業務中に上司の目をぬすんでインターネットやサーバーをいじるべし
このようにして、平日日中には職場で、夜には自宅でインターネットを駆け巡っていた、組織内の有数の社員、職員は、皆、業務時間や報酬を大幅に上回る ICT 能力、セキュリティ能力、システム構築能力を身に付けることができました。
システム構築、運用、プログラムの開発などに必要な、本質的でどのような場合にも共通的に役立つ能力は、まさに、この方法によってしか、組織的に身に付けることはできません。このことは、何度でも強調をする価値があります。
日本の ICT 能力は 1990 年代のわけのわからないインターネット黎明期に育った ICT 人材によって確立された
自治体からは、高い ICT 技術レベルを有する職員の方が減少傾向にあるという声が聞こえてきています。その本質的な原因は何でしょうか。おそらくその原因は、自治体におけるシステムがインターネットとの間で完全閉域となってしまっており、職員の方々が、これを日常的に利用する際に技術的な能力を自然に身に付けることが困難になっていることにあるように思います。 1990 年代、インターネットが出始めた黎明期は、色々と訳のわからない面白い状態でした。この 1990 年代のおおらかなネットワーク環境を自ら作り、育ててきた方々 (現在でも一部現役で残っている) は、企業、ISP、大学、中央政府、地方自治体等、日本中のいずれの組織内でも、ある程度の人数が点在していました。これらの方々は、コンピュータのことで困ったら、何でも書籍、雑誌、パソコン通信、インターネットで調べ、何でも試行錯誤して試してみるということで、情報システムを自ら構築し、実現してきました。緻密な計画を立てることなく、まずは、手を動かしてやってみるということを大切にしていました。 業者には簡単な仕事をやってもらい、最も重要なところは、自分たちで治める (自治) するという当然のことを、重要視していました。
すなわち、過去 20 年 ~ 30 年の、日本の企業、ISP、電話会社、大学、中央政府、地方自治体を支えてきたのは、1990 年代に蓄積されたあの訳の分からないインターネットと、古くさい UNIX や Windows NT をベースとした不十分・不完全な業務システムと、その上でトラブルが毎日生じながらも、何とか業務をやっていくためのリテラシー、知見、ノウハウ、技術、業務フロー、自作プログラムといった豊富な資産によるものであります。 ICT 人材というものは、表面のキーワードのみを並べてうまく説明しているだけで実際にこれらを使ったこともなく本質も性質も知らない虚業のような人員に決して落ちぶれてはなりません。そこで、今一度このような先人たちのやり方を見習うべき時代にきています。
先人達は、各組織で、実際の LAN やインターネット接続環境で、色々と試作・実験しながら学んできたのです。
リスクと隣り合わせで実際のトラブルを解決することで高いレベルの能力を身につけた
1990 年代の世代は、皆、組織のシステムをインターネットに接続してみて、怪しいパケットがきて組織の Telnet サーバーがヘンなアメリカ人にやられたことをきっかけとして、慌てて初めてファイアウォールの仕組みを学びました。 現在は、近隣のユーラシアからの攻撃が盛んですが、当時はアメリカやヨーロッパのけしからん攻撃者が毎日遊び半分でサーバーに侵入してくる状態でした。
社内の一部のシステムからおかしなワームの通信が大量に出ていて不愉快なので、初めてネットワークのパケット分析を学び、ワームをやっつけるプログラムを書きました。 インターネットや VPN を利用する際には、是非とも冗長化をしないといけないということで、YAMAHA や Cisco のルータなどを組織に買ってもらい、初めて BGP を学びました。 これらの知識の自律的学習は、上司の目を盗んで勝手に行った。そうして培われた人材が組織の重要部分を支えていた
面白いサーバープログラム (たとえば Web や IRC など) のソースコードを FTP サーバー (昔の GitHub のようなもの) からダウンロードしてきて手元で make をして動作させてみる
同僚のサーバーにいたずらをする
自宅と職場との間で勝手に L2-VPN を接続して (SoftEther VPN など) 楽しんだりする
皆テレホーダイをしており、大概、夜中に「FTP 掲示板」という大変けしからん掲示板で怪しいけしからんソフトウェアを探したり、 自分もけしからん FTP サーバーを立ててみたり
けしからんクレジット管理アカウント管理機能付きの FTP サーバーのプログラムそのものを Visual Basic で書いてみたり... 大変スループットが遅く、パケットロスの多いインターネットの海外回線を経由して、アメリカの怪しげなサイトにも、よく遊びに行っていました。
掲示板を作ってみて、荒らされたら、それの対策のために Perl を皆必死に勉強しました。
だいたい 1999 年以前は、ISP のサーバーにこっそり root で入って楽しむというけしからんことも、多くの方々がやっていました。
夜はテレホーダイで、昼は職場の専用回線から、これらのけしからんことを行なっていたのです。こういうようにスクリプトキディを行なうことで、長い間書けて、本当の知識と能力が身に付きます。
たいていの管理職の方々は、豊富な人生経験があることから管理職になっているのであり、内容はよくわからないながらも、このような若手の学習機会は極めて業務上重要であると正しく理解していたこと、それを阻害することは組織にとって致命的であることを知っていたことから、いちいちそのような若手のおもしろ遊びに、目くじらを立てることがありませんでした。
もし、組織のシステムとは無関係に、勝手に自宅でやりなさいと言うと、そこで得られたノウハウ、知見は、個人にのみ蓄積され、組織には蓄積されません。したがって、組織的にそのような実践的学習機会が暗黙的に奨励されました。
こうして得られた ICT の知識と能力こそが、本物です。資本としての価値を有します。それ以外の、現代企業でみられるような業務命令で嫌々 ICT 技術を勉強させられる研修や、業者にお金を支払って代わりに作ってもらうシステムは、脆弱で、短期的で、資本として役に立ちません。
2000 年代から過度なセキュリティルール、フィルタリング、閉域ネットワーク、外注思想が台頭し、高い ICT 能力の組織的な学習機会が日本社会から壊滅的に排除された
才能あるICT人材がこないのは、給与や雇用形態ではなく、ルールの問題
ICT能力獲得を阻害する組織に属すると、自分の能力が伸びない
逆に、これを改革すれば給与がGAFAに対して比較的でも人は集まる
これはなぜ?基素.icon
日本ではなんと ICT 組織 (SIer、ISP、電話会社、ICT を担っている中央省庁や IPA のような独立行政法人等) でも ICT 能力の自律的試行錯誤による習得が困難な環境となってしまい、医者の不養生が発生している
制約やルールが多く、遊びのサーバー 1 台、遊びのネットワーク 1 本を立てるのも困難な、自主的探求ができない環境を抜け出すため、入社して数年で、スタートアップ企業や GAFA 等に転職する例が多数発生
ICT能力を身につけた後にわざわざNTTに入社する人はほぼいないのだから、組織的に育成しなければ先はない
日本型組織における過度な社内セキュリティポリシーや ICT ルールが原因で若手の優秀な ICT 人材が転職し GAFA へ行ってしまう現象が普遍的となった
そして誰もいなくなった
ICT 能力が低下した組織は外注に依存するようになり、ますます組織の ICT 能力が低下する悪循環が発生
技術力を有する人がいなくなったときの管理職の行動パターン
2020 年以降は、安定系と分離された試行錯誤を許容する 「2 つ目のルール」 が各組織で成立し、日本型組織の ICT 能力は回復して数々のイノベーションが発生する
解決策として2つのルールを作ることを強く提言している
単純作業者 (オペレータ) 向けの ICT ルール
今の日本型組織のICTルール
完成された安定した業務オペレーションのためのルール
大量の顧客個人情報やクレジットカード情報
この強い規制ルールを適用する時には厳しく審査する
事業そのものの維持・成長・発展を担うべき有望な ICT 人材向けの ICT ルール
新規事業の考案、既存事業の発展を目指す試行錯誤のためのルール
一定水準の能力を有した社員が新しいシステムを作った時にはこちらをデフォルトで適用する
すなわち、組織内で社員、職員が何か新しいことをしたいとき、たとえば新しい ICT の工夫を実験的に行ないたいとか、既存事業における日常事務のある処理をプログラムや AI を用いて自動化してみたいというような、素晴らしい発案をしたときは、その日の夜にでも、その有望で熱心な人材は、直ちにそのような試行錯誤を開始できる必要があります。このとき、その熱心な人材は、既存のシステムとは独立したコンピュータやネットワークを、どこからともなく中古機器を引っ張り出してすぐに構築して、OS をインストールし、社内 LAN の特定のそのような目的用のセグメントやグローバル IP アドレスなどを迅速に割当てて、その若手人材のモチベーションの赴くままに自由なシステムを作ることになります。このようなことが、いちいち経営計画や図面の作成や仕様書の執筆や数日間もかかる承認手続きを経ずに、安全かつ迅速に実現できるようにするために、2 つ目のルールがあります。
本来、実際に活動を行なう若手 ICT 人材が主体で、管理職はこれをサポートする立場であるところ、主従逆転現象が発生し過度な規制を行なうケースが多発
ICT における自由な試行錯誤を許容する 「2 つ目のルール」 はデフォルトルールとし、憲法のように、体制側が若手 ICT 人材の活動に干渉しないように掲げる必要がある
組織の能力を高める ICT 活動を行なうことについて管理職から不適切な規制を受けた場合は、結集して管理職の責任を追記する健全な体制が必要
IPA は既存の事務用 ICT システムのルールとは別に ICT の試行錯誤を可能とする 「2 つ目のルール」 を整備することで 「シン・テレワークシステム」 や 「自治体テレワークシステム for LGWAN」 の短期間・低コストでの構築に成功 若手の熱を阻害する要素を除去する
NTT 東日本においても 「特殊局」 を仮設し、従来とは別の仕組みで 「シン・テレワークシステム」 を迅駛に実現することに成功
日本の伝統的企業や公的機関には ICT のイノベーションの潜在能力を多数有する。2020 年以降は、これらの組織で ICT 技術の自己研鑽・試行錯誤を許容することで、ICT 能力が進化し、色々な新しいものが生まれ、日本が世界の ICT の中心となる
NTT 東日本のように、日本の伝統的な大企業や公的機関は、もともと、比較的良好な予算と物理的な設備 (建物、部屋等) を有しています。また、大学で情報工学・通信工学を勉強し入社する優秀な ICT 人材も一定数有しています。ところが、苦労してリクルートしてきたそれらの ICT 人材が、大学の研究室、コンピュータ室、および自宅でこれまで熱心に継続してきた ICT 技術の自己研鑽や試行錯誤について、これまでの 1 つ目のルールの体制下では、入社後、社内でそのような自由な試行錯誤を禁止され、残念ながら、モチベーションを致命的に喪失させてしまう場合も多かったのです。
せっかく優秀な ICT 能力を有する社員がいても、色々なレイヤーにまたがって社内で自由に試行錯誤することを難しくするルールが多く、せっかく有している世界有数規模の豊富な ICT リソースや環境を最大限に活用して、ICT 技術を生み出すことが、十分にできていなかったのです。
「組織の過度な ICT 規制ルールや通信検閲」と、「外注依存の思想」の考察。この 2 つは、表面は異なるが、本質は同じ
「今すぐ発生する苦労をせず、未来の大きな問題は無視する」という考え方が根底にある
1. 時間による変化を想定していない
時間が経過すると、このような極端に不利な思想を採用していない (先のことを考えている) 自然かつ自由な、自律性を重要視する組織の ICT 人材との間で、能力差がどんどん開いてしまいます
2 つ目の本質は、ルールを単一にして管理を楽にしてしまおうという、ごくありふれた発想です。組織においては、...自由な試行錯誤で研鑽をしていくことに向いた ICT 人材は、数パーセント程度です。しかし、この数パーセントの ICT 人材こそが、今後、20 年 ~ 30 年以上にわたり継続的に動作するシステムやサービスを開発することができるのです。企業や組織を支える根幹を作ることができる代替不能な人材です。
したがって、このような組織の幹となる ICT 人材には、単なる ICT ユーザー向けとは全く別のルールを制定して適用する必要があります。ところが、これには管理上のある程度の手間がかかります。将来、組織の ICT 能力が崩壊するとしても、その苦痛が発生するのは、随分先のことです。それは、早くても数年先のことです。一方で、「2 つの異なるルールを管理する」という仕事は、今すぐ発生し、これは少し工夫を要する、苦労の伴う作業です。
日本組織内の ICT ルールが改善され、若手 ICT 人材の能力が発揮されれば、これからの日本社会から、数多くの ICT 技術が業務の副産物として生み出される。AWS、Google 等クラウドサービスや 「UNIX」 なども、もともと、そのような副産物であった
世界中で普及している ICT システム、インフラ、OS、言語、ネットワーク技術等の ICT 技術は計画的に作られたものでなく、おもしろさを目的として自由に試行錯誤した結果生み出された
■ 4. クラウド時代における ICT 人材の試行錯誤環境・自律的ネットワーク構築・運用の重要性
クラウドシステムの本質とは、コンピュータ、ネットワーク、ストレージおよび他組織との相互接続システム (BGP)。単なるユーザーの観点からでも、各組織はこれらの基本的 ICT 知識を理解しなければならない
単にクラウドを利用するだけでもクラウドの最適な利用のためには高度な ICT 人材を育成する必要を有する
高度な ICT 人材が既存のクラウドサービスを最大限に利用できるようになったとき、はじめて、全世界で使われる新しいクラウドサービスを生み出すことができる
我々日本人は、現在、既存の AWS、Azure、Google などのクラウドをよく観察し、それの動作原理と同化するくらいまで使い込み、内部の仕組みを分析するフェーズにいます。その後に、これらを超えるものを多数生み出すフェーズに入ります
中国やアメリカが2000-2010年にやったことを後追いしている
今のクラウドは不十分なところが結構あるので、もっと高品質なものが作れるはす
自組織のシステムのクラウド化を実現したり、必要なパフォーマンスを予算範囲で実現したりするためには、コンピュータ・ネットワークの知識が必要不可欠。ストレージやセキュリティ、ビッグデータ、AI もコンピュータ・ネットワークのレイヤの性能に依存する
AWS、Azure、Google、Alibaba のようなパブリッククラウドサービスは、本質的に未完成であり、実験的システムを商用化しているものである。今後生み出される多数の日本発のクラウド技術には、大きな競争の余地が残されている
スケーラブルで、セキュアで、攻撃耐性の高いシステムを実現するには広域ネットワーク (WAN) の技術も必要不可欠
世界標準の組織間ネットワーク相互接続方式の標準は、BGP (Border Gateway Protocol) というプロトコル
クラウド、ネットワーク、サイバーセキュリティの世界では、自律的なネットワーク (Autonomous System: AS) を自国、自組織で運営できる能力を育成・維持しているかどうかが勝敗を決める
米国は 41 の中央政府組織が AS (独立ネットワーク) を運営できているにの対し、日本はわずか 2 中央政府組織に過ぎない
米国の中央省庁は、「自組織のネットワークインフラは自組織で護る」という健全な精神を有し、これを実現するために各組織に高度な ICT 人材を分散維持してネットワークを維持し、サイバー攻撃から防いでいる。この精神が米国の ICT の力の源泉である
日本の中央省庁で独立したインターネット接続 (AS: 自律システム) を運営できている高レベル省庁は、わずか 2 省庁。今後、日本型組織でもインターネット接続を自前で行なう試行錯誤が増えれば、サイバーセキュリティや ICT 技術力が大幅に向上する
本質的に、「商業 ISP」 は、ユーザーのインターネット利用について終局的責任を負っていない。社会の重要な機能を担う中央省庁が既存の AS を保有する ISP に依存してネットワークをただ利用している現状は、国のサイバーセキュリティ上深刻な状況
10 年前と比較して、今では自律ネットワーク (AS) でインターネットに接続する試行錯誤を行なうコストはわずか数十万円。日本型組織はこれから健全なインターネット接続の努力を行ない、ICT 人材の能力が組織的に高まり、ICT 技術が多数生まれる
国民 100 万人あたりのインターネット BGP AS 数 (AS: 自律システム) をみると、ICT 先進国と比べて日本は最下位
幸いなことに若手高度 ICT 技術者達は機会があれば自分たちの力で組織の AS・BGP の運用を行ないたいと考えている。これを組織が手助けすれば問題は解決する
ICT 人材育成、技術革新において、日本が他国と競争する上での、企業や公的機関が有する最大の希少資産は、「グローバル IPv4 アドレス」。1990 年代の方々の努力により、幸運にもこれらが各企業や中央省庁、独立行政法人等に秘蔵されている
PIアドレスとは、BGP ネットワークを経由して、AS で広報して自由に利用できる、インターネット上のグローバル IPv4 アドレスです。現代世界で最も希少な資源の 1 つです。これがなければ、地主として、クラウドサービスを作ることはできません。 日本の大企業や役所は、今でも 1990 年代の先人の先見性によって確保したグローバル IPv4 アドレスを、多くの場合はクラス B (65,536 個)、少なくとも 1,024 個とか 2,048 個の単位で有しているのです。
IPv6 ネットワークが一般的になればなるほど、グローバル IPv4 のクラシックなネットワークを自由に構築、運用できることの貴重価値は上昇します。Google、Amazon、Microsoft といった世界的 ICT 事業者は、血眼になって、各国から、希少なグローバル IPv4 アドレスを、極めて高い価格で買い集めています。2020 年になっても、クラス B (65,536 個) の資産としての価値は値上がりし続けています。他に類を見ない、希少価値です。
■ 5. 地方自治体の ICT 能力の段階的向上
一定のネットワーク制約は ICT 人材の試行錯誤の能力を高めるが、過度な閉域ネットワークは ICT 人材の能力を壊滅させる
■ 6. IPA & J-LIS 「自治体テレワークシステム for LGWAN」 の実現の意義
世界共通言語 「C 言語」 を習得すれば、誰でも簡単に、働き方や生活を変える ICT インフラプログラムを自作することができる
■7. IPA & J-LIS 「自治体テレワークシステム for LGWAN」の機能とセキュリティ