キャラの名前と設定の一部流用は複製権を侵害しなさそう
判決文
「著作権法は表現を保護するがアイデアは保護しない」という教科書どおりの判断なのですが、実際にはどこからがアイデアでどこからかが表現なのかの境界線は微妙なところがあるので、現実の例に即した裁判所判断が得られたことは意味があると思います。
正直、私は、同人関連はそれほど詳しくないのですが、キャラの名前と設定の一部だけを拝借して絵としてはまったく原作品と違うパターンと、キャラの絵が類似する(またはほぼ同一の)パターンがあると認識しています。この判決では、少なくとも前者のパターンについて、著作権侵害には当たらないという判断が示されたことになります。
基素.icon 判決文を読んだが、絵柄は関係ないのではないか。容姿については裁判所は複製権侵害の可能性を認めている。
追記:この判決で明らかになったのは、キャラの名前と設定の一部だけを流用したタイプの二次創作は著作権法上問題なさそうであるということであり、二次創作が法的にまったく問題ないということではありませんので念のため追記しておきます。元ネタ作品の著作権者が二次創作の作者を訴えて、商品化権や不整競争防止法等、著作権以外の論点が争われた時にどうなるかはわかりません。また、絵やセリフ回し等の表現が類似・同一のタイプの二次創作については、元ネタ作品の著作権者が訴えてくれば著作権侵害とされる可能性大です(現状問題がないのは元ネタ作品の著作権者が大目に見てくれているからに過ぎません)。
“同人誌転載サイト”に自身の作品を無断で掲載されたとして、同人作家の女性がサイト運営元に対し損害賠償を求めていた裁判(控訴審)で、知的財産高等裁判所は10月6日、被告側の控訴を棄却し、一審判決(関連記事)は妥当であるとの判決を下しました。
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「二次創作同人誌は著作権がない」という転載サイト側の無理のある主張が棄却された(意外性はない)判決
「二次創作同人誌が原作の権利侵害をしているかどうか」と、「二次創作同人誌自体に著作権があるか」は全く別の話だ、ということ
また、公開された判決文の中で、二次創作同人誌の法的位置付けについて(あくまで同人作家と第三者による裁判という点には注意が必要ですが)著作権侵害にはあたらないとの判断が示されたことも大きな注目を浴びています。
二次創作同人誌について「原則として、原作の複製権を侵害する違法なものではなく、適法に権利行使できる作品である」という判断が示された点です。原告側代理人を務めた平野敬弁護士(電羊法律事務所)も裁判後、「同人誌の法的位置づけについては以後これがリーディングケースになると思われます」とツイートしています。 基素.iconここねとらぼの地の文なのだが、「原則として、原作の複製権を侵害しない」が判決文からどう導かれるのかわからなかった
上岡弁護士:従来、作品の登場人物の顔、姿などの恒久的な表現(キャラクター)については、特定のコマと対比するまでもなく著作権侵害になるとの見解がありました(※)。
しかし、これに対して判決では、同人誌が原作の著作権を侵害していると主/張する場合「原作のどのシーンの著作権侵害か特定しなさい」と述べ、上の見解を明確に否定しました。そして、今回は原作シーンが特定されていないので同人誌に著作権侵害はないとした形です。
上岡弁護士:裁判所はさらに踏み込んだ判断をしました。仮に原著作物のシーンが特定されたとしても、著作権侵害が問題となり得るのは、キャラクターの「容姿や服装など基本的設定に関わる部分」のみ、しかも複製権侵害に限られるとし、「その他の部分については、二次的著作権が成立し得る」と述べたのです。
複製権侵害の危険性は残る文章ですが、本判決では原作と同人誌で主人公などの容姿や服装に共通ないし類似する部分があると認めつつも、侵害の立証としては不十分としています。
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ここで神岡弁護士も複製権侵害の危険性は残ると指摘しているように、実際の判決を読むと(後述)「そもそもシーンの特定をしていないのだから著作権侵害を認めることはできない」というロジック。複製権自体はクリアになったという明確な話は書いていない。
シーン特定されたら複製権侵害のリスクはあると言うのが自分の理解である
限界は示されていませんが、一般的な同人誌で(少なくとも主人公などの容姿や服装が共通しているだけでは)複製権侵害と認定されるケースはまれではないかと思われます。
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上で「基本的設定(判決文ではこう書いてある)は複製権侵害が問題になりうる」と判決に書いてあると言っているのに、「基本的設定が共通しているだけでは複製権侵害と認定されるケースが稀ではないか」という結論になるのは筋が通らない。
上岡弁護士の私見?
実際の判決を読む
一審被告らは,本件各漫画には原著作物のキャラクターが複製されている旨主張する。
被告の主張の一部
本件各漫画と原著作物とは,ストーリー及びキャラクターが,特徴2~4のとおり,名称,髪型,表情,体型,装身具,人間関係等において一致している。したがって,本件各漫画は,原著作物の複製権を侵害する。
しかしながら,漫画の「キャラクター」は,一般的には,漫画の具体的表現から昇華した登場人物の人格ともいうべき抽象的概念であって,具体的表現そのものではなく,それ自体が思想又は感情を創作的に表現したものとはいえないから,著作物に当たらない(最高裁判所平成4年(オ)第1 443号,同9年7月17日第一小法廷判決,民集51巻6号2714 頁)。
したがって,本件各漫画のキャラクターが原著作物のそれと同一あるいは類似であるからといって,これによって著作権侵害の問題が生じるものではない。
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ここでいう「キャラクター」は特定のキャラデザインの話ではない
キャラクターという抽象的なものを侵害したと主張したのが筋悪だった
被告の著作権侵害の主張の立証が不十分
シリーズもののアニメに対する著作権侵害を主張する場合には,以下のことが必要
そのアニメのどのシーンの著作権侵害を主張するのかを特定するとともに,
そのシーンがアニメの続行部分に当たる場合には,その続行部分において新たに付与された創作的部分を特定する
被告はこれを主張のほとんどでやっていない
原著作物の特定のシ ーンと本件各漫画のシーンとを対比させた乙10の1~7(もっとも,「アニメ版」として掲げられているシーンについて,第何回のどの部分という具体的特定までがされているわけではない。)の内容を検討してみても,
原著作物のシーンと本件各漫画のシーンとでは,主人公等の容姿や服装などといった基本的設定に関わる部分以外に共通ないし類似する部分はほとんど見られず
(なお,乙10の1~7の中で,共通点として説明されているものの中には,表現の類似ではなく,アイディアの類似を述べてい るのに過ぎないものが少なくないことを付言しておく。),
基本的設定に関わる部分については,それが,基本的設定を定めた回のシーンであるのかどうかは明らかではなく
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ここまでを読むと、侵害が否定されているのはシーンを同定していないと言うのがまず大きい。
シーンが同定された場合にはどうなのか?という疑問が湧く
この点に関して裁判所は踏み込んだ
現在の証拠関係を前提とする限り,仮に原著作物のシーンが特定されたとしても,著作権侵害が問題となり得るのは,主人公等の容姿や服装など基本的設定に関わる部分(複製権侵害)に限られる
シーンの類似はないと判断されている(が映像は請求しないと見れないので未確認)。よって侵害の対象となりうるのは類似性がある著作物は基本設定のみとなる
主人公等の容姿や服装など
一審被告らは,本件各漫画で描かれた各シーン(ストーリー 展開に関わる部分)は,
同一性保持権を侵害している
と主張するかもしれないが,
参考:被告の主張
翻案権の侵害
本件各漫画は,原著作物のキャラクター及び場面設定を利用して,そのストーリー及び描写をわいせつな内容等に変容させているが,著作物といえるキャラクターが特徴2~4のとおり同じであることから,一般読者に対し,原著作物の表現上の本質的特徴を直接に感得させるものである。
同一性保持権の侵害
原著作物は,いずれも人気作品であり,様々な賞を受けている。このうな作品に対して,その内容を特徴56のようなわいせつな内容に変容することを原著作権者が許諾するはずもなく,
基素.icon そもそも著作権/著作者人格権を持っていない被告が、なぜこれを主張できるのか?そして裁判序が判定できるのか
上記基本的設定に関わる部分は,主人公等の容姿や服装などの表現そのものにその本質的特徴があるというべきであって,ストーリー展開に本質的特徴があるということはできないから、
本件各漫画に描かれたストーリー展開が,上記基本的設定に関わる部分の翻案に当たると解する余地はないし,
基素.icon「二次創作のストーリーが原作の基本的設定の翻案」と主張するためには、ストーリーと基本的設定(キャラの見た目)の間に「本質的な特徴の同一性」がなければならないが、ストーリーとキャラの見た目は全然別物なので翻案には当たらない
主人公等の容姿や服装など基本的設定に関わる部分に変更がない以上,同一性保持権侵害が問題になる余地もない
基素.icon 複製権が問題になる可能性がある場合は、同一性保持権は問題にならなさそう
仮に著作権侵害の問題が生ずる余地があるとしても,それは,主人公等の容姿や服装など基本的設定に関わる部分の複製権侵害に限られるものであって,その他の部分については,二次的著作権が成立し得るものというべきである
(なお,本件各漫画の内容に照らしてみれば,主人公等の容姿や服装など基本的設定に関わる部分以外の部分について,オリジナリティを認めることは十分に可能というべきである。)
基素.icon
被告は原告の著作物が元ネタの複製権・翻案権・同一性保持権を侵害していることを訴えている
表現そのものではなくキャラクターの複製について訴えた
しかし、キャラクターは著作物ではないので著作権が存在せず、認められなかった
アニメシリーズの著作権侵害を訴えるならシーンの特定もしなくてはいけない、という見解が示された
「シーンの特定があって、具体的な表現を複製権に限った裁判」ではまだわからないのではないか
「具体的な表現に対しての複製権」はこの裁判では結論が出ていない
背景
被告のアクラスはWeb割れサイトの運営