言語の本質
記号接地問題
筆者の研究
秋田氏 : オノマトペがいかに言語的な特徴をもつか
今井氏 : 認知科学、発達心理学の立場から、言語と身体のかかわりを研究
1 章
オノマトペ
感覚を写し取るとはどういうことか?
感覚を写し取っているはずのオノマトペが、非母語話者には難しい
オノマトペはアイコン
オノマトペが注目される理由のひとつがアイコン性
視覚的なアイコンと違い、音声のアイコンは情報量が少ないため、換喩 (メトミニー) による連想で補うことになる
換喩的思考ができるからこそオノマトペを発達させられた
オノマトペが物事の一部しか写せないのは、オノマトペが言語であるため
2 章
音のアイコン性は音象徴 (sound symbolism) と呼ばれる
例えば清濁
子音の n で始まるのは滑らかさなど
ぬるっ、にょろにょろ、ねばねば、など
母音の a は大きく、i は小さいイメージ
ぱん、と、ぴん、など
口の開き具合に関係していそう
子音は 2 種類
阻害音 : 角張っていて硬い響き
共鳴音 : 丸っこい柔らかい響き
音象徴は赤ちゃんや難聴者にも共有されうる
マルチモーダル性なコミュニケーション手段
脳はオノマトペを環境音と言語音として二重処理する
音象徴に言語差が生じる大きな理由は音韻体系の言語差
日本語のハ行、パ行、バ行の関係は世界的には特殊
パとバは唇が閉じて、濁るかどうかの違い
ハは肺からの呼気を唇で止めない
元々パ行が使われていたが、奈良時代に 「ふぁふぃふふぇふぉ」 になり、江戸時代にハ行になった
タ行のちとつも歴史的な変化
奈良時代には「てぃ」と「とぅ」だった
私たちが音象徴を利用してオノマトペを作り出す能力は、言語の進化に通じる
3 章 オノマトペは言語か
オノマトペは言語
一般語との違いより共通点が多い
言語の十大原則
ゆる言語ラジオ
2000 年代以降、「言語は恣意的でなければならない」 というソシュール・ホケットの考えに反対する考えも表明されてきている
言語の恣意性というゴールドスタンダードが揺らいでいる
言語が身体に繋がっていることを示す実証データが蓄積されてきている → 言語は身体的であるという理論が受け入れられるように
4 章 子どもの言語習得 1 ―― オノマトペ編
言語の習得と進化の問題という本書の本丸に向けて、子どもたちの言語習得の過程におけるオノマトペの働きを考える
子ども向けの絵本にはオノマトペが溢れている
『もこ もこもこ』
『しろくまちゃんのほっとけーき』
『まいごのたまご』
より年齢の低い子どもにはオノマトペがより多く使われがち
オノマトペだけで表現される段階から始まり、オノマトペを補助的に使う段階 (オノマトペが意味の推論を助ける) へ
N400 と呼ばれる脳の反応
音声の刺激と視覚の刺激のずれ
赤ちゃんは、モノに名前がつけられていることをどう理解するのか
ヘレン・ケラーの逸話、名づけの洞察
ガヴァガーイ問題
オノマトペは言語学習の足場
言語を学ぶというのは、単に単語の音と単語が表す対象の対応付けを覚えるだけではなく、言語を成り立たせる仕組みを発見し、その仕組みで自分で意味を作っていく方法を覚えること
オノマトペは、子どもに言語への興味を掻き立て、言語の性質を学ばせる
言語習得において、オノマトペは、子どもに言語の大局観を与える役割
5 章 言語の進化
音に意味のない普通の言葉、互いに関係ある巨大なシステムという言語をどう習得するのか?
オノマトペの性質や役割を明らかにしたいという筆者らの探求は、言語習得、言語進化を考えることに変わり、やがて言語の本質を目指すように
本章は、言語進化の過程で、多くの言葉のオノマトペ性が薄まり、語彙の大部分が恣意的な記号の体系になったのか?
言語の身体性
オノマトペが言語固有だったり地域固有なのはなぜか
言語はなぜオノマトペから離れたのか
オノマトペが一般語より多い言語はない
言語習得と言語進化の研究分野で注目されているのがニカラグア手話
もともと国の汎用的な手話はなかった
1970 年代からろうの子どもたちの教育環境が整えられ始め、自然発生的に学校手話が生まれた
ニカラグア手話の始まりから数世代の変化
アナログからデジタルへの変化
要素への分割と要素同士の再結合
オノマトペがアイコン性を薄める要因
意味の抽象化
多義性
隠喩 (メタファー) や換喩 (メトニミー)
ことばの経済性だけでなく、想像によって意味を派生させようとする志向性 → 新しい意味を創り出そうとする
ぱおんの例
なぜすべてがオノマトペではないのか
論理的関係を表すオノマトペを持つ言語は見つかっていない
知覚できるものがオノマトペになりうる
日本語のオノマトペは主に副詞的に使われる
アイコン性と体系性を両立しやすい
レナード・タルミーによる言語の大別
動詞枠づけ言語 : 動詞本体で動きの方向が表される
どのように動くか (様態) の区別は述語以外になりがち
衛生枠づけ言語
英語など
もともとオノマトペだったものが動詞として文構造の中核に取り込まれたという仮説
オノマトペが持つアイコン性は 2 種類
ことばを覚える前の赤ちゃんでも似ていると感じるもの
解釈によって生まれる類似性
文化的背景など、多様な基準
アイコン性の輪仮説
英語の語彙について、アイコン性と恣意性が周期的に高くなったり低くなったりしている
日本語でも同様に、副詞系と動詞系が栄枯盛衰
6 章 子どもの言語習得 2
ことばの意味は点ではなく面 (広がりがある)
言葉が指す典型的な対象を知っていることは、言葉の意味を本当に知っていることにはならない
例えば消防車の色を 「ルチ」 という言語があったとして、みかんの色がルチかどうかはわからない
面の範囲は同じ概念領域の他の単語との関係によって決まる
子どもは一般化の誤りをしばしば犯す
「開ける」 は多くの子どもが過剰一般化することで有名
open も
中国語ではなんでも開で正解
ほとんど知識を持たない赤ちゃんが言語の仕組みをどのように学ぶのか
7 章 ヒトと動物を分かつもの
名前は、形式と対象の間の双方向の関係から成り立つ
チンパンジーのアイは、訓練付けられた方向での対応付けしかできない
「対象 → 記号」 の対応付けを学習したときに 「記号 → 対象」 の対応付けも学習するのは自然なようだが、論理的には正しくない過剰一般化
後件肯定の誤謬
対称性推論はアブダクション推論と深い関係
動物がアブダクション推論をする証拠はない
ベルベットモンキーは、天敵の蛇が砂地の上に跡を残すことを見たとしても、砂地の跡から蛇の存在を推測しない
25 年間の対称性研究
どんな研究でも、動物が対称性推論をすることは確認できず
アシカに対する研究だけグレー
チンパンジーの中には例外的に対称性推論をできる個体もいる
相互排他性推論を特異的に行う個体も
対称性推論を自然に行うことが種として言語を持つことを決定づけるという仮説
8 ヶ月の赤ちゃんが対称性推論をする実験結果
不確実性への対処のためにアブダクション推論が必要だったのではないか
間違うかもしれないけどそこそこうまくいく
終章 言語の本質
オノマトペの研究をする中で、オノマトペ言語起源説を真剣に考えるように
現代の言語にオノマトペが少数な理由を考える中で記号接地問題に注目
子どもがどのように言語を学ぶのか?
ブートストラッピング・サイクル
知覚経験から知識を創造し、作った知識を使ってさらに知識を急速に成長させていく学習力
これを駆動するのは、論理を正しく推論する力ではなく、想像力や仮説設定をするような人間の思考スタイル
アブダクション (アブダクション推論)
2023 年現在、人工知能 (AI) の進化には目を見張るものがある
現在のニューラルネット型 AI は記号接地していない
人間も記号接地せずに言語や数学の概念などを学べるのか?
数学的な概念を接地できていない児童が多くいる
記号接地できていないと、腑に落ちた理解には至らない
アブダクション推論は新たな知を生み出す推論
言語の大原則
あとがき
言語理論、オノマトペ論