急性虫垂炎
<参考>朝倉
【分類】
<炎症の程度>
カタル性虫垂炎:炎症が比較的軽度で、粘膜~粘膜下に炎症が限局
蜂窩織炎性虫垂炎:炎症が全周性に広がり、虫垂内腔や表面に膿を認める
壊疽性虫垂炎:さらに炎症が高度となり、虫垂壁には壊死があり、穿孔が認められることも
【原因・病因】
虫垂内腔の閉塞→血流障害、腸内細菌の感染が加わる
閉塞の原因:糞石などの物理的要因、細菌感染そのもの、寄生虫、食物中の異物(種子など)、ウイルス感染、アレルギー。注意すべきは腫瘍などの二次的病態。
【疫学】
発生頻度:1-1.5/1000人。男女差なし
10-20歳代に多い。小児や高齢者には少ない
<小児>
小児急性腹症の1-8%。5歳以下は頻度が低い。
虫垂壁が薄いことや大網の発達が未熟である→重症例が多い
周囲の脂肪組織の発達も低い→画像診断に難渋
発症から治療開始までの時間が48時間以上経過した場合には40-70%以上が穿孔しているとの報告も
【症状】 食欲不振→上腹部痛(内臓痛)→嘔気・嘔吐→右下腹部痛(体性痛→発熱、WBC増加)
<自覚症状>
腹痛、特に右下腹部痛。
発症初期は腹痛も圧痛点のはっきりしない上腹部痛・心窩部痛、食欲不振、悪心・嘔吐(炎症が腹膜に及んでいないために局所所見として現れず、内臓痛としての消化器症状を呈するため→この後に炎症が壁側腹膜に及ぶことで右下腹部に限局した圧痛となる)
軽度の発熱(炎症による)高熱である場合は膿瘍形成や穿孔例などの重症症例や鑑別すべき他疾患の可能性を考慮
<身体所見> 踵→筋性防御→ローブシング→反跳痛→左側臥位→直腸診
A. 圧痛:右下腹部に限局性の圧痛。MaBurney圧痛点、Lanx圧痛点
高齢者、高度の肥満、虫垂が盲腸の背側に位置するなど後腹膜へ炎症が進展する場合→圧痛点での圧痛所見も不明瞭
後腹膜への炎症波及→psoas徴候や直腸診が有効な場合も
妊婦:妊娠が進むにつれて圧痛点がかなり頭側、やや右外側に移動する
B. Blunberg徴候(反跳痛・腹膜刺激症状):仰臥位で上述の圧痛点を圧迫し、急に圧を抜くと増強する。壁側腹膜への炎症波及を意味する
C. Rosensteinローゼンシュタイン徴候(特異的):McBurney点の圧迫時,仰臥位よりも左側臥位の方が疼痛が増強する現象.重力で虫垂間膜に緊張がかかるため
D. Rovsingローブシング徴候(特異的):仰臥位で下行結腸を下方より上方に押し上げるように圧迫すると,右下腹部(回盲部)痛が増強する現象.腸内ガスが左から右に移動して回盲部の内圧が上がるため
E. heel-drop sign:つま先立ちから急に踵を地面に落とすと右下腹部に痛みを感じる。「歩くと響く」
F. muscle defense(筋性防御・腹膜刺激症状):仰臥位で上述の圧痛点を圧迫しようとした途端に腹壁がかたくなる。手術が必要。心理的な理由でしばしば偽陽性となるが,高度な腹膜炎では板状硬(不随意的な筋収縮)となり,陽性尤度比が高い徴候となる.
G. psoas徴候(腸腰筋症状):左側臥位で右大腿を屈曲させた後に進展させると右下腹部痛が増強。腸腰筋が進展することで痛みが強くなっている。炎症が後腹膜方向に進展している
H. 直腸診:骨盤内に炎症が波及。➀Douglas窩への炎症波及は直腸前壁の圧痛として捉えられる。②右直腸窩で盲腸の背側への炎症波及は右直腸窩方向への圧痛所見が有用(仰臥位での触診のみでは圧痛が不明瞭なことも多い)
【検査】
<血液生化学検査>発症時期、time courseを考える
左方移動を伴うWBC増加、CRP上昇
<画像診断>
CXR:右下腹部の腸管ガス像、糞石像。炎症が高度になると麻痺性イレウスの所見。後腹膜への炎症波及では右腸腰筋影が不明瞭(間接的)
超音波検査
CT:虫垂の腫大、虫垂壁の肥厚、周囲脂肪織のCT濃度の上昇、腹水、膿瘍
<scoring system>
【鑑別診断】
→穿孔を伴う大腸憩室炎などを除けば手術介入の必要のないものが多い
【治療】
抗菌薬投与
原因菌:大腸菌、Gram陰性桿菌、バクテロイデス属などの嫌気性菌
第2世代セフェム系・広域ペニシリン(スルバクタム・アンピシリンなど)
すでに膿瘍形成があるような高度炎症例においても抗菌薬により症状の軽快を得られることも。炎症所見が遷延する場合は画像検査
外科コンサル
原則切除。腹腔鏡下虫垂切除、間欠的虫垂切除
腫大
嵌頓した糞石
造影で壁の肥厚、炎症の程度の評価
周囲脂肪織の濃度上昇、壁の造影効果の断裂