定例会ハギス事件
一年間の掉尾を飾る12月の定例会は多くの会員が集まり、女王の庭亭のいつもの部屋だけでは足りず他の部屋にまであふれていた。 今日は12月25日の金曜日。クリスマスということもあり、和やかな雰囲気であった。しかし、クリスマス・プディングが振舞われた時のことである。用意されたクリスマス・プディングはいつもと違う雰囲気を醸し出していた。 会長のデイビッド・クラークは、今回のクリスマス・プディングはスコットランド風であると宣言して、階下へ降りていってしまった。クリストファー・ローマンがスコットランドからつれてきたコックが、朝から厨房に入っているのをみた何人かの会員は、きっとそれと関係しているのだろうと考えていた。そういえば、そのローマンも姿が見えなかった。さっきまでは、ある会員の自作詩を酷評していたのだが。 クリスマス・プディングは大きなものがいくつかあり、それぞれにクリームやマーマレードが添えられていた。マーマレードはダンディーの名産である。確かにスコットランド風といえよう。 最初のいくつかは、普通のクリスマス・プディングであった。アリスが6ペンス硬貨にナイフを当てたことも含めて。 問題は、特に大きな一つを切り分けようとしたときであった。どこからかバグパイプの音が聞こえてきた。アリスは気がつかずに、そのままナイフを入れた。
それは、他のプディングとは違う一面、いや断面を見せた。つぶつぶと肉の様なものが見えている。
ハギスだ!確かにスコットランド風だ!
バグパイプの音はまだ続いていた。クラークがこのときのために楽団を呼んでいたようだ。バグパイプは、クリスマスソングを奏でている。
長老派はいつからクリスマスを容認したんだ。
いや、かれらはフリーチャーチだろう。
自分たちでクリスマスをやらないからここにいるんだよ。
ざわめきの中で、会長のキャプテン・クラークとバグパイプを演奏する3人の男たちが姿を見せた。タータンの入ったキルトを着ている。その後ろからローマンとケイト・ハーンも姿を見せた。 「たまには、こういうのもいいだろうう。冒険とは日常の中にあらわれる現象だからね。
最後のプディングは、ハギス風になっている。ここにいるケイトが作ってくれたものだ。生きたハギスをさばくところも初めて見た。インドでは虎をさばいたこともあるがね」 歴戦の会長の言葉に賛同する者は少なく、反感の声はバグパイプの音もかき消した。
「ハギスとは!それは日常的というよりも大冒険。必死の挑戦ではないか」
「こんな無謀なことは会が始って以来だ」
「保険はきくのかな」
「遺言書を書き換えないと」
「これはなんだ」
「ローマンは食べないのか」
「胃弱にはだめだと医者に止められている」
「そんなものを人に出すな」
「いや、意外とうまいな」
「そんな馬鹿なことがあるか」
「そっちの普通のをくれよ」
「もう食べちゃったよ」
「痛てっ!ハギスの中から5シリング硬貨が出てきたぞ」
「じゃあ、俺にくれ。馬鹿っ!硬貨の方だよ」
喧騒の中、倶楽部の夜はいつものように更けていく。
/icons/hr.icon