「変化を嫌う人」を動かす:魅力的な提案が受け入れられない4つの理由
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ロレン・ノードグレン,デイヴィッド・ションタル
私の仕事はお客様にアドバイスをすることです。お客様のご要望はどのようなものでも叶えて差し上げたいと心から思っています。関心があるのは、お客様にとって何がベストかということだけです。だから、ライバル社の車のほうが適していると思えば、ちょっと見に行ってみたらいかがですかとアドバイスすることもあります。また、金利が下がるまで、あるいはお目当てのモデルの価格が下がるまで、2~3カ月待つようにと言うこともあります。時には、そもそも車は必要ないのではないかと、それとなく伝えることさえあります。「販売」を始めた瞬間に、私はお客様を失います。 「変化を嫌う人」を動かす:魅力的な提案が受け入れられない4つの理由 ロレン・ノードグレン,デイヴィッド・ションタル(p.33). Kindle 版.
その思い込みとは 「魅力の法則」 と呼ばれるもので、人々を説得して新しいアイデアを受け入れてもらうには、アイデアそのものの魅力を高めるのがいちばんの(そしておそらく唯一の) 方法だという信念である。>「変化を嫌う人」を動かす:魅力的な提案が受け入れられない4つの理由 ロレン・ノードグレン,デイヴィッド・ションタル 15 ページ
デイヴィッドは顧客への聞き取り調査で何度も同じ話を聞かされた。 たとえばこうだ。 「パートナーと私は自分たちでデザインしたビーチハウスのソファを買いたくてたまらなかったのに、 今あるソファをいとこが引き取ると言ってくれないから購入できなかった」。 あるいは、「私は自分でデザインしたビーチハウスのソファがとても気に入ったけれど、 居住地域の “粗大ゴミの日が来てからでなければ注文できなかった。 誰かが古いソファを運び出してくれるまで、 自分ではどうすることもできなかった。狭い家に大きなソファが2つもあっては生活できないから」「変化を嫌う人」を動かす:魅力的な提案が受け入れられない4つの理由 ロレン・ノードグレン,デイヴィッド・ションタル・18 ページ
否定的なひと言によって、それまでの好ましい評価が一瞬で洗い流されてしまうことがある。心理学者はこれを「ネガティビティ・バイアス(否定的偏向)」(ポジティブな物事よりもネガティブな物事に注意を向けやすい性質を表す心理学用語)と呼ぶ。ネガティブな経験はポジティブな経験よりも人生に大きな影響を与える、という気の滅入るような分析が、何千もの社会実験によって裏付けられている。 「変化を嫌う人」を動かす:魅力的な提案が受け入れられない4つの理由 ロレン・ノードグレン,デイヴィッド・ションタル (p.40). Kindle 版.
結婚に関する調査によると、この比率は5対1に近いことが分かっている。つまり、ちょっとした口論や侮辱といったネガティブな出来事が1つあったら、ポジティブな出来事が5回なければ相手が再び自分に好感を持つことはない。人間関係において、ネガティブな経験は同程度のポジティブな出来事の5倍も強烈なのだ。 「変化を嫌う人」を動かす:魅力的な提案が受け入れられない4つの理由 ロレン・ノードグレン,デイヴィッド・ションタル (p.41). Kindle 版.
私たちが日常で抱く感情もネガティブなものが圧倒的に多い。1970年代、ポール・エクマンという心理学者は、人類のあらゆる文化で普遍的に見られる基本感情が6つあることを突き止めた。幸福、悲しみ、嫌悪、恐れ、驚き、怒りがそれだ。お気づきだろうか。基本感情の中にポジティブなものは「幸福」の1つしかない。記録に残っているどの言語でも、ネガティブな感情経験を表現する言葉のほうがはるかに多いのだ。 「変化を嫌う人」を動かす:魅力的な提案が受け入れられない4つの理由 ロレン・ノードグレン,デイヴィッド・ションタル (pp.41-42). Kindle 版.
ある研究によると、1日を気分良く過ごしたとしても、翌日には目立った影響が見られなかった。つまり、月曜日の気分の良さは火曜日に持ち越されなかったのである。だが、ネガティブな出来事の影響は持続し、嫌なことがあった月曜日の次の火曜日は憂鬱になることが予想できた。このパターンは非常に頑強であるため、人間の行動の「法則」とみなされている。具体的には、「快楽非対称の法則(Lawofhedonicasymmetry)」といい、この法則によると「喜びは変化が起こらない限り生まれてこないものであるため、満ち足りた状態が継続すると消え去ってしまう。これに対し苦痛は、不快な状況が続く限り残存し続ける」 「変化を嫌う人」を動かす:魅力的な提案が受け入れられない4つの理由 ロレン・ノードグレン,デイヴィッド・ションタル (p.42). Kindle 版.
会社と同じで、従業員もお金に反応する。ただし、企業と同様、大きな変化を起こすには多額のお金が必要だ。最近の研究で、「基本給がどれだけ上がれば生産性が上がるか?」という素朴な問いに関する調査が行われた。平均的な従業員の調査結果は約8%だった。それより少なければ何の変化も起きない。つまり、年収15万ドルの人の場合は、少なくとも1万2000ドルのボーナスを約束しなければ生産性が上がらないということだ。これを受け、行動経済学者のウリ・ニーズィーはインセンティブに関し、「たくさん給料をやるかまったくやらないかのどちらかだ」と結論づけている。「燃料」がもたらす推進力はすぐに消失しがちで、その分さらに高くつくことになる。 「変化を嫌う人」を動かす:魅力的な提案が受け入れられない4つの理由 ロレン・ノードグレン,デイヴィッド・ションタル (pp.45-46). Kindle 版.
低所得の女性の身になって考えなければいけない。 赤ちちゃんの健康を何よりも大切に思っている(こう考えるのは当然のことだ) ものの、 経済的、 社会的な理由で、それを最優先にするのはなかなか難しいのだ。 そのような状況で「健康的な食事をしなさい」と医者に言われたら、いったい何が起きるだろう。 心の中に葛藤が生まれ、それを解決しなければならなくなる。 多くの人にとって葛藤を和らげる唯一の方法は、 医者の言葉に背くこと。つまり、健康的な食事はさほど重要ではないと結論づけることなのだ。 「変化を嫌う人」を動かす:魅力的な提案が受け入れられない4つの理由 ロレン・ノードグレン,デイヴィッド・ションタル 53ページ
「抵抗」を発見するのが難しいのは、 寄り添う気持ちが必要だからだ。 オーディエンスを理解し、 彼らの視点から世界を見ることが必要になる。 変化を受け入れさせようとしているとき、 アイデアに固執するのは当然だ。だが、「抵抗」を理解しようと思ったら、 スポットライトをアイデアからオーディエンスに移動させる必要がある。「変化を嫌う人」を動かす:魅力的な提案が受け入れられない4つの理由 ロレン・ノードグレン,デイヴィッド・ションタル 57ページ
人は往々にして新しいアイデアや可能性を受け入れることを嫌がる。 メリットが明白で議論の余地がなかったとしても、この傾向は変わらない。というのも、人間の心は不確実なものや変化より、 馴染みのあるものや安定を好むからだ。この特性はさまざまな名前で呼ばれている。心理学者は 「現状維持バイアス」 と呼び、マーケティング学者は「親近効果」と呼ぶ。 私たちはウォルター・ホワイトと同じく、 「惰性」 と呼んでいる。「惰性」とは、「もともと人間の心は慣れ親しんだものを好むように作られている」という考え方を指す言葉だ。「変化を嫌う人」を動かす:魅力的な提案が受け入れられない4つの理由 ロレン・ノードグレン,デイヴィッド・ションタル・62 ページ
1970年代、心理学者のロバート・ザイアンス (1923年~2008年)は、 動物の行動を観察していてあることに気がついた。 動物は新しい物体に遭遇したとき、最初は怖がってそれに近づかない (この反応を新奇恐怖症と呼ぶ)。だが、 その同じ物体に再び遭遇したときは、すぐに怖がらなくなる。 そして、 十分に接触した後は、あまり馴染みのないものよりも既に接触した物体を好むようになることが分かったのだ。 たとえば、飼育されているチンパンジーは、 新しい物体が初めて檻の中に入れられたときは、それを避ける。 見たことのないおもちゃを与えられると、たちまち不安になるのだ。この見知らぬ物体に目を凝らしてはいるが、近づくことはない。1、2日経つと、 最初の頃の警戒心が好奇心へと変わっていく。やがて、かつて怖がっていたおもちゃはお気に入りの遊び道具になる。「変化を嫌う人」を動かす:魅力的な提案が受け入れられない4つの理由 ロレン・ノードグレン,デイヴィッド・ションタル・63 ページ
ザイアンスはこの現象を「単純接触効果」 と名付けた。「変化を嫌う人」を動かす:魅力的な提案が受け入れられない4つの理由 ロレン・ノードグレン,デイヴィッド・ションタル・63 ページ
前章で説明したように、単純接触効果とは、接触することで好感度が増すことだ。 これと似たもので、心理学者が「真実性の錯覚効果」 と呼ぶ現象がある。これは、同じことを耳にする回数が多くなればなるほど、それを信じやすく、 また支持しやすくなる、 という概念だ。 「変化を嫌う人」を動かす:魅力的な提案が受け入れられない4つの理由 ロレン・ノードグレン,デイヴィッド・ションタル・76 ページ
私たちは、情報を伝える人が誰かということに大きく左右される。人は、自分が知っている人や自分に似た人からのメッセージには耳を傾ける傾向があるのだ。「変化を嫌う人」を動かす:魅力的な提案が受け入れられない4つの理由 ロレン・ノードグレン,デイヴィッド・ションタル・82 ページ
影響を与えるための鉄則の1つは、「選択肢を1つだけにしない」ことだ。 というのも、選択肢が1つしかないと、人は無意識のうちに新しいものと馴染みのあるものとを比較するからだ。 しかも、たいていは馴染みのあるものに軍配が上がる。 そうではなく、 複数の(なおかつ提案者にとって望ましい) 比較対象を作るのがよい。 「変化を嫌う人」を動かす:魅力的な提案が受け入れられない4つの理由 ロレン・ノードグレン,デイヴィッド・ションタル・90 ページ
消費者心理学ではこの現象を「おとり効果」と呼ぶ。たとえば、選択肢が2つしかない場合は、 両者の長所(コストと製品機能など) を比べていずれか1つを選択せざるを得ないため、 消費者は個人的な好みでものを選ぶことになる。 価格に敏感な人なら、安いほうを選ぶだろう。だが、第3の選択肢を提示されたらどうなるだろうか。その選択肢は、しっかりとした機能を備えているものの、結局のところ、 製品機能の優れた既存の選択肢には劣る。 そうなると、 製品機能が充実している既存の選択肢が選ばれるようになるだろう。「変化を嫌う人」を動かす:魅力的な提案が受け入れられない4つの理由 ロレン・ノードグレン,デイヴィッド・ションタル・98 ページ
最小努力の法則は、人生で重要なもう1つの部分——社会的関係性――をも支配している。 私たちは、 相手の美点や能力、共通の経験など、 意味のある基準で友人を選んでいると思いたがる。 だが、 友人関係のほとんどは接近しやすさと接近する機会の多さによって形成されているというのが現実だ。 学者たちはこれを「近接性の原理」と呼んでいる。 「変化を嫌う人」を動かす:魅力的な提案が受け入れられない4つの理由 ロレン・ノードグレン,デイヴィッド・ションタル 112ページ
その結果分かったのは、 キャッシュバックや粗品など、顧客の期待を超えることを目指した 「燃料」 中心の戦術では顧客ロイヤルティが構築されないということだった。 むしろ、 顧客サービスでのやり取りでよく発生する「抵抗」(何人もの担当者に問題を説明しなければならないことなど)を減らすことで、 ロイヤルティが構築されることが分かったのである。 この調査結果は、顧客サービスに対する企業の考え方を根本的に変えるはずだ。問うべきことは、 「どうすれば顧客に喜んでもらえるか?」ではない。 「どうすれば顧客に負担をかけずに済むか?」 だ。「変化を嫌う人」を動かす:魅力的な提案が受け入れられない4つの理由 ロレン・ノードグレン,デイヴィッド・ションタル・117 ページ
「労力」には2つの側面がある。 1つは明白だが、もう1つはそうではない。 ぴんとくる明白なほうの側面は、身体や頭を酷使すること、 すなわち 「苦労」 だ。 これは、ある作業や行動に注がれるエネルギーの量と捉えることができる。5ページの文書より50ページの文書を作成するほうが苦労を強いられる。 「労力」 の2つ目の側面は、 どうすればよいのか分からないという 「茫漠感」だ。「変化を嫌う人」を動かす:魅力的な提案が受け入れられない4つの理由 ロレン・ノードグレン,デイヴィッド・ションタル・129 ページ
ところが、感情に訴えかけるスローガンが最も効果を発揮したわけではない。 恐怖をあおる戦術も同様だ。 最も効果的だったのは、 「燃料」系のスローガンではなかった。なぜ支援すべきなのかという理由ではなく、いつ支援すべきなのかを説くものが最も効果的だったのだ。 そのポスターには、 会社で働く従業員が描かれており、「職場の勧誘員が支援を呼びかけたら国債を購入しよう」というキャッチフレーズが添えられていた。このキャッチフレーズが非常に効果的であることが判明すると、すぐにすべての戦時国債ポスターにこのメッセージが追加された。その結果どうなったか。 戦時国債の売れ行きは倍増した。「変化を嫌う人」を動かす:魅力的な提案が受け入れられない4つの理由 ロレン・ノードグレン,デイヴィッド・ションタル・131 ページ
新しいアイデアが人々に受け入れられない大きな理由は、(能動的に抵抗しているわけではなく) 単に行動し忘れてしまうことにある。 たとえばある調査では、乳房の自己検診を怠った女性の70%が、 忘れてしまうことを主な理由として挙げていた。「変化を嫌う人」を動かす:魅力的な提案が受け入れられない4つの理由 ロレン・ノードグレン,デイヴィッド・ションタル 137 ページ
皮肉なことに、 新しいアイデアの実行を怠る傾向が最も強いのは、そのアイデアに深く肩入れしている人たちだ。 最近の研究によると、 意志をくじく可能性のある「抵抗」を最も軽視しがちなのは、絶対に行動できると自信を持っている人々なのだ。 このような人たちは、たとえ障害があっても、 強い信念があるだけで十分にゴールまでたどり着けると勘違いしているからである。「変化を嫌う人」を動かす:魅力的な提案が受け入れられない4つの理由 ロレン・ノードグレン,デイヴィッド・ションタル 138 ページ
このアイデアを実践するためのもう1つの簡単な方法を紹介しよう。賛同を得ようとするときは、 「このアイデアについてどう思う?」と質問してはいけない。 「このアイデアは気に入ったかな? それとも、 もっといいアイデアがあるかい?」と聞くのである。 このように質問の仕方をわずかに変えるだけで、 「ノー」 と答えることの大変さが変わる。 アイデアを否定するだけでなく、より良い代替案を考え出さなければいけなくなるからだ。このシンプルな「抵抗」によって、多くの人が「イエス」と答えるようになる。「変化を嫌う人」を動かす:魅力的な提案が受け入れられない4つの理由 ロレン・ノードグレン,デイヴィッド・ションタル・150 ページ
デフォルトを変えると命を救うこともできる。 ドイツでは、臓器提供の登録者が人口の12%しかいない。 ドイツの隣国オーストリアの登録者が99%であることを考えると、これはかなり低い数字だ。 デンマークはドイツよりさらに低く、臓器提供の登録者は5%に満たない。 だが、 スウェーデンは85%に達している。この差は何に由来するのだろうか。 臓器提供者の少ない国では、 人は生来、 非ドナーと設定されるため、申し込みをしなければ提供者名簿に名前が登録されない。ほぼ全員が臓器提供登録をしている国や地域では、これがまったく逆になっている。 人は生来、 ドナーとして設定されるため、名簿から名前を削除するには、そうすることを選択しなければならない。 名簿に名前を載せるにしろ載せないにしろ、大した手間はかからない。 申請書に記入するだけのことだ。 だが、 進む道を変えることが比較的容易であっても、 ほとんどの人は最も「労力」を必要としない道を選ぶのである。「変化を嫌う人」を動かす:魅力的な提案が受け入れられない4つの理由 ロレン・ノードグレン,デイヴィッド・ションタル・152 ページ
ヒックの法則(心理学者ウィリアム・エドマンド・ヒックの名にちなむ) によれば、 提示される選択肢が多ければ多いほど選択のプロセスは長くなり、 意思決定に要する「労力」が増える。 たくさんの選択肢を用意しすぎるとユーザーが困惑しかねないため、 UXデザインの場合は「少ないほうが優れている」のである。「変化を嫌う人」を動かす:魅力的な提案が受け入れられない4つの理由 ロレン・ノードグレン,デイヴィッド・ションタル 156ページ
ディヒターのおかげでゼネラル・ミルズは、ケーキミックスを画期的な商品たらしめている理由そのものが、 ケーキミックスの問題点だということに気づくことができた。 ケーキミックスを使うのでは簡単すぎたのである。そこでディヒターは、ケーキ作りの工程にわずかな 「労力」 を取り戻すことを提案した。 いくつかの理由(中には極めてフロイト的なものもあった) から、途中で加えるべき唯一の材料としてディヒターは生卵を選んだ。 前もって混ぜ合わせておいた生地に泡立てた卵を加えるという手間は、 作業量としてちょうどいい。 一から作るよりも依然としてはるかに簡単でありながら、 ケーキを「自分で作った」と感じることができる。 ゼネラル・ミルズがミックス粉から粉末卵を取り除き、卵を加えるレシピに変更したところ、 利用者に達成感や満足感が戻ってきた。ケーキミックスを使っていても、自分でケーキを焼いていると実感できるようになったのだ。 売り上げは急増し、米国人が自宅で一からケーキを焼くことはいっさいなくなった。 だからこそ、現在でも変わらずほとんどのケーキミックスには卵を加える必要がある。「変化を嫌う人」を動かす:魅力的な提案が受け入れられない4つの理由 ロレン・ノードグレン,デイヴィッド・ションタル 164ページ
ティンダーの成功の一因は、 デートのプロセスから多くの 「労力」 を取り除いたことだ。 プロフィールはわずか数分で作成できるし、デート相手の候補者はティンダーが見つけてくれる。 しかも、 メッセージを送る必要はない。画面をスワイプするだけでよいのだ (ティンダーでは意思表示として、 画面に表示された相手に好感を持った場合は右に、パスしたい場合は左にスワイプする)。「変化を嫌う人」を動かす:魅力的な提案が受け入れられない4つの理由 ロレン・ノードグレン,デイヴィッド・ションタル・167 ページ
要するに、 従来のオンライン・デート・プラットフォームは拒絶を大量発生させるのである。 マッチドットコムのようなサイトでは、断られてばかりいることに耐えられなくなって退会する人が多い。ティンダーはオンライン・デートに伴う 「感情面の抵抗」 を和らげるために、互いに関心を持っていることを前提としたシステムを構築した。 ティンダーでは、互いに 「右スワイプ」した相手でなければメッセージを送ることができない。互いに関心があると分からぬままに、 断られて傷つく心配はないのだ。「変化を嫌う人」を動かす:魅力的な提案が受け入れられない4つの理由 ロレン・ノードグレン,デイヴィッド・ションタル 168ページ
ヒエラルキーの頂点に立つチンパンジーは、群れに属する他のチンパンジーに対して非常に協力的で思いやりのある場合が多い。 ただし、 例外が1つある。 それは「ベータ」 だ。 ベータというのは、群れのメンバーのうち、いつの日か十分な力をつけてアルファ(いちばん順位が高いオス)の権威にたてつく可能性のあるオスのチンパンジーのことである。 アルファ・チンパンジーはベータ・チンパンジーを脅威とみなし、 敵視することが知られている。「変化を嫌う人」を動かす:魅力的な提案が受け入れられない4つの理由 ロレン・ノードグレン,デイヴィッド・ションタル 179 ページ
放射線科医がゴリラに気づかなかったのは、ある意味、見えなかったからだ。 訓練の過程で、 放射線科医のメンタル・モデル(認知心理学用語。 物事の見方や行動に大きく影響を与える固定観念や、暗黙の前提) は、レントゲン写真で見えるべきものを探すように微調整されていく。そのため、 生理学的にあり得る異常を見つけることには慣れているが、 もともとあるこのマインドセットにそぐわない現象は目に入らない。 探しているのは他のものであるため、鎖骨の欠損や威嚇するゴリラには気がつかないのだ。 「探していないものは目に入らない」というこの現象は「非注意性盲目」 と呼ばれ、 私たちは日常的に経験している。 前回、 食料品の買い出しに行ったときのことを思い出してほしい。 棚には何万点もの商品が並んでいたはずだが、 特定の商品を探すというミッションをこなす間、買い物リストに載っていない商品にどのくらい目が留まっただろうか。 おそらく、 まったくと言っていいほど目に入らなかったはずだ。 探していなかったから気づかなかったのだ。「変化を嫌う人」を動かす:魅力的な提案が受け入れられない4つの理由 ロレン・ノードグレン,デイヴィッド・ションタル 185 ページ
イノベーションは、イノベーターとオーディエンスとの間の交渉と考えることができる。 オーディエンスが新しいアイデアに抵抗したり、 きっぱりと拒否したりする場合、「ノー」が彼らの態度だ。 それははっきりしている。だが、「ノー」だけでは変化に抵抗する理由は何も分からない。抵抗する本当の理由を明らかにするには、「なぜ」なのかを理解する必要がある。 それができなければ、「感情面の抵抗」 を究明することはできない。 「変化を嫌う人」を動かす:魅力的な提案が受け入れられない4つの理由 ロレン・ノードグレン,デイヴィッド・ションタル・194 ページ
だが、実際にはコストが理由でない場合がほとんどだ。顧客にとっては、コストに文句をつけるのが売り込みを終わらせる最も手っ取り早い方法であり、 全般的な疑問を表明する最も簡単な方法なのである。 さまざまな「抵抗」を簡潔かつ行儀のいい一語にまとめると、たいてい“コスト" や “経費〟 になるものだ。 コストに対する不満は「抵抗」の症状であって、 根本的な原因ではない。「変化を嫌う人」を動かす:魅力的な提案が受け入れられない4つの理由 ロレン・ノードグレン,デイヴィッド・ションタル 194ページ
『大変お気の毒なことです。 糖尿病だとうかがいました。この病気は非常に重くなると、 失明する場合や足を切らなければならなくなる場合さえあります。 でも、 私たちがついていますからご安心ください』。 これは、こういうときにかけてもらいたい言葉とは正反対のものです。 この種の支援活動は、 人がそのとき必要としているものを実感として心から理解せずに、相手を思いやっているふりをした活動にすぎません」 要するに、思いやりごっこだ。思いやりごっことは、作り物の同情心で相手の不安を和らげようとする行為のことである。 ケーブルテレビ会社に問題を解決してもらおうと思って電話をしたことがある人なら、 思いやりごっこがどのようなものかよく知っているだろう。「変化を嫌う人」を動かす:魅力的な提案が受け入れられない4つの理由 ロレン・ノードグレン,デイヴィッド・ションタル・212 ページ
米国のシートベルト義務化の例ほど、 変化に抵抗したがる人間の心がいかに不合理かをよく表すものはない。 今日、米国をはじめ世界の多くの国では、シートベルトの着用が圧倒的に支持されている。 シートベルトを着用することで交通事故による死亡率は50%近く下がり、米国では毎年およそ3万人の命が救われている。 シートベルトは大した苦痛を伴わない予防策であり、個人と社会の健康にメリットがあることは間違いない。つまり、 シートベルトを着用することは疑う余地のない良いアイデアなのである。「変化を嫌う人」を動かす:魅力的な提案が受け入れられない4つの理由 ロレン・ノードグレン,デイヴィッド・ションタル 221ページ
2020年に話は飛ぶが、ここでまた同じことが繰り返される。このときは、マスク着用の義務化をめぐって論争が起きた。 シートベルトと同様、 マスクは新型コロナウイルス感染症の蔓延という社会的害悪を抑えるための手軽で効果的な方法だ。 それなのに多くの人がマスクの装着を拒んだ。 どうして国民はこの安全対策を受け入れたがらなかったのか、 実に不可解である。 ほんのわずかなコストでウイルスの蔓延を防げるというのに。 だが、米国の多くの地域で住民や政治家がマスクの義務化に激しく反対した。 「変化を嫌う人」を動かす:魅力的な提案が受け入れられない4つの理由 ロレン・ノードグレン,デイヴィッド・ションタル・222 ページ
変化を迫られていると感じると、 人は無意識のうちに変化に反発する。これを「心理的反発」 と呼ぶ。「心理的反発」 が発生すると、 私たちは新しいアイデアをチャンスではなく侵略者とみなすようになる。そのため、堀に架けた橋を跳ね上げ、城門を武装する。 変化に対する「抵抗」を「惰性」 とするならば、 「心理的反発」は変化させられることに対する 「抵抗」 なのである。 「変化を嫌う人」を動かす:魅力的な提案が受け入れられない4つの理由 ロレン・ノードグレン,デイヴィッド・ションタル・222 ページ
信じられないかもしれないが、この研究結果から、人間が 「心理的反発」 を感じる理由が分かってくる。人間もラットと同じで、 自分のいる環境に対する自由を基本的欲求として持っている。 自由は生存に不可欠なものであるため、 人間の基本的欲求なのである。 自由があれば、有益で望ましい選択肢を選び、 有害な選択肢や結果を避けることができる。 自由に対する欲求は心の非常に深いところまで染み込んでいるため、 人は選択の自由がある状況をよしとする。 その選択によって物質的な利益がもたらされない場合であってもだ。 ある実験の中で、2つの選択肢のどちらかを選ばせる、ということを行った。一方の選択肢を選ぶと2回目の選択ができるが、もう一方はできない。 2回目の選択をしても特段の利益はもたらされず、必要な作業が増えるだけであったにもかかわらず、人々は2回目の選択ができるほうを本能的に選んだ。 「変化を嫌う人」を動かす:魅力的な提案が受け入れられない4つの理由 ロレン・ノードグレン,デイヴィッド・ションタル 224 ページ
困ったことに、 人に影響を与えようとすると、事実上、その人の自由を奪うことになる。 特定の道を進ませようとしているからだ。 人は、 自由が脅かされそうになっていると感じると、 自由を取り戻そうとして本能的に反発する。> 「変化を嫌う人」を動かす:魅力的な提案が受け入れられない4つの理由 ロレン・ノードグレン,デイヴィッド・ションタル・225 ページ
研究者たちが知りたかったのは、 実験が終わるまでに、この2つのグループのどちらが死刑を強く支持するか、であった。 答えは明白のように思える。 常識的に考えれば、死刑賛成のデータを見れば死刑への支持は強まり、死刑反対のデータを見れば支持は弱まるはずだ。ところが、そうはならなかった。 死刑の利点について読んだグループでは、予想に違わず、 初めに持っていた考えが若干強まっていた。だが、 反対意見を読んでももともとの立場が揺らぐことはなかった。 死刑には効果がないことを示す証拠を見たことで、どういうわけか死刑への支持が強まったのである。 死刑が犯罪を抑止しないという証拠を見た後の死刑賛成派は、証拠を見る前より激しく自身の信念に固執するようになった。 典型的な 「心理的反発」だ。人は変化を迫られるととっさに心を閉ざし、自身の信念を守ろうとする。>「変化を嫌う人」を動かす:魅力的な提案が受け入れられない4つの理由 ロレン・ノードグレン,デイヴィッド・ションタル・227 ページ
この10年間で、 「ソーシャル・プルーフ (社会的証明)」(社会心理学用語。 人は 「他人が取る行動は正しい行動である」 と推測し、 その行動に従うという原理。行列のできる店や、 「いいね」 が多くついている投稿をよいものと判断するようなこと)、「希少性」、「おとり効果」といった説得術 (ナッジ) がマーケティング手法として広く使われるようになった。 これらの戦術を使えば、わずかなコストで行動を大きく変化させることができる。 だが、 今日の消費者は10年前よりもはるかにナッジのことを知っている。 人々がこれらの戦術を知るようになればなるほど、 このような戦術が逆効果になる可能性は高くなる。 「変化を嫌う人」を動かす:魅力的な提案が受け入れられない4つの理由 ロレン・ノードグレン,デイヴィッド・ションタル・231 ページ
人のアイデンティティーの妥当性を疑うようなアイデアは、強い「心理的反発」 を誘発することになる。「変化を嫌う人」を動かす:魅力的な提案が受け入れられない4つの理由 ロレン・ノードグレン,デイヴィッド・ションタル・233 ページ
「心理的反発」を克服するための秘訣は、変化を無理強いするのをやめることだ。 相手を説得しようとするのではなく、相手が自分自身を説得できるよう手助けしたほうがいい。この方法で影響を与えたりイノベーションを起こしたりすることを 「自己説得」 と呼ぶ。 自己説得は、変わることについての議論や洞察が内面から生まれたときに始まる。「変化を嫌う人」を動かす:魅力的な提案が受け入れられない4つの理由 ロレン・ノードグレン,デイヴィッド・ションタル・236 ページ
この例から浮かび上がってくるのが、 自己説得の1つ目のルール、 「指示するのではなく質問する」 である。「変化を嫌う人」を動かす:魅力的な提案が受け入れられない4つの理由 ロレン・ノードグレン,デイヴィッド・ションタル・239 ページ
実際のディープ・キャンバシングのやり取りは次のような感じになる。 会話は、 ある問題 (例:トランスジェンダーの権利)についてキャンバサーが有権者に意見を求めるところから始まる。 有権者が意見を述べているとき、キャンバサーは注意深く耳を傾けるが、その意見について評価はしない。 キャンバサーは有権者の意見に満足なのか残念なのかを顔に出してはいけないのだ。 次に、キャンバサーは有権者に対し、この問題と個人的なつながりがあるかどうかを訊ねる。 たとえば、家族や同僚にトランスジェンダーの人がいるかどうかを訊ねてみる。ここでキャンバサーがこの問題にまつわる自身の個人的な経験を話す場合もある。 そして最後に、有権者にこう訊ねる。 「前回、 あなたが本当に困っているときに誰かがあなたのことを思いやってくれたのはいつですか?」 これは、不利な立場にいる人たちと自分が無関係ではないことを有権者に感じてもらうための質問だ。この質問がきっかけで、 有権者はそれまで自分とはまったく違うと思っていたような人たちが、 実は自分と同じ人間だということに自ら気づくことになる。 「変化を嫌う人」を動かす:魅力的な提案が受け入れられない4つの理由 ロレン・ノードグレン,デイヴィッド・ションタル・243 ページ
この手法が従来のキャンバシングとどのように違うのか見てみよう。 通常、活動家は、 どうしてその活動を支持すべきなのか、その理由を有権者に向かって頭ごなしにまくし立て、異なる意見を持つ人を非難する。 デイヴィッド・フライシャーは最近のインタビューでこのように語っていた。 「有権者に事実を叩きつけるのではなく、自由回答形式の質問を投げかけてその答えに耳を傾けます。それから、直前の回答に応じて次々と自由回答形式の質問を投げかけていくのです。 人が学んだ教訓は、統計情報を突きつけられたときよりも自分自身で結論を導き出したときのほうが記憶に残る、と考えているからです」「変化を嫌う人」を動かす:魅力的な提案が受け入れられない4つの理由 ロレン・ノードグレン,デイヴィッド・ションタル・244 ページ
それでも、ディープ・キャンバシングを支持する証拠には目を見張るものがある。 最近の研究に、 トランスジェンダーの人々を差別から保護する法律についてフロリダ州の有権者の考えがどのように変わるかを追跡したものがある。 およそ500人の有権者に聞き取り調査が行われた。調査員は、ディープ・キャンバシングを経験した後ではトランスジェンダーの人々に対する嫌悪感が概して大幅に減少していることを発見した。 どのくらい減ったのだろうか。 トランスジェンダーの権利に対する支持の変化は、1998年から2012年にかけての、同性愛者の権利に対する米国人の平均的な変化よりも大きかった。この調査を行った研究者は、従来のキャンバシングの手法で有権者の意見を変えようとした他の49件の実験結果とこの結果とを比較したが、 有効性が証明された研究はその中に1つもなかった。「変化を嫌う人」を動かす:魅力的な提案が受け入れられない4つの理由 ロレン・ノードグレン,デイヴィッド・ションタル・245 ページ
合意点や一致点を明らかにする質問から始めると、 新しいイノベーションやアイデアは一段と受け入れられやすくなる。 人は「イエス」 と答えているうちにプロセスに関与しているという感覚を強めていくため、 新製品についての感想を求めたり請願書への署名を依頼したり、 といった小さな頼み事にイエスと答えてもらうことができれば、人々を自己説得に導くことができる。 そして、大きな頼み事をされる頃には、その人たちは既にそのアイデアに賛同しているのである。「変化を嫌う人」を動かす:魅力的な提案が受け入れられない4つの理由 ロレン・ノードグレン,デイヴィッド・ションタル・247 ページ
セールスの分野ではこのテクニックを 「イエス誘導法」と呼んでいる。つまり、同意で始まる質問をするということである。激しく敵対している人が相手であっても一致点はほぼ必ずあるものだ。 私たちが一緒に仕事をしている経営コンサルタントはこんなアドバイスをくれた。「自分とは反対の意見を持つ人を相手にするときは、『自分と違う考え方を受け入れる用意はあるか?』という質問から会話を始めるといい。 相手の反対感情が強い場合はなおさらそうしたほうがいい」 そうすると、人は、この質問には「イエス」 と答えなければならないという強いプレッシャーを心の内に感じる。 そして、この経営コンサルタントの経験では、 「はい、あなたの意見を聞きたいです」 と相手に言わせることができれば、「心理的反発」が解消して心を開かせることができる。「変化を嫌う人」を動かす:魅力的な提案が受け入れられない4つの理由 ロレン・ノードグレン,デイヴィッド・ションタル・249 ページ
「心理的反発」を和らげるには、 まず 「心理的反発」の強さがどの程度かを知る必要がある。 「心理的反発」が最も強くなるのは、人々の強い信念 (政治や宗教)を否定するようなアイデアである場合と、 人々が変化を迫られていると感じる場合、 そしてアイデア作りに人々を巻き込まなかった場合だ。 「変化を嫌う人」を動かす:魅力的な提案が受け入れられない4つの理由 ロレン・ノードグレン,デイヴィッド・ションタル・260 ページ
合法化を支持する根拠を、ほんのいくつかだけ紹介しよう。法律で禁止しても大麻の使用を大幅に減らすことはできておらず、 逆に取り締まりのために何十億ドルもの税金を浪費している。 大麻禁止法は社会的不公平を生み出している。米国人の大麻使用率は黒人も白人もほぼ同じなのに、 黒人が大麻所持で逮捕される確率は白人のおよそ4倍である。 法律で禁じると闇市場が作られ、それによって組織犯罪が助長される。 「変化を嫌う人」を動かす:魅力的な提案が受け入れられない4つの理由 ロレン・ノードグレン,デイヴィッド・ションタル・274 ページ
2021年初頭現在、 大麻は米国の15の州で娯楽用として全面的に合法化され、 36の州と地域で医療用として承認されている。 つまり、大多数の米国人が少なくとも1つの形態で大麻を利用できるようになったということだ。また、27の州では大麻が全面的または部分的に解禁されており、議会では、全国的に大麻を合法化し、以前の法律で有罪となった人の犯罪記録を抹消する法案の検討が行われている。 2020年10月に実施されたギャラップ社の世論調査によれば、 米国人の68%が大麻の合法化を支持している。 どうやらこれは過去最高(最もハイ)のようだ。 「変化を嫌う人」を動かす:魅力的な提案が受け入れられない4つの理由 ロレン・ノードグレン,デイヴィッド・ションタル 278 ページ