先行研究から見たQNKSの優位性(文章産出)
以上のように、QNKSは何周も回転させるということを前提にみると、このモデルが示す認知過程を基本的には踏襲していることがわかる。しかし、まだモデルの中で言及していなかった「文章産出過程」の「モニター」に関しては、QNKSに優位性があると考えている。文章産出過程のモニターとは、自身の文章産出過程をメタ認知しながらコントロールすることを表しているが、このモデルでは基本的にそのモニター的認知は脳内でやることとなっている。しかし自身の文章産出過程を一つ高い視点から自覚的に進行させるというメタ認知的な活動は非常に認知不可が高い。これを小学生にやらせようと思えばなおさらである。その点、QNKSでは各過程で表出すべき図的表現を明確に提示し、子どもたちはそれらを逐一外化しながら過程をすすめるというデザインとなっている。これはフラワーのモデルにおける「モニター」を非常によく補助しうる。思考の外化は自己モニタリングに有効であることは多くの研究から示されているとおりである。
モデルの #使いやすさ
また、小学校での運用を考えた時QNKSという概念には、もう一点、フラワーのモデルより優れた点がある。それが「モデルの使いやすさ」である。フラワーが示した()のモデルを小学生に見せるだけで子どもたちの文章産出活動が活性化するとは考えにくい。これはあくまで学術的に明らかにされた認知プロセスであり、小学生に伝わりやすいように構築する、といった意図はないので当然である。しかし小学校での運用を考えると、これは避けては通れない。その点において、QNKSは「問いを立て、(情報を)抜き出し、組み立て、整理する」と、小学生でもわかる用語で構成されているので、各過程の表象を更新させるには次に何をすればよいのか、ということが容易にわかるようになっている。かつ、上で述べたとおり、抜き出した結果どのような構造で表出すればよいのかという点についても各過程に対応した図的表現を示しているため、小学生でも自身の文章産出過程を一つずつすすめることができる。
またその名称も使いやすさに一役買っている。フラワーのモデルは“”という名称であるが、これは単純にそのモデルが文章産出過程を図解したモデルであるということを示す名称である。それに対してQNKSという名称は、認知プロセスをすすめるためにやるべきことの頭文字をとって配列しているので、その名称には、認知プロセスの進め方という情報も含ませることができている。「使いやすさ」を考えた時、これは非常に有効な性質となりえる。子どもたちが文章産出過程=QNKSと暗記すると、それはそのまま文章産出過程では何をすればよいのかという情報も同時に暗記できてしまっているのである。
そして各過程の頭文字をとった名称はそのまま教室内の共通言語となる。具体的には「Qはなんだっけ?」「Nが足りない」「友達のKを見せてもらおう」など、文章産出の各過程を短く言い表しながら対話したり、個人思考をすすめたりすることができるのである。このような性質はフラワーのモデルにはない。
まとめ
QNKSとは基本的には先行研究が明らかにしてきた認知プロセスを踏襲しつつ、名称を平易かつ機能的し、各過程を表す図的表現を具体的に示すことで、文章産出の入門期である小学校段階における児童でも使えるように再編集したものであるといえる。こうしたアプローチをすることでこれまでの学術的な成果が、現場レベルで再現可能となるという理論と実践の融合を目指しうると考えている。
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よって、このモデルを学校現場で実際に運用し、その効果を測ることにする。