NPS(Net Promoter Score)
ネットプロモータースコア/推奨者の正味比率
自社や製品/サービスを友人や同僚に推薦する可能性はどれくらいあるか
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NPS(ネットプロモータースコア)とは何か
NPS(ネットプロモータースコア)とはユーザーに1つ、またはオプションとなる2つ目の質問をすることで、ユーザーが企業やプロダクトを自らお薦めしてくれるプロモーターか、とくに何もしない中立者か、他社製品に簡単に乗り越えたり悪評を広げる批判者を判断するユーザー調査方法です。
つまり、たった1つ、または2つの質問をするだけでノイズなく、自社やプロダクトを周りに広めてくれるプロモーターの割合を特定できるというものがNPSのうたい文句です。
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NPSはコンサルティング企業であるベインアンドカンパニーのパートナー、フレッド・ライクヘルドが生み出した方法です。ここでのネットとはインターネットのことではなく、余分なものを取り除く意味を持つ正味のnetです。日本語訳では「推奨者の正味比率」になります。
日本の書籍では開発者であるフレッド・ライクヘルドの著作である『ネット・プロモーター経営』(2013)があり、原題は『The Ultimate Question 2.0』になります。2.0なのは増補版だからです。1.0にも訳書があり『顧客ロイヤルティを知る「究極の質問」』が該当します。
うたい文句がその通りであれば、簡単に重要顧客を特定できるわけですから、まさにUltimate Question(究極の質問)です。
NPSのプロモーター、中立者、批判者とは何か
table:NPS
点数 特徴
プロモーター 9-10点 顧客自らプロダクトを広めてくれる可能性の高いロイヤルカスタマー
中立者 7-8点 現状は満足している顧客だが、能動的に周りに広める活動はしない
批判者 0-6点 簡単に他社製品にスイッチしたり、悪い評判を流す可能性が高い
プロモーターの例はマンガの熱狂的なファンでしょう。読む用、保存用、布教用と買うコアなファンを聞いたことがあると思います。その布教活動を企業に代わって自ら行うような人がプロモーターです。
なぜNPSは重要なのか
NPSスコアの向上が、顧客満足度の向上よりも強く売上に相関が見られたからです。つまりNPSが上がると売上が上がり、LTV(顧客生涯価値)が伸びるということです。手軽にもかかわらず、指標として注力しやすく、多くの企業で導入されました。
フレッド・ライクヘルドによるとフォーチャン500のうち、3割の企業が導入したということです。ただし、一部導入なのか全社導入なのか、現在でも行っているのかなどは省かれています。
NPSのポイント
重要なのが9~10点をつけるプロモーターです。人数が増えたり活発になるほど売上に貢献します。一方で、7~8点をつける中立者は、プロダクトに満足はしていますが、受動的で周りの人に広めたりする活動は乏しいため、さらなる売上に貢献する割合は強くありません。
NPSのポイントは、いかに9~10点のプロモーターを維持し、そして7~8点の中立者にプロモーターになってもらうかです。
批判者の声は社内で目立つため、ついつい批判者ばかりに着目してしまうのはNPS運用のどはまりポイントです。クレームの声に敏感すぎる企業ではNPSは使いにくくなります。
NPSの大まかな使い方
1.調査対象となるセグメントを決定する※後述
2.対象者に0から10の11段階のリッカートタイプの質問票で答えさせる
質問例
「このプロダクトを友達、または同僚にどれくらいお薦めしたいですか?」
「このプロダクトを友達、または同僚にお薦めする可能性はどれくらいありますか?」
「弊社やプロダクト、サービスを友人や同僚にどれくらい推薦しますか?」
3.フリーコメントを書いてもらう※オプション
質問例
「この点数の理由はなんでしょうか?」
「このプロダクトを他の人に勧める理由はなんですか?」
「改善する点があるとしたらどのような点があるか教えてください」
4.集めた質問票から、プロモーター、中立者、批判者を分類する
5.NPSを算出する
NPS = プロモーターの割合 - 批判者の割合
6.プロモーターを増やす施策を検討して実施する
プロモーターの割合 ランク9~10の回答者の数 / 回答者の総数
中立者の割合 ランク7~8の回答者の数 / 回答者の総数
批判者の割合 6以下の回答者数 / 回答者の総数
NPS プロモーターの割合 - 批判者の割合
例 回答者数 100件
9-10は30件 プロモーターの割合30%
7-8は50件 中立者の割合50%
0-6は20件 批判者の割合20%
30% - 20% = 10%
NPS = 10
スコア例
NPS業界別ランキングトップ企業 2022
NPSの運用の注意点
NPSの重要な点は、その数値がプラスかマイナスかよりも、顧客から見て代替製品よりもどれだけ優れているかです。業界によってバラツキが大きく、どの企業もマイナスの業界もあれば、プラスになりやすい業界もあります。
ですから「マイナスだったからダメだ」「プラスだったからよかった」というわけではありません。顧客からから、代替製品も含めてみたときに、自社がどのポジションにいるのかが大切です。
NPSの問題
ここからが、見た目は手軽そうなのに、実は難しいというトラップの中身です。
「顧客から見て代替製品よりもどれだけ優れているか」がポイントになるということは、顧客によってはNPSが高くなりやすかったり、低くなりやすかったりします。改善策を実施しても、ある人には効果が高くても、別の人には薄くなることもあります。
つまり、顧客セグメントや、顧客の状況によってNPSは大きくばらつく場合があります。セグメントとは、プロダクトを購入する可能性のある顧客を属性別で分類した層です。
ノートPCを考えてみましょう。事務職、エンジニア、ゲーマー、クリエイターでは求める性能特性が大きく異なります。また許容できる購入金額や値引きへの反応も変わります。これらがセグメントです。
もし、これらの人達を平均化して丸めて、それを元にノートPCを作ったとしても、中途半端になることは目に見えています。これがNPSの失敗例です。ほんとによく失敗します。
つまり、NPSの効果的な実施には条件があるということです。
NPSの実行の条件
・適切な母集団を形成できているか
・NPSに適したプロダクトか
・NPSは適切に調査されたか
適切な母集団を形成できているか
ほかの調査方法でも調査対象となる母集団を特定するのは簡単ではありませんが、NPSではさらに次の点で気をつける必要があります。
・NPSは満足度ではなく、勧める度合い
・推薦者の実行能力の程度はどれくらいか
・押しつけられる利用者か、意思決定者か
NPSは満足度ではなく、勧める度合い
NPSは他社にお薦めする度合いです。その人が満足していても、周囲に勧められる人がいなければ数値は少なくなります。もしその人が一匹狼の人であれば、勧めたい人はいないため、NPSは減ってしまうことになります。
企業向けの革新的なチャットツールを開発できたとしましょう。大企業に勤める人にデモを試してもらったところ、「これはすごい」と興奮していました。ところがNPSは低くなってしまいました。ユーザーヒアリングをしてみたところ、「うちは古い会社だから導入してもらえない」と嘆いていたことか分かりました。
このデモのユーザーヒアリングで分かったことは、これ以上チャットツールそのもの開発を進めても、今回の対象者セグメントには効果がないということです。チャットツールそのものというよりも、古い企業でも安心して導入できるように、営業プロセスやセキュリティといったプロダクトの周辺を固める必要があります。
NPSは推薦から評価する方法であり、満足度と必ずしも一致はしません。またユーザーヒアリングの肩代わりになるものでもありません。
推薦者の実行能力の程度はどれくらいか
つまり、推薦したら、購買が実行されたり、購買に影響力のある人である人が望ましいです。問題が無いケースは匿名のユーザーの口コミでも影響力をもつ場合です。ラーメン店の評判や、Amazonのレビューなどです。
しかし、BtoBといった企業導入では、お薦めしても、その結果導入されるかどうかは、お薦めするその人のポジションに大きく影響されます。チャットツールであれば、経営陣など意思決定者や、情シスへの影響力が高くなければなりません。学校を卒業したばかりの新入社員に評判がよくても、購買にはなかなか繋がらないということです。
押しつけられる利用者か、意思決定者か
さらに踏み込んでみましょう。BtoBでは1つのプロダクトを複数の人が異なる観点から評価します。たとえば、コストなど財務的な視点から意思決定者には評価が良くても、利用者からは使いにくいと評価される場合があります。
某Teamsのように、立場によって意見が異なるプロダクトではNPSはばらけてしまいます。「情シスとしてはパッケージになっていて手間なくありがたいけど、ユーザーからしてみると使いにくい…」。つまり、満足しているセグメントばかり調査してしまうと、利用の実態とはかけ離れて評価が高くなってしまいます。
NPSに適したプロダクトか
NPSと相性の悪いプロダクトや事業の性質を紹介します。
・こっそり使うプロダクトには合わない
・趣味性が高い、価格が相対的に高い
・みんなで使うプロダクトはスコアが実態より高くなりやすい
・カスタマイズ性が高かったり、多用途である
・時間的変化によって変わる
・購買タイミングによってばらける
・損した気分になりやすい
・人に付きやすいプロダクトである
・サービスがバラツキやすい
・ロックインプロダクトはNPSが低くなりやすい
・補完財に影響されている
こっそり使うプロダクトには合わない
NPSは、企業やプロダクトを「人に勧める」という行動を評価します。そのため、こっそり使うプロダクトには合いません。
たとえば、まぶたを二重にする美容整形や、薄くなった頭髪を育毛するといったコンプレックス商品。またアダルトグッズなど公共の場ではふさわしくないものや、社会規範として人に勧めづらくなったタバコやアルコールといったプロダクトでは、NPSは適していません。生命保険やお葬式といった、人の生命や不幸に関わる人目にはばかるものも、人にお薦めするものではありません。
また、知られていないからこそ価値が出る場合もあります。たとえば「知っている人だけは知っているすごいプロダクト」。知人を連れていくと喜ばれる隠れ家的な名店です。みんなが知ってしまったらその人にとって価値が薄くなってしまうので、「大事な人には紹介したいけど、広く知られたくない」というケースもあります。
趣味性が高い、価格が相対的に高い
一つ前のこっそり使うプロダクトと関連するのが、趣味性の高いプロダクトや価格が高いプロダクトです。
『AKIRA』『攻殻機動隊』などマニアックな作品や、リアルフォースなど高級キーボードは趣味性が高く、本人は満足していても、人にはお勧めしづらい、あるいはお薦めする相手を注意深く選ぶ場合があります。
価格が高いプロダクトとは、たとえばお菓子ならゴディバ、フルーツならシャインマスカットなど、通常よりもワンランク上位のものです。「たまの贅沢」「気軽に人にはお勧めはできない」となり、NPSは低くなりやすくなります。
ただし「贈り物としてどれくらいお薦めできますか?」などフレーミングし、用途を限定することで、その限定された状況下でのNPSを算出することが可能です。ただし母集団形成のためのセグメント決定とおなじように、用途を適切に指定する必要があります。後でNPSの悪用で紹介するように、文言を変えるということは数値を簡単に操作(ハック)できてしまいますので注意が必要です。
みんなで使うプロダクトはスコアが実態より高くなりやすい
「こっそりではなく、みんなで使うプロダクトだから大丈夫」かというと、これも問題があります。
他の人と使うためのプロダクトはスコアが高くなりやすい傾向があります。ところが、それは「広まって欲しい!」という願望であり、プロダクトそのものへの評価とはずれていることがあります。素晴らしいからお薦めしたいのではなく、広まってもらわないと困るからお薦めしたいという状態です。つまり、好評価なのではなく、不満を漏らしていることになります。
他の人と使うためのプロダクト
オンラインホワイトボードツール
チャットツール
遊戯王などトレーディングカードゲーム
使う人が増えるほど効用が高まるネットワーク外部性と、つまらない人が入ってくることでコミュニティが崩壊するコミュニティの一生という、ユーザー環境のライフサイクルにも影響を受けやすいプロダクトです。プロダクトは単に一人の顧客と関係性を持つという単純な関係ではなく、社会的な関係網の中で使っていることを理解する必要があります。
カスタマイズ性が高かったり、多用途である
「わたしにはピッタリなんだけど…他の人はどうかな…」
カスタマイズ性が高いと、一人一人の趣向が反映されやすくなります。そのためプロダクトは一つでも、ユーザーひとりひとりで大きく異なっているため、適切な母集団を形成しにくくなります。また、あれもこれも使えるといった多用途であると、使用場面の特定が困難となり、これも適切な母集団を形成しにくくなります。
つまり、単機能、単用途のほうがNPSを運用しやすくなります。
時間によって顧客の評価が変わったり、プロダクトの性能が摩耗によってかわる場合があります。
ピーマンは子どもから大人になるにかけて、評価が好ましく変わります。耐久性や劣化による性能変化によっても評価が変わっていきます。この評価の変化が短期間に起きる場合はNPSは役に立ちにくくなります。
極端な例ですが、一口目のビールは、5杯目のビールよりも顧客の情緒にポジティブな影響を与えます。反対に、二日酔いの時はもうアルコールは飲まないと誓うでしょう。
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一杯目のビール、酩酊、二日酔い NPSはいつ取るべきか? いつ取ってはならないか? そもそもNPSで取るべきか?
ピークエンドの法則が効きやすいプロダクトに注意すると言い換えてもいいでしょう。ピークエンドの法則とは、プロダクトの一連の使用体験の中で、ピーク地点と、最後の地点が記憶として残りやすいということです。アクション映画なら、一番盛り上がるアクションシーンと、クライマックスが覚えられやすいということです。
情緒的なプロダクトでは評価が不安定になります。たとえば、豪華ホテルでは宿泊中、チェックアウト直後、チェックアウト後から一週間では評価が変わります。
十分な数の母集団を形成できれば、時系列調査をすることで評価の変化がどの程度なのか計測できます。どんどん大変になっていきますが…。
購入当日 400人
2日目 400人
3日目 400人
4日目 400人
購買タイミングによってばらける
時間変化と似ていますが、ユーザーではなく、プロダクトの変化するタイミングによってはユーザーの反応が大きく変わることがあります。
ノートPCの最新モデルを買って喜んでいたものの、一週間後に次世代モデルが発売されたとしましょう。買ってまもない頃はNPSは高くなりますが、次世代モデルが発売されることを知った直後では大きく下がってしまったりします。つまりショックを受けているということです。
プロダクトが該当しやすいかというと、モデルチェンジ型の製品開発をしており、そのモデルチェンジによる性能変化が著しい場合です。たとえばノートPCやスマートフォンといった毎年、性能が大きく上がるような製品です。
プロダクトの性能変化が穏やかで安定しているとNPSは運用しやすくなり須磨。Excelやクラウドストレージは安定しているといええます。Excelもアップデートがありますが、基本性能の変化は小さく、新製品のショックは大きくありません。
損した気分になりやすい
「タイミングによってばらける」と関連しますが、人は損に強い感情的な反応をします。
販売において頻繁に値引きセールをしている企業があります。その場合、購入時以後にもっとお得な割引きセールスが行われてしまったらショックを受けます。購入金額が大きくなりやすく、セールスによる値引き幅の大きな大型家電といったプロダクトでは、顧客は値下げにビクビクしています。新たな情報に触れることで損した気分になると、たとえ現行プロダクトに満足していても評価が下がります。
つまり、価格の変化が安定していたほうがNPSは運用しやすいということです。割引きセールスなど、ユーザーが知ったらショックな出来事が頻繁にあると不安定になります。
人に付きやすいプロダクトである
顧客はプロダクトそのものと、担当者からの人的サービスを区別しない場合があります。特定の担当者が継続してサービスするプロダクトではNPSの利用は注意が必要です。
Amazonのレビューで「配送のダンボールが破けていたので★1個」といったレビューを見たことがあるでしょう。ユーザーはいろいろなことを一緒くたにして評価することがあります。
顧客とやりとりをする担当者Aは、顧客に非常に親身になって対応していました。顧客の誰もがその担当者に感謝をしていました。NPSも高かったのです。ところが顧客はプロダクト自体はそれほど評価していませんでした。この担当者が素晴らしいから、その返報として高い評価を返していたのでした。
たとえば、私はある美容師さんに20年ほど切ってもらっています。その美容師が務める美容院が変わったり、独立しても、その人に切ってもらっています。現時点での顧客生涯価値でも何十万円にもなっていますが、看板に対して支払っているのではないのです。
プロダクトが良いからではなく、その担当者だから契約していることもあります。担当者が会社をやめれば、ついていた顧客もやめるわけです。商談が長期間になり、専任の担当者が付きやすいプロダクトでは該当しやすくなります。注文住宅や高額なBtoBプロダクトも担当者の評価が直結しやすくなります。
NPSは商談が短期間で、標準的な営業プロセスや販売プロセスだと運用しやすいということです。
サービスがバラツキやすい
プロダクトの特性としてバラツキが否応なくでてしまう場合があります。その場合も適切な母集団形成は難しくなります。
修理対応サービスを考えてみましょう。修理とは非常にバラツキが出やすい対応です。起動しなくなってしまったノートPCの修理対応では、ものによってはすぐに対応できることもあれば、長く時間がかかる場合もあります。プロダクトの提供するサービスのバラツキが大きければ、NPSのバラツキも大きくなります。
NPSはプロダクトのサービス体験が安定しているほど運用しやすいです。
ロックインプロダクトはNPSが低くなりやすい
iOSアプリはmacでなければ開発できませんので、人によっては「しかたなく使っている」かもしれません。このような状態をロックインといいます。
特徴として、NPSはスコアは低いのに長期間にわたって高額な支払いをしている場合があります。条件さえ整えば(iOSをやらなくてもよくなった)離脱する可能性の高いユーザーです。「しかたなく」と思っているうちは、プロモーターになることはありません。
彼らのスコアを上げるよりも「別の面では非常に魅力があるから、しかたなくつづける」ように、彼らが離れない魅力に集中したほうが望ましいです。一言で、好みを超えたメリットを維持する、ということです。
補完財に影響されている
「このゲームめちゃくちゃ面白くて、いろんな人にプレイしてもらいたいけど、PS5なんだよな…。周りは誰も買えてないよ…」
あるプロダクトの利用と連動する別のプロダクトを補完財といいます。ゲームが面白くても、ゲーム機が手に入らなければ勧めようがないのです。電気自動車と充電ステーションの関係も同じです。いくら電気自動車が魅力的でも、充電ステーションが近隣になければ使いにくいものになってしまいます。
miroやmuralといったオンラインホワイトボードがいかに素晴らしくても、会社で支給されるノートPCのディスプレイが小さかったら、非常に使いにくいでしょう。ディユルディスプレイが禁止されている職場でも同じです(実際にそういう職場があるのです…)。プロダクト同士の補完財や制度によっても影響をうけます。
NPSは適切に調査されたか
ここでは特に落とし穴になるポイントを紹介します。
・NPSハックが行われていないか
・不満を持つ人はNPSの質問票を無視する
・報復を恐れる、賄賂を送る、社会的体裁を保つ
NPSハックが行われていないか
「友達を紹介すると1000ポイントバック」といったお友達紹介キャンペーンの直後にNPS調査を入れると、ユーザーは自身の一貫性維持のために高い評価を付けやすくなります。
企業文化としての倫理が破綻していて、NPSスコアの是非でボーナスが決まるような人事評価を入れているとやりがちです。カスタマーサクセス部門での運用や評価指標には気をつけましょう。
不満を持つ人はNPSの質問票を無視する
※『顧客ロイヤルティを知る「究極の質問」』で紹介されたもの。一般的な調査における注意点なので、簡単な紹介に留める。
そもそも不満を持つ人ほど調査票の回答は少なくなります。もらえなかった回答は不満に偏りがある可能性が高くなります。
例
100人に調査しし、60件の回答があった
50%がプロモーター
30%が中立者
20%が批判者
では、回答がなかった40件の内訳も、この比率で評価しても問題なさそうでしょうか。そうではないですよね。不満を持っていればわざわざ解答に時間をかけたくないと思う人も出てきます。つまり、批判者の割合が増える可能性が高くなります。そのため、非回答は一律で批判者として扱うといった判断をしたほうがいい場合もあります。
冒頭で「アンチユーザーを調べたくてNPSに辿り着く~」と書きましたが、実際には無視されて、気付かないのもトラップです。
報復を恐れる、賄賂を送る、社会的体裁を保つ
※こちらも『顧客ロイヤルティを知る「究極の質問」』で紹介されたもの。
報復を恐れる
売り手が強い立場の場合、低い評価をするとペナルティがあるのではないかと恐れて、高く評価する場合があります。
賄賂を送る
高い評価を賄賂として相手に贈る場合があります。
社会的体裁を保つ
たとえ不満でも、目の前の人にはいい顔をすることがあります。人のメンツや人間関係を尊重して、本当の評価を隠す場合があります。
NPSの相性チェックシート
これまでの結果をマップにすると次のように表現できると思います。マッピングをしてみましょう。
調査対象となる母集団の形成が容易か
推薦の実行能力が高いか
十分な人数を確保できるか
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NPSに適したプロダクトか
ユーザーは同類を簡単に見つけられるか
いつ調査しても評価が安定しているか
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NPSの実施方法
NPSの詳細な実施方法は、書籍で紹介されていたり、一般的なユーザー調査とそれほど大きな違いは無いので詳細は割愛します。
ポイントは調査計画そのものを立てる前に、顧客に関する十分な情報の洗い出しをしておくことです。
1.ユーザーストーリーマッピングやカスタマージャーニーマッピングなどを用いて、ユーザーアクティビティを洗い出す
2.ユーザーとサービスとの接点を特定する
3.接点において、どのような活動をしているのかを洗い出す
4.NPSの調査計画を立てる
NPS調査実行時のチェック
改めて、NPSのポイントです。
・適切な母集団を形成できているか
・NPSに適したプロダクトか
・NPSは適切に調査されたか
NPS後の次のアクション
NPSで調査したら、どのように進めていくかの一例を簡単に紹介します。NPSだけでなく、ほかの調査結果と組みあわせて行いましょう。
プロダクト改善施策(製品開発)
1.NPSの有効性を検証する
2.ユーザーストーリーマッピングやカスタマージャーニーマッピングなどを用いて、ユーザーアクティビティを洗い出す
3.ユーザーとサービスとの接点を特定する
4.接点において、どのような活動をしているのかを洗い出す
5.活動とNPSのフリーコメントを突合させ、接点で何が顧客に大きな影響を与えるているのか検証する
6.スコアの向上施策を検討する
7.プロダクトホールに分類し、プロダクトそのものへの対処なのか、運用での対処なのかを見極めて実行する
NPSの有効性の検証
下記などの施策や分析を通して、NPSの数値と顧客の行動の実態が連動しているかを検証します。
・追跡可能なお友達紹介キャンペーン
・新規客の認知媒体が「友人からの紹介」か
・RFM分析(またはRFV分析)
マーケティング販促施策(商品開発)
・NPSの9~10点のユーザーを特定し販促活動を強化できないか検証する
・NPSの0~2点はユーザーを特定し販促活動が誤っていないか検証する
注意
・ボリュームゾーンにアプローチしようとしすぎて、少数の熱狂的なユーザーを逆なでする施策になっていないか注意すること
・批判者のスコア改善よりも、プロモーターや中立者のスコアを上げる方が好ましい。つまり、9~10の人を生み出すことをもっとやろう
よもやま
NPSが9~10点のユーザーなのだけど、想定とは異なる使い方をしているケースがあります。実は別の市場に熱狂的に受け入れられているケースです(ガンプラをメラミンスポンジでこすると、良い感じにつや消しになる、みたいな)。パッケージを変えるだけといった超低コストで新製品ラインを立ち上げられることもあります。
NPSはあくまで調査法、重要なのは次の一手
「NPSが高いのに売上が低いのなんでぇ!?」
「適切に調査したらNPSが非常に高かったのですが、売上はそれほど高くありません。どうしたらいいでしょうか」
ラーメン屋で考えてみましょう。一日10杯限定ラーメンなら、どれだけNPSが高くても、最大売上は1日10杯分の売上が上限になってしまいます。また限定でなくても、1回の食事で一人が食べられる量は限界がありますから、他の施策と連動しなければ売上は上がりにくくなります。
スターバックスの事例を紹介しましょう。スターバックスではコーヒーのプリペイドカードを購入することができます。他の人の代わりに購入して贈り物にできたりします。プリペイドカードの発行金額が10億円に達しており、ちょっとした銀行のような状態になっています。
コーヒー店のその場で消費できる金額が、その瞬間における最大売上でした。プリペイドカードを購入してもらうことで、未来の分まで購入してもらったり、他人の分まで買ってもらうことを可能にしたわけです。
NPSが高くても、それを活用できる商品展開が薄ければ売上にはつながりません。「応援したいのに、買えるものがない!」という状態です。これはSaaSでも同じです。
結論
回答者の状況によって大きく解答が変わってしまう他の調査方法と同じく、質問の状況を特定することがで重要です。
しかし、NPS調査は一つの質問から始められる気軽そうな調査ですが、結果が適切であるのか、また運用しやすいかは見た目の印象ほど簡単ではありません。手軽さに覆い隠されてしまっていますが、難しい方法です。これが、どはまりトラップです。
本記事で紹介したNPSと相性の悪いプロダクトや事業はNPSの売り込み本である『ネット・プロモーター経営』には書かれていませんし、NPSを商売道具にしている企業はなかなかいいません。インターネットでもあまり情報が無い状態です。
つまり、NPSは導入が簡単そうに見えますが、実際にやりきるには様々な知見が必要なため、コンサルが必要になるという、コンサルティング企業にとって参入ツールとして優れているという性質があります。やりきるには外部の手助けが必要になる可能性が高いのです。
しかし、この誤解を取り除いて適切に実行すればNPSは効果的です。見かけの簡単さに振り回されないようにしましょう。
これはスクラムも同じですね。「理解が容易」だが「習得は困難」(スクラムガイド2017)。
書籍
コンサルティング会社による宣伝書籍なので注意
記事
NPS®(ネットプロモータースコア)とは?
NPS®業界別ランキング&アワード
「NPS」と顧客満足度調査の違いとは? その算出方法も紹介します
プロダクト使用経験を通して評価が安定しているか
顧客の製品体験を通して評価が安定しているか
×ジェットコースターのようにプロダクトへの評価が変化する
コモディティ性が高いか
体験頻度が高く、十分に消費者に知識が備わっているか
×信頼剤/非探索剤、
×オーダーメイド性 BTO 自分のためのカスタマイズ、人には勧めるとは限らない
ポジティブ性、オープン性
人に勧めたいポジティブなことであるか、公にして構わないか
×病気、コンプレックス、後ろめたい趣味
×プライベートなこと
ネットワーク性
周りの人が使うことで、その人の効用が高まるか
×自分だけが使うことで優位になる
社会ネットワーク性が高いプロダクト例
オンラインホワイトボードツール
チャットツール
トレーディングカードゲーム
つまり、ユーザーがプロダクトを通してクラスターを形成するセグメント
社会ネットワーク性が低いプロダクト例
葬式
生命保険
一人で使うほど得をするもの
隠れ家的 名店
調査条件
同じ集団からの必要なサンプル数400以上で誤差5%
・STP(セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング)といった、外部市場環境下におけるマーケティング活動が高いレベルで行えており、セグメント毎に顧客を特定している
・個別の状態が安定している
再購入の相関が強さを評価する指標
顧客ロイヤリティ
製品特性によってばらける
非探索財には使えない。生命保険や墓石を他の人に勧めたい人はいない。
また後ろめたいものにも通用しない。たとえばアダルトグッズなど。
このようにプロダクトの性質、顧客の状況、顧客とのコミュニケーション、調査のタイミングなど、簡単にの質が低ければ
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