まつりのあとは
#ぼく #制作物 #音楽 #映像
↓拙作のこの動画についての解説
https://youtu.be/COy06mKbwB8
背景事情
昨今の新型ウイルス蔓延の影響で,富山の地元の祭りは長らく開催を取りやめていた。そのせいか,年末年始などには実家に帰省しているにも拘らずホームシックのようなものを覚えており,最近ではYouTubeで祭りや囃子の動画を探し求めるようになった。首都圏暮らしの中で満員電車や道端のゴミ放置,窓サッシの断熱性の悪さなどに少しずつストレスを抱えていたのも原因かもしれない。以前テレビで地元の特集を見ていた父親からLINEで地元の話題を投げられた時,冗談半分で「地元で三味線でも習いたい」と呟いたことがあった。しかし父からは「ここには将来がない」と結構強めの忠告をされたので驚いた。
その後,この前の年末年始に実家に帰省したとき,夜中に父の車で送迎されながら窓の外を眺めていると,どこもかしこも住宅の照明がついていないせいで異様なほど暗くなっていたのに気づいた。父に尋ねると,都市部への人口流出が加速していて空き家が増えているという。自分が帰省で乗ってきた地方鉄道も,乗車率が低いので数年のうちに路線を縮小してしまうか最悪廃線になってしまうかもしれないという話も聞いた。実情を目の当たりにしたその時になって「ここには将来がない」と言う言葉が重くのしかかった。帰りの夜中の列車には自分を入れて十数人しか乗っておらず,窓から眺める景色もやはりオレンジ色の街灯以外には何もなく暗かった。そのかわりモケットで覆われた座席が暖房で温められていて座り心地が良かった。良くも悪くも首都圏では味わえない光景。
修士1年の冬。就活についても真剣に考えなければならない時期に,自分は迷っている。この状況を放置していては,幼い頃から聞き馴染んでいた民謡もやがては継承が絶たれてしまうかもしれない。しかし自分一人でその運命を食い止められるはずもない。自分は地元に何もしてやれず無力さを感じたまま,住みやすさに感けて都会で職に就くのだろうか。
日本風の音楽
日本民謡風の曲を作るにあたって,地元の民謡を何回も聞き直したり,「日本音楽らしさ」の正体を探しにインターネットや図書館などでいろいろ調べたりして,テトラコルド(小泉)や三分損益法などにたどり着いた。どうすれば日本音楽と西洋音楽の区別をつけたり,あるいは融合させたりできるかについて何となく分かった気がする。
また,「日本の童謡には暗い曲が多い」というよくある指摘に対して自分は今まで「それは日本人が西洋音階に親しみすぎたからなのでは?」というかなりやんわりした考察しか持っていなかったが,音楽史についてもサックリ調べているうちにヨナ抜き音階の誕生の経緯も絡んでいることが分かり,思わぬ収穫だった。
「日本風の西洋音楽」については以下の曲なども参考にした。というか影響を受けすぎたかもしれない。
吉俣良 / 大河ドラマ「篤姫」メインテーマ
川井憲次 / 長編アニメ映画「攻殻機動隊」サウンドトラック
千原英喜 / 混声合唱とピアノのための「良寛相聞」 - 手まり
椎名林檎 / 茎(STEM) 大名遊ビ編
松平頼則 / 盤渉調「越天楽」によるピアノのための主題と変奏
時ノ計劃 / 生れ世
樋口康雄 / キヤノン カラーステーション PIXEL Dio CM
また実際に曲の中で富山県各地の民謡のメロディ・楽器構成・歌詞・リズムなどを幾つかオマージュしている。
越中おわら節の胡弓の演奏。
https://youtu.be/yCxgCUZQyls
こきりこ節の打楽器構成とリズム。2つの連続した音符があるとき,こきりこ節で使われるリズムではこの2つの音の長さが同じでなく,かといって1つめが長く2つ目が短いという揺れ方でもなく,逆に1つ目は短く2つ目は長くタメている。スコットランド民謡にも Scotch Snap という似たリズムがあるが,日本の伝統音楽でこのようなリズムの取り方を何と呼ぶのか調べても見つからなかった。名前をわざわざつけないほどにごく基本的なリズムなのかもしれない。「まつりのあとは」では 2:3 の五連符リズムで近似させている。
https://youtu.be/ilsIy3K8stM
麦屋節に用いられる田舎節音階。下の動画では G-B♭-C と D-F-G の2つのテトラコルドを連結させた音階が用いられており,全体的な終止感は C にある。歌詞中の「麦の穂を揺らす唄の調」は麦屋節の暗喩でもある。
https://youtu.be/yVq9Y4XMVD4
「川の魚は瀬で眠る 鳥は遠くの巣へ帰る ひとりのぼくはどこへいこうか」は,江戸時代中期に作られた民謡集「山家鳥虫歌」の「鮎は瀬につく 鳥は木にとまる 人は情けの下に住む」というフレーズのオマージュ。地元の民謡には山家鳥虫歌からの歌詞の引用が多い。
↑公開一週間前までこの部分の歌詞が埋まらずかなり焦っていたが,結果何とかなった。
日本各地の伝統音楽に見られる七五調・都々逸の歌詞構成。
その他音楽理論的なこと
コード進行を考える時,理論的なことを一旦忘れて声部連結(コードを構成するそれぞれの音の移動方向)の滑らかさを重視すると,直感では思いつかないような非機能的で複雑なコード進行がそこそこ簡単に作れる。そのかわりSongleでの解析結果の訂正作業が面倒臭くなる。
コードの性格の要となる3度の音をコードから引っこ抜くと,明るいような暗いような,安定しているようなしていないような不思議な響きができあがる(→Chordioid)。
もとより三分損益法で調律した十二音音階では三度の音程が不協和音になるので避けられがち。
一方で4度または5度でコードの構成音を堆積させると東洋っぽさが出る。これも三分損益法により一番調和する音程が完全4度・5度だったため。
コードの上にさらにコードを乗せると,めちゃめちゃ刺激の強いコードになる。これを分数コードやポリコードと呼ぶ(スラッシュコード・onコードとは異なる)。曲の最後で $ \rm{\frac{F\triangle7}{E♭7}} とか $ \rm{\frac{A♭\triangle7}{A\triangle9(♯11)no3}}とかを鳴らしている。
サビの出だしのコード進行は俗にいう王道進行だが,典型的な Ⅳ△7→Ⅴ7→Ⅲm→Ⅵm ではなく,2番目のコードを Ⅳm△7(サブドミナントマイナー)や Ⅴ on Ⅳ に変えている。
低音が一つの音を長く伸ばしている間に上に重ねるコードを様々に変えると,ハーモニーに変化を出しつつも土台が固定されているため統一感を出せる。これをペダルポイントと呼ぶ。
幕前
幕前で冬の深夜の吹雪を演出しようと思ったけれど,後から見返したら音源とか黒画面とかのせいでかなり「2001年宇宙の旅」っぽくなってしまった。いつかリゲティのようなトーンクラスタリングを意識した曲も作ってみたい。
映像
制作時間確保の難しさもあったため,前作同様あまり力を入れすぎず,多少手を抜いてもある程度マシに見えるような映像制作をおこなった。
本当は街灯1本にするつもりだったが,それだと全てあなたの所為です。の「K²」とあまりにも絵面が似てしまうので急遽電柱に変えた。
また本当は全編3DCGにするつもりだったが,街灯を電柱に変えたことでモデリングが面倒になったためデジタルイラストに変更した(ただし降雪だけはBlenderで別に作成して電柱のイラストに重ねている)。デジタルイラストに関してはド素人なのでペイントソフトのブラシの正しい選び方や使い方が未だに分からない。
晴れの日の冬の地元は空気がよく澄んでいて,かなり遠くの雪山まで驚くほどクッキリ見える。
↓これが実際に動画で使った雪山のイラスト。Googleの画像検索でひたすら山の画像を探して,見よう見まねで描いた。近くで見たら意外に雑でしょ。
https://scrapbox.io/files/6415b0f0e5996e001befb726.png
(非営利での使用に限り自由にお使いいただけます。需要ないと思うけど)
締切
とりあえずQuatschやVesselのようにボカコレ直前にMVが完成していないという事態に陥らなかっただけ良かった。