エンドルフィン
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二〇一七年、アメリカでは約一七〇〇万人が、 処方箋がないと買えないオピオイド薬の依存症となり (ヘロイン常用者数の三倍以上だ)、 この年、オピオイド薬の過剰摂取で命を落としたとされる人は四万七〇〇〇人を上回った。こういった人工のオピオイドとエンドルフィンの化学構造の違いはわずかだが、 私たちを依存症にするかしないかという点ではその違いは極めて大きい。 とはいえ、 エンドルフィンに精神的に依存することはあり、 それが、アルコールやセックス依存症の理由の一つになっている。なぜならアルコールもセックスも、エンドルフィン系を活性化させる非常に強力な引き金になるからだ。なぜ私たちは友だちをつくるのか ロビン・ダンバー 165ページ けれど同時に、スキンシップは反対の作用を及ぼすこともある。 その理由もまた、触れることがごく親密な行為だからだろう。 だからこそ、 この人には触れられたいが、 あの人に触れられるのは嫌、といった状況も生まれる。この両面性がときに頭痛の種となり、 自分がどちらのカテゴリーにいるか、すなわち触ったら喜ばれるのか、嫌がられるのかの判断がつかずに困ることもある。 自分は親しみを込めてあなたを撫でたいが、あなたは私に撫でられたくない、という状況も起こりえる。なぜ私たちは友だちをつくるのか ロビン・ダンバー・159ページ 私たちは被験者を原則、男性に限ることにした。 女性よりも社会性が低いとされる男性でこのメカニズムが機能するなら、 その結果は男女両方にあてはまると言えるからだ。 ヌメンマーは男性のボランティアにスキャナーに入ってもらうと、彼らの女性のパートナーたちに相手の胴体を優しく撫でてもらった。 パートナーたちには、撫でる場所は肩から下、ベルトから上に限るようしっかり言い含めた。 その後、スキャナーでの撮影が終わると、被験者たちには実験に対する心理的、 感情的反応についてアンケートに答えてもらったが、 性的な反応や興奮を報告した人はいなかった。 しかし脳の断層画像を見ると、パートナーに撫でられたあとの彼らの脳は、もう大変なことになっていた。 エンドルフィンが盛大に放出され、 脳全体の受容体がむさぼるようにそれを取り込んでいたのだ。なぜ私たちは友だちをつくるのか ロビン・ダンバー 172ページ また、バリー・ケヴァーヌがサルで行った実験のヒト版とも言える実験を実施したトリステン・イナガキとナオミ・アイゼンバーガーは、四日間ナルトレキソン (これもエンドルフィン阻害薬だ)を服用したあとの被験者は、四日間プラセボ (薬理学的にニュートラルな砂糖の錠剤)を服用したときと比べて、 社会的なつながりに関する自己評価が低いことを明らかにした。 つまりエンドルフィンは、 社会とつながっている、と感じる私たちの感覚に直接影響を及ぼすのだ。なぜ私たちは友だちをつくるのか ロビン・ダンバー 172ページ そして、疑いようのない明確な結果が出た。 それまでは、恋愛関係の質(特に、 浮気性の度合い)を予測するのに最も有効な判断材料は、その人が持つオキシトシン受容体の遺伝子とされていたが、エンドルフィン受容体遺伝子を操作すると、いくつかのケースでその強力な相関関係が低下したのだ。 つまり、オキシトシンの効果と思われてきたものの一部は、エンドルフィンの効果だったようなのだ。 いっぽうエンドルフィンの受容体遺伝子は、愛着スタイル (人間関係であなたがどのぐらい温かいか、冷たいか)や他者への共感性などの社会性に関する指標に圧倒的な影響を与えていたほか、 恋愛関係にも有意な影響を与えていた。 ドーパミンが最も強い効果を発揮したのは社会ネットワークのレベル (指標は親しい友人の数や地域のコミュニティへの関与など)、 ここにはエンドルフィン系もドーパミンほどではないが影響を与えていた。 そのほかの三つの神経化学物質(テストステロン、 バソプレッシン、セロトニン)は、 どのレベルにおいても大きな効果は見られなかった。 つまり、私たちが実社会と向き合うときに中心的な役割を果たすのは、エンドルフィン-ドーパミン系らしく、オキシトシンが関与するのは恋人同士の関係だけということだ。なぜ私たちは友だちをつくるのか ロビン・ダンバー・180ページ