ペレット入射
#用語解説
https://gyazo.com/0ede28c292d5bc24ebdc196413322068
chatGPT.icon
ペレット入射(Pellet Injection)は、核融合装置(主にトカマク型やヘリカル型)において燃料(重水素や三重水素)を効率的にプラズマ内に供給する技術です。燃料を固体のペレット(小さな氷状の球体や円筒形)として超音速でプラズマ中に射出し、プラズマの中心部まで燃料を届けることを目的としています。この技術は、核融合の実現に不可欠な燃料供給、プラズマの安定化、さらには不純物除去のために重要な役割を果たしています。
歴史と背景
1. 初期の燃料供給技術
核融合研究の初期段階(1950年代〜1970年代)では、プラズマに燃料を供給する方法としてガスパフ(ガス噴射)が一般的でした。これは、燃料ガスを装置内に直接吹き込む方法です。しかし、ガスパフでは燃料がプラズマの外縁でしかイオン化されず、中心部に十分な燃料を届けることが難しいという課題がありました。
2. ペレット入射の登場
1970年代後半、より効率的な燃料供給の必要性からペレット入射技術が開発されました。この技術は、固体燃料ペレットを高速で射出することで、燃料がプラズマ中心部まで直接到達することを目指しました。当初の研究は、主にアメリカとヨーロッパの核融合研究機関で進められました。
最初のペレット射出実験: 初期のペレット入射システムは、比較的単純な装置で、固体燃料を機械的に射出していました。この時期には、プラズマ中心への燃料輸送が確認され、ガスパフに比べて燃料効率が向上することが示されました。
3. 1980年代〜1990年代: ペレット技術の進化
この時期になると、ペレット入射技術の実用性が広く認識され、大型核融合装置での実験が行われました。
高速射出技術の開発: 磁気加速やガスガン技術を用いたペレット射出装置が開発され、ペレットの速度が1 km/sを超えるようになりました。
トカマク装置での応用: トカマク型装置(例: JET、JT-60、DIII-D)でペレット入射が広く使われ、プラズマ閉じ込め性能の向上や不安定性の抑制が報告されました。
冷却と凍結技術: ペレットの製造技術も進歩し、燃料ガスを効率的に冷却・凍結させる装置が導入されました。
4. 2000年代以降: ITERと次世代装置への展開
近年では、国際熱核融合実験炉(ITER)や将来の商業炉に向けたペレット入射技術の研究が進んでいます。
高頻度射出: ITERでは、ペレットを高頻度で射出するシステムが計画されており、プラズマ中心部への燃料供給と制御が求められています。
ELM制御: ペレット入射は、周辺輸送障壁(Hモード)で発生するエッジ局在化モード(ELM)の制御にも使われています。小さなペレットを周辺プラズマに投入することで、ELMを小規模化し、壁への損傷を防ぐ技術が研究されています。
ペレット入射のメカニズム
1. ペレットの生成
重水素または三重水素ガスを冷却して固体にします。ペレットのサイズは数ミリメートル程度です。
2. ペレットの加速
磁気加速器やガスガンを使い、ペレットを超音速(数百メートル〜数キロメートル毎秒)で射出します。
3. プラズマ中での蒸発
プラズマに入射されたペレットは、高温のプラズマにより蒸発・イオン化され、燃料としてプラズマ中に供給されます。
ペレットの質量や速度は、プラズマの条件に応じて調整されます。
ペレット入射の意義と課題
意義
1. 燃料供給の効率化
プラズマ中心部への燃料供給効率が向上し、プラズマ閉じ込め性能が改善します。
2. プラズマ制御
ペレットのタイミングや場所を制御することで、プラズマの密度や温度分布を調整できます。
3. 不安定性の制御
ペレットを使ったELM制御や、ディスラプション緩和(破壊的なプラズマ崩壊の防止)が可能です。
課題
1. 装置の複雑さ
ペレット入射システムの製造・運用は技術的に複雑であり、コストがかかります。
2. 射出精度
ペレットを正確な位置とタイミングで射出する技術が必要です。
3. 三重水素の取り扱い
三重水素を燃料とする場合、放射線管理や安全対策が求められます。
ペレット入射は、核融合の実現に向けた重要な技術の1つとして、今後もさらに発展が期待されています。その一方で、ITERや将来の商業炉での課題克服が求められており、持続的な研究開発が必要です。