卓越したジェネラリスト診療入門
藤沼康樹:卓越したジェネラリスト診療入門, 医学書院, 東京, 2024
p2
レヴィ=ストロース「プリコラージュ(器用仕事)」:コンテクストに合わせて、役に立ちそうなものなら、何でも組み合わせてしまう
p4
解釈学的医療 interpretive medicine (Reeveら):患者と医師が共に病いやケアの意味を生成していく
p13 事前確率の見積もり
「コミュニティバイタルサイン(Bazemore)」:貧困、就業状態、教育、環境、安全性、交通
+年齢、性別、来院までの経過(この人最近病院きてなかったなー)
p14 診断の遅れ
肺血栓塞栓症、悪性腫瘍:遅れがち
ゆっくり進行する:Parkinson病、甲状腺機能低下症
肺血栓塞栓症の遅れについて
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27114207/
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4871310/pdf/bjgpjun-2016-66-647-e444.pdf
プライマリケアにおいて診断エラーを生じた「症状」
#腹痛
#鑑別疾患_発熱
#全身倦怠感
#呼吸困難
#皮疹
#鑑別疾患_咳嗽
#胸痛
#鑑別疾患_下肢痛
#悪心・嘔吐
プライマリケアにおける診断エラー事例の「最終診断名」
悪性腫瘍、肺血栓塞栓症、虚血性心疾患、大動脈瘤、急性虫垂炎、川崎病、髄膜炎、肺炎、側頭動脈炎・リウマチ性多発筋痛症 PMR、小児虐待
p20
良性疾患のpositive diagnosis
Aschenbach症候群
Morton病
Mondor病
軟部組織の疾患
足底筋膜炎
手根管症候群
p26 かかりつけ医機能をもつ外来
聞いておきたいことある?「かぜ」を普段接することのない地域住民との出会いのきっかけをつくってくれるものとして位置づける
家族を含めた相談相手に
p29 家庭医外来の「4つのタスク」Stottら
急性の問題への対応、慢性の問題への対応、予防医療・ヘルスプロモーション、受療行動の調整
p32 1患者10分
➀患者を呼び入れる
待合室での様子、付き添うの有無、入室までの挙動・表情
②開かれた質問
今日はどうされました?
オウム返し
ポジティブフィードバック「よく我慢していましたね」
誰かに相談したのか、自分で何か調べたのか
③解釈モデル、心配事、何を期待して来院したか
一般の人が抱きやすい解釈や不安をコレクションしておく
閉じた質問もしよう
④仕事、家庭状況、感情、上手くやれているか
仕事、同居家族、日常生活に支障が出ているかどうか
強い感情がありそうなとき クローズドに。
⑤焦点を絞った質問、レッドフラッグ
⑥まとめと少しの沈黙
10秒の沈黙
ここまでで5分!
⑦身体診察 2分
何をしているか説明する
⑧診断し、説明する
⑨対処の選択肢を提示する
自分として推奨するものを一番にあげる
セーフティーネットを張っておく。徹底して具体的に
⑩診察を終了する
他に何かありますか
ハウスキーピング:自分の感情的な動揺を次の診察に持ち込まないようにする
p37 共通基盤の形成
医師と患者の間で3点について合意形成する
➀何が「問題」なのか ②診療の「目標」や「ゴール」は何か ③そのゴールを果たすために、お互いがどのような「役割」を果たすのか
p62 構造的にどういった特徴をもつ家族なのか
p64 「身体診察」の4つの意義 大学病院での実習でも使えそうだな~
➀「診断」のための検査
②疾患の「経過」をみる
③無症状の疾患を発見する 「予防医療」としての身体診察
④「ヒーリング・タッチ」としての身体診察
p66 身体診察で注意すること
診察は「待機室」から始まる
ぐったりしているのか、うつむいているのか、付き添いは?
診察室に入ってくるときは「匂い」も
尿臭や衣服の不衛生、洗濯していない上着、生活の様子→一定の診断:尿失禁をきたす疾患やADL制限をきたす疾患
すえたような匂い→ゴミ屋敷?
線香の匂い→未亡人?
煙草の匂い→夫婦ともスモーカー?
金属の匂い→独身の高齢男性?
前回受診時との匂いの違い→急激な生活機能の低下
触れる前に必ず一声かける
米国の文化人類学者エドワード・ホール:人間にとって”生きられた身体”(メルロポンティ)とは、皮膚で隔てられた身体よりもやや広い範囲にある
症状のあるところは必ず診る
共感を示す
乳幼児の身体診察
褒める
高齢者の身体診察
「全体」をみよう
眼瞼結膜を見ている時→視力はどうですか?
痛みがあるかみるとき→筋骨格系の質問。特に「肩関節の可動域」=受け身がとれるか?
p68 子どものかぜ
気道カタル症状を中心としたかぜっぴき→RSウイルス
流行情報:マイコプラズマ、アデノウイルス
カタル症状あり→耳鏡で「中耳炎」の有無を確認
元気でも高熱だけ4日以上続いたら→川崎病
かゆみ、蕁麻疹→溶連菌によることがある
p70 大人のかぜ
学校や職場を休むための「病者役割」
日常生活・職務に支障があるかないか
他に気になっていることはありますか~
急性副鼻腔炎が疑われるようなら抗菌薬投与
急性咽頭感染症:扁桃腺炎か、もしや伝染性単核球症か、まさか喉頭蓋炎か
例えば、発熱2日で来院したら「あと3日以上熱が続いたら別の病気も考えなければならないので、必ず来てください」
p72 高齢者のかぜ
いつもどんなかぜをひいてしまうんですか?
今回のかぜはどんな症状が出ていますか?
高齢者が集団生活しているところではインフルエンザを考える
下気道感染症:いわゆる気管支炎か市中肺炎か
高熱が4日以上続く場合→肺炎!?
発熱がほどんどなく、数日前からの持続する息切れを訴えて来院する高齢者の肺炎→肺炎、肺血栓塞栓症
p81 プライマリ・ケアにおける8つの「治療法」
薬剤の処方、リアシュアランス(安心させること)、シンプルな精神療法、点滴・注射、小外科処置、物理療法(マイクロ波、牽引、ホットパック など)、施術(鍼灸、マッサージなど)
処方の原則
まず初めに「本当に処方する必要があるのか」「薬を出さないでよいのではないか」と考える
「高齢者」なら、少量から始めて少しずつ増やす。
治療のターゲットがはっきりしない、つまり”やめ時のはっきりしない処方”はしない。
定期的に処方の内容を見直す。
処方の変更は、できるだけ一度に一種類だけ。
転医してきた患者の処方はすぐには変えない。「あれ?」と思うような処方でも、それが患者さんにとって重要な意味をもっている場合がある。
藤沼先生のパーソナルドラッグ
➀フルチカゾン:「喘息」治療の基本
②チオトロピウム:「COPD」に使う薬って、他にある?
③フェキソフェナジン:「花粉症」の患者さんが多いから。
④アドレナリン注:「アナフィラキシー」置いておきたい。
⑤プレドニゾロン:「リウマチ性多発筋痛症」と「喘息」のレスキューで使う。
⑥スマトリプタン:「片頭痛」
⑦アセトアミノフェン:「解熱鎮痛薬」としてのfirst choice。
⑧イブプロフェン:喉の痛みが強いようなかぜの患者さん
⑨モルヒネ:「終末期」
⑩バルプロ酸:抗けいれん薬としてより、BPSDを生じている「認知症」患者さん。デイケアなどで易怒性があるような場合に有効。カルバマゼピンは焦燥感の強い比較的若年者の精神症状に効果があるのでやはり使うが、バルプロ酸の方が処方頻度は高い。
⑪バラシクロビル:「帯状疱疹」「陰部ヘルペス」で使う。普通の単純疱疹では使わない。
⑫アモキシシリン:抗菌薬といえば。
⑬アジスロマイシン:「マイコプラズマ肺炎」「異型肺炎」
⑭レボフロキサシン:△
⑮セフトリアキソン注:「在宅の経静脈的抗菌薬治療」
⑯クエン酸第一鉄ナトリウム:鉄剤。とりあえず
⑰ワルファリン:「心房細動」
⑱エドキサバン:「心房細動」に対する抗凝固療法、DOAC。
⑲エナラプリル:「心不全」「糖尿病」「高血圧」頑固な咳発作注意。
⑳アムロジピン:「降圧薬」スタート。
㉑トリクロルメチアジド:サイアザイド系利尿薬。エナラプリルなどと併用することも。
㉒フロセミド:外来の「心不全」治療の必須薬、長期に使わないよう努力する。「沈下性浮腫」の対症療法としても
㉓カルベジロール:「慢性心不全」の外来管理
㉔アスピリン:「脳梗塞の予防薬」
㉕オメプラゾール:「逆流性食道炎」>消化性潰瘍。PPI。
㉖プロピベリン:「夜間頻尿」の対処に必須。男性にはαブロッカーと併用。
㉗ラメルテオン:睡眠導入剤。「概日リズム睡眠・覚醒障害(circadian rhythm sleep-wake disorder: CRSWD)」の治療薬
㉘セルトラリン:使いやすいSSRI
㉙リスペリドン:「Alzheimer型認知症」のBPSDで少量使用。
㉚アルプラゾラム:「不安症状」「パニック症状」の頓服薬
㉛メトホルミン:「糖尿病」DPP-4阻害薬も
㉜インスリン:「経口薬+インスリン」
㉝アトルバスタチン:使うとすれば
㉞麻子仁丸:虚弱な感じの「便秘」
㉟芍薬甘草湯:「夜間下肢筋クランプ」頓服
㊱エンシュア・リキッド®:代用食
㊲ベタメタゾン吉草酸エステル(外用):「ステロイド軟膏」
㊳テルビナフィン(外用):「足白癬」接触性皮膚炎を忘れない
㊴白色ワセリン:「保湿」害なし。
㊵ケトプロフェン(貼付):日光過敏に注意
リアシュアランス:「安心」を導く7つのフレーズ
Sturmbergら:人間が共同生活をする、つまりコミュニティを形成するために必要な、太古の昔から変わらぬ基本要素=➀食糧の確保、②雨風をしのぎ安全に寝ることができる住居、③子を産み育てることができる環境、④健康問題に対処できるヘルスケアシステム
➀「必ず治ります」外来の急性感染症など
②「今の状態は○○くらい続きますが、だんだんよくなります」見通しを示す
③「今の状態は軽くなるけど、症状自体は長く残るので、長いお付き合いになるでしょう」
④「あまりよくならない可能性が高いけど、少しでも楽になるように診ていきますよ」見捨てないよ。
⑤「今心配されている病気はないですね?」何故気になるのか?
⑥「来年も元気に過ごせますよ」
⑦「毎日やっていることや仕事が続けられるように、いろいろな工夫や手立てを使いましょう」
Ⅱ
p106 ジェネラリストの専門性/卓越性 Reeveら
未分化健康問題、複雑な問題、極めて幅広い健康問題 に対応できることだ
患者次第でフレキシブルに対応する領域(診断・治療技術、継続ケア、患者-医師関係構築)+どんな患者にも普遍的に適用する(患者と医療者の共通基盤の形成、解釈学的医療)を組み合わせられること
卓越したジェネラリスト診療の対象領域:未分化健康問題、複雑困難事例、マルチモビディティ(多疾患併存)、下降期慢性疾患
p115 Ⅱ-2「病い」へのアプローチ
➀FIFE(feelings, ideas, functions, expectations)
F: feelings:多弁で繰り返しが多い患者さん
1.うまく表現できない
2.日常生活上のコミュニケーション総量が少ない
3.背景の「感情」が発語をドライブしている
→感情に向けた言葉を送る Ex. 今イライラしていますか?不安ですか?気分が落ち込んでいますか?
cf. 「感情」にはどんな種類がある?
スピノザ(近世合理主義哲学者)「エチカ」(1677)48種の感情がある
デカルト(近世合理主義哲学者・数学者)「情念論」(1649)驚き、愛、憎しみ、欲望、喜び、悲しみの6つを基本的情念
ダライ・ラマ14世(仏教指導者)とポール・エックマン(心理学者)「Atlas of Emotions」基本的感情として悲しみ、嫌気、悲しみ、恐れ、怒りの5つ
I: ideas:患者が自分の病い・症状・苦痛・苦悩をどう考えているか?
アーサー・クラインマン「解釈モデル explanatory model」
→藤沼先生による絞り込み
1.この病気の原因として何か思いあたることがありますか?
2.このまま放っておくと、どんなことが起きてしまうと考えていますか?
3.(特に慢性疾患)どんなことが病気を悪化させるのでしょう?
4.(特に慢性疾患)どんなことが病気をよくすると考えていますか?
5.前に同じようなことがありましたか?
F: functions:病いがその人の生活にどれくらい影響を与えているか?
1.生きていくうえでの「基本的活動」への影響
ADL:着替え、整容、食事、排泄、室内移動、入浴
IADL:買物、掃除洗濯、金銭管理、調理、交通機関の利用
2.仕事・学校・介護など毎日しなければならない「社会活動」への影響
3.マラソンなどの「高度な運動・趣味活動」に影響
2,3はオープンクエスチョン仕事に差し支えていますか?/普段スポーツとかやってるんですか?どんなふうに?
E: expectations:医療や医療者に対する患者の期待や「してもらいたいこと」
これをすべきという医学的な推奨に加えて、「どうでしょう?」と付け加える
こちらの推奨に否定的な発言が出てきたときには、「なぜそう考えるのか?」という切り口から、患者の受療行動に伴う期待に切り込むことができる
最も強力な影響を与えるのは、自分あるいは家族の「過去の医療体験」であることが多い。
②ライフヒストリーの聴取(life history)
過去の人生を患者と一緒に振り返る時にしばしば有用なのは、「モノ」を媒介にした対話
トリガー質問3つ
1.「今まで生きてきて、一番うれしかったことは何ですか?」cf. 就職、結婚、子どもが生まれたこと、「こんなつらい状況でよくやれていますね。なぜそんなふうにがんばれるんですかね?(=今の状況についての解釈の聴取に切り替える)」→再び聞いてみる
2.「今まで生きてきて、一番つらかったことはなんですか?」価値観に迫るような問いかけ
3.「今の自分の状況について、どんなふうに思っていますか?」どんな仕事?いつ結婚?
③健康生成論(salytogenesis)に基づく診療
健康にも「原因」と「発生メカニズム」がある
アーロン・アントノフスキー(米国の医療社会学者, 1923-94):人間の健康維持(あるいは健康回復)に関する仮説である「健康生成論 salutogenesis」
健康とは、日常の何でもない”ルーチン”の生活や仕事を支えるリソースである。
健康であることとは、そこそこ満足できる”安寧状態(well-being)”が重要である。
「健康=疾患がない状態」ではなく、健康と疾患は共存しうる。
健康であるための独自の「健康因」がある。
健康因を左右し動かすものが「首尾一貫感覚(sense of coherence: SOC)」である。
各種ストレスに対処できる要因群として「汎抵抗資源(general resistance resourse: GRRs)」が人生経験の質を高め、SOCを形成する。
Levenstein や McWhinney ら「disease-illness モデル」:持ち込まれた健康問題を主訴に翻訳し、医学的診断をつける流れと「病いの意味」を探る流れを同時並行的に進め、適切なマネジメントに統合するというモデル
「disease-illness モデル」に加え、➀「客観的」な(医師が考える)患者の強み、②「主観的」な(患者が考える)患者の強みへのアプローチを同時並行的に進めるもの
➀客観的な患者の強み:汎抵抗資源 GRRs
持ち物、お金、知識、インテリジェンス、自我、アイデンティティ、コーピング能力、ソーシャルサポート、つながり、文化的安定性、宗教、哲学、芸術、疾病予防習慣、自由に使える時間、家庭医、遺伝的素因
②「主観的」な患者の強み:personal health resources (Hollnagel ら)
「強みにも興味があるんですけどね。どんなところが~」「何がそれ(あなたのつらさ)を支えている?」「こんなときいつもあなたはどうしていますか?」
④解釈学的医療(interpretive medicine)
意図せず進む「身体の機械化」と「医業のアルゴリズム化」
家庭医の診察の対象は「主体なき身体」ではなく、「身体化された主体 embodied self」として捉えるのが妥当ではないか
Dowrick は自らの病いの経験の中で患者主体は「一貫性(coherence)」と「エンゲージメント(engagement)」の2つによって成り立っていると結論づけた。
「一貫性」4つの構成要素
1.欲望/欲求(desire)なかでも「生存欲求」。スピノザ「コナトゥス conatus」を参照しつつ、「生きること自体が事故に対して何を願っているかを知ること」が重要。「一貫して意味を求めないルーチンの行動」が主体/自己を支えていた(外来で点滴だけしにくるおじいちゃん)
2.記憶(memory)記憶障害が進行しても「その人がその人である」という一貫性を保証する何かがある。そこにケアの焦点を当てる。
3.好奇心(curiosity)人間の本質的な喜び
4.想像力(imagination)難しい状況を乗り越えるための想像力が低下すれば、病いと生きる主体の一貫性が保たれにくくなる。
「エンゲージメント」とは何か?自分がつながっている世界に意味を見出す。環境や社会にコミットすることで自己を見出す。マンネリにも見えるごく普通の生活パターンとしてあらわれることがある
p143 Ⅱ-3 患者中心の診断推論;患者中心のアブダクション→仮説演繹型診断推論
帰納的採集 inductive foraging:患者と医師が協同して「何が問題なのか?」に関するヒントを探索するプロセス
トリガー・ルーチン triggered routine:表面的な質問をして、次の問題採集に入る→アブダクションのプロセスそのもの
このプロセスの中で患者自身の自分の状態に対する振り返りが進むかもしれない。
その後、仮説演繹法に基づく鑑別診断から診断推論のプロセスに入る。
患者中心のプロブレムリスト
https://scrapbox.io/files/67ff353cc48b68380bfb4840.jpg
p149 Ⅱ-4 「複雑困難事例」へのアプローチ
Reeveら「creative vapacity」:病いの中にある人たちが、症状や障害があっても日々の生活を何とか進めるために、生活のやり方に関して創意工夫をする能力。まず患者さんが毎日”ルーチン”でやっていることを探り出す。頭で再現できるくらいに具体的に知る。「患者が日常生活ルーチンを日々こなしながら生活を続けるということは、川の流れに沿ってカヌーをうまくコントロールすることに似ている」
インフォーマルなリソースも使う(社会的処方):人間の生存条件として、一定のコミュニケーション総量が常に必要であり、必要以下の状態が続くと、不安や孤独感、場合によっては被害妄想や攻撃性が生じる場合がある、と考えている。
p164 Ⅱ-5 「マルチモビディティ」へのアプローチ
➀患者・家族と「どこを治療・ケアの落としどころにするか」を探っていく
②まず一歩引いて全体像をつかむ
③通院中の医療機関・代替医療機関をリストアップし、最新状況を把握する。
④「慢性心不全」「慢性閉塞性肺疾患」「認知症」「筋骨格筋系の慢性疼痛」「孤独」「貧困」
⑤担当精神科医と積極的に情報交換
⑥治療負担になりやすい高齢者の「骨粗鬆症」治療は、適応を慎重に判断する
⑦「主体としての患者」を診る。真の”主治医意識”
p173 Ⅱ-6
複雑な健康問題群はありつつも、構造を破綻させず、何とか安定させていた要因は何か?
p177 Ⅱ-7
社会的処方:プライマリ・ケアにおける患者サポートのために、患者を地域の何らかのリソースにつなげること
「テーマ・コミュニティ theme community」:活動テーマ別に構築されたグループ
介護予防は「運動」よりも「集まること」
p184 Ⅱ-8 プライマリケアにおける「回復」の構造
ナイチンゲール『看護覚え書』の序章「すべての病気は回復過程 reparative process」
「病みの軌跡 illness trajectory」
回復は医療現場で生じていたのではなかった
自己回復の6つの性質
➀悪化していく今ここにある身体の感受
②環境に揺るがされる現実の厳しさの認知
③安らぎを得るための方策の探究
④意味ある体験の確認
⑤つながりをもつ他者との応答
⑥今ここにいる自分の在り方の表明
回復が生じやすい環境:「ヒーリング・ランドスケープ」
Millerら:回復は医療機関の中でのみ生じるわけではなく、さまざまな「場」で、そしてさまざまな「関係性」の中で生じている。
「場」:Ex. 自宅、寺院、公園、公民館、美術館、森、池、商店街)
「関係性」:Ex. 医療者、友人、家族、地域でたまたま出会った人、多種多様な人間集団、(モノとの関係の中)ペット、アート、テキスト、風、植物、日光
偶然の遭遇や予想外の関係構築などにより、そこに生じるナラティブ(物語)が「回復」に重要な役割を果たす
Millerら「エピファニー epiphany, 顕現」:何かに打たれたような感覚。回復過程でしばしばみられる現象。診察と診察の間に生活の中で生じている
Ⅲ
p226 外来研修
単一の慢性疾患を教えるなら「GRIPEモデル」
G:guideline & goals
当該疾患のガイドラインに関する知識はあるか?この患者の治療目標はなにか?
R:reflect in the patient
患者の現在の状態は良好か?その根拠は?
心理・社会的問題の影響はあるか?
患者は治療方針に納得しているか・
I:intervention
治療内容は変更の必要があるか?
その根拠は?
患者は治療方針に納得しているか?
P:prevention, pain, palliation
予防医療的介入の必要性は評価したか?
何らかの痛みがあるか?
終末期に関する議論の必要性はあるか?
E:effective feedback
形式的なフィードバックを実施する。次の学習課題を示す。
複雑なケースを教えるなら「FMISGPモデル」
F:function
日常生活昨日で制限はあるか?ADL・IADLは評価されいるか?認知機能は評価されているか?
M:multimorbidity
マルチモビディティ状態か?どの疾患に誰がどう対応しているか?
ポリドクター状態か?プロブレムリストはbio-phyco-socialにリストアップされているか?
I:intervention
どのような介入がされているか?ポリファーマシーか?生活指導はされているのか?介護保険サービスなどフォーマルなサポートは何か?家族や友人などのインフォーマルなサポートはあるか?
S:salutogenesis
健康生成論的アプローチを行ったか?患者の強みと健康因はどこか?自己の一貫性を保障するルーチンは何か?
G:guideline & goals
優先度の高い疾患のガイドラインの概要を知っているか?”落としどころ”としての治療目標は何か?
P:pain, palliation, prevention
どこかに痛みはないか?アドバンス・ケア・プランニングに関する対話が必要か?ワクチンなど予防医療の適応はあるか?
p228 外来ケースカンファレンス
➀「なぜ来院したのか」年齢、性別、来院時間、入院時の雰囲気、予診票:妥当性のある仮説設定
②「どんな人柄か」患者さんの服装や話し方:直感的なプロファイリング
③「どのような類の構造の問題か」:演繹的な推論(受療行動、マルチモビディティ etc.)
『Annals of Family Medicine』『Journal of General Internal Medicine』
④「家族にどのような構造的特徴があるか」世代論、家族ライフサイクル論、社会情勢、家族力動などの知識を総動員して、ありうる問題の仮説設定を行う。特に「どんな生き方をしてきた人か」に関する仮説設定が大事
⑤多次元的アプローチ i.e. 「複雑介入 complex intervention」の視点から、問題の解決あるいは安定化に向けたプランを複数たててみる。ここでは、特に「健康の社会的決定因子」への思考を促す。
⑥診察している当事者の内部に起きた「感情」を言語化することを促す。これは、医療者自身の「感情」が診療プロセスに影響を与えることが多いから。
⑦患者さんの「自己(主体)」へのアプローチを意識的にせよ無意識的にせよ、どのようにやっているかを議論する。
p255 診療所に相談に行くということは、ある種の「体験」を求めているということなのでしょう
p266 「卓越したジェネラリスト診療」とは何か?2024年春
→医療化せずに患者さんの「つらさ」「しんどさ」に対処することは可能か、という論点
Medical Generalism Now! Reeve教授:過度の医療化がもたらす不利益(治療負担、医原性障害、過剰な病者役割、限られた資源の消尽、そして個々の生活や価値観の捨象)を指摘。そうではないオルタナティブなアプローチを提唱=医療化しないアプローチ、あるいは個別化したオーダーメイドのアプローチとしての卓越したジェネラリスト診療 EGP:expert generalist practice をヘルスケアにビルトインすることを構想。
➀ epistemology ジェネラリストの認識論を保持する
見る視点によって人間や世界は形を変えるものである、という認識
disease と illness を同等に扱う、という立場
② exploration for sense making 意味づけのための情報探索
患者の distress が本人や家族・地域にとってどんな意味をもっているのか?
患者の生活史を自分の頭の中に映像として患者生活が再生できるくらいの情報量が必要
③ explanation 解釈する
②の情報探索をしながら、徐々に患者のdistress の解釈・説明が医師と患者の間に生み出されてくる=帰納的に生み出されたillness の「診断」
④ evaluation, trial and learn 患者とともに評価し、試し、学ぶ
うまくいかない場合、新たに解釈を患者とともに生み出していく
卓越したジェネラリスト診療入門を読みました。
・先生が書籍内で言及していたような「ジェネラリスト」のまねを大学病院での実習で実践したり意識したりできることはあるでしょうか。
・「卓越したジェネラリスト診療」とは何か?という問いに2024年春には、医療化せずに患者さんの「つらさ」「しんどさ」に対処することは可能か、という論点に注目されていたが、1年たった今のお考えを訊きたいです。
・また医療化されてしまう現状にもやもやしています。どのように捉えて行ければいいのか具体的に先生のお考えを拝聴したいです。
・患者が医師に任せます、のような態度をとる様子をよく見る。患者と対等に対話できる工夫はあるのだろうか?