っていないかもしれない
その人の娘がワクチン接種後に精神遅滞と診断されたなら、その母親の推論は前後即因果の誤謬の可能性 サンプルと母集団
平均や比などのサンプル値はNが大きいほど実際の値に近くなる
母集団の大きさが極端であると、大数の法則の力を確認しやすい
サンプルを用いた統計の精度は本質的にサンプルを抽出した母集団の大きさに左右される
選挙で行われる全国世論調査の大半は1000人ほどのサンプルを抽出しており、統計の精度は±3%以内と言われている
1000人というサンプル数は母集団が一万の場合と1億の場合どちらでもある候補者を支持する正確なパーセントを同じくらい正しく推測できる
大数の法則はサンプルに偏りがない場合にのみ成立する
全国世論調査では実際のところ、母集団から無作為にサンプルを抽出していないということに注意
固定電話
測定をする対象者の真の得点を判定しようとしている
測定 = 真の得点 + 誤差
得点の精度を向上させる方法
測定の種類を改善すること
測定の回数を増やし、その平均を取ることで、測定に現れるどのような誤差も相殺すること
面接の錯覚
面接を重視=わずかな行動サンプルにもとづいた人についての判断が、もっと多くの量の証拠と比べてかなり重視されることが許されているということ
平均成績値やGREの得点、推薦状
大学の平均成績値は大学院での成績をかなりの程度まで予測することが証明されている
GREの得点もだいたい同じ程度まで成績を予測できる
この二つは互いにある程度独立しているので、両方使うことで予測の精度が向上する
30分の面接にもとづいた予測と、学部生と大学院生の成績評価との相関値は0.10以下であることがわかっている
分散と回帰
変動のある値
非連続的な変数とは対照的に、連続したどのような種類の変数も平均値と平均値の周囲における分布を持つことになる 平均値から遠い値ほど稀にしか存在しない
正規分布は数学の抽象概念ではあるが、連続した変数について驚くほど頻繁にその近似が認められる
範囲、すなわち利用可能な事例の中の最高値から最低値を引いたもの
各々の測定値の平均からの隔たりを二乗した値を平均したものの平方根
概念的には平均偏差とさほど違わないが、いくつかの極めて有用な性質がある
値のうち約68パーセントが平均値からの±1平均偏差内に入る
パーセンタイルと標準偏差の関係に関連するもの
正規分布についつこれまで説明してきたことはどれも、正規分布の形とは関係なく成り立つ
ベルカーブの形になるのはそう頻繁ではない
ダニエル・カーネマンはかつてイスラエルの飛行教官たちに、人の行動を望ましい方向へ変えるには批判より賞賛の方が効果的であるという話をした 教官の1人は操縦を褒めると下手になり下手な操縦を怒鳴りつけると次には改善されるといった
ある子供の母親がIQ140で父親がIQ120なら、子供についての最も有力な推測は幾つになるか?
両親のIQは平均値よりも高い
両親のIQと子供のIQの間の相関が完全であるとみなさない限り、子供のIQは両親のIQの平均値よりも低いと予測しなければならない
両親のIQの平均値と子供のIQの相関が0.50であることから、子供のIQの予測値は両親のIQの平均値と母集団の平均値の中間、115となる
心理療法士は多くの患者にハロー/グッバイ効果が認められるという。治療が始まる前、患者は自分の症状が実際より悪いといい、治療が終わると前より症状が改善したという
よくある説明は治療を受ける資格があると示すために具合が悪いふりをするが、治療が終わったらセラピストに気に入られたいと思う
病気が進行性でない限り、時間の経過とともに改善する傾向にある
まとめ
対象や出来事の観測は多くの場合、母集団のサンプルとして捉えるべきである
根本的な帰属の誤りは、主として、状況的な要因を無視する傾向のために起こるが、人に短時間だけ接することはその人の行動のわずかなサンプルにしかならないということを正しく認識できていないことによっても助長される
サンプルを大きくすることで誤りを減らせるのはサンプルに偏りがない場合に限られる
標準偏差は連続的な変数が平均値の周囲にどのように分散しているかを測る便利な尺度
ある特定の種類の変数の観測がその変数の分布の極端から得られたと分かっていれば、さらに観測を重ねると極端から遠ざかっていく可能性が高い
8章 連鎖
table: 疾病Aと症状Xの関連
疾病Aはい 疾病Aいいえ
症状Xあり 20 10
症状Xなし 80 40
相関
四つのマスすべてに注目しなければならない
ほとんどの人が、それも日常的に病気の治療に携わっている医師や看護師も含めて、上の表を見てもたいていは正しい答えを出せない
本物の関係性があると確信が持てるほどの十分な違いが二つの比にある確率を調べる
関係性が有意であるかどうかを判断する典型的な基準は、テストの結果、関係性の度合いが100回のうち5回だけ偶然に起こりうると示されるかどうか
関連性が0.05の水準で有意
変数が連続的で、それらが互いにどの程度密接に関連しているかを知りたい場合、相関という統計学的な手法を使う -1から+1
0.3の相関は視覚的にはほとんど見抜くことができないが、実際には非常に重要なものでありうる
IQから収入を予測できる可能性と大学の成績から大学院での成績を予測できる可能性に相当する
変数Aにおいて84パーセンタイルにある人が変数Bにおいて63パーセンタイルにあると予測される
変数Aについて何も知らなければ全ての人について50パーセンタイルにあると推測するしかない
0.5の相関はIQと平均的な仕事のできのあいだの関連の度合いに相当する
0.7の相関は身長と体重のあいだの関連性に相当する
0.8の相関はある回のSATの数学部分の得点と一年後に試験を受けた時の数学部分の得点の間に認められる関連性の度合いに相当する
相関は因果関係を証明しない
相関係数は因果関係の評価における一つのステップ
AとBのあいだに相関関係がなければAとBのあいだにはおそらく因果関係はない
第3の変数Cが隠れている場合は例外
幻の相関
様々な患者のものとされるロールシャッハテストへの回答を臨床心理学者に提示
インクの染みが性器に見えた、および性的不適合を抱えていると書かれたカード
すべての回答を読んだ後、心理学者はインクが性器に見えた患者は性的不適合の問題を抱えている傾向が強いと述べがち
両者に負の関連性があることが一連の回答に示されていると言えば、臨床的な経験の事実があるという
実際にデータを集めてもそのような関連性はない
代表制ヒューリスティックからあらかじめ準備された関係性が無数に作られる
関係性を認める準備も認めない準備もできていないならどうなるか?
任意に組み合わされた出来事における相関は、確実にそれに気づくことができるためには相関は0.6なくてはならない
しかもデータが一度に全て提示され関係性を確認しようと最善を尽くしている場合
関係性がかなり強い場合を除いて、二つの変数の間に相関関係があるという自分の認識をあてにはできないということを意味している
正しく理解するためにはきちんと手順を踏まなければならない
共変動は正確に見つけるのがとても難しいという通例には例外がある
とても近い時点で起こる場合
ラットに電気ショックを与える直前に明かりをつければ、ラットはすぐに光とショックの間の関係を学習する
時間間隔を伸ばすと関連性の学習が難しくなる
信頼性と妥当性
ある特定の変数がどのような機会に測定されても同じ値を示す度合い
身長の信頼性はほぼ1
数週間の間隔であらゆる機会に測定されたIQの信頼性はおよそ0.9
2種類の検査を用いて測定されたIQの信頼性は一般的に0.8以上
虫歯の進行具合について2人の歯科医の意見が一致するのは0.8以下
さらに言えばある歯科医の判断は別の機会におけるその医師自身の判断と完全には相関しない
測定の妥当性とは、測定することになっているものをどの程度測定しているかという尺度
IQテストはその値が小学校の成績平均値と相関する度合いを測定した場合の妥当性がおよそ0.5ととても高い
信頼性なくして妥当性はありえないという非常に重要な原則
妥当性が全くなくても信頼性がとても高いことがありうる
符号化は戦略的思考の鍵となる
筆者とジーヴァ・クンダが共同で行なった実験において大学生の被験者が行なった推測
特性についての相関の予測の方が能力について相関の予測よりも高い
能力が反映された行動についての推測は事実に近い
ある状況における行動と別の状況における行動との相関は約0.5と割合に高い
大数の法則が相関に影響を与えていることもよく見て取れる
特性についての予測がどうしようもないほど不正確
ある状況における親しみやすさ・正直さが別の状況におけるそれと0.8の相関があると推測する
一般に0.1以下であり、決して0.3を超えることはないと言える
私たちはある特性が引き出された一つの状況における行動を観察することで、その人の特性を正しく理解することができると考える
根本的な帰属の誤りの本質
大数の法則が性格についての推測にも当てはまるということを認識できない
多くの能力について、どういう単位を用いて行動を計測すればよいかを私たちは知っており、そうした単位に実際に数を与えることができる
親しみやすさを判定する適切な単位は何か?
比較が困難
特性について犯す誤りをどうやって解決できるか?
人の行動が複数の機会においても一貫すると期待できるのは、文脈が同じ場合に限られるということを意識する
同じ文脈であっても観察を何回も行う
あなた自身がそれほどしっかり一貫していないということを念頭に置く
符号化できるものとできないものを知る
統計学的な推論の方法は、二つか三つの領域におけるごく少数の事例でもわ膨大な数の出来事についての推論の方法を改善させるには十分であることがわかっている
まとめ
関係性を正確に評価することが非常に難しい場合がある
無意味にもしくは任意に組み合わせた二つの出来事の間の相関を評価しようとするときのように、予測をひとつも持っていない相関の評価をしようとする場合、相関を確実に発見するには、相関がとても高くなくてはならない
私たちは、幻の相関を見がちである
相関について事前に抱く多くの根本には、代表制ヒューリスティックがある
相関は因果関係があることの証明にはならないが、AがBを引き起こしているかもしれないというもっともらしい理由があれば、相関によって実際に因果関係が証明されると容易に想定してしまう
信頼性とは、二つの機会において、あるいは異なる手段で測定された場合に、ある事例がどちらにおいてと同じ得点を得る度合いを指す。妥当性とは、測定が、それが予測するはずであるものを正確に予測する度合いを指す
出来事が符号化しやすいほど、相関の評価が正しくなる可能性が高くなる
大きな数のサンプルをさまざまな状況において取得していくなら、特性に関係する過去の行動から、特性に関係する将来の行動を予測しようとするときには、注意深く謙虚でいることが必要
第4部 実験
医学研究や社会科学研究において頻繁に用いられる
多数の独立変数を与えられた一つの従属変数と同時に相関させる
「他のすべての変数の正味の影響のうち、変数Aの従属変数に対する影響はどれか?」
本質的に弱く、誤解を招くような結果を出すことが多い
問題は自己選択にある
無作為な対照実験から重回帰分析によって得られた回答とは全く異なる回答が与えられる場合もあるかもしれない
9章 HiPPOは無視しろ
開発者たちはHiPPO(highest-paid person’s opinion)に基づいて決めるのではなく、何が最も効果があるかという議論の余地のない事実に基づいて行動していた
オバマのウェブサイトでLearn Moreた白黒の家族写真の組み合わせは最も効果の低い組み合わせよりも資金提供者が140パーセントも伸びた
政治分野で多数の実験
テキサス州エルパソにあるスーパーマーケットで、研究者らが、果物と野菜の売り上げを伸ばすための多数の方策についてA/Bテストを実施
ショッピングカートの中に「果物と野菜をカートの手前側においてください」と書かれた仕切りを置くと、果物と野菜の売り上げが倍増する
この店の平均的な買い物客は農産物をX品目買うという表示を客に見せることによって、農産物の売り上げを伸ばすことができた
低所得者の購買行動に大きな影響を与えたことがわかった
同じ店舗内で品物の置き場所を逆にするなど
店舗と店舗の間に存在しうる多数の差異が制御される
単純なA/Bテストよりもはるかに感度が高い
事例ごとに異なる得点が得られ、それを尺度に用いることができる
介入とは関係のない、店舗間または人と人との間の変動を反映
A/Bテストの設問とは無関係の理由のために得点が上下する可能性のこと
事前と事後の得点を得ることで誤差分散を減らせばよりわかりやすくなる
偶然に行われ、思いがけない有益な結果を生むものがある
南西部の土産屋で、トルコ石のアクセサリーの売れ行きが悪いので1/2で出すように指示したところ、誤って2倍の値段で出されたが、売れ行きが上がり完売した
統計学的な従属と独立
教室1で30人の生徒を対象に手順A、教室2で25人の生徒を対象に手順Bを試した。事例の合計数(N)はいくつか?
Nは2である
Nが事例の数と等しくなるのは、観測の独立性がある場合に限られる
処置の最中とその影響を計測している期間中に構成員が相互作用するような場合、個々人の行動は互いな独立していない
独立性という概念は無限の範囲の出来事を理解するにあたって極めて重大
2008年、金融格付けサービス会社が、債務不履行は互いに独立して発生すると仮定するモデルを住宅ローンの推定デフォルトに用いた
これが全く理屈に合わないわけではないが、幅広い状況下で、しかも住宅価格が急激に上昇している最中では間違いなく、バブルの只中にあるという可能性を想定しなければならない
そうした場合、ある住宅ローンか債務不履行になる可能性は別の住宅ローンが債務不履行になるかどうかに統計学的に依存する
まとめ
思い込みは間違いがちである
相関的な設計は、事例に条件が付与されていないために弱い
事例の数が多いほど、現実の影響を発見する可能性が高くなり、実在しない影響を発見する可能性が低くなる
ありうるすべての処置をそれぞれの事例に割り振れば、設計の感度がさらに高くなる
調べている事例が互いに影響を及ぼすかどうかを考えることは極めて重要である
10章 自然な実験と適切な実験
説得性の連続体
類似の事例が、ある特定の点においてたまたま異なり(実際には独立変数)、そのために議論の対象となっている結果において差が生じるかもしれない(従属変数)というところが、本物の実験に似ている
自然実験から適切な実験へ
自然実験の所見→ランダムに割り振ることで本物の実験
科学者たちはしばしば得られた観察結果がまさに自然実験になると気づいた時に着想を得る
天然痘のワクチン接種は18世紀医師のエドワード・ジェンナーが乳搾り女はめったに天然痘にかからないことへの気づきから
実験を行わないことによる高いコスト
ヘッドスタート
主として貧しいマイノリティの子供を対象とし、健康と学業成績と、できればIQを向上させようする就学前プログラム
50年近くの間2000億ドルを費やしてきた
このプログラムによって、確かに子供たちの健康は改善され、最初のうちはIQと学業成績も向上したが、認知能力の進展はわずか数年しか続かなかった
プログラムへの参加の割り当てがランダムではなかった
大人になってからの結果を示すどのデータも遡及的な情報に依存
遡及的な調査からは一見すると成果を手にしているが、この結果は自然実験のレベルまでも達していない
ヘッドスタートよりもさらに集中的な内容のプログラムに参加者をランダムに割り当てた実験からは、ささやかではあるが長く継続するIQの向上が見られた
成長してからも学業成績がさらに向上し、高い収入も得られていた
善意の人々が悲劇が起こった直後にトラウマに苦しむ可能性のある人を助けるプログラムを考案した
CISDを受けた人たちは、本格的なトラウマ性障害を体験する傾向が強くなるという証拠がいくつかある
社会心理学者のジェームズ・ペネベーカーが、トラウマに苦しむ人々に重大な事故が起きてから数週間後に体験について心の奥にある考えや感情と、その体験が生活にどのように影響しているのかについて、四夜続けてひとりきりで書き留めさせた 悲しみやストレスに対して大きな効果がある
ペネベーカーは体験について書くことに効果があるのは自分の反応を理解するための物語を組み立てる手助けになるからだと考えている
スケアード・ストレート
善意の囚人達が刑務所がどのようなところであるかを青少年達に見せ、説明する
効果を確認する七回の実験が行われ、どの実験でも、このプログラムを体験した子供達は、対照群よりも犯罪に走る確率が高かった
犯罪の平均増加率は約13%
薬物乱用防止プログラム(DARE)
地元の警察官が80時間かけて教授法を学んでから学校を訪問し情報を与える
年間10億ドルもの資金が提供されている
30年以上実施されているが子供の薬物使用は減っていない
DAREがうまく機能しない理由はわからない
理由がわかったほうがいいだろうが、原因が説明できなくても構わない
いくつかのプログラムが実際に効果を挙げている
ライフスキルズ・トレーニング、ミッドウエスタン・プリベンション・プロジェクトなど
顕著なものが思春期直前の子供達に仲間からのプレッシャーをはねのける方法を教えるというもの
DAREの考案者はティーンエイジャーにとって警察官が社会的な影響を与える重要な人物だと想定した
社会心理学者なら仲間の方が影響を与えるものとしてははるかに効果が大きいと教えてくれたことだろう
さらに大きな成功を収めているプログラムでは、ティーンエイジャーと成人のあいだで薬物とアルコールの摂取力についての情報も提示
思ったよりも少ないので乱用率が低下
まとめ
ときおり、本物の実験と同じくらい説得力のある関係性を目にすることがある
ランダムな対照実験はしばしば、科学や医学の研究において理想的な判断基準であると言われるーこれにもっともな理由がある
社会は行われなかった実験のための高い代償を払う
11章 経済学
三つの点
相関に頼って科学的な事実を立証しようとする研究は、どうしようもなく誤解を招く恐れがあるーたとえ、そうした相関が多くの変数を制御した重回帰分析と呼ばれる複雑なパッケージに包まれていたとしても
被験者が二つの扱いのうち一方にランダムに割り振られた実験は一般的に、重回帰分析に基づいた研究よりもはるかに優れている
人間の行動についての思い込みは頻繁に間違っているため、可能であれば、問題となる行動についての仮定を検証するような実験を行うことが不可欠
多数の独立変数がいくつかの従属変数と同時に相関される
順次に相関されるタイプもある
対象となる予測変数は、制御変数と称される他の独立変数とともに検討される
目的は他のすべての変数の影響を含めない正味の場合、変数Aが変数Bに影響を及ぼすことを示すこと
従属変数に対する制御変数の影響を考慮に入れた場合にさえ、関係が成立するということ
重回帰分析の背後にはあらゆるものが入り混じった中から独立変数と従属変数の相関を取り除くことで、独立変数と従属変数に関連するすべてのものを制御すれば、予測変数と結果変数の間にある真の因果関係に到達することができるという理論
これは理論に過ぎない
ありうるすべての変数を特定できているとどうしたらわかるのか?
ありうる混沌とした変数のそれぞれをどのようにうまく測定するのか
ときには重回帰分析が興味深く重要な問題を検証するために用いることのできる唯一の道具となる場合がある
一つの例が宗教の信仰と実践が出生率の高低と関連するかという問い
信仰心はランダムに割り振れない
すべての相関的な研究や、すべての重回帰分析に価値がないとは限らない
因果関係について何かがわかったと確信を持てるようにするための巧みな方法がいくつかある
国民の富と国民のIQの間の相関の例
富とIQ両方と相関するものはたくさんある
どちらの方向にももっともらしい因果関係が成り立つ
独立変数と別の変数とが後に相関するというもの
国民が賢くなればやがて国は裕福になるか
アイルランドでは多大な組織的な努力が払われた
実際に大学進学率が50%増えた
アイルランドで国民一人当たりのGDPがイギリスの国民一人当たりのGDPを超えた
フィンランドも数十年前から最も貧しい学生達が最も裕福な学生達と同等の教育を受けられるようにすることを中心的な課題とし、教育成果が大幅に改善された
一人当たりの収入が上昇して日本とイギリスを超え、わずかの差でアメリカに続いている
ここ数十年、大規模な教育改革の努力をしていないアメリカなどの国では、先進国内で比較して一人当たりの収入が低下している
その他、多数の状況において、相関の研究が、自然実験やさらには無作為制御実験に匹敵するほど説得性の高い水準まで引き上げられる場合がある
影響が非常に大きいというだけで、それが単なる相関変数のなせるわざであるはずがないと感じたりする
結果が用量依存的であれば、ある処置が正しいといくらか自信を深めることはできる
重回帰分析はあまりに頻繁に行われることから深刻な問題を抱えている
多くの例において、重回帰分析から得られる因果関係についての印象と、実際の無作為制御実験から得られる印象は別物
このような場合では実験の結果の方を信じるべき
重回帰分析によって、平均的なクラスの人数は生徒の成績とは相関関係がないことがわかっている
テネシー州の科学者達がクラスの人数を大幅に変化させた無作為実験を行なった
人数の少ないクラスでは標準テストの得点が約0.22標準偏差向上したことがわかった
マイノリティにの子供に対する効果の方が白人の子供よりも大きかった
これ以外の三つの研究も同様の結果
これら四つの研究は単なる付加研究ではなく、重回帰分析研究すべてに取って代わるもの
なぜ重回帰分析ではクラスの人数の影響がこれほど小さいという結果になるのかはわからない
クラスの人数が重要であるか否かについてしっかりとした意見を持つためにその理由をわかっていなくてはならない
重回帰分析に基づいた相関研究のようなものが抱える問題は、それが本質的に自己選択に基づく誤りに陥りやすいということ
集合にクラスや制御変数をより多く加えるだけでは問題は解決されない
事例がランダムに実験条件に割り振られるような研究において、クラス内の別の次元における変数は存在する
条件を選ぶのは実験者
実験対象のクラスと対照群としてのクラスには平均して同じくらい優秀な教師と能力とやる気のある生徒と同じくらいの資源がある
クラスそのものがこれらの変数それぞれについて自身の水準を選択したわけではない
唯一異なるものは概して研究対象となっている変数
医学の混乱
疫学的研究
大量の疫学研究が重回帰分析に依拠している
自己選択にまつわる問題を回避できない
いかなる疫学研究においても混乱を招く可能性が最も高いのは、たいていが社会階級
様々な疫学研究では様々な方法で社会階級を測ろうとしているようだ
医学的所見がころころ変わる原因
重回帰分析によって発見されることと実験によって発見されることが別物であるという例は無数にある
重回帰分析にのってビタミンEのサプリメントは前立腺癌のリスクを低下させると報告されている
アメリカ国内の多数の地域で行われた実験的研究ではビタミンEを摂取したために癌になる確率がわずかに上昇することがわかった
実験だけが役に立つ場合に重回帰分析を使うと
長期失業者に対する偏見はあるか?
重回帰分析では、変数をいくら制御しても自己選択のバイアスは排除されず、雇用者の偏見があるかどうかを判断することはできないだろう
短期失業者の方が長期失業者よりも面接を受けられる確率が2倍高かった
実験でしか扱えない問題があるというのに一部の科学者はそうした問題でさえ重回帰分析を使った方がより上手に回答を引き出せると思っている
多数の実験研究で黒人らしい名前を持つアフリカ系アメリカ人は黒人らしくない名前を持つ他の条件は同一の求職者よりも面接を受けられる可能性が低いということが明らかになっている
白人らしい名前の求職者は面接の機会が50%も高い
白人らしい名前を持つことは8年間の職歴に相当する価値がある
従属変数は求職活動の成功でも収入でも職業的な地位でもなく、対象の女性たちの居住地域における平均収入や民間健康保険に入ってるかどうかなど、人生の成果を間接的に測るものだった
フライヤーとレヴィットは、実験研究から予測される通り、黒人らしい名前を持つ女性は職業的な成功を示す指数が著しく低いことを知った
しかし、変数を制御すると、名前の種類と結果変数の関係は解消された
キャサリン・ミルクマンらが行なった最近の研究では、黒人らしい名前は大学院への進学希望者にとって確かに不利に働く可能性があることが明らかにされた 白人らしい名前を持つ男子学生は面接の機会が与えられる確率が12%高かった
フライヤーとレヴィットはなぜ重回帰分析による研究が実験的研究から得られた結論に疑いを投げかけるほど強力で正確なものになるだろうと想定する気になったのか
職業病?
経済学者が選択できるのは殆どが重回帰分析
レヴィットは ジャーナリストとの共著において、重回帰分析で因果関係を実際に説明しようとまでしている
著名な経済学者の一部は実験の価値を全く認めていないようだ
経済学者のジェフリー・サックスは、アフリカの少数の村において、生活の質を改善する目的で健康と農業、教育への介入を行うプログラムを開始 これかかる費用は他の選択肢よりも非常に高く、開発の専門家たちから厳しい批判
サックスが介入した村の一部では住民の生活状況が改善されたが、同様の村では介入なしでそれ以上に改善されている
介入の対象をランダムに割り振り、対照群よりも効果を上げれば批判を終わらせることができただろうが、サックスは倫理的な理由から拒否した
実験が行えるにもかかわらず実験を行わないことこそ非倫理的
社会心理学的な無作為制御実験を行う経済学者の数が増えつつある
資源の欠乏があらゆる人の認知機能に悲惨な結果をもたらすとされた
数千ドルもかかる自動車の修理費を行う必要に突然迫られたとして、どのように予算を組み直すかを想像するように被験者に求めてからIQテストをするとIQは大幅に低下する
裕福な人のIQは思考実験を行った後にも影響を受けない
経済学者のラジ・チェティは率先して、経済学的仮説を検証できる自然実験を探すよう、経済学者に勧めている あるクラスが能力の高い教師に受け持たれる前とその直後での生徒の平均的な学力を調べることによって、教師の質が重要であるかが推定できる
このような研究は実験に近いものとみなされる
教師参入前のクラスは実質的に対照群
条件の割り振りはランダムとはならないが、教師の割り振りがおそらく偶然であれば、かなり優れた自然実験を行うことになる
マイノリティの生徒たちにとって成績を上げるための金銭的なインセンティブは効果がほとんどないことなどを示した
フライヤーはまた、ハーレム・チルドレンズ・ゾーンが行う非常に成功した実験にも協力し、アフリカ系アメリカ人の生徒たちの成績が大幅に上昇した
私の仲間も同じ穴の狢
十分な育児休業給付金を支給する会社の従業員は、支給しない会社の従業員よりも自分の仕事への満足度が高い
この相関はさらに休業制度が整っているほど従業員への仕事の満足度が高く、企業の規模や従業員の給与、同僚がどの程度感じが良いか、直属の上司をどの程度好きか、などといった点を制御した場合にも、それがまだ当てはまるということを示す重回帰分析によって強化される
この種の分析には三つの問題がある
測定される変数の数が限られるだろうから、そのうちの一つか複数が上手に測定されなければ、あるいは十分な育児休業制度と仕事の満足度の両方と相関しながらも調査の対象となっていない他の変数があれば、仕事の満足度の要因はそうした関係性であって育児休業制度ではないことになるかもしれない
従業員の企業での体験全般から、育児休業制度だけを引き出すのは全く理にかなわない
この点における企業の寛容性は、企業にある他のあらゆる種類の良い性質と結びついている可能性が高い
こうした類の分析を行えば、ハロー効果にとりわけ影響されやすくなる
自然が結びあわせたものを重回帰分析によって切り離すことはできない
相関ないからといって因果関係がないわけではない
相関は因果関係の証明にはならない
相関の欠如は因果関係の欠如の証明にはならない
多様性の教育によって女性やマイノリティの雇用率が向上するか?
700のアメリカ国内の団体の人事責任者に多様性教育プログラムを備えているかどうかを質問するととまに、雇用機会均等委員会に登録されているその団体のマイノリティ雇用率を調査した
多様性教育プログラムがあることは「経営層における白人女性、黒人女性、黒人男性の比率」とは関連性がなかった
論文の著者は多様性教育はマイノリティの雇用に影響しないと結論
多様性教育を行うことと行わないことは自己選択変数
多様性教育がうまく作用しているかどうかを証明するには無作為実験を行う必要がある
AとBに相関がないからAとBに因果的な影響を与えることはありえないという反射的な結論に抗うべき
差別ー統計を調べるか会議室を盗聴するか?
ある組織、社会に差別があるかどうかを統計によって証明することは出来ない
差別が存在することは実験で証明できる
車の営業担当は白人男性よりも女性やマイノリティに対して高い値段を提示する
非行少年とされる人物の写真をファイルに入れて、大学生の「裁判官」が判決をすると、見た目がよければ軽い判決を受け、見た目が悪ければ厳しい判決を受ける
まとめ
重回帰分析は独立変数と従属変数のあいだの関連性を調べる
重回帰分析にある根本的な問題は、全ての相関手法の場合と同じく、自己選択である
以上のような事実があっても、重回帰分析には多くの用途がある
ある関係について、完璧に実施された実験の結果と、重回帰分析による結果とが重なる場合、普通は実験の方を信じなくてはならない
重回帰分析にある根本的な問題は、独立変数が建築用ブロックであり、各変数それ自体は他のすべての変数から論理的に独立しているとみなせると、一般に想定されていることだ
相関が因果関係の証明にならないのと同じように、相関のないことが因果関係のないことの証明にもならない
12章 質問するな、答えられないから
特に人間に関する変数を測定する際の方法論的な難しさ
その場で態度を決める
質問の順序
人生についての満足度について質問してから結婚生活の満足度に質問
相関は0.32
結婚生活→人生だと0.67
他の人による評価を伝える
他の人による政治家の評価の平均値が1-6の中で5であると言っておく
2であるといったときよりも政治家を高く評価する
そうなる理由の一部は同調性
他の人々による評価を伝えることで、政治家に対するあなたの判断だけでなく、政治家というものがどのような種類の人間であるかという捉え方も暗黙のうちに変わる
ほとんどの人が高く評価しているといえば、政治家という言葉がチャーチルやルーズベルト級の政治家を意味していることになる
アメリカ人の何%が死刑に賛成しているか?
理論上では賛成が多数
具体例を出せば賛成は少数派
犯罪や犯人や状況について詳細を提示するほど、問われた人は処刑しても良いという気待ちが弱くなる傾向がある
意外なことに女性のレイプ殺人のような犯罪にもこれが当てはまる
アメリカ人の何%が中絶を支持するのか?
2009年のギャラップ世論調査によればアメリカ人の42%が中絶賛成であると答えている
同年に行われた別のギャラップ調査によれば、23%がどのような状況でも中絶は合法化されるべきと考え、53%が特定の状況では中絶が合法化されるべきだと答えている
アメリカ人の76%が中絶を支持している
心理学者が行なった多くの実験から人はあらゆることに対する自分の態度を頭の中の引き出しからさっと取り出せる状態で持ち運んではいないことがわかっている
多くの態度は極端に文脈に依存し、その場その場で構築される
何があなたを幸せにするか?
社会的な望ましさのバイアス
心理学者が学生たちに二ヶ月間、1日の終わりに気分の質について報告するように求めた
最終日にそれぞれの要因がどの程度気分に影響する傾向があったかと質問された
結局のところ、被験者は全く正確ではなかった
実際の影響と被験者の考えの相関は0
典型的な女子生徒についての推測は自分自身の推測とかなり一致していた
感情や態度や行動の原因について私たちが行う報告はとても信用のならないものである
態度と考えの相対性
自分自身の価値や特性、態度についての答えは多数のアーティファクトの影響を受けやすい 科学的方法論では意図せぬ測定の誤り、多くは侵入的な人間の行為のために誤った所見のこと
私の価値や性格、態度について質問されたら、自分がその一員であるという理由から私にとって顕著であふ何らかの集団と暗黙のうちに比較し、その結果に部分的に基づいて答えを出す
準拠集団を明示すると自己報告が消滅する
バークレー大学のヨーロッパ系アメリカ人はバークレー大学のアジア系アメリカ人よりも自分自身を一層誠実だと評価するが、どちらの集団も「バークレー大学の典型的なアジア系アメリカ人」という明確な準拠集団と自身を比較したときにはそう評価しない
他の要素が等しい場合、ほとんどの文化の人々は、自分が属する集団内の大半の人よりも自分の方が優れていると考える
すべての子供が平均以上という架空の街
東アジア人はしばしば謙遜のバイアスを示す
その他の多くのアーティファクトは自己報告に関わってくる
何にでもイエスと答える傾向
ヨーロッパ系よりも東アジアやラテンアメリカのあいだでよくみられる
一つの文化の中でも個人差がある
調査を行う側が回答の区分の釣り合いを取り、回答者が質問全体の半分においては主張に賛成し、半分においては反対して、ある側面において高い得点を取れるようにすることができる
言うべきことを言うvsやるべきことをやる
人や集団や文化全体を比較するのにただ質問をするよりも、行動を測定した方が良い
自分自身が観察されていると気づかないうちに行動を測定する方法は、あらゆる種類のアーティファクトの影響をかなり受けにくい
様々な国の人々がどれくらい誠実かを知る目的で行動を調べると、行動の指数を用いて測定された場合の国民の誠実度が低いほど、自己報告で測定された国民の誠実度が高くなることがわかっている
ほぼどのような心理学的変数についても、具体的なシナリオへの回答よりも、行動の方を信頼すべきと言う原則に従う
一方、信念や態度、価値、特性については言葉による報告よりもシナリオへの反応の方を信じるべき
できる限り、人の話に耳を貸しすぎず、人の行動の成果を見よ
利用可能な最高の科学的手法を使わないと巨額なコストが発生することがある
真実験>自然実験>相関研究>思い込み、マン・フー統計学
自分自身を対象に実験する
扱うNが1という問題
自動的に事前・事後設計を抱えることになり、正確性が向上するという利点がある
混同を招く変数を最小限に抑えることもできる
ランダムに条件を割り振る手法
まとめ
言葉による報告は広範にわたる歪曲や誤りの影響を受けやすい
態度についての質問は、何らかの準拠集団との暗黙のうちの比較に基づくことが多い
自分の行動の原因についての報告は、3章で説明され、本章で繰り返し述べたように、多くの誤りや偶然の影響に左右されやすい
行動は言葉よりもはっきりと語る
自分自身を対象に実験を行う
第5部 まっすぐ考える、曲がって考える
推論の誤りを減らすための様々な手法
実際の世界とはまったく接点を持たずに、純粋に抽象的な言葉で描写することのできる、推論のための規則
もしも議論の構造が、論理によって規定される妥当な形式を持つ議論のうちのどれか一つに直接的に対応できるなら、演繹的に妥当な結論が保証される
前提が真であるかどうかにかかっている
条件付き論理などを用いて、どのように前提から妥当な結論に到達するかがわかる
Pが事実ならQは事実である
PはQの十分条件である
原則的に推測を制御できる
推測を制御するというよりも、問題を解決する方法を提示
命題の後に命題に矛盾する可能性のあるものが提示され、いかなる矛盾も解決する総合命題が提示される
中国では矛盾や対立、変化、不確実性を扱う方法が提示される
ヘーゲルの弁証法は命題間の矛盾を抹消し、新たな命題を見つけようとする点において攻撃的であるが、中国の弁証法的推論ではしばしば、対立する矛盾の両方が真になりうるようなあり方を探そうとする
弁証法的推論は、形式的でも演繹的でもなく、普通は抽象的な概念を扱わない
妥当な結論ではなく、真であり有益な結論に到達することを目的とする
実際、弁証法的推論に基づく結論が現実には形式論理学に基づく結論に反する場合がある
13章 論理学
形式論理学の解説を読むだけの十分な理由
形式論理学は科学と数学にとって必要不可欠である
西洋の超合理性と東洋の弁証法的な思考習慣の二つの思考体系は異なる結論を導き出すことがある。互いを批評するにあたっての優れた拠り所となる
教育を受けた人は論理学的な推論の基本的な形式をいくつか扱えるはずである
形式論理学は面白い
西洋における形式論理学の起源
アリストテレスが市場や集会でのひどい議論にうんざりし、議論の妥当性を分析するために、議論に用いる推論の定型を作ることに決めた。 結論が前提から必ず導かれる場合に限り議論は妥当となる
妥当性は真実とは関係ない
議論の妥当性という概念は重要
結論が何らかの前提から導かれるという理由で結論にもっともらしさを付与されることによって、誰かから騙される余地を作りたくない
前提が明らかに真であり、議論の形式から、結論も同様に真であるはずだと規定されている場合、たまたま気に入らない結論を信じないことを自分に許すことはしたくない
真理ではなく妥当性の概念をはっきりと理解している場合、前提と結論から意味を剥ぎ取り、純粋に抽象的な用語で思考することによって、結論が前提から導かれるかどうかを評価することができる
妥当性の問題がついて回る
ある種のカテゴリー推論では、「すべての」「いくらかの」「ひとつも…ない」といった数量詞が使われる
最も単純な三段論法は二つの前提とひとつの推論
すべてのAはBであり、すべてのBはCであるから、すべてのAはCである
すべての事務員は人間である
すべての人間に羽がある
すべての事務員には羽がある
結論は真ではないが、議論は妥当
事務員と人間と羽の代わりにABCを用いることで議論の妥当性を確認することができる
前提と結論が真であっても(非常にもっともらしくても)妥当ではない議論
生活保護を受けているすべての人は貧乏だ
貧乏な人の一部は不正直だ
したがって、生活保護を受けている人の一部は不正直だ
抽象的な用語を使うと
すべてのAはBだ
Bの一部はCだ
したがってAの一部はCだ
三段論法は日常生活で行う必要のある推測の中でごく小さな範囲にしか適用されない
さらに重要なものが命題論理学であり、非常に幅広い推論の問題に適用される
19世紀半ば以降、and, orなどの演算子に重点を置いた
コンピュータの設計とプログラミングの礎となった
トランプのカードについての問題
条件付き論理を応用することで求められた問題
条件付き論理の中で最も簡単な原則である肯定式を応用することで解ける もしPが事実ならQは事実
客が飲酒しているなら客は21歳以上
Pは実際に事実
客が飲酒
したがってQは事実
したがって客は21歳以上
肯定式には後件否定(もしQでないならPではない)が含まれる 21歳以上ではないが飲酒しているは、条件規則に違反する
もしもPならQという前提を、もしもQならPに誤って置き換えている
もしもPであればQである
Pではない
したがってQではない
後件肯定の誤りと前件否認の誤りは、演繹的に限っては妥当ではない結論
しかし帰納的にとても優れた結論が存在しうる
前提が真であれば結論が真である可能性が高くなる
帰納的結論のもっともらしさが、妥当ではない演繹的結論をもっともらしくみせる働きをする
条件付き論理を抽象化したものを用いることは滅多にない
その代わりに実用的推論のスキーマというものをよく用いる
日常生活の状況について考えるのに役に立つ規則の集まり
本書はまさに実用的推論スキーマについての本
このスキーマの一部は条件付き論理に直接対応する
独立した出来事と従属した出来事の違いを見分けるスキーマ
相関は因果関係の証明にはならないという原則
埋没費用の原則と機会費用の原則は演繹的に妥当であり、費用便益分析の原則から論理的に導くことができる
実用的推論のスキーマの一部は条件付き論理に対応するが、正しい答えが保証されるわけではないので、演繹的に妥当とまではいかない
実用的推論のスキーマは真であるかどうかや妥当性とは全く関係なく、人の行為が適切であるかどうかを評価することと関係する
どのような種類の状況から義務が構成されるのか、どのような種類の状況において許可が与えられるのか、どういう行動を選択できるのか、義務で要求される以上のことはなんなのか、何がなされるべきなのかを扱う
契約スキーマは義務スキーマの一種であり、許可と責務に関する幅広い問題を解くために用いることができる
飲酒年齢の問題を正しく解くために必要とされる義務スキーマは許可スキーマと呼ばれる お酒を飲みたい(P)?それなら21歳以上であるべき(Q)
21歳ではない(Qではない)?それなら飲むべきではない(Pではない)
18歳なら(P)徴兵に登録しなければならない(Q)
徴兵に登録していない(Qではない)?それなら18歳ではないか、責務を果たさなかったことになる
法学部で2年学べば義務推論力がかなり向上するが、哲学や心理学、化学、医学を大学院で2年間学んでもこの種の推論の役には立たない
実用的推論スキーマの二つ目の種類は、条件付き論理に全く対応しないが、非常に幅広い状況に適用され、純粋に抽象的な用語で描写されることができる
これらのスキーマを使うには論理的思考力が必要とされるが、スキーマが強力であるのは論理のおかげではなく、むしろスキーマが日常的な問題を解くヒントとなるところにある
統計スキーマ、無作為制御設計などの科学的手順のためのスキーマ
一部の強力な実用的推論のスキーマは、推論の抽象的な設計図とはならず、広範にわたる日常的な問題を正しく解決するのを助ける経験的な原則となっている
根本的な帰属の誤り、行為者と観測者が行動を異なる風に説明する傾向後あるという一般法則、損失回避、現状維持バイアス、いくつかの選択設計が、それが促す選択の質という点で、ほとんどの選択設計よりも優れているという原則、インセンティブは人に行動を変えさせる最善の方法とは限らないという原則など 抽象的な実用的スキーマは大いに役に立つが、純粋に論理的なスキーマの価値は限られている
こう考えるのは純粋に論理的な形式主義を決して確立しなかった中国の儒教があるから
まとめ
論理は議論から実世界についてのいかなる言及も取り除く。その目的は、議論の形式的な構造を、以前からの考えに干渉されることなくむき出しにすることである
結論が真であることと、結論が妥当であることは、全くの別物である
ベン図は三段論法的な推論を具現化したものであり、いくつかのカテゴリー問題を解くのに役に立つ、あるいは必要ですらある
演繹的推論における誤りはときに、帰属的に妥当な議論の形式に対応させることから生じる
実用的推論のスキーマとは、多くの思考の根底にある推論の抽象的な規則である
14章 弁証法的推論
西洋の論理学 vs 東洋の弁証法的論法
アリストテレスは論理学的思考の根底に次の三つの命題を据えた
A=A: 在るものは全て在る。Aはそれ自身であり、他の何物かではない
AであるとAではないは、双方ともに事実であることはありえない。何ものかが在ると無いの両方であり得ることはない。命題とその反対が両方とも真ではありえない。
全てのものはそうであるか、そうでないかのどちらかのはず。Aである、またはAではない、のいずれかが真でありうるのであり、その中間はありえない
心理学者のカイピン・ペンが述べた、東洋の弁証法的論法の三つの原則(命題とは言わなかったことにも注目) 現実は変化のプロセスである。
現時点で真であることは、まもなく偽となるだろう。
矛盾は、根底にあるダイナミックな変化である。
変化はつねにあることから、矛盾はつねにある。
全体は部分の和よりも大きい。
部分は、全体との関係においてのみ意味を持つ。
これらの原則は密接につながりあっている
矛盾は単に見せかけのものであることが多いという強い推定がある
Aは正しいがAではないは誤りではない
大いなる真理の反対もまた真である
ソクラテスの対話は弁証法と呼ばれることも多く、幾つかの点でこれらに似ている 道とは、要するに変化の概念を捉えたもの
陰(女性的で暗くて受動的)と陽(男性的で明るくて能動的)は交互に起こる
道とは、自然と人間とが共存する方法を意味する言葉であり、その印とは白と黒の渦巻きをかたどった二つの力からできている
東洋思想と西洋思想の変化の性質についての考えた方の大きな差異
リジュン・ジは、どのような傾向についても、西洋人はその傾向が現行のまま継続するだろうと想定し、東洋人は横ばいになるか、それどころか反転する可能性がもっと高いと想定することを示した 物事がつねに変化しているなら、その出来事を取り囲む状況に注意を向けた方が良い
論理学的な伝統と弁証法的伝統からは、矛盾する命題や議論に対し、全く異なる反応が生まれる
ミシガン大学と北京大学の学生達に科学的所見と称された二つの矛盾するものが提示された。
ミシガン大学の学生達はよりもっともらしい命題だけを読んだ場合よりも、あまりもっともらしくない矛盾した命題と一緒に読んだ方が、もっともらしい命題を信じる傾向が強かった
このパターンは論理的に一貫性がない
選択の過程でいっそうもっともらしい命題が好まれるべき→確証バイアス
中国人の学生達は、矛盾とともに提示された方がそうでない場合よりも、もっともらしくない命題をいっそう強く信じた
これもまた論理的に一貫性がない
論理学 vs 道教
三つの議論
意味があり、結論ももっともらしいが妥当ではない
意味があり、結論はもっともらしくないが妥当である
抽象的すぎて実世界の事実とはまったく接点がないが、たまたま妥当である
韓国人とアメリカ人はいずれも、実際に妥当であるかどうかにかかわらず、もっともらしい結論を持つ三段論法が妥当であると評価する傾向が高かった
しかし、韓国人の方がアメリカ人よりも結論のもっともらしさにいっそう大きく影響を受けた
韓国人の方が論理学的な操作能力が劣っていたわけではない
二つのグループは純粋に抽象的な三段論法懐いて同じ数の間違いを犯していた
アメリカ人の方が日常の出来事に論理学的な規則を応用する慣習があり、結論のもっともらしさを考慮から外すことができた
東アジア人の大学生はまた、カテゴリーのメンバーがどれほど典型的であるかを論じた三段論法においても間違いを犯した
アメリカ人は韓国人よりも典型性の影響をそれほど受けなかった
東アジア人の学生はアメリカ人の学生よりも命題論理学を苦手としている
ある特定の結論が真であってほしいと思う場合、その結論が前提から導かれると誤って判断してしまいがち
西洋人には論理学を用いる力があるおかげで、命題から意味を剥ぎ取り抽象化することができる
文脈、矛盾、因果関係
西洋人は対象物の属性を特定し、対象物をカテゴリーに割り振り、対象物の入るカテゴリーを支配する規則を当てはめる
根底にある目的は自分の目的に沿って対象を操ることができるように、対象物の因果関係のモデルを確立すること
東洋人は文脈の中にある対象物や、対象物の間の関係性や、対象と文脈との関係にもっと幅広く注意を向ける
歴史の分析手法が異なるのは、どのようにすれば世界を最適に理解できるかという点におけるこうした違いから生じている
日本人の歴史教師はまず、出来事の背景を詳細に説明する
出来事の結びつき、人物の置かれた状況と生徒自身の日常生活との類似点について考える
人物の行動を感情の観点から説明する
共感を示した時に歴史的に考える能力があるとみなす
「どのように」という質問がアメリカの2倍ほど多い
アメリカ人教師は日本人教師がするほどには文脈の提示に時間をかけない
まずは結果から始める
時系列的な順序は軽視されるか、全く提示されないこともある
要因を検討する順番は重要と思われる原因を議論することによって決定される
結果の因果関係のモデルに適合する証拠を提示できた時、生徒には歴史的に推論する優れた能力があるとみなす
「なぜ」という質問が日本よりも2倍多く出される
どちらの手法も有用であるように思われるが、西洋人にとって東アジア人の歴史分析手法は単に間違っているように感じられる
思考種類が異なることから、全く異なる形而上学、すなわち世界の性質についての想定が生まれる 古代中国人は文脈に着目することでギリシア人が誤解した事柄を正しく理解できた
古代中国人が文脈に注目したことから、遠隔作用がありうるという認識が生まれた
音響学や磁気学を正しく理解し、潮汐の発生する本当の理由を知ることができた
アリストテレスは水に沈む物体に重力、水に浮かぶ物体に軽さという性質があるとした
重力は一つの物体の性質ではなく、物体と物体の関係性
アインシュタインはアリストテレスの時代から想定されていたような宇宙の安定性を説明するために宇宙定数を自説に加えた 中国の弁証法的推論は、東洋思想に通じていた物理学者のニールス・ボーアに影響を与えた
ボーアは自分が量子力学を確立できたのは、一部には東洋の形而上学のおかげであると述べている
光は粒子か波かという西洋の論争
光は粒子でもあり波でもある。ただ、同時に両者であることごできないだけ
しかし中国人は、西洋人の間違えた多くを正しく理解しながらも、彼ら自身の理論が正しいと証明することはできなかった
科学が必要
科学とは要するに、カテゴリー化に経験上の規則と論理学の原則との関わりを加えたもの 安定と変化
ギリシア人は宇宙とその中にある物体は変化しいという考えに完全に取り憑かれていた
ヘラクレイトスなど紀元前6世紀の哲学者達が世界は変化すると認識していたのは確か 同じ川に二度足を踏み入れることはない
紀元前5世紀になる頃には変化が廃れ、安定が流行していた
ヘラクレイトスの考え方は実際に嘲りの対象となっていた
ある者について、それが存在しないと語ることは矛盾である。
非存在は自己矛盾であり、したがって非存在は存在し得ない
非存在が存在し得ないなら、変化しうるものは何もない
なぜなら物1が物2に変化するのであれば、物1は存在し得ないのだから
飛んでいる矢は常に停止している
アキレスが自分よりも遅い亀に決して追いつくことはできない
コミュニケーション理論家のロバート・ローガンが書いているようにギリシア人は二者択一の論理にある厳密な直線性に囚われていた 根本的な帰属の誤りはギリシアの形而上学にまっすぐ遡ることができる
中国人は一生懸命勉強すれば賢くなると信じてきた
孔子は能力の一部は天から授かったものであるが、大半は努力の賜物であると信じていた 1968年に開始されたアメリカの高校三年生を対象とした調査から、中国系の生徒は白人達とIQのスコアでほぼ互角だということがわかった
中国系の生徒はSATでは約三分の一標準偏差だけ得点が高かった、
SATのスコアはIQと相関が非常に高いが、SATの得点はIQのスコアはよりも勉強にいっそう影響される
驚くことに高校を卒業してから数十年後、中国系アメリカ人はヨーロッパ系アメリカ人と比べて専門職や管理職、技術職に就く確率が62パーセントも高かった
ヨーロッパ系アメリカ人のなかでさえ、能力は修正可能であると考える生徒はそう考えない生徒よりも学校の成績が良い
さらにヨーロッパ系アメリカ人に賢さの大部分はどれだけ一生懸命勉強するかによって変わってくると教えると学校の成績が上がる
努力の重要性を知ることはとりわけ貧しい黒人やヒスパニックの子供達のとって効果が高い
ヨーロッパ文化圏に入る人、特にアメリカ人は窃盗や殺人の判決を受けた人に犯罪者のレッテルを貼る
アジア人はそのような固いカテゴリー化は避ける
おそらくはその結果、長期間にわたる禁錮がアジアでは比較的少ないのだろう
アメリカの禁固刑の実施率は香港の5倍、韓国の8倍、日本の14倍
弁証法的推論と賢さ
20世紀なかばに活躍したジャン・ピアジェが、児童期以降のすべての思考の根本には命題論理学があると主張した 幼い子供は論理を使って世の中の出来事を理解していくが、論理を使って抽象的な思考をする能力はないとピアジェは主張した
子供が思春期に入ると形式的操作を用いて抽象的な概念について考える段階へと移行する
形式的操作、すなわち命題論理学の規則は引き出されるものであり、教えられることはできない
形式的操作は思春期が終わる頃には十分に発達している
普通の大人は誰でも、全く同一の形式論理学の規則一式を見に付けている
この話のほとんどが間違い
形式的操作以外にも統計学的回帰や費用便益分析の概念など、数えきれないほどの抽象的な規則がある
引き出すことも教えることも可能で、思春期が過ぎてからもずっと私達は学習し続ける
20世紀後半、心理学者達がいわゆるポス形式的操作を定義し始めた
主に思春期以降に学習され、一般的には唯一の正しい答えを保証するのではなく、様々なもっともらしい答えを引き出すような思考の原則
弁証法的論法の原則を記述し説明するにあたり、東洋的思考に大いに頼った
関係と文脈
関係と文脈に注目すること、対象や現象をより広い全体の一部に位置づけることの重要性、体系の機能の仕方を重点的に理解すること、体系内の平衡を大切にすること、問題を多数の視点からとらえる必要性を強調
反形式主義
私達は問題の要素を形式的なモデルに抽象化し、正しい分析にとってきわめて重要と成る事実や文脈を無視することによって、誤りを犯す。
矛盾
対立するものが互いに補完しあい、より深い理解につながりうるということを認識することが重要
変化
出来事を過程における瞬間と捉えることが重要であると主張する
体系間の相互作用が変化の源であるとみなす
不確実性
変化を重視すること、矛盾を肯定すること、大半の文脈に多様な影響が存在すると認識していることもあって、知識の不確実性を認識することに価値を置く
文化、加齢、弁証法的論法
次に何が起こると思うか、それはなぜかと被験者に質問
弁証法的論法に関する6つのカテゴリーの観点から回答をコード化した
回答は、規則の厳格な適用を避けているか?
回答は、各人の視点を考慮に入れているか?
回答は、矛盾する見解の性質に注意を払っているか?
回答は、膠着状態ではなく変化の可能性を認識しているか?
回答は、ありうる妥協の形態に言及しているか?
回答は、独善的な自信ではなく不確実性を表しているか?
調査の結果、日本人の若者と中年は、アメリカ人の若者と中年よりも、人間同士や社会内での対立に、いっそう弁証法的な形で反応することがわかった。
日本人の方が規則の厳格な適用を避ける率が高く、すべての関係者の支店を考慮に入れる率が高く、対立の性質にいっそうの注意を払い、変化と妥協の可能性を認識する率が高かった
自分の出した結論を確実であるとみなす傾向は低かった。
日本人におおむね、弁証法的な回答をする例が多かったのは、彼らがより賢明であることの表れだと筆者たちは考える
シカゴ大学に拠点を置くウィズダム・ネットワークのマンバーに見てもらった
哲学者、社会心理学者、心理療法士、賢さの性質と人がどのように賢さを身につけるかに関心を持つ聖職者達から構成される
ネットワークのメンバー達は、ディア・アビーのような問題に対しては弁証法的な回答の方が賢明であると支持をした
25歳頃から75歳頃までのアメリカ人は、対人関係や社会的な問題に対して弁証法的に考える傾向が徐々に強くなっていく
対立の可能性を察知し、回避する方法を学び、実際に対立が起こった場合にはそれを軽減する方策を立てる傾向が強くなると予測されている
しかし、日本人はこうした点においていっそう賢くなってはいかない
日本人の若者は、日本の社会が社会的な文脈に注意を向けることを重視するため、アメリカ人の若者よりも対立を賢明にとらえっられる
対立を回避し緩和する方法を明確に教えられている
対立は西洋よりも東洋において社会の構造により大きなダメージを与えるから
日本人は早くに学んだ概念を当てはめるだけなので、年齢とともに上達してはいかない
対立に遭遇する機会も少ないので、以前よりも優れた方法を引き出す機会があまりない
筆者はあえて危険を犯して、論理的思考は科学思想やアルシュの上手に定義された問題にとって極めて重要であるという一般化をしてみたい
弁証法的思考はしばしば、毎日の問題、とりわけ人間関係が関わる問題について考える際にいっそう役に立つ
まとめ
西洋と東洋の思考の根底にある根本的な原則には、異なるものがいくつかある
西洋的な思考は、議論の妥当性を評価するために、文脈から形式を切り離すことを促す
東洋的な思考は、世界のいくつかの側面と人間の行動の原因について、西洋的な思考がするよりもさらに正確な信念を生み出す
西洋人と東洋人は、2つの命題にあいだにある矛盾にたいして全く異なる方法で反応する
東洋と西洋の歴史に対する取り組み方は、大きく異なる
西洋的な思考はこの数十年間、東洋的な思考から大いに影響を受けている
日本人の若者に寄る社会的な対立についての推論は、アメリカ人の若者による推論よりも賢明である。しかし、アメリカ人は年をとるにつれより賢くなるが、日本人はそうではない
第6部 世界を知る
何が知識とみなされるのか、どのようにして最善の方法で知識を得ることができるか、何を確実に知ることができるのかを研究するもの
Xは「実験的な」を意味し、ギリシア語のファイの記号は「哲学」を表す
スティッチらは、世界の性質や、知識とよびうるもの、道徳的とみなされているものについての直管は、文化間や個人間において非常に多様であるために、「私達の直観」と呼ばれるキメラに訴えかけることには意味がない場合が多いということを示した
15章 KISSで語る
科学哲学者が取り組む問題の一部
優れた理論とは何から構成されるのか
理論はどれくらい経済的あるいは単純であるべきか
科学理論はいつか立証されうるのか、あるいはせいぜい「いまだ誤りが立証されていない」だけなのか
もしも誤りを立証する方法がなければ、理論は優れたものになりうるのか
理論に対する、特定の目的をもった「アドホック」な解決策のどこがいけないのか
KISS
複雑さを禁止する
理論は簡潔であるべきだー不要な概念は剃り落とされなくてはならない
科学の領域では、証拠を説明づけることのできる最も簡潔な理論が勝つ
プトレマイオスは火星の観察された動きに合うように周転円をいくつも付け加えた
KISS
Keep It Simple, Stupid(シンプルにしておけ、この間抜けが)
この類推は有効であるとわかり、肥満の人の摂食行動はVMHに病変のあるラットの摂食行動と非常によく似ているということを証明できた
肥満の人がほとんどの時間、空腹であることを強く示唆していた
体重の設定値を大半の人々よりも高く設定し、それを守ろうとしているのだと主張した
最も適切な証拠は、減量をしようとしていない肥満の人の摂食行動は、通常の体重の人の摂食行動と同じである一方、減量をしようとしている通常の体重の人の摂食行動は、減量をしようとしている肥満の人の摂食行動と似ているという事実から得られる
摂食行動と肥満の専門家は、これらの事実は、体重の設定値を守るという単純な仮説では十分に説明できないと忠告した。
KISSの原則は大きな成功を収めているいくつかの企業で方針として明示されている マッキンゼー・アンド・カンパニーは、同社のビジネスコンサルタント達に、まずは仮説をできる限りシンプルにし、そうせざるをえない場合にだけ複雑さを受け入れるように指導している
Facebook社のモットー「完璧を目指すよりまず終わらせろ」
問題を解決するための過度に複雑な方法
ゴールドバーグとは単純な問題を解決するための、滑稽なほど手の混んだ方法を描いた漫画家
オッカムの剃刀の中の、複数の仮説を禁止するという条項は、医者のような実際的な職業についてはすべてがすべて当てはまるわけではない
どの説明とどの説明が拮抗し、どうすれば最もうまく分析できるのかを判断しようとしているときには仮説がたくさんあるほど好ましい
しかし、医学的な診断にさえ、いくつかの節約の原理が当てはまる 複雑で高価な診断法を使う前に、シンプルであまりお金のかからない診断法を使うことと、最もあり得る可能性をまず追求することを教えている(シマウマではなく馬を疑え)
還元主義では一見すると複雑な現象や体系は、部分の和に過ぎないと説明される
ときに、さらに踏み込んで、部分そのものは、現象や体系そのものよりも単純な、あるいは下位にある複雑さのレベルにおいて最もよく理解されるとまで言う
創発では、現象やより単純でより基本的なレベルに置いてプロセス引き起こすだけでは説明のつかない存在となって出現する
意識にはその土台にある肉体的、化学的、電気的な事象のレベルには存在しない特性がある
一部の科学者はマクロ経済はミクロ経済によって完全に説明されると考える
ミクロ経済は心理学によって完全に説明されると考える科学者もいる
心理学的な現象は生理学的なプロセスによって完全に説明可能である、あるいは、いつか確実に説明されると考える科学者もいる
還元主義者の行っている多くの努力は有益
しかし、ある人にとっての単純化は別の人にとっての愚かさになる
10年ほど前、権威あるサイエンス誌の新編集長が、新体制においては、脳の写真を掲載していない心理学の論文は受け付けないと宣言した
心理学的な現象はつねに神経細胞のレベルで説明することができる、あるいは少なくとも、心理学的な現象の知識が進歩するためには、その根底にある脳の仕組みを最低限いくらかは理解していることが求められるとする彼の意見が反映されていた
編集長が生理学的還元主義にこだわるのは、よく言っても時期尚早
10年あまり前に国立精神衛生研究所(NIMH)が策定した、行動科学における基礎研究への支援を許可しないという方針
NIMHは神経科学と遺伝学の基礎研究の支援は継続している
精神病は生理学的なプロセスから生じるものであり、環境面での出来事や精神的な表象、生物学的なプロセスにわたるループの一部としてではなく、主として生理学的なプロセスの観点から、あるいはその観点からのみ理解されることが可能であるとする、物議を醸している所長の見解が反映されている
神経科学の基礎研究に年間250億ドル、遺伝学の基礎研究に100億ドルを費やしてきたのにもかかわらず、どちらの研究からも、精神病の新しい治療法は考案されていない
統合失調症の治療には50年間、うつ病の治療には20年間、大きな進展はない
これとは対照的に、行動科学の基礎研究から生まれた精神病の効果的治療法の例は多数あり、精神病とはみなされていないふつうの人々の精神衛生状態や人生の満足度を向上させるような、更に多くの治療介入もある
自殺未遂で入院した人が再度自殺を試みる可能性を評価するための最も優れた診断法が、潜在的連想テストとよばれるもの この尺度はもともと、様々な対象や現象、人のカテゴリー分類に対する、暗黙のうちにあり認識されていない態度を評価するために社会心理学者によって考案された
自身についての暗黙の連想が、生よりも死の方に近い人は、二回目の自殺を試みる可能性が高い
その人の自己報告や医師の判断、精神医学的なテストには二回目の試みを予測するにあたり、これほどの効果はない
恐怖症に対する最も効果的な治療法は、動物と人間の学習についての基礎的な研究から得られている
心理学的なトラウマに対する利用できる中で最高の介入は、社会心理学の基礎研究から得られたもの
自分自身の強みを知る
かつてあるアメリカ人心理学者が、フロイトの抑圧理論を補強できると信じている実験のことを手紙に書き、フロイトに送った
フロイトは返信に自分の理論を否定するエビデンスが見つかっても、自分はその実験には取り合わないだろうから、自分の理論を補強できるとされるいかなる実験的な証拠も無視しなくてはならないのだ、と書いた
フロイトの確信の独断性は認識論という点で不安定な根拠に立っているということを明らかに示している 現在では、多数の心理学者と科学哲学者が、大抵の場合フロイトはそのような不安定な根拠に頼っていたと考えている
しかし、フロイトの研究から普通の科学的な手法によって検証されうる多数の仮説が生まれ、そのうちの一部には強力な裏付けが得られている
無意識下の刺激が行動に著しく影響する、ということを示す圧倒的な証拠がある その他の精神分析理論も研究によってしっかりと裏付けられている
子供時代に形成された、両親やその他の重要な人に対する感情が、人生の後の段階で、ほとんど損なわれることなく、他の人へと移っていくというもの
怒りや性欲などの自身にとって受け入れられない感情が、芸術的な創作など、脅威的でない活動へと向けられるというもの
支持者の操る精神分析理論は十分な制約に欠いている
今日から振り返れば、精神分析学者たちが仮説を導き出した主な手法は、代表性ヒューリスティックを当てはめて、認識された類似性にもとづいて原因と結果を照合させるというものだったのだろう
精神分析理論家のブルーの・ベッテルハイムはおとぎ話のお姫様がカエルを嫌いな理由は「ねばねば、べとべと」した感覚が、子供の頃に性器について持っていた感覚と結びついているからだと推論した
人間の性質についてのフロイトの理解は、1920年代まで、快楽原則という概念が指針となっていた だが、願望充足へと向かう動機と、人生の満足を求めるイドの欲求は、第一次世界大戦でトラウマを負った人々の一部が、悲惨な体験を何度も思い返す必要性を覚えているということによって否定されるように見えた
フロイトはまた、子供たちが遊びの中で、愛する者の死を空想することがあると気づくようになった
快楽原則とは反対の何らかの動因があるはずだとし、フロイトはその動因を「死の本能」と名付けた この仮説において代表性ヒューリスティックの果たす役割がとてもはっきりと見えてくる
人生における主な目的は快楽の追求であるが、ときにはその反対を求めているようにも見える。したがって、個人の死滅へと向かおうとする動因がある。
安直で、全く検証不可能
アメリカン・ジャーナル・オブ・サイキアトリー誌に、当時アメリカ精神医学会の会長を努めていたジュールズ・マサーマンの論文が掲載された
論文の趣旨は足の巻爪は男性らしさへのあこがれと子宮内での空想の象徴であるというものだった
これはジョークのつもりだったが、同誌には洞察力を称える意見が殺到し、マサーマンは悔しがった
進化論からは、生物の特徴のひとつである順応性について、検証可能で確証の得られた仮説が何千と生み出されている
雌が一匹の雄だけに誠実な種もあれば、メスが乱交をする種もあるのか
おそらく、相手がたくさんいるほど生殖の可能性が高くなる種もあれば、そうでない種もあるからだろう
実際これが事実であることが判明している
なぜ蝶の中には色が派手なものがあるのか
説明: 交尾の相手を誘うため
証拠: 研究者によって色調を抑えられた雄の蝶はうまく相手を見つけられない
なぜカバイロイチモンジはオオカバマダラの外見をほぼ完璧に擬態しなくてはならないのか
オオカバマダラはたいていの脊椎動物にとって有毒であり、それがカバイロイチモンジに有利に働くから
しかし、適応主義者の見方は乱用されがち
認知科学者や進化論者の双方に人気のある概念が「心的モジュール」というもの 私達の能力が世界のいくつかの側面に対処するよう導くように進化が進んできたという認知的な構造
心的モジュールはその他の心的状態やプロセスからは比較的独立しており、学習によるところはほとんどない
最も明確な例が言語
言語がある程度、あらかじめ配線されていることを示す圧倒的な量の証拠がある
進化論者はあまりに容易にモジュールを用いた説明をする
行動を目にするとモジュールを組み立てて仮定する
こうした説明にははっきりとした制約はひとつもない
進化論による多数の仮定があまりに安易であり、オッカムの剃刀に反していることに加えて、こうした仮定の多くは現在使うことのできるどのような手段によっても検証されない
心理学の分野にはあまりにも容易な理論化の例がたくさん見られる
強化学習理論からは、恐怖症の治療や機械学習の手順など、重要な応用が導かれた
しかしこの流れを汲み、複雑な人間の行動を推定された強化の観点から説明付けようとする理論家達は、精神分析家や進化論者と同じ間違いをときに犯す
合理的な選択を説く経済学者
すべての選択が合理的であるとあらかじめわかっているなら、どのような選択についても合理性について学べることはなにもない
進化論も反証可能であるかどうか、確信が持てない
ダーウィンは進化論は反証可能だと信じ、次のような文を書いている
「わずかな修正を何度も連続して施したとしても生じる可能性のないような複雑な器官がどんなものでも存在することが実現可能であれば、私の理論は完全に崩壊するだろう。しかし、そのような例は私には見つけられない」
進化論は生命の起源についての他のいかなる理論にも勝る
他には神と地球外生物による播種しかないが
進化論が勝つのはそれが反証可能であり、なおかつまだ反証されていないからではなく、
とてももっともらしく、
この理論がなければ無関係に見えるような数千とも数万とも知れない幅広い事実をうまく説明づけ、
検証可能な仮説を生み出し、
ポパーとたわごと
科学哲学者カール・ポパーは、科学は、推量と、推量の誤りを立証すること、または立証できないことによってのみ前進する、という見解を広めた ポパーはまた、帰納的推理は信頼できないと主張した
彼の見方によれば、命題が、それが正しいと帰納的に推論されるような証拠によって支えられているからという理由だけでは、私達は命題を信じない
ポパーの勧告は論理的に正しい
どれだけたくさん白い白鳥を目にしても、すべての白鳥が白いという一般化が真である、と立証することはできない
非対称性が存在する
経験上の一般化は反駁されうるが、真であると証明されることはできない
なぜなら、そうした一般化はつねに、いつでも例外によって反駁されうる帰納的な証拠に依存しているから
ポパーの主張は正しくはあるが、実際には無益
科学はたいてい、理論を支える事実からの帰納的な推理を通じて前進する
反証は科学において確かに重要だ
しかし、研究とはたいてい、多かれ少なかれ理論を支えるか否定するかする所見のあいだを苦労しながら進んでいくようなものである
科学は主に帰納によって進展するもの
ポパーは精神分析理論は反証不可能であると批判し、したがって無視してよいと主張した
この点においてポパーは大きく間違っていた
精神分析理論の多くの側面は実際に反証可能であり、そのうちのいくつかは確かに反証された
治療の原理についての精神分析理論の主要な主張は、反駁とまではいかなくても、少なくとも疑わしいということが明らかにされている
アドホックとポストホック
理論から直接的に導かれるものではなく、理論を下支えする以外の目的は果たさないような、理論に施された修正
アリストテレスの「軽さ」という性質
プトレマイオスの周転円
アインシュタインの宇宙定数の仮定
アドホック理論は概して、ポストホックでもある
事前に予測されなかったことを説明するためのデータが手に入った後に考えだしたもの
まとめ
説明はシンプルに留めるべきだ
単純さを求めるために還元主義を用いるのは良いことであるが、還元主義のために還元主義を用いるのは悪いことである
私達は、いかに容易にもっともらしい理論を作り出すことができるのかをわかっていない
私達が仮説を検証するやり方は、理論を反証するような証拠を探すことを怠りながら、理論を裏付けるような証拠だけを探そうとする傾向があるという点において、損なわれている
どのような種類の証拠が理論を反証するのかを明示できない理論家は信じるべきではない
理論が反証可能であることは確かに良いことだが、確証が得られることのほうがさらに重要である。
理論に反するように見える証拠を扱うためだけに提案され、理論にとって本質的ではない考えは疑うべきである。
16章 現実を現実のままに
「合理性のない」(arational 合理性と不合理性の中間)な科学の実践は線形で合理的な教科書的科学の進展と並行してーそれに反する場合すらあるー行われる。
新しい理論を選び取ることは、最初のうちは論理やデータというよりも信じるかどうかの問題
科学の合理性のなさという側面は、脱構築主義者やポストモダニストと自称する人々が客観的な真実という概念を拒絶することの一因となったかもしれない
アインシュタインの論文が発表されてから50年後、哲学者で科学社会学者であるトーマス・クーンが著書『科学革命の構造』において、科学はつねに、苦労して理論と格闘し、データを収集し、理論を修正するという積み重ねからなるとは限らないと発言 クーンの分析が科学者達を動揺させたのは、ひとつには科学の進歩という概念に、一見すると不合理的な要素を持ち込んだから
いくつかの点において古いアイデアよりも満足のいくような新しいアイデアが出現し、それが示唆する科学計画が前よりも胸を踊らせるものであるから、パラダイムシフトが起こる
強化理論の弱点は、それが本質的に漸進的であるというところに由来する
動物がほぼ即座に2つの刺激のつながりを学習するような現象も現れ始めた
マーティン・セリグマンが伝統的な学習理論の中核にある教義のひとつ、すなわちどのような刺激を2つ選んでペアにしても、動物はその2つの関連性を学習するという考え方に、この上なく深刻な打撃を与えた セリグマンは恣意性が保証されるという考えはどうしようもなく間違っていることを証明した。
動物が学習する準備ができていない関連性は学習されない
学習理論の危機は、こうした変則的な事例からではなく、学習理論とは関係のないようにみえる認知的なプロセスについての研究から忍び寄ってきた
学習理論は誤りが証明されたというよりは、顧みられなくなった
もはや興味深い所見をもたらさないもの
科学におけるパラダイム的変化と技術やビジネス慣習におけるパラダイム的変化の間にある一つの違いが、技術やビジネスにおいては古いパラダイムがあまり残存しないということ
科学と文化
バートランド・ラッセルはかつて、動物の問題解決行動を研究する科学者は、実験の対象となる動物のなかに、研究者自身の国の国民的な特性を認めると述べた 科学者たちはパラダイムシフトにある合理性のない側面を認識すべきことに加えて、文化的な信念が科学理論に大きな影響を与えうるという事実に直面しなくてはならなかった
ヨーロッパ大陸の社会学者たちは、アメリカ人社会科学者の信奉する、頑迷な「方法論的個人主義」と呼ばれるものと、彼らがより大きな社会構造や時代精神との関わりや、さらにはそれらの存在すらも見抜くことができないことに対して憤慨して反発をした
社会や組織についての考察における大きな進歩は、主として、アングロ・サクソン系の国よりもヨーロッパ大陸で始まった
日本人の霊長類学者がチンパンジーの駆け引きの性質が非常に複雑であることを示すまで、西洋の霊長類学者は二匹のチンパンジーのあいだに見られるふるまいよりも複雑な社会的な交流を観察することができなかった。
好まれる推論の形式でさえ、文化によって異なる
科学理論の変革が休息であり、その根拠が不完全であることに加えて、文化が科学的な見解に影響を及ぼすという認識があることを考え合わせると、科学とは、揺るがぬ事実を土台にして、純粋な合理性が作用する企てであるという見方が否定される
テクストとしての現実
ジャック・デリダはテクストの外部は存在しないとかたった
現実とは単なる構造であり、私達による現実に解釈以外には何も存在しない
事実は存在しないー「真理の体制」のみが存在する
この極端に主観論的な考え方は1970年代にフランスからアメリカに漂着した
脱構築主義を支える概念は、テクストを解体して、イデオロギー的な知識や価値、世界についてのすべての推測の根底にある恣意的な視点を、自然についての事実を装う表明も含めて、明らかにすることができるというもの 他の文化における人の信念や行動の特性についての信頼性の問題を人類学者はどのように扱うのか
「問題は生じません。私達人類学者のすることは、見たものを解釈することだから。人によって仮定するものや視点も異なるのだから、異なる解釈をして当然です」
筆者の間違いは文化人類学者は絶対に自分を科学者とみなしているはずだと考えたところにあった。 文化人類学者に連絡をとったとき、彼らの方も思考や行動に見られる文化的な差異について筆者が行っている経験主義的な研究に興味があるだろうと予想していたが、文化人類学者のほとんどが、筆者と話をしたいと思っておらず、データを必要としていなかった
自分たちの解釈よりも筆者の証拠に「特権を与える」つもりはなかった
ポストモダニストのニヒリズムは文学研究から歴史や社会学にいたる学問分野において大きな進展を遂げた 哲学者であり政治学者でもあるジェームズ・フリンがある主要な大学で学生を対象に調査したところ、大部分の学生が現代科学は一つの観点に過ぎないと考えていることがわかった。 こう仕向けたのは人文科学や社会科学の授業の多くで聞かされた類の事柄だった
1996年、ニューヨーク大学の物理学教授、アラン・ソーカルが『ソーシャル・テキスト』誌に論文を送った。 同誌はポストモダン色が強く、編集者のなかにかなり著名な学者もいた どれくらいの無意味な論文を真に受けるかを試した
ソーカルの論文は査読なしに受理された
『ソーシャル・テキスト』誌に自身の論文が掲載された比、ソーカルは『リンが・フランカ』誌上で、その論文は疑似科学的な悪ふざけであると告白した。
『ソーシャル・テキスト』誌の編集者らは、論文の「パロディという身分が与えられようとおも、象徴的なものとしての論文そのものへの我々の関心は大きくは変わらない」と返答
ポストモダニズムは徐々に北米の学問世界から姿を消しつつある
フランスではずっと以前に消滅した
ちなみにポストモダニストの関心事から、権力や民族性、ジェンダーに関連する、妥当かつ重要であるように思われるいくつかの研究が生まれたことは認めなくてはならない
心理学者の最大の功績のひとつが、運動の知覚から自分自身の心の働きの理解にいたるすべてのものは推測であるとする哲学者の教義を実証したこと
しかし、すべては推測であるという事実は、どのような推測も等しく擁護できるということを意味しない
まとめ
科学は、証拠と正当化された理論だけにもとづくのではないーー科学者が、信念と直観に動かされて確立された科学的仮説や合意された事実を顧みない場合もあるだろう。
多くの科学研究の根底にあるパラダイムや、技術や産業、企業の土台となっているパラダイムは、予告なしに変化する場合が多い
異なる文化の慣習や信念から、異なる科学理論やパラダイム、さらには推論の形式までもが生まれることがある
ポストモダニストや脱構築主義者は、科学者による準合理的な実践や、信念の体系や推論のパターンに及ぶ文化的な影響に促されて、事実というものは一切なく、社会的に合意された現実の解釈というものが存在するだけだという見解を主張してきたのかもしれない
結論 アマチュア科学者の道具
事実を自発的に認識することによって世界を直接的に知っているという私達の思い込み
私達の考えはたびたびひどく間違っている
世界の特性を正確に記述するような新しい知識を獲得する能力が自分にあると自信過剰になっている
しかも私達の行動はしばしば、自分の利益や自分が大切にする人々の利益を増大させることに失敗している
本書に示した新しい道具を何回か使えば、それを必要とするときに頻繁に使えるようになる
専門家の間で合意がされている場合、正反対の意見に確信を持つことはできない
専門家の間で合意がされていない場合、専門家ではない者がどのような意見であっても確信をもつことはできない
専門家がそろって、肯定的な意見が存在するための十分な根拠がないという場合、普通の人は判断を留保するのが賢明だろう
心理学部で開催された、コンピュータ科学者を名乗る人の講演会
「手始めに2つのことを明確にしておきたい。第一に、コンピュータがこれらのことをできるかどうか、私にはわからない。第二に、この疑問に対して意見する権利を持つ人間は、この部屋に私しかいない」
メディアはしばしば「バランスを取る」という名目で合意があるかどうかについて混乱させようとやっきになっている
あなたにとって、あるいは社会全体にとって重要な問題についての専門家の意見に対する疑問にどのように対処すべきか提言
その疑問についての専門的な知識というものが存在するかどうかを調べてみよう。占星術についての専門的知識はない。
もしも専門的知識というものがあるなら、専門家の間で合意がなされているかどうかを調べてみよう
もしも合意があるなら、その合意が確固たるものであると思われるほど、それを受け入れるかどうかのあなたの選択肢は少なくなる