経営戦略
「『環境の機会と脅威に対応して、自社の強みと弱みを、時間展開の中でマッチングさせていくパターン』というような抽象的な言葉のレベルでは、強調点の相違がある程度存在するにせよ、それほど議論が分かれることはない。しかし、具体的なレベルに下りようとすると、(中略)見解が多岐に分かれていく」
企業が実現したいと考える目標と、それを実現させるための道筋を、外部環境と内部資源とを関連づけて描いた、将来にわたる見取り図
構想の展開
パターン
過去から現在 勝ちパターン、定石
プランニング
現在から未来 計画、ヴィジョン、ブループリント
具体的方法
静的
ポジショニング
STP
パースペクティブ
動的
プロイ
競合や市場との相互作用や、突発現象
リアルオプション
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Strategy as Practiceの現状と課題,そしてその可能性
経営戦略論の歴史
アプローチの歴史
1960年 プランニングアプローチ
1970年 ポリシーアプローチ
1980年 プロセスアプローチ
経営戦略論
経営戦略論は、企業戦略や事業戦略を分析する経営額の中心的な研究領域であり、1960年代に誕生した比較的新しい理論である。経営戦略とは、急速に変化する環境を企業がどのように管理するかということに関わるものであり、有利な企業戦略を策定するためには、企業は自らの社会における使命や目標を設定し、活動対象となる市場を定めなければならない。
経営戦略論では、70年代後半までは、企業の多角化や士業への資源分配の決定という問題が主に取りあげられていたが、70年代後半から80年代には、個々の事業分野の競争を扱う競争戦略論が盛んに議論されるようになった。
理論的にはじめて経営戦略という概念を用いたチャンドラー(A.D.Chandler, Jr.)は、経営戦略を企業の長期的な発展と存続に関わる決定ととらえ、企業の多角化戦略の採用と事業部制という組織構造について検討している
経営戦略の研究を本格的に展開したアンゾフ(H.I.Ansoff)は、企業の意思決定を、戦略的決定、管理的決定、業務的決定に分類し、戦略的決定と多角化の問題を議論している
1970年代に入ると多角化の研究は、どの事業に多角化するかに加えて、多角化した事業をいかに管理するか、多角化した事業をいかに資源分配するかという意思決定を取り扱う分析手法の確立を促した。
1970年代後半以降、経営戦略論の研究対象として、企業全体を対象とする企業戦略に加えて、特定の事業を対象とする事業戦略が問題とされるようになり、各事業における競争戦略の確立が志向された。代表的論者であるポーター(M.E.Porter)は、市場の競争状態を決定する要因として、新規業者の参入、代替品の脅威、買い手の交渉力、売り手の交渉力、競争業者間の停滞関係をあげ、これらの圧力によって市場の競争パターンや業界の収益性が決定されるとし(Porter, 1980)。
基本的な戦略として、コスト・リーダーシップ戦略、差別化戦略、焦点化(ニッチ)戦略をあげた。
コスト・リーダーシップ戦略とは、競合する企業よりも低いコストで製品やサービスを顧客に提供することから競争力の維持を目指すものであり、差別化戦略とは、顧客が競合相手の製品やサービスよりも高い価値を認める製品やサービスを供給することによって競争上の優位性を獲得しようとするものである。これに対して焦点化戦略とは、競争する市場を絞り込んで、そこでの収益性の確保を目指すものである。
ポーターは1980年代に競争戦略論を確立した。
ポーターは、これらの戦略の選択や実行を分析するために価値連鎖という概念を導入した(Porter, 1985)。価値連鎖とは、企業が提供する製品やサービスの価値が、購買物流、製造、出荷物流、販売・マーケティング、サービスという5つの主活動それぞれにおいて付加されていくものであることを表す概念であり、それらの活動は、全般管理、人事・労務管理、技術開発、調達活動という4つの支援活動によってその実施が可能となる。そして競争優位は、個々の主活動ならびに支援活動やそれらの相互連結関係を最適化あるいは調整することから生み出される。
『競争優位の戦略』 邦訳1985 初出1985 competitive advantage ポジショニング・ビュー
ポーターは、ビュー産業組織論的視点から市場におけるポジショニング(陣取り)が競争優位を導くとするポジショニング・ビューを確立したとされる。すなわち、競争優位は、コストを最小化するオペレーション効率の向上だけでなく、価値を創造する戦略的ポジショニングによってこそ達成されると考えられている。
1990年代に入って、競争優位の源泉を企業の経営資源やケイパビリティ(組織能力)に求める資源ベース・ビューが台頭してきている。ここでは、業界の競争構造という外部環境ではなく、各企業の内部資源が問題となる。資源とは、いわゆるヒトモノカネに加えて、情報、技術力、ブランド、専門能力、組織文化などを含む幅広い概念として把握される。そして、資源が組み合わさってケイパビリティが生み出される。
資源ベース・ビューの代表的論者であるバーニー(J.B.Barney)によると、資源やケイパビリティが持続的競争優位の源泉となるためには、VRIOという頭文字で表される特性がそれらに備わっていることが必要である。すなわち。資源やケイパビリティには、それが市場の機会を活かし、脅威を緩和するという意味での価値(V:Value)があり、競合企業のうちの少数の企業のみがそれを有しているという希少性(R:Rarity)が高く、それを獲得したり開発したりするためには膨大な費用がかかるという模倣困難性(I:(In)imitability)があり、そして、こうした価値があり、稀少で模倣困難な資源やケイパビリティを充分に活用できるよう組織(O:Organization)が整えられていることが必要となる。このような持続可能な競争優位の源泉となる資源を育成するには、自社独自の経験を活用することと、サプライヤー、顧客、従業員との特別な関係を構築することが求められる。
邦訳2003 初出2002 Gaining and Sustaining Comperirive Advantage
ポジショニング・ビューと資源ベース・ビューは必ずしも対立するものとしてとらえるべきではない。たとえば、企業戦略策定の枠組みとしてのSWOT分析は、内部資源の強み(Strengths)と弱み(Weaknesses)、外部環境にある機会(Opportunities)と脅威(Threats)を分析するものであり、ポジショニング・ビューと資源ベース・ビューの長所と短所の相互補完性を求めた分析技法としてとらえることができる。市場が明確な場合には戦略的ポジショニングが、市場が不明確な場合には内部資源が問題になると考えられる。
Agileでチームの成長が強みとなるのは、市場が不安定になっているから。
ITケイパビリティ
資源ベース・ビューに立つ戦略論においても、情報通信技術を活用した情報処理活動や標準化への取り組みは模倣が容易であり、したがって持続的な競争優位の源泉にはならないと考えられている。そこで注目されているのが、情報通信技術を有効に活用するケイパビリティ、すなわち「ITケイパビリティ」である。そもそも資源とケイパビリティとは区別されうるものである。資源は、資金や設備といった有形資源、技能や忠誠心といった属人的資源、評判やブランドといった無形資源などを意味する。対してケイパビリティは、これらの資源を調節し、組みあわせてなんらかの課業や活動を遂行させる組織能力として把握される。これにならうと、ITケイパビリティは、物理的な情報通信技術資源、情報通信技術を活用する人に関する資源、情報通信技術が可能にする組織の無形資源から構成される、情報通信技術の組織的な活用能力としてとらえられる。つまり、ITケイパビリティは、情報通信技術資源と人的・組織的資源とを相互補完的に機能させることで顕在化する組織ケイパビリティである(岸・相原,2004)。
ITケイパビリティは、いかに優れた資源であろうと、個々の資源レベルでは認識されえない。個々の資源レベルでは、一時的に模倣や代替が困難であっても、一定の時間を経過すると、そのほとんどが競争者によって模倣や代替が可能となり、競争優位の源泉として機能しなくなるからである。資源の相互補完的な組みあわせによってこそ、模倣困難性が高まり、競争優位の源泉としてITケイパビリティを考えることが可能になるのである。