属しないと属さない
特許法70条における技術的範囲については、特許請求の範囲の解釈によって、侵害対象の物件が特許発明の技術的範囲に「属する」場合とそうでない場合がある。ここでの「属する」の否定形は、属しないと言うのか、属さないというのか、迷うところである。この用語につき、私の同僚であるK弁理士が調べてくれたので、ここに掲載する。 この用語であるが、「属する」は本来サ変動詞であるから「属しない」が正しいが、法令でもサ変と五段とで揺れている。
「法令に見られるサ変動詞の五段化・上一段化について」という論文が出ており、2001年から2011年までの全法令についてサ変動詞の変動を調べたところ、サ変形のみが使われる法令の割合は減少しているとのこと。
松田 謙次郎
神戸松蔭女子学院大学 言語科学研究所
法令に見られるサ変動詞の五段化・上一段化について: 2001年から 2011 年のデータ分析
裁判例では、例えば、プロダクト・バイ・プロセス発明の解釈:プラバスタチンNa事件 最高裁 平成24年(受)第1204号 平成27年6月5日 第二小法廷判決 では、「被上告人製品の製造方法は,少なくとも本件特許請求の範囲に記載されている「a)プラバスタチンの濃縮有機溶液を形成」することを含むものではないから,被上告人製品は,本件発明の技術的範囲に属しない。」とするなど、属しないを使用していることが多いようである。 一方、「属さない」については、最高裁判決(特許訴訟ではないが)でも「右行為がその職務行為に属さないことを知つていたか」(昭和49(オ)797)のように「属さない」も使われている。
他にも、法律ではなく省令だが、例えば意匠法施行規則別表第一備考には「この表の下欄に掲げる物品の区分のいずれにも属さない物品について意匠登録出願をするときは」のように、「属さない」を使用しているものがある。
また、「属する」のサ変の未然形は「し(-ない、-よう)、せ(-ず)、さ(-せる、-れる)」なので、五段活用の「属さず」はサ変では「属せず」となるが、やはり最高裁の判決に「右死亡退職金の受給権は相続財産に属さず」のような例があり、「五段活用」を使用しているものはいくらでもある。
なお、「属さない」には一点問題があって、五段活用の場合は終止形は「属す」となる(サ変では「属する」)。
したがって、正確には
サ変:「属する」、「属しない」、「属せず」
五段:「属す」、「属さない」、「属さず」
であるが、
通常は、「属する」、「属さない」、「属さず」というようにサ変と五段が混じっているのが実情のように思われる。
その点、法律の条文では、「属しない」と共に「属せず」が使用されており、多くの場合サ変に統一されている点ではすっきりしている。