書くことについてのノート
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というのも、本は、一つ一つが「世界」で、優越がつけられないはずなのに、私にとってはいつのまにか部数や知名度やファンの数や賞受賞や印税で食べているかどうかなどでランキング化される世界のようになってしまったからです。書くことについてのノート太田明日香p.2 書くこと、著者になることは、1つの世界を作ることだけど、もう一方で、商品になることでもあります。「本はお金じゃない」というふうに本を一種の文化的価値を伝えるもの、商品ではないものという捉え方もありますが、私はそれは一面的だと思います。出版物が我々庶民でも買えるのは、印刷技術、製紙技術、全国に安価に配送できる流通システムによって大量部数印刷できるようになったがゆえに、廉価に抑えられているからです。書くことについてのノート太田明日香p.4 では書き手にとっての幸せとはいったいなんでしょう。書き手にとっての幸せの一つは精神的成長です。書くことは自分の有限性を教えてくれます。自分の限界を知りその中で精一杯やることが一種の精神的な成長だとしたら、書くことはおおいにそれを教えてくれるでしょう。リミットに挑戦しそれを超えるだけが成長ではないのです。成長にもいろいろな形があります。書くことによって、自分の限界を知り、諦め、自分の手の届く範囲を知ることで人は成長できます。それは大きな喜びをもたらしてくれるでしょう。書くことについてのノート太田明日香pp.11,2 これまで私は書くというのは神聖な行為であり、それをやるには特別にならなければいけないというようなイメージがありました。だから楽しんで書いたり、楽をして書いたりしてはいけないように思っていたのです。 書くことについての思い込みは他にもありました。長時間かけないといいものはできない、机の前に座ってきちんと書かなければならない、推敲すれば推敲するほどいいものができる、などなど。だけど、自分の状況はそういうことを許しませんでした。いくつも仕事を抱える中で細切れの時間しか取れません。書く時間が取れないことも書くことが楽しくない理由の一つでした。 印税や原稿料だけで生活できるようになって、まとまって書ける時間を取れるようにならないと一人前になれない、と焦っていました。他にいくつも仕事をしながら、細切れの時間の中で書いている自分の現状をダメだと思っていたのです。
これまで、様々なノウハウ本や文章術を読んできました。しかし、私に欠けていたのはノウハウよりもまず「自分にとっての面白く楽に書ける方法で書く」という視点でした。書くことについてのノート太田明日香p.20 私の理想の怒り方は『違国日記』の主人公の高台槙生です。感情的になることなく、怒る理由を理路整然と説明して怒っています。怒り方にもし正しい正しくないがあるなら、あれが正しい怒り方だと思います。しかし、あんなふうにはできません。地団駄を踏み、大声を出し、早口になって、姉妹にうまく話せず泣いてしまいます。 だから、正しく怒れないなら怒らないほうがマシだと思ってしまいます。しかし世間を見るとどうも違うようです。多くの人は感情的に、理不尽に、そんな小さなことでと思うことで怒っています。周りを見ると理路整然と怒りをコントロールしながら正しく怒っている人など少数派です。それも理不尽だと思います。なぜ私は正しく怒れないと怒ってはいけないと思っているのに、あなたたちはそんなに簡単に怒るのだとモヤモヤします。
“もう一つの世界“があれば楽になれると思っていたけど、それは間違いでした。多分人が作った“もう一つの世界“があったところで、私はまたそこで“私は違う“と頑張ってしまうと思います。私は結局“私は違う“を降りない限り楽にはなれない。私はこれから私なりの降り方を模索していきたいです。書くことについてのノート太田明日香p.40 本というのは不思議なものでどんな作品でも本にしたら必ず読者が現れます。『メタモルフォーゼの縁側』で主人公がコミケで初めて自分の描いた漫画が売れたシーンがありました。本の形になっている限り誰かしら手に取ってくれる人はいます。作家にとって読者がいると信じられないことが、一番悲しいことかもしれません。書くことについてのノート太田明日香p.50 読者の反応を知りたいとか、本当に自分は必要とされているのかとか知りたくなりますが、反応を求めることにあまり夢中にならないほうがいいと思います。本になれば誰かしら読む人がいるのです。そしてそれはすぐには現れないものなのです。それくらいの悠長さで構えていたほうが気楽に長続きできます。出版社は会社なので採算が必要とされるし、商業作家なら生活がかかってきます。だけど、インディペンデントでやるなら、そこに汲々としていると売れるものも売れなくなってしまうような気がします。 インディペンデントの出版物を読みたい人は商業にはない初期衝動や独自の視点を求めているのではないでしょうか。つまり、二匹目のドジョウをねらう必要もないし、誰かの真似をする必要もありません。自分のものを読みたい読者がいることを信じればいいのです。[]のです。書き続ければ、読み続けてくれる人が出てきます。そして、読者の存在を信じるためには、書くしかありません。書くことについてのノート太田明日香pp.51,2