「変化を嫌う人」を動かす:魅力的な提案が受け入れられない4つの理由
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私の仕事はお客様にアドバイスをすることです。お客様のご要望はどのようなものでも叶えて差し上げたいと心から思っています。関心があるのは、お客様にとって何がベストかということだけです。だから、ライバル社の車のほうが適していると思えば、ちょっと見に行ってみたらいかがですかとアドバイスすることもあります。また、金利が下がるまで、あるいはお目当てのモデルの価格が下がるまで、2~3カ月待つようにと言うこともあります。時には、そもそも車は必要ないのではないかと、それとなく伝えることさえあります。「販売」を始めた瞬間に、私はお客様を失います。 「変化を嫌う人」を動かす:魅力的な提案が受け入れられない4つの理由 ロレン・ノードグレン,デイヴィッド・ションタル(p.33). Kindle 版. デイヴィッドは顧客への聞き取り調査で何度も同じ話を聞かされた。 たとえばこうだ。 「パートナーと私は自分たちでデザインしたビーチハウスのソファを買いたくてたまらなかったのに、 今あるソファをいとこが引き取ると言ってくれないから購入できなかった」。 あるいは、「私は自分でデザインしたビーチハウスのソファがとても気に入ったけれど、 居住地域の “粗大ゴミの日が来てからでなければ注文できなかった。 誰かが古いソファを運び出してくれるまで、 自分ではどうすることもできなかった。狭い家に大きなソファが2つもあっては生活できないから」「変化を嫌う人」を動かす:魅力的な提案が受け入れられない4つの理由 ロレン・ノードグレン,デイヴィッド・ションタル・18 ページ ある研究によると、1日を気分良く過ごしたとしても、翌日には目立った影響が見られなかった。つまり、月曜日の気分の良さは火曜日に持ち越されなかったのである。だが、ネガティブな出来事の影響は持続し、嫌なことがあった月曜日の次の火曜日は憂鬱になることが予想できた。このパターンは非常に頑強であるため、人間の行動の「法則」とみなされている。具体的には、「快楽非対称の法則(Lawofhedonicasymmetry)」といい、この法則によると「喜びは変化が起こらない限り生まれてこないものであるため、満ち足りた状態が継続すると消え去ってしまう。これに対し苦痛は、不快な状況が続く限り残存し続ける」 「変化を嫌う人」を動かす:魅力的な提案が受け入れられない4つの理由 ロレン・ノードグレン,デイヴィッド・ションタル (p.42). Kindle 版. 会社と同じで、従業員もお金に反応する。ただし、企業と同様、大きな変化を起こすには多額のお金が必要だ。最近の研究で、「基本給がどれだけ上がれば生産性が上がるか?」という素朴な問いに関する調査が行われた。平均的な従業員の調査結果は約8%だった。それより少なければ何の変化も起きない。つまり、年収15万ドルの人の場合は、少なくとも1万2000ドルのボーナスを約束しなければ生産性が上がらないということだ。これを受け、行動経済学者のウリ・ニーズィーはインセンティブに関し、「たくさん給料をやるかまったくやらないかのどちらかだ」と結論づけている。「燃料」がもたらす推進力はすぐに消失しがちで、その分さらに高くつくことになる。 「変化を嫌う人」を動かす:魅力的な提案が受け入れられない4つの理由 ロレン・ノードグレン,デイヴィッド・ションタル (pp.45-46). Kindle 版. 低所得の女性の身になって考えなければいけない。 赤ちちゃんの健康を何よりも大切に思っている(こう考えるのは当然のことだ) ものの、 経済的、 社会的な理由で、それを最優先にするのはなかなか難しいのだ。 そのような状況で「健康的な食事をしなさい」と医者に言われたら、いったい何が起きるだろう。 心の中に葛藤が生まれ、それを解決しなければならなくなる。 多くの人にとって葛藤を和らげる唯一の方法は、 医者の言葉に背くこと。つまり、健康的な食事はさほど重要ではないと結論づけることなのだ。 「変化を嫌う人」を動かす:魅力的な提案が受け入れられない4つの理由 ロレン・ノードグレン,デイヴィッド・ションタル 53ページ 人は往々にして新しいアイデアや可能性を受け入れることを嫌がる。 メリットが明白で議論の余地がなかったとしても、この傾向は変わらない。というのも、人間の心は不確実なものや変化より、 馴染みのあるものや安定を好むからだ。この特性はさまざまな名前で呼ばれている。心理学者は 「現状維持バイアス」 と呼び、マーケティング学者は「親近効果」と呼ぶ。 私たちはウォルター・ホワイトと同じく、 「惰性」 と呼んでいる。「惰性」とは、「もともと人間の心は慣れ親しんだものを好むように作られている」という考え方を指す言葉だ。「変化を嫌う人」を動かす:魅力的な提案が受け入れられない4つの理由 ロレン・ノードグレン,デイヴィッド・ションタル・62 ページ 1970年代、心理学者のロバート・ザイアンス (1923年~2008年)は、 動物の行動を観察していてあることに気がついた。 動物は新しい物体に遭遇したとき、最初は怖がってそれに近づかない (この反応を新奇恐怖症と呼ぶ)。だが、 その同じ物体に再び遭遇したときは、すぐに怖がらなくなる。 そして、 十分に接触した後は、あまり馴染みのないものよりも既に接触した物体を好むようになることが分かったのだ。 たとえば、飼育されているチンパンジーは、 新しい物体が初めて檻の中に入れられたときは、それを避ける。 見たことのないおもちゃを与えられると、たちまち不安になるのだ。この見知らぬ物体に目を凝らしてはいるが、近づくことはない。1、2日経つと、 最初の頃の警戒心が好奇心へと変わっていく。やがて、かつて怖がっていたおもちゃはお気に入りの遊び道具になる。「変化を嫌う人」を動かす:魅力的な提案が受け入れられない4つの理由 ロレン・ノードグレン,デイヴィッド・ションタル・63 ページ 消費者心理学ではこの現象を「おとり効果」と呼ぶ。たとえば、選択肢が2つしかない場合は、 両者の長所(コストと製品機能など) を比べていずれか1つを選択せざるを得ないため、 消費者は個人的な好みでものを選ぶことになる。 価格に敏感な人なら、安いほうを選ぶだろう。だが、第3の選択肢を提示されたらどうなるだろうか。その選択肢は、しっかりとした機能を備えているものの、結局のところ、 製品機能の優れた既存の選択肢には劣る。 そうなると、 製品機能が充実している既存の選択肢が選ばれるようになるだろう。「変化を嫌う人」を動かす:魅力的な提案が受け入れられない4つの理由 ロレン・ノードグレン,デイヴィッド・ションタル・98 ページ その結果分かったのは、 キャッシュバックや粗品など、顧客の期待を超えることを目指した 「燃料」 中心の戦術では顧客ロイヤルティが構築されないということだった。 むしろ、 顧客サービスでのやり取りでよく発生する「抵抗」(何人もの担当者に問題を説明しなければならないことなど)を減らすことで、 ロイヤルティが構築されることが分かったのである。 この調査結果は、顧客サービスに対する企業の考え方を根本的に変えるはずだ。問うべきことは、 「どうすれば顧客に喜んでもらえるか?」ではない。 「どうすれば顧客に負担をかけずに済むか?」 だ。「変化を嫌う人」を動かす:魅力的な提案が受け入れられない4つの理由 ロレン・ノードグレン,デイヴィッド・ションタル・117 ページ ところが、感情に訴えかけるスローガンが最も効果を発揮したわけではない。 恐怖をあおる戦術も同様だ。 最も効果的だったのは、 「燃料」系のスローガンではなかった。なぜ支援すべきなのかという理由ではなく、いつ支援すべきなのかを説くものが最も効果的だったのだ。 そのポスターには、 会社で働く従業員が描かれており、「職場の勧誘員が支援を呼びかけたら国債を購入しよう」というキャッチフレーズが添えられていた。このキャッチフレーズが非常に効果的であることが判明すると、すぐにすべての戦時国債ポスターにこのメッセージが追加された。その結果どうなったか。 戦時国債の売れ行きは倍増した。「変化を嫌う人」を動かす:魅力的な提案が受け入れられない4つの理由 ロレン・ノードグレン,デイヴィッド・ションタル・131 ページ このアイデアを実践するためのもう1つの簡単な方法を紹介しよう。賛同を得ようとするときは、 「このアイデアについてどう思う?」と質問してはいけない。 「このアイデアは気に入ったかな? それとも、 もっといいアイデアがあるかい?」と聞くのである。 このように質問の仕方をわずかに変えるだけで、 「ノー」 と答えることの大変さが変わる。 アイデアを否定するだけでなく、より良い代替案を考え出さなければいけなくなるからだ。このシンプルな「抵抗」によって、多くの人が「イエス」と答えるようになる。「変化を嫌う人」を動かす:魅力的な提案が受け入れられない4つの理由 ロレン・ノードグレン,デイヴィッド・ションタル・150 ページ デフォルトを変えると命を救うこともできる。 ドイツでは、臓器提供の登録者が人口の12%しかいない。 ドイツの隣国オーストリアの登録者が99%であることを考えると、これはかなり低い数字だ。 デンマークはドイツよりさらに低く、臓器提供の登録者は5%に満たない。 だが、 スウェーデンは85%に達している。この差は何に由来するのだろうか。 臓器提供者の少ない国では、 人は生来、 非ドナーと設定されるため、申し込みをしなければ提供者名簿に名前が登録されない。ほぼ全員が臓器提供登録をしている国や地域では、これがまったく逆になっている。 人は生来、 ドナーとして設定されるため、名簿から名前を削除するには、そうすることを選択しなければならない。 名簿に名前を載せるにしろ載せないにしろ、大した手間はかからない。 申請書に記入するだけのことだ。 だが、 進む道を変えることが比較的容易であっても、 ほとんどの人は最も「労力」を必要としない道を選ぶのである。「変化を嫌う人」を動かす:魅力的な提案が受け入れられない4つの理由 ロレン・ノードグレン,デイヴィッド・ションタル・152 ページ ディヒターのおかげでゼネラル・ミルズは、ケーキミックスを画期的な商品たらしめている理由そのものが、 ケーキミックスの問題点だということに気づくことができた。 ケーキミックスを使うのでは簡単すぎたのである。そこでディヒターは、ケーキ作りの工程にわずかな 「労力」 を取り戻すことを提案した。 いくつかの理由(中には極めてフロイト的なものもあった) から、途中で加えるべき唯一の材料としてディヒターは生卵を選んだ。 前もって混ぜ合わせておいた生地に泡立てた卵を加えるという手間は、 作業量としてちょうどいい。 一から作るよりも依然としてはるかに簡単でありながら、 ケーキを「自分で作った」と感じることができる。 ゼネラル・ミルズがミックス粉から粉末卵を取り除き、卵を加えるレシピに変更したところ、 利用者に達成感や満足感が戻ってきた。ケーキミックスを使っていても、自分でケーキを焼いていると実感できるようになったのだ。 売り上げは急増し、米国人が自宅で一からケーキを焼くことはいっさいなくなった。 だからこそ、現在でも変わらずほとんどのケーキミックスには卵を加える必要がある。「変化を嫌う人」を動かす:魅力的な提案が受け入れられない4つの理由 ロレン・ノードグレン,デイヴィッド・ションタル 164ページ 要するに、 従来のオンライン・デート・プラットフォームは拒絶を大量発生させるのである。 マッチドットコムのようなサイトでは、断られてばかりいることに耐えられなくなって退会する人が多い。ティンダーはオンライン・デートに伴う 「感情面の抵抗」 を和らげるために、互いに関心を持っていることを前提としたシステムを構築した。 ティンダーでは、互いに 「右スワイプ」した相手でなければメッセージを送ることができない。互いに関心があると分からぬままに、 断られて傷つく心配はないのだ。「変化を嫌う人」を動かす:魅力的な提案が受け入れられない4つの理由 ロレン・ノードグレン,デイヴィッド・ションタル 168ページ ヒエラルキーの頂点に立つチンパンジーは、群れに属する他のチンパンジーに対して非常に協力的で思いやりのある場合が多い。 ただし、 例外が1つある。 それは「ベータ」 だ。 ベータというのは、群れのメンバーのうち、いつの日か十分な力をつけてアルファ(いちばん順位が高いオス)の権威にたてつく可能性のあるオスのチンパンジーのことである。 アルファ・チンパンジーはベータ・チンパンジーを脅威とみなし、 敵視することが知られている。「変化を嫌う人」を動かす:魅力的な提案が受け入れられない4つの理由 ロレン・ノードグレン,デイヴィッド・ションタル 179 ページ 放射線科医がゴリラに気づかなかったのは、ある意味、見えなかったからだ。 訓練の過程で、 放射線科医のメンタル・モデル(認知心理学用語。 物事の見方や行動に大きく影響を与える固定観念や、暗黙の前提) は、レントゲン写真で見えるべきものを探すように微調整されていく。そのため、 生理学的にあり得る異常を見つけることには慣れているが、 もともとあるこのマインドセットにそぐわない現象は目に入らない。 探しているのは他のものであるため、鎖骨の欠損や威嚇するゴリラには気がつかないのだ。 「探していないものは目に入らない」というこの現象は「非注意性盲目」 と呼ばれ、 私たちは日常的に経験している。 前回、 食料品の買い出しに行ったときのことを思い出してほしい。 棚には何万点もの商品が並んでいたはずだが、 特定の商品を探すというミッションをこなす間、買い物リストに載っていない商品にどのくらい目が留まっただろうか。 おそらく、 まったくと言っていいほど目に入らなかったはずだ。 探していなかったから気づかなかったのだ。「変化を嫌う人」を動かす:魅力的な提案が受け入れられない4つの理由 ロレン・ノードグレン,デイヴィッド・ションタル 185 ページ 『大変お気の毒なことです。 糖尿病だとうかがいました。この病気は非常に重くなると、 失明する場合や足を切らなければならなくなる場合さえあります。 でも、 私たちがついていますからご安心ください』。 これは、こういうときにかけてもらいたい言葉とは正反対のものです。 この種の支援活動は、 人がそのとき必要としているものを実感として心から理解せずに、相手を思いやっているふりをした活動にすぎません」 要するに、思いやりごっこだ。思いやりごっことは、作り物の同情心で相手の不安を和らげようとする行為のことである。 ケーブルテレビ会社に問題を解決してもらおうと思って電話をしたことがある人なら、 思いやりごっこがどのようなものかよく知っているだろう。「変化を嫌う人」を動かす:魅力的な提案が受け入れられない4つの理由 ロレン・ノードグレン,デイヴィッド・ションタル・212 ページ 米国のシートベルト義務化の例ほど、 変化に抵抗したがる人間の心がいかに不合理かをよく表すものはない。 今日、米国をはじめ世界の多くの国では、シートベルトの着用が圧倒的に支持されている。 シートベルトを着用することで交通事故による死亡率は50%近く下がり、米国では毎年およそ3万人の命が救われている。 シートベルトは大した苦痛を伴わない予防策であり、個人と社会の健康にメリットがあることは間違いない。つまり、 シートベルトを着用することは疑う余地のない良いアイデアなのである。「変化を嫌う人」を動かす:魅力的な提案が受け入れられない4つの理由 ロレン・ノードグレン,デイヴィッド・ションタル 221ページ 2020年に話は飛ぶが、ここでまた同じことが繰り返される。このときは、マスク着用の義務化をめぐって論争が起きた。 シートベルトと同様、 マスクは新型コロナウイルス感染症の蔓延という社会的害悪を抑えるための手軽で効果的な方法だ。 それなのに多くの人がマスクの装着を拒んだ。 どうして国民はこの安全対策を受け入れたがらなかったのか、 実に不可解である。 ほんのわずかなコストでウイルスの蔓延を防げるというのに。 だが、米国の多くの地域で住民や政治家がマスクの義務化に激しく反対した。 「変化を嫌う人」を動かす:魅力的な提案が受け入れられない4つの理由 ロレン・ノードグレン,デイヴィッド・ションタル・222 ページ 信じられないかもしれないが、この研究結果から、人間が 「心理的反発」 を感じる理由が分かってくる。人間もラットと同じで、 自分のいる環境に対する自由を基本的欲求として持っている。 自由は生存に不可欠なものであるため、 人間の基本的欲求なのである。 自由があれば、有益で望ましい選択肢を選び、 有害な選択肢や結果を避けることができる。 自由に対する欲求は心の非常に深いところまで染み込んでいるため、 人は選択の自由がある状況をよしとする。 その選択によって物質的な利益がもたらされない場合であってもだ。 ある実験の中で、2つの選択肢のどちらかを選ばせる、ということを行った。一方の選択肢を選ぶと2回目の選択ができるが、もう一方はできない。 2回目の選択をしても特段の利益はもたらされず、必要な作業が増えるだけであったにもかかわらず、人々は2回目の選択ができるほうを本能的に選んだ。 「変化を嫌う人」を動かす:魅力的な提案が受け入れられない4つの理由 ロレン・ノードグレン,デイヴィッド・ションタル 224 ページ 研究者たちが知りたかったのは、 実験が終わるまでに、この2つのグループのどちらが死刑を強く支持するか、であった。 答えは明白のように思える。 常識的に考えれば、死刑賛成のデータを見れば死刑への支持は強まり、死刑反対のデータを見れば支持は弱まるはずだ。ところが、そうはならなかった。 死刑の利点について読んだグループでは、予想に違わず、 初めに持っていた考えが若干強まっていた。だが、 反対意見を読んでももともとの立場が揺らぐことはなかった。 死刑には効果がないことを示す証拠を見たことで、どういうわけか死刑への支持が強まったのである。 死刑が犯罪を抑止しないという証拠を見た後の死刑賛成派は、証拠を見る前より激しく自身の信念に固執するようになった。 典型的な 「心理的反発」だ。人は変化を迫られるととっさに心を閉ざし、自身の信念を守ろうとする。>「変化を嫌う人」を動かす:魅力的な提案が受け入れられない4つの理由 ロレン・ノードグレン,デイヴィッド・ションタル・227 ページ この10年間で、 「ソーシャル・プルーフ (社会的証明)」(社会心理学用語。 人は 「他人が取る行動は正しい行動である」 と推測し、 その行動に従うという原理。行列のできる店や、 「いいね」 が多くついている投稿をよいものと判断するようなこと)、「希少性」、「おとり効果」といった説得術 (ナッジ) がマーケティング手法として広く使われるようになった。 これらの戦術を使えば、わずかなコストで行動を大きく変化させることができる。 だが、 今日の消費者は10年前よりもはるかにナッジのことを知っている。 人々がこれらの戦術を知るようになればなるほど、 このような戦術が逆効果になる可能性は高くなる。 「変化を嫌う人」を動かす:魅力的な提案が受け入れられない4つの理由 ロレン・ノードグレン,デイヴィッド・ションタル・231 ページ 実際のディープ・キャンバシングのやり取りは次のような感じになる。 会話は、 ある問題 (例:トランスジェンダーの権利)についてキャンバサーが有権者に意見を求めるところから始まる。 有権者が意見を述べているとき、キャンバサーは注意深く耳を傾けるが、その意見について評価はしない。 キャンバサーは有権者の意見に満足なのか残念なのかを顔に出してはいけないのだ。 次に、キャンバサーは有権者に対し、この問題と個人的なつながりがあるかどうかを訊ねる。 たとえば、家族や同僚にトランスジェンダーの人がいるかどうかを訊ねてみる。ここでキャンバサーがこの問題にまつわる自身の個人的な経験を話す場合もある。 そして最後に、有権者にこう訊ねる。 「前回、 あなたが本当に困っているときに誰かがあなたのことを思いやってくれたのはいつですか?」 これは、不利な立場にいる人たちと自分が無関係ではないことを有権者に感じてもらうための質問だ。この質問がきっかけで、 有権者はそれまで自分とはまったく違うと思っていたような人たちが、 実は自分と同じ人間だということに自ら気づくことになる。 「変化を嫌う人」を動かす:魅力的な提案が受け入れられない4つの理由 ロレン・ノードグレン,デイヴィッド・ションタル・243 ページ この手法が従来のキャンバシングとどのように違うのか見てみよう。 通常、活動家は、 どうしてその活動を支持すべきなのか、その理由を有権者に向かって頭ごなしにまくし立て、異なる意見を持つ人を非難する。 デイヴィッド・フライシャーは最近のインタビューでこのように語っていた。 「有権者に事実を叩きつけるのではなく、自由回答形式の質問を投げかけてその答えに耳を傾けます。それから、直前の回答に応じて次々と自由回答形式の質問を投げかけていくのです。 人が学んだ教訓は、統計情報を突きつけられたときよりも自分自身で結論を導き出したときのほうが記憶に残る、と考えているからです」「変化を嫌う人」を動かす:魅力的な提案が受け入れられない4つの理由 ロレン・ノードグレン,デイヴィッド・ションタル・244 ページ それでも、ディープ・キャンバシングを支持する証拠には目を見張るものがある。 最近の研究に、 トランスジェンダーの人々を差別から保護する法律についてフロリダ州の有権者の考えがどのように変わるかを追跡したものがある。 およそ500人の有権者に聞き取り調査が行われた。調査員は、ディープ・キャンバシングを経験した後ではトランスジェンダーの人々に対する嫌悪感が概して大幅に減少していることを発見した。 どのくらい減ったのだろうか。 トランスジェンダーの権利に対する支持の変化は、1998年から2012年にかけての、同性愛者の権利に対する米国人の平均的な変化よりも大きかった。この調査を行った研究者は、従来のキャンバシングの手法で有権者の意見を変えようとした他の49件の実験結果とこの結果とを比較したが、 有効性が証明された研究はその中に1つもなかった。「変化を嫌う人」を動かす:魅力的な提案が受け入れられない4つの理由 ロレン・ノードグレン,デイヴィッド・ションタル・245 ページ 合意点や一致点を明らかにする質問から始めると、 新しいイノベーションやアイデアは一段と受け入れられやすくなる。 人は「イエス」 と答えているうちにプロセスに関与しているという感覚を強めていくため、 新製品についての感想を求めたり請願書への署名を依頼したり、 といった小さな頼み事にイエスと答えてもらうことができれば、人々を自己説得に導くことができる。 そして、大きな頼み事をされる頃には、その人たちは既にそのアイデアに賛同しているのである。「変化を嫌う人」を動かす:魅力的な提案が受け入れられない4つの理由 ロレン・ノードグレン,デイヴィッド・ションタル・247 ページ セールスの分野ではこのテクニックを 「イエス誘導法」と呼んでいる。つまり、同意で始まる質問をするということである。激しく敵対している人が相手であっても一致点はほぼ必ずあるものだ。 私たちが一緒に仕事をしている経営コンサルタントはこんなアドバイスをくれた。「自分とは反対の意見を持つ人を相手にするときは、『自分と違う考え方を受け入れる用意はあるか?』という質問から会話を始めるといい。 相手の反対感情が強い場合はなおさらそうしたほうがいい」 そうすると、人は、この質問には「イエス」 と答えなければならないという強いプレッシャーを心の内に感じる。 そして、この経営コンサルタントの経験では、 「はい、あなたの意見を聞きたいです」 と相手に言わせることができれば、「心理的反発」が解消して心を開かせることができる。「変化を嫌う人」を動かす:魅力的な提案が受け入れられない4つの理由 ロレン・ノードグレン,デイヴィッド・ションタル・249 ページ 2021年初頭現在、 大麻は米国の15の州で娯楽用として全面的に合法化され、 36の州と地域で医療用として承認されている。 つまり、大多数の米国人が少なくとも1つの形態で大麻を利用できるようになったということだ。また、27の州では大麻が全面的または部分的に解禁されており、議会では、全国的に大麻を合法化し、以前の法律で有罪となった人の犯罪記録を抹消する法案の検討が行われている。 2020年10月に実施されたギャラップ社の世論調査によれば、 米国人の68%が大麻の合法化を支持している。 どうやらこれは過去最高(最もハイ)のようだ。 「変化を嫌う人」を動かす:魅力的な提案が受け入れられない4つの理由 ロレン・ノードグレン,デイヴィッド・ションタル 278 ページ