刑法175条の批判的検討
言及している議員のリスト
基準が曖昧であり、「刑罰」として相応しくない
時代が変われば芸術性や思想性などの価値が、わいせつ性によって侵害される保護法益よりも大きいと判断されることはよくあることで、実際、無修正の「チャタレー夫人の恋人」も「四畳半襖の下張り」も、現在では紙の書籍や電子書籍として合法的に入手可能となっています。このような移ろいやすい抽象的なモノを刑罰で絶対的に保護しようとすることは、社会でもっとも強力な制裁である刑罰の使い方として妥当かどうかは問題だと思われます。
取り締まる側の判断でわいせつかどうかが決まり、それを検挙するかどうかについても取り締まる側の裁量の余地が大きいものを犯罪として残すことにも問題はあります。
問題となった作品と同程度の他の作品が、書店やレンタルビデオ店などで一定期間検挙されずに、多数出回っているような事情があったとしても、裁判所は、そのことからわいせつ性が否定されたり、提供側の犯意が否定されたりする理由とはならないともしています(東京高裁昭和54年6月27日判決)
人の性欲を刺激し、興奮させることのどこが、また、なぜ問題なのでしょうか。
露骨な性表現が多くの人びとに不快感を与え、見たくもない人が性器の描写を見せられたりすることは、その人の感情や自尊心を傷つけることは間違いありません。しかし、裁判所は、そのような個人の感情的被害を刑法175条で問題にしているのではありません(そうならば、見たい人に見せるのは構わないということになります)。およそこの日本の社会において、性器や性行為の露骨で直接的な表現物が流通しているということを問題としているのです。つまり、そのようなものがこの社会に存在していることじたいについて、不快感や嫌悪感をもつ人びとの仮想的な感情を問題にしているのです。
(略)
動物虐待行為を直接具体的に表現した表現物については、都道府県の青少年健全育成条例などで未成年への販売等が規制されている場合のほか、刑法的には何ら禁止されていません。性についても、(略)男女の性交以外の性的行為については、〈商品としての性〉に不快感をもつ人は多いにもかかわらず、一定の条件の下で〈性風俗特殊営業〉として合法化されているのです。
このような現状から考えると、たとえ性器や性行為を直接表現してものであっても、それについての不快感や嫌悪感を抱く人びとの感情を優先して、刑罰によって性表現を禁圧することは合理性のあることだとは思われません
(強調は引用者による)
筆者自身は、刑法175条はもう廃止して、差別・虐待を煽るような性表現を対象とする新たな規制を作り直すのが理にかなった道だと考えている。刑法175条そのものの憲法適合性について、裁判所が取り上げようとしないならば、社会で、本格的な議論が必要になってきたと思っている。 ↓参考のため、そのあたりの論点を筆者なりに整理したインタビュー記事を挙げる。
刑事訴訟法では、二審までの判決(原判決という)に憲法違反があった、または憲法解釈が間違っていた、という場合(405条)に、最高裁に上告できる、となっている。今回の最高裁判決は、そこを認める余地はない、と言い切っている。また、最高裁が原判決を破棄しなければ著しく正義に反する場合(411条)にも当たらない、とわざわざ言っている。 争点
(1)刑法175条は表現の自由を不当に制約しており、法令として憲法21条に違反しているのではないか。 (2)刑法175条にいうわいせつの概念は、漠然不明確であるため刑罰法規としては憲法上要求される適正性を欠いているのではないか。
(3)刑法175条は法令として合憲であるとしても、本件の表現物は、これまでの判例に照らすと、本条にいう「わいせつ」に該当しないはずではないか。
(1)の点について、最高裁判所は、1957年の「チャタレー判決」以来、「最小限度の道徳」を維持するという立法目的を正当と認めて、刑法175条を憲法違反とする可能性を認めてこなかった。
わいせつな表現をする権利は、どのような権利と衝突すると考えられているのでしょうか。最高裁の判例は、それが「性的秩序を守り、最小限度の性道徳を維持すること」だと述べ、表現の自由を制約し得る公共の福祉の一部であると判示しています。ここでそのような「性的道徳の維持」が「公共の福祉」に含まれることを認めれば、やはり刑法175条は合憲となります。従って、違憲論を展開するためには「性的道徳の維持は公共の福祉ではない」という主張を行なう必要があります。 実際に見込みのありそうな違憲論はこの方向性です。「公共の福祉」の理解についてはさまざまな学説がありますが、有力なのはやはり、個人の自由が対立したときの調整原理である、というものです。そう解釈すれば、ある人のわいせつ観を別の人が強要されないようにする規制(入手手段や頒布場所の規制)は正当化できても、ある特定のわいせつ観を全国民に強要するような規制(刑法175条)は違憲であると言えるからです。
その一方、さすがに最高裁も「通常の判断能力を有する一般人」が「具体的な場合に」処罰の対象になるかどうかを判断できないような条文は違憲である、という見解を示していますが、同時に刑法175条の文言は不明確ではないという判断も、明確に下しました。
どの判例?
従って、現段階で明確性の理論による違憲を主張するためには、一旦下された判断を覆すほどの材料が必要になることを認識しておく必要があるでしょう。
(2)の点も、裁判所は退けている。とくに今回の最高裁判決は、この点の主張を真っ向から否定しているように読める。
起訴の対象となった表現が175条に該当するかどうかの判断だけが、裁判所が取り上げる争点として生き残ってきた。
1980年の「四畳半襖の下張」事件判決では、作品の芸術性・思想性を総合してみたときに作品を「わいせつ」ではないとする場合もあるとする考え方が示された。
2021/03/29 記事がログミーから消えていた
Web魚拓軽のサービスなどからも復旧はできなかったので失われた
言論系のサービスで数年で記事が消えてしまうのはとても困る
金出して良いのでアクセスする仕組みを用意して欲しい
写真的にこのロフトの対談のようだ
恥部を見せるべきかという問題について、「もうそろそろ日本も修正なしでみなさまにご案内する時代にきてるんじゃないですかね」と問う村西に対し、6年間の米国滞在経験がある丸山も「向こうは丸見えなんですね。それで日本に帰ってきたらあのモザイクがね、あれチカチカして目に良くないんですよ。健康増進という観点からも福祉に反する。おかげで最近私も目が悪くて(笑)」と、冗談めかしつつも村西に理解を示した。
丸山「日本は本音と建前の社会。本当のことはストレートには表現せずボカシてしまうという文化が、あのモザイクにも影響を与えているのではないですかね。いろんな価値観、考えの方がいるので一概には言えないが、監督がおっしゃるように私個人の意見としては、あんなものはまったく必要ないし、目の健康にも悪い(笑)」
村西「エロティシズムの究極とは生と死。それを追求していく表現の中にアダルトビデオというものも一つあるんではないか思うんです。それを認めてしかるべきというのは当然のこと。ネットの世界では無修正サイトで1000億近い金が脱法集団によって海外に流出している。これでは日本の国力にとっても問題なのではないですか。18歳未満にはぜったい見せないシステムを作った上で解禁した方が、日本の財政のためにも良いのではないですか?」
国内で合法的に無修正サイトが運営できるよう法改正をして欲しいと説く村西に、丸山も「これを必ずやりますとヤスウケアイする政治家はだいたい偽物ですからね〜(笑)。そんなに簡単にいかないことは私もわかってるんですよ。だけど、芸術表現の保護のためにできることはやっていきたい」と応じ、村西と熱い握手を交わして会場を後にした。
@okotatsudoragon: 刑法175条のアダルト作品の修正について。社会法益から個人法益に変えていくことで、非実在2次元や本人同意の性器の無修正表現が違法とならないよう警察や関係各所とネゴシエーション中とのこと。リアル未成年、本人非同意、青少年の視聴は引き続き違法の方向。#山田太郎のメディアフォーラム pic.twitter.com/9wCPU5a72N どういう質問への回答なのかわからなかった基素.icon
174条との兼ね合い
質問は2022/10/27に諸派党構想・政治版を経由し法務省と警察庁に提出され、本日11/12に回答されました。
明確な基準は示せない
法務省解答は今までの見解と変わらない
判例が示した「わいせつ」の意義の諸要素について、具体例や基準などをお示しすることはできかねますが、同条の適用に当たっては、個別具体的な事案において、捜査機関が収集した証拠に基づき、特定の文書、図画その他の物が「わいせつ」であるか否かが判断されるべきものと考えています。
保護法益の調査結果は存在しないと読んでいる
質問
3.四畳半襖の下張事件の控訴審判決(昭和51(う)1126)時点では、わいせつ物の頒布が性的秩序や性道徳を害することを示す調査結果は見当たらないことが示されています。これを踏まえ、以下3.1から3.2への回答をお願い致します。
3.1 現在、わいせつ物の頒布が性的秩序や性道徳を害することを示す調査結果は存在しますか。もし存在する場合、それを国民が参照することは可能ですか。参照可能な場合、どこで参照できますか。
3.2 頒布することで性的秩序や性道徳を害することが明確であると示された表現物は存在しますか。もし存在する場合、それを国民が参照することは可能ですか。参照可能な場合、どこで参照できますか。
法務省の回答
お尋ねの「わいせつ物の頒布が性的秩序や性道徳を害することを示す調査結果」や「頒布することで性的秩序や性道徳を害することが明確であると示された表現物」に該当するのかは分かりませんが、刑法第175条のわいせつな文書等に当たるとの判断が示された判例として、例えば、以下のものが裁判所ウェブサイトに掲載されています。