特許発明の技術的範囲
【1】特許発明の技術的範囲とは、特許発明として保護される技術思想の及ぶ範囲をいい、特許権の効力の及ぶ客観的範囲を意味する。
法が特許法70条に「特許発明の技術的範囲」という用語を用いた理由について言及している文献はそれほど多くない。
この点、1)「特許発明の技術的範囲の確定についての基本的考え方(牧野利秋):裁判実務大系9 工業所有権訴訟法 青林書院 p92)」では、次のように述べている。
「所有権の効力の及ぶ客観的範囲が、所有権の客体である特定した有体物の範囲によって画されるように、特許権の効力の及ぶ客観的範囲は、特許権の客体である特定した独立の特許発明の範囲によって画される。これを特許発明の技術的範囲と名付けたのである。所有権の客体である特定した有体物の範囲それ自体は、社会観念によって決せられる事実概念であって、直接に法的効果を持つものとして観念されていないように、特許発明の技術的範囲もそれ自体は事実概念であって、直接に法的効果を持つものとして考えるべきではない。・・・法が「権利範囲」との用語を避けたことは当然である。」
2)また、特許発明の保護範囲(新版)松本重敏 有斐閣 p56 では、以下のように述べている。
「特許発明は特許庁による特許付与処分によって成立するものである。したがってその保護範囲は、この特許権設定の行政処分と不可分である。しかしながら、不可分とは言っても、保護範囲とは特許発明の物理的範囲であって、特許権の客体たる発明そのもの(発明の対象)と同一のものではない。
両者の差は次の点に最も端的に表明される。すなわち、保護範囲は常に特定の技術手段(ドイツでは侵害形式verletzungsform わが国では(イ号)の呼称が実務上慣用されている。以下、侵害型式の語を用いる)と対比した上で、当該侵害形式が特許発明の保護範囲に属するか否か、の判断として確定されるものである。これに対して、特許庁のなす特許権付与処分は常に対世的権利として形成されるものである。換言すれば、後者は対世的な絶対的範囲であるのに対して、保護範囲は常に一定の侵害形式との比較においてのみ、その限度で確定される比較的、関係的範囲であり、70条の技術的範囲が保護範囲である。」としている。
なお、特許発明の保護範囲(新版)松本重敏では、「わが国特許法70条が特に「技術的範囲」なる語を用いたのは、「技術的範囲」に属することが常に法的に権利侵害の効果に結びつくものでないこと(法定実施権の存在等)による。」としている(同書p56脚注7)。
ここで、1)における「社会観念によって決せられる事実概念」=2)における「保護範囲は常に一定の侵害形式との比較においてのみ、その限度で確定される比較的、関係的範囲」といえるのではないかと思う。
【2】特許発明の技術的範囲の解釈についての判例等
「特許発明の特許請求の範囲の文言が一義的に明確なものであるか否かにかかわらず,願書に添付した明細書の発明の詳細な説明の記載及び図面を考慮して,特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈すべきものと解するのが相当である。」とした。
特許出願に係る発明の要旨の認定・・・リパーゼ判決は、侵害訴訟における技術的範囲の解釈には適用できない。