インフォーマルなプラットフォーム資本主義
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[論考]反自動化経済論 無料はユートピアをつくらない from: ゲンロン12 富者には相場よりも高値で売り、貧者には仕入れ値を割っても売る
うまく駆け引きするか、特別な関係を結べば、安く売ってもらえる可能性に開かれている
小川さやか.icon 両者の取引は持つ者と持たざる者、幸運な者と不運な者とが混在する社会におけるある種の公正さに則っているという了解のもとで成立している。(p234) 小川さやか.icon 実際に、個別の商取引の場で展開しているのは嘘や誇張に満ちた騙し合いでありーこのゲームでは誰もが困っていることを訴えるー、ある商品が特定の値段で売られていることをめぐる勝ち負けに過ぎないのだ。だが、誰も贈与とはみなさない「勝ち負け」の実践だからこそ、逆説的に贈与が実現し、誰の自由も阻害しない「シェア」が達成されているとも言える。(p234-235)
売買が成立したとき、贈与した/贈与されたのかわからない余韻が残る。そのように贈与が可視化されないことで、互いの自律性・尊厳が守られる。
小川さやか.icon そうした透明性の上に成り立つ経済秩序こそがインフォーマル経済従事者を排除してきた秩序であり、そこから立ち上がってきたのがインフォーマルな経済、あるいはインフォーマルなプラットフォーム資本主義なのである。 (p235)
小川さやか.icon タンザニアのインフォーマル経済従事者のプラットフォーム実践は、民主主義的・市民社会的な空間へとSNSプラットフォームをつくり変える方向とはおよそ真逆の方向性を志向している。すなわち、社会的承認を得ることができる評価基準をますます多元化・曖昧化・不安定化していくことで、どのような発言や行為をしたら社会的な承認を得られるかをもはや気にしても仕方がないほどに、徹底的に「無秩序」な空間を実現し、個々人の裁量に賭けることで「ニッチ」をシェアしていくシェアリング経済を志向しているのだ。(p238)
議論はその場限り、関係の変化を促すことはほぼない
半永久的に記録残るSNSには否定的な情報書かない
他者一般の悪口・批判の投稿少ない
共同労働の呼びかけ、逝去のニュース、愚痴
投擲的な発話が与える影響を、「挨拶境界」と「共在感覚」に着目して考察
他者からの無心、共感に訴えられる、など「しがらみ」ばかり
小川さやか.icon つぶやきや画像の意図を明確にせず、投擲しっぱなしにすることでその解釈の余地を広げ、偶然に応答した相手にあわせて「実はそうなんだよ」と場当たり的な変身を誰もがすれば、SNSは、偶然の接続と切断を促進する「バグ」だらけのカオスになる。彼らはこのような不透明さ・偶然性、あるいは彼らが集合的に生み出している「バグ」こそが、「ニッチ」の分かち合いを可能にしていると語る。「自分たちはそれぞれ違っている」「明日は今日とは違っている」ので「誰にでも(思いがけない)チャンスはやって来る」と。(p242)
小川さやか.icon むしろ「反省したか否か」のような究極的には判別し得ない心のうちを問題にすることなく、当人の置かれた状況が変化すれば何度でも信用してみるのだから、失敗やしくじりに対してやり直しがきく社会をつくっているとも言える。(p239) 彼らにとって人々の認知行為の操作・動員は経済パフォーマンス(配送の速さや取引価格の妥当性など)ではなく、日常生活
だから、取引するかどうかを、その都度見極めていく
小川さやか.icon 個人主義的でも共産主義的でもある「現実的な狩猟採集社会」。(p246)