変えようとしないからこそ変化が起こる
変えようとしていないからこそ変化が起こる!この逆説こそが、オープンダイアローグの第1の柱です。オープンダイアローグでは、治療や解決を目指しません。対話の目的は、対話それ自体。対話を継続することが目的です。 / では、治療や改善はどうなるの?病院に来てるんだから治療するのが当然じゃない?と思われるかもしれませんが、治療というのは非常に繊細な過程です。特に精神科の場合は、まわりが治そうと頑張りすぎると治らなくなってしまうということはしばしば起こりますし、治療者のほうも「何がなんでもオレが治す」みたいに意地になると、逆にこじれてしまいやすい。治療も人間関係ですから、一方通行の意思が発動すると有害な反作用が起きることはめずらしくないわけです。 / ですから、ただひたすら対話のための対話を続けていく。できれば対話を深めたり広げたりして、とにかく続いていくことを大事にする。そうすると、一種の副産物、”オマケ”として、手に変化(小改善、治癒)が起こってしまう。 やってみたくなるオープンダイアローグ 斎藤環 水谷緑p.65
まさに北風と太陽の寓話のよう。「変えようとする」となぜ「変わらない」のか。
人は変えられようとすると抵抗する(慣性、惰性が働く)
「抵抗」を発見するのが難しいのは、 寄り添う気持ちが必要だからだ。 オーディエンスを理解し、 彼らの視点から世界を見ることが必要になる。変化を受け入れさせようとしているとき、 アイデアに固執するのは当然だ。だが、「抵抗」を理解しようと思ったら、 スポットライトをアイデアからオーディエンスに移動させる必要がある。「変化を嫌う人」を動かす:魅力的な提案が受け入れられない4つの理由 ロレン・ノードグレン,デイヴィッド・ションタル 57ページ
人は往々にして新しいアイデアや可能性を受け入れることを嫌がる。 メリットが明白で議論の余地がなかったとしても、この傾向は変わらない。というのも、人間の心は不確実なものや変化より、 馴染みのあるものや安定を好むからだ。この特性はさまざまな名前で呼ばれている。心理学者は 「現状維持バイアス」 と呼び、マーケティング学者は「親近効果」と呼ぶ。 私たちはウォルター・ホワイトと同じく、 「惰性」 と呼んでいる。「惰性」とは、「もともと人間の心は慣れ親しんだものを好むように作られている」という考え方を指す言葉だ。「変化を嫌う人」を動かす:魅力的な提案が受け入れられない4つの理由 ロレン・ノードグレン,デイヴィッド・ションタル・62 ページ
「変わらない」とは「力が均衡している」ということ。「変えようとする」力と「変わらないようにする」力とが均衡している状態=現在の状態=変わらない状態なのだから、同じことを続けても変わるわけがない。
「変えようとする」とは「変える方向性を既に1つに決定している」状態である。が「変わる」選択肢は他にもあるかもしれない。「変えようとする」ことはこれらの選択肢を見えなくさせてしまう。
「変えようとする」力を外部から加えると「変わろうとする」力をその人から奪ってしまう。
今、自分はテストステロン補充療法を受けているのだけど、補充されると精巣はテストステロンをつくるのをどんどんやめてしまう(睾丸が縮む)。それと同じ。
「変えようとしない」態度に自分が変わると、以上の均衡がすべて崩れる。
「変わらないでいよう」という抵抗を生まない。
多様な選択肢や視点に開かれる。
決めつけられないので自由に動ける。
その人の内部から「変わろうとする」力が生まれてくる。(変化の産婆術