2012.10.12 「今だからもう一度言いたい。消費税が日本を救う」熊谷亮丸
日本は、足もとで「高福祉・低負担」に近づいています。
そのため、財政の持続可能性が極めて危うい状況にある。政府債務残高の対GDP比(引用者注: 債務残高対GDP比)は210%以上となっており、第二次世界対戦末期の混乱期とほとんど変わらない状況。はっきり言って、欧州債務危機の発端となったギリシャのほうがずっとマシです。 よく「ギリシャと日本は違う」という意見を聞きますが、そうではありません。たとえば、2009年の秋、債務危機が起きる直前のギリシャの5年物CDSスプレッドは1.2%くらいでしたが、日本のそれは1.0~1.5%前後のレベルを中心に推移してきました。 つまり、財政危機に陥る直前のギリシャと、現状の日本は大差がない状況です。わが国のCDSスプレッドは一度市場の信用が失われると、国債が暴落し、急速な勢いで財政危機に陥る可能性があるレベルなのです。
また、よく「日本はGDP比で見ても非常に多くの金融資産があるから大丈夫だ」という議論も出ますが、IMF(国際通貨基金)の予測では、10年以内に国債発行残高が金融資産残高を超えると見られています。金融資産は多くても債務とのバランスで見ると、完全な債務超過状態です。
財政の硬直化
必要なところにお金が回らなくなるため、国の経済成長が望めなくなります。たとえば、カーメン・ラインハートとケネス・ロゴフによる分析では、政府債務残高がGDP比で90%を超えてくると、経済がガクンと悪くなり、成長率が平均3%くらい落ちると言われます。210%を越えている日本は、そろそろ限界に近づいていると言えます。
90%を超えたときにもより悪化するの?それは政府債務残高という指標だけで説明できるの?基素.icon
ので、「無制限に負債出したらヤバそうだけど」以上のことは言えないのでは?
将来世代への負担の転嫁
悪性のインフレや円安の進行
これまでの経済・金融環境では、悪性のインフレや円安の進行など、大きな危機は顕在化しませんでした
不況で資金需要が低迷して金余りが起き、経常黒字となって円高が続いてきたことがあります。
円高がデフレを招き、ますます資金需要が落ち込んだ結果、低金利が続き、ある種の国債バブルが起きてきた
日本が経常黒字国であり、外国人が国債を9%程度しか持っていない状況では、9割以上の日本国債を保有している日本人が政府を信頼する限りにおいて、すぐに国債が暴落する状況でもありませんでした
しかし、今後はそうはいかないでしょう。大和総研のシミュレーションによると、日本は2015年~20年にかけて、経常収支が赤字化する可能性が高まります
ここで言う経常収支って何?(この単語で調べると国際収支の話ばかり出てくる)基素.icon 国際収支の経常収支 財務省の定義では貿易・サービス収支、第一次所得収支、第二次所得収支の合計
国際収支だとすると2021/11/6なので検証できる
https://gyazo.com/e2c67e2bebfddc3c227bb731d39510c7
第1次所得収支の黒字幅は徐々に拡大し、2000年代半ば以降は経常収支黒字の主因となっている https://gyazo.com/d4316d6fa368938389219cc776cd277a https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA086E40Y2A400C2000000/
ぎりぎり経常黒字
経常赤字になるとどうなるか
円安が進行する結果、インフレが発生し、場合によっては不況下で物価高が起きる「スタグフレーション」に陥る。そうなると、金利が上昇し、国債の価格が下がって、国債バブルは間違いなくはじけるでしょう 今や国債の調達期間も短期化しているので、国債が売られ始めると金利が急上昇し、国の利払い負担は急増します。
一方、国債が売り崩されて円安になれば、本来は日銀が輸入インフレを回避する目的で金融引き締めを行なうべきですが、そうすると一気に国の利払い負担が増えてしまうので、これもままならない。
結果として、財政破綻が現実のものとなるわけです。こうしたハードランディングのシナリオが起きる可能性は、決して小さなものではありません。
どれぐらい?
追い込まれてから財政再建をやろうとすると、低所得層の年金をカットするなど、非常に逆進的な対応をとらざるを得なくなり、経済そのものに打撃を与えます
そうですね。世間では「増税の前にやることがある」と言われ、増税の代わりに歳出カットや成長戦略を行なう必要性が唱えられてきましたが、それは論点を拡散させて問題を先送りするだけ。
こうした議論は、1970年代後半の大平正芳内閣のときから続けられてきました。当時一般消費税構想が頓挫し、その後抜本的な対応が進まず、30年経った今でも同じことが議論され続けている。
30年で政府歳入の構造はかなり変わっているのでは?法人税は下がっているし基素.icon
これら3つの改革を全て実現しないと、財政再建はできません。
消費税を中心に増税
社会保障費を中心にムダな歳出をカット
成長戦略を実効性のあるものにして経済を活性化させる
日本では、とかく「消費税引き上げが経済に壊滅的な打撃を与える」と言われがちです。もちろん、消費税増税にはメリットもデメリットもありますが、私が分析する限り、経済への悪影響は限定的です
分析が知りたいが、ここには書いていない基素.icon
仮に増税しなかったときに生じ得る悪影響があまり論じられないのは、公平ではない。日本国債が暴落したときのリスクも視野に入れ、比較衡量をしていかないといけません。
これはそう基素.icon
実際、大和総研は、IMFの統計などを基にして、欧州が消費税を上げなかった年、実際に上げた年、上げた翌年の3つのケースについて、それぞれ経済成長率の加速度を集計しています。それによると、消費税を上げてもほとんど景気が悪化するトレンドは認められないという結果が出ました。
加えて、ユーロ圏は各国の財政政策がバラバラであり、その足並みの悪さが危機を深刻化させたというのが根本的な原因で、日本とはベースが違う。
1997年4月に消費税を2%引き上げて以降、日本が景気後退局面に入ったという論調がよくありますが、
当時のGDP成長率の内訳を見ると、消費は同年1~3月期に駆け込み需要で上向き、4~6月期にその反動で落ちています。しかし、実は7~9月期には駆け込み需要が発生する前の水準まで一度回復しているのです。
よって、この時期に景気が悪くなったのを、増税だけのせいにはできないことになります。
やはり国内の金融危機とアジア通貨危機による影響が大きかったと思います。
もちろん、タイミングの悪い時期に増税してしまったという政治的責任は問われるべきですが。
複数の因子が経済に影響するのは当たり前基素.icon
国内金融危機の寄与率は?アジア通貨危機による影響の寄与率は?増税の寄与率は?基素.icon
一度回復していると増税のせいにはできないのはどうして?基素.icon
「1997年の増税後、国は結局当時の税収レベルを回復できていないではないか」という批判についても、事実と異なります。
小渕減税と地方への財源移転などを全て控除したベースで見ると、リーマンショック発生前の段階で、日本は97年に消費税を引き上げる前の税収を回復しています。
減税や控除をやり過ぎたことが、税収減の大きな理由になっているのです
消費税を上げてはいけないタイミング
第一に、物価が上がるインフレの時期
え、デフレのときじゃないの?基素.icon
第二に金融システム危機のときです。
消費税増税
メリット
水平的公平性が確保できること。皆が広く薄く一律に負担する税のため、職種などによって税金が多い、少ないという不公平感をなくすことができ、税収も安定します。
逆進性は?
裕福な高齢者から取れる
高齢者と将来世代を比べると、高齢者は年金などの生涯受益額が支払額より9500万円くらい多くなります
高齢者はフローの所得が少なく、所得税をあまり払っていない人も多い
消費額に応じて税を負担してもらうようにすれば、そのぶん子育て世代や若年層の負担が減ることになり
取る方法は他にもありそう
経済活動への中立性
所得税よりよい(?)
所得税には、所得を得たときとそれを貯蓄して金利をもらうときに二重課税され、経済活動を歪めるという問題があります。消費税にはそれがありません。
税収が安定する
高齢化社会に向けて国の社会保障費の負担が増えるなか、税収を安定させることができること。当然ながら、今回の社会保障と税の一体改革において、最も重視されているのはこの効果ですね。
税制を世界のトレンドに近づけられ、高所得者の海外流出を防げる
所得税や法人税を軽減して、間接税や消費税のウェイトを上げていくのが、今日の世界のトレンドです。日本だけがそれに反するやり方をしても、企業の空洞化や高所得者の海外流出を招き、国内の経済力を弱めてしまうリスクがあります。
2021年、バイデン政権は国際協調で法人税を増税しようとしている
デメリット
逆進性
消費税だけを切り取って、逆進性の問題を論じるのはおかしな話。逆進性は、税制や歳出構造全体の歪みによって起きている側面も強く、それらを総合的に見ながら、理想的な所得再分配を考えていく必要があります。
歳入面を見ると、日本では今、所得税が空洞化しています。構造的な要因により、9割の人が所得の10%以下しか所得税を払っていない。
どういう意味かわからない基素.icon
課税所得が195万円以下の人が9割ということになってしまうがそれは明らかにおかしい
こうして課税ベースが狭まっている一方、歳出面を見ても、本当に困っている人にお金が行き渡っていません。こうした双方の歪みがあるのです。
国民負担率を大きくしたほうが良いとしている
日本では、国民負担率の低さがジニ係数(主に社会における所得再分配の不平等さを測る指標)の上昇を招いている側面があります。わが国の所得格差は、所得を再分配する前の段階ではあまり広がっておらず、社会保障や税を通じて再分配した後に拡大する、つまり不平等が大きくなる傾向がある。現状の税や社会保障の機能によって、うまく所得再配分ができていないのです。
国際的に見ても、大きな政府で国民負担率が高いほど、やはり格差は小さい。
具体的には、様々な所得税の控除を縮小したり、相続税を上げることなどが必要でしょう 益税・損税問題
逆進性解消の方法
複数税率の問題点
品目ごとに合理的な線引きが難しい
負担軽減額は高所得者の方が大きくなり、逆進性を解消する効果に疑問
減収幅が大きい
諸外国では、消費税率20%弱程度につき、10%弱程度の軽減税率が一般的。消費税率が10%を超えるあたりまでは、費用対効果の側面から言っても、日本で軽減税率を導入するのは時期尚早かと思います。
これは当時の政府税調や主たる経済学者と同じ結論に見える基素.icon
現段階で検討するなら、給付付き税額控除のほうがいいと思います
ただし所得税もっと取るようになってからと主張
所得税が空洞化している状況で給付付き税額控除をやっても、財政的な負担が大きくなるだけで、効果は薄い。まずは所得税の課税ベースを拡大し、その上で困っている人に対してある程度の税額控除を行なうのが理想的です。
益税問題
当面は弱者を救済する法制などを実施するとして、ゆくゆくはインボイス方式の導入を考えるべきでしょう
2021/11/6現在、救済なしにインボイスの導入がはじまりつつある
景気への悪影響
消費税増税をやれば、景気は若干悪くなるでしょうが、先ほども述べたように影響は限定的です。
大和総研が消費税増税の経済成長率への影響を試算したところ、増税前の駆け込み需要が起きる2013年度はGDPが+0.9%ポイント押し上げられ、増税が始まる2014年度は-1.7%ポイントとなっています。ただし、翌年の2015年度には+0.1%ポイントと小康状態になる見込みです。よって、全体で見ればマイナスの影響はあるものの、日本経済が壊滅的な打撃を受けるというほどのインパクトはないと見ています。
2014 年 4 月の消費税 率の 5%から 8%への引き上げの際には、大きな駆け込み需要とその反動があり、その後も個人消費が低迷した。2014 年の消費税率引き上げ後の消費低迷のうちどの程度が税率引き上げに起因するものだったのかについてコンセンサスはないが、例えば内閣府 (2015)は、 駆け込み効果を除去した上で、消費税率の引き上げ幅が大きかったことによる所得効果、低所得層の消費抑制などを指摘している。
年間のGDPは増大
トレンドを覗いた増税分の効果は?
3%で壊滅はしないだろうと思う(10%の議論をしていたのに)
将来不安の高まりにより、日本人の貯蓄率は1983年からの累計で5%ポイントほど上昇しています。よって、社会保障の合理化などを通じて財政再建が進み、国民の将来不安が落ち着けば、5%程度の貯蓄が消費に回る可能性がある
社会保障費のカット
1990年度以降の22年間で、国の一般会計における歳出は24.1兆円増えており、そのうち社会保障費が14.8兆円とほとんどを占めています。財政赤字を解消するためには、社会保障の合理化が不可欠です
社会保障費を何%カットし続ければ、プライマリーバランス(基礎的財政収支)は改善するのでしょうか
消費税率を2014年4月に3%、2015年10月に2%引き上げることを前提にして、名目GDPが3%成長し、社会保障費が2010年代半ば以降、年率4%低下する条件を加えてシミュレートすると、プライマリーバランスは対GDP比で2020年度に0.2%のプラスに転じます。この時点で、ようやく日本は財政再建の入り口に立てるわけです。
2021/11/6 プラスに転じてない
https://gyazo.com/7f9de851129aeea871fe751577b03975
具体的な試作
年金の支給開始年齢を67歳なり70歳に向けて引き上げる
ある程度生活に余裕のある高齢者については、年金所得への課税を行なう
70~74歳の高齢者について医療費の自己負担額を、現在の1割から法律に準拠した2割へ上げる
それらを行なった上で、拠出側と給付側の一方をスライドする仕組みに
社会保障費の原資を消費税にしたほうが良い
年金の未納問題などを考えると、やはり基礎部分は税金でやっていくほうがいいと思います。
私のシミュレーションによると、経済成長率が上向かず、社会保障費が増えてしまったケースでは、消費税率が10%ではとても足りません。たとえば名目成長率+1.5%に対して社会保障費の伸び率が年率+3~4%といったケースでは、プライマリーバランスが2020年度に対GDP比で3.6~4.1%の赤字になってしまいます。これをバランスさせるためには、消費税率を17~18%くらいまで引き上げないといけなくなる。
社会保障費の合理化や成長戦略が思うように進まない場合、将来的に消費税率を20%程度にまで上げないと、財政再建はままならないでしょう。その意味においては、社会保障の基礎部分を税金で賄う制度にしておかないと、やはり不安は残りますね。
2021/11/6 実際にはもっと悪い基素.icon
政府は「アンチビジネス」ではなく「プロビジネス」の姿勢を鮮明化するべきです。
今の日本の経済成長を阻害し、日本企業を海外へ逃避させている要因
円高、EPA(自由貿易)などの遅れ、環境規制、労働規制、高い法人税という、いわゆる「追い出し5点セット」があります。
それらを全面的に転換し、法人税負担の軽減、自由貿易の促進、規制緩和、科学技術の振興などを目指す成長戦略を断行することがカギになるでしょう。
内需やディマンドサイド(需要側)を過度に重視するのではなく、
サプライサイド(供給側)政策に重点を置く。
日本経済の最大の不安要因は円高とデフレですが、政府・日銀が一層協力してこれを阻止すべき。
きちんとインフレターゲットを導入し、物価目標を1%程度から2%へ引き上げる
ETF(上場投資信託)などのリスク資産を購入して円高や株安に歯止めをかけ
円安にはなった
それを将来的に貸し出しの増加につなげる、などの試みが必要です