精神科
<202501 鷲塚先生レクチャー>
06 精神症状を見たてるための基礎知識
1.伝統的診断学における病院の分類
精神障害には反応と疾患
反応:状況から了解可能、疾患:状況から了解不可能なもの
診断基準では誰が診断しても同じ診断になることを目指して病因論が排除されている
歴史的にこう捉えられてきた、と診断学を学ぶ
患者さんと触れ合う時に病因からアプローチする
・心因性:環境因性を含む.ストレス状況に対する反応としての精神の変調.疾患ではない.→神経症性障害()
・内因性:脳の機能的異常が想定されているが原因不明の疾患.落ち込む理由がないのに.生活体験から関係なく発症.ドパミン仮説はまだ確定的ではない.→統合失調症、気分障害(うつ病、双極性障害)
・外因性:医学的にはっきりとした説明がつく.身体的基盤の明らかな精神障害、疾患、腫瘍、外傷、認知症.内分泌代謝、自己免疫疾患.薬物(アルコール、覚醒剤、ステロイド(高容量投与ででる))→器質性精神障害
2.「ストレス」の概念
生体の反応としてのストレスを引き起こす刺激がストレッサー.この区別を意識して
a. 人体の反応は一緒
b. 内分泌系を介して交感神経の緊張状態を引き起こす
c. ホメオスタシスに変化をもたらすのがストレス
d. ストレス耐性が高まる
3.防衛機制 フロイト
欲求不満や葛藤によって起こるストレスの解消を目指し、状況への適応を可能にするための無意識の精神作用.防衛機制が不適切な形で用いられると神経症(性障害)の症状を形成.心のバランスを保つために.心因性の疾患を考える時
無意識:フロイトは精神分析学派を作った人物.無意識のはたらきを研究.催眠術で人が言いなりになってしまうのは何故だろう?精神科の医者をやっていると精神分析をやっているのかと聞かれる.土台になっている部分はあるが、特殊なもの.イメージの意味を話し合う.
①抑圧:自分が認めることができない欲求や危険な欲求を無意識のうちに抑えつけ、心の底に閉じ込めること(本人は抑圧された欲求を意識できなくなる).それが崩れた時にヒステリー.解離性転換性障害
私は意識的に押さえつけて
解離性:意識の問題.失神、朦朧、健忘、遁走.多重人格
転換性:身体的領域の問題として.失立、失声(言ってはいけない)、感覚障害(見えない、聞こえない)エピレプシーでは脳波異常が現れる.コンバージョンdisorder は異常なし.
②逃避:大袈裟に体調が悪いとする.空想に浸る.この先どうなるのだろうという不安を抱いて空想の中に生きてしまったり.アルコールを飲んで依存症になってしまったり.試験が近づくと掃除をしだす、ゲームをしだす.
③投影:自分が他人に対して抱いている感情・欲求を、他人が自分に対して抱いていると思い込むこと.誰々が私を嫌っているから私は誰々が嫌い.優しく接せられれば改善できる.改善できない場合は「妄想」.妄想になれば防衛機制の範囲を超える.訂正不可能性.投影は心のバランスを保つためのシステム.
大な胎動を
④反動形成:自分の欲求が満たされない時、それと反対の態度や行動.余裕シャキシャキなふりをして不安でしょうがない.見た目は慇懃な人が内面では野心に燃えている.店では尊大な態度をとる
⑤同一化:自分にとって好ましい人の特性を無意識のうちに取り入れていること.マネなくてもいいのにまねちゃう.文学青年がチックのある作家を尊敬していたら取り入れてしまった.
⑥昇華:一番良い方法.
⑦合理化:自分の失敗や欠点を最もらしい理由をつけて正当化.酸っぱい葡萄の話.自分の能力的な問題で届かなかったのだけれど、あれは酸っぱい葡萄だからいらないや.都市の大学に行きたかった.松本いい場所だし、いい人と出会ったしいいやという気持ち.小さなことも合理化してしまったら卑屈になってしまう.
⑧退行:泣いている.わざとやっているわけではない.幼児退行=赤ちゃんがえりする.
⑨補償:まず劣等感がある.それを克服するために異なる分野で成果を上げる
10否認:依存症でよく出る.認めたくない現実や欲求などをj一才に存在しなかったものと考えること.
11置き換え:ある対象に対して実現できない感情を他の対象に向けることで解消すること.子供ができないからペットを飼う.優等生がダイエットに目標が置き換わる.摂食障害になってしまう.
まずは器質性精神障害を鑑別、了解可能か不可能かという観点から反応と疾患を鑑別
20240122 21M期末、20M過去問、19M過去問、17M過去問
神経症:フロイトは、神経症の症状の形成には無意識の働きが大きく関与していることを発見。精神分析学を創始
精神機能の評価:意識障害(意識が清明であるか否かの評価は重要)
2, 3. 精神症状Ⅰ, Ⅱ 鷲塚先生
精神機能の分類:意識、記憶、思考、知能、自我意識
意識:a. 意識混濁、b. 意識変容
a. 意識混濁:量的な意識障害(ⅰ. 傾眠、ⅱ. 昏睡)
ⅰ. 傾眠:呼びかけには断片的に反応するが、放置するとすぐに入眠してしまう。
b. 意識変容:質的な意識障害(アメンチア、せん妄、錯乱) 錯乱:ある程度の意識混濁を背景に、見当識や記憶があやしくなり、思路が乱れ、話のまとまりをかく。
記憶:記銘、保持、追想
対象を心に刻み付け(記銘)、これを維持し(保持)、意識の上へ呼び出す(追想) 知能:目の前の事実や状況を分析、判断する能力、学習する能力、環境に適応する能力など、人の知的精神活動の能力の総和。
精神遅滞:知能が生来低い状態にあるもの
認知症:いったん正常レベルまで達した知能が障害された状態
自我意識:能動性・境界性・単一性・同一性(これらに異常を生じるものを自我障害と呼ぶ。:統合失調症の中核症状。) 能動性:自分自身が行っているという感じ
単一性:自分は一つであるという感じ
同一性:時間の変化の中でも自分は変わらない
境界性:自己と他者・外界が区別されること
3. 精神症状Ⅱ 鷲塚先生
亜型分類(ICD-10):緊張型、破格型、幻覚型
急性期症状:妄想、幻覚、思考障害
診断基準(DSM-5 A項目):まとまりのない発語、ひどくまとまりのない、または緊張病性の行動、陰性症状(情動表出の減少、意欲欠如)
4. 精神疾患の成因と分類
精神科診断:➀外因性精神障害→②内因性精神障害→③心因性精神障害
➀外因性精神障害:身体的基盤のある精神障害
②内因性精神障害:統合失調症や双極性障害に代表される
③心因性精神障害:ストレスや環境への不適応として現れる
6. 老年期精神障害・器質性精神障害 埴原先生
認知症
周辺症状:BPSD(幻覚妄想、うつ、徘徊、焦燥、攻撃性といった精神や行動の異常。認知機能障害をもつ当事者と取り巻く環境の相互作用の結果から生じる。)
病理:大脳萎縮を伴う神経細胞脱落・老人斑(Aβタンパク)・神経原線維変化の出現
症状:うつ、アパシー、物とられ妄想
病理:神経細胞内にレビー小体の出現
前頭側頭型認知症:しばしば若年に発症。性格や行動の変化など前頭葉症候群を呈する。 症状:時刻表的生活、常道的周遊、模倣行動
障害部位:背外側前頭葉(遂行機能障害と関連する前頭葉)
定義:日内変動を伴う意識障害<医ンプット>
病態:急性の脳の障害
症状:顕著な注意障害、知覚面では錯覚や幻視がみられる、アメンチア(思考の錯乱と困惑が目立つ病態)、妄想、精神運動興奮
8. 物質関連障害および嗜好性障害群 中村先生
処方薬依存
疫学:女性>男性
原因:当初は治療目的→徐々に耐性を獲得→使用量が増加→発症
アルコール依存
評価:アルコール使用障害特定テスト Alcohol Use Disorders Identiofication Test 1. 飲酒の頻度、2. 通常の飲酒量、3. 多量飲酒の頻度、4. 飲酒に対するコントロール障害、5. 飲酒の優先度上昇、6. 朝酒、7. 飲酒後の罪悪感・後ろめたさ、8. ブラックアウト、9. 飲酒関連のけが、10. 他者が飲酒を心配する
アルコール離脱症候群
評価尺度:CIWA-Ar
評価項目:嘔気、振戦、発汗、不安、焦燥感、触覚障害、聴覚障害、視覚障害、頭痛・頭重感、見当識・意識障害
飲酒運転:死亡事故件数は減少傾向
ギャンブル障害
診断基準(DSM-5):賭博のために、重要な人間関係、仕事、教育または職業上の機会を危険にさらし、または失ったことがある。
家族関係は無関係ではない
ゲーム障害
ICD-11で疾病分類のひとつに認定
薬物依存
精神科医療施設で問題となる薬物:覚醒剤
9. 睡眠障害 篠山先生
睡眠:レム睡眠、ノンレム睡眠
レム睡眠:急速眼球運動、抗重力筋の筋緊張の抑制
ノンレム睡眠:脳波の活動が低下していく
安静・覚醒・閉眼時:α波
睡眠ステージ2(N2):紡錘波、K複合
治療:ドパミン受容体作動薬
原因:鉄欠乏。血清フェリチンの低下
レンボレキサント:オレキシン受容体作動薬
主徴:睡眠発作(日中の反復する居眠り)、脱力発作(カタレプキシー cataplexy)、睡眠麻痺(金縛り)、入眠時幻覚
オレキシン欠乏(脳脊髄液)
10. パーソナリティ障害 篠山先生
慢性的な空虚感
理想化とこき下ろしの両極端で揺れ動く
自殺の行動、そぶり、脅しをしたり自傷行為を繰り返したりする
見捨てられることを避けようとするなりふりかまわない努力をする
11. 神経発達障害群Ⅰ 本田先生
神経発達症
特徴:対人的コミュニケーションと相対的対人関係の質的異常および行動、興味、活動の限局された反復的な様式
カモフラージュ:成長とともに通常の人たちの行動を模倣することによって異常さを隠そうとする行動をとる
視覚的構造化:音声言語よりも写真・絵・文字なおを用いた情報提示が有効
易刺激性:生活の多くの場面で目立つ場合には薬物療法
特別支援教育:障害のある児童・生徒が授業や活動に参加しやすくするための個別の対応が法律で義務付けられている
14. ストレス因関連障害・解離症・身体症状症 荻原先生
解離性障害と転換性障害:内面の不安や葛藤が無意識のうちに抑圧されて解離/転換症状に置き換わることによって生じる。両者は合併することも多い。かつては両者を合わせてヒステリーと呼んでいた。
解離症状:意識の障害として出現
転換症状:運動や知覚の障害として出現(失声、感覚脱失、失立、失歩、運動麻痺)
症状:強迫観念、強迫行為
強迫観念:不合理で馬鹿馬鹿しいと意識されるにもかかわらず、繰り返し生じて意識を占拠する思考
強迫行為:自らの意志に反して強いられる定型化された反復行動(洗浄強迫、確認強迫、計算強迫)
薬物療法:SSRI、Clomipramine
非薬物療法:暴露反応妨害法、行動療法
定義:生活上のストレス要因によって生じた苦悩と情動障害
発症:ストレス要因の発生から一か月以内。持続時間は一か月を超えない。
症状:非特異的で多様(不安、抑うつ、不眠、食欲低下など)、比較的軽度
治療:精神指導、生活相談、症状に応じた対症療法
症状:1. 再体験症状、2. 回避/麻痺症状、3. 覚醒亢進症状
1. 再体験症状:フラッシュバック、悪夢
薬物療法:SSRI
不安障害:恐怖症性不安障害、全般性不安障害、パニック障害、社会恐怖 恐怖症性不安障害:特定の事物や環境や状況に対する過度の恐怖を特徴
全般性不安障害:日常の様々な出来事に不安を感じやすい
パニック障害:発作性の症状を生じる
社会恐怖:他人から注視される恐怖を主徴
神経症性障害
精神療法:支持的態度、傾聴
15. 小児期・思春期・青年期の精神障害 本田先生
持続的な対人交流が乏しく、陽性感情が乏しい
認知的な発達が9か月以上に達した時点から診断が可能となる
疫学:有病率:重度のネグレクトを受けた子どもの10%以下とされる
思春期:第二次性徴の発現を中心とする生物学的区分を差す。性的・身体的に成熟に向けて大きな変化を迎える。
思春期・青年期
発達課題:親からの自立、アイデンティティの確立。アンビバレンス(多かれ少なかれ自信過剰である一方で極端な自己卑下)。身体と精神がそれまでのバランスを失い不安や動揺を感じやすい時期→思春期/青年期危機(この時期に認められる一過性の精神変調や行動異常。)
神経症やせ症:必要量と比べてカロリー摂取を制限し、優位に低い体重に至る 症状:低い体重であるにもかかわらず、体重増加・肥満に対する強い恐怖 or 体重増加を妨げる持続した行動を認める。自分の体重または体型の体験の仕方の障害、自己評価に対する体重や体系の不相応な影響、現在の体重の深刻さに対する認識の持続的欠如が特徴。
神経過食症:過食エピソードと体重増加を防ぐための反復する不適切な代償行動(自己誘発性嘔吐、過剰な運動、絶食)がともに三か月以上にわたって少なくとも1週間認める。自己評価が体型および体重の影響を過度に受けていることが特徴。 思春期のメンタルヘルスの問題:不登校
特徴:症状の部位と程度に変動性がある。理学所見と症状が合わない。
必要条件:年間30日以上学校を休むこと(文部科学省)
子どもの摂食障害
感冒罹患後や歯列矯正後などの体重の減少から発展するケースがみられる
腹痛・嘔気などの身体症状が伴いやすい
急激に重篤な状態に陥りやすい
症状は飢餓による影響を受けやすい
16. 法と精神医学 鷲塚先生
精神保健福祉法
応急入院:同意が得られない。保健所長→知事に報告。 緊急措置入院:自傷他害のおそれがある精神障害者。警察は保健所長を通して知事へ通報。精神保健指定医1名、72時間まで入院させられる→医療保護入院(市町村長の同意) 17-18. 双極性障害・抗うつ障害群Ⅰ, Ⅱ 鷲塚先生
疫学:15%(日本人)
病前気質・性格:執着気質、メランコリー親和型
危険因子:ライフイベント、幼少時の問題、身体的要因、社会的要因、精神的要因
診断(DSM-5):➀2週間以上持続、②ほとんど一日中続く抑うつ気分 or 興味や喜びの喪失
治療:抗うつ薬(SSRI、SNRI、NaSSA、抗精神病薬(幻覚妄想などの精神症状を伴う場合)、修正型通電療法、精神療法(支持的精神療法) 症状・診断:
躁病相:気分高揚(異常かつ持続的)、開放的 or 易怒的(易刺激性)。また、誇大妄想、睡眠欲求減少、多弁、観念奔逸、注意散漫、目的志向性の活動増加(行為切迫)、精神運動焦燥、困った結果につながる可能性の高い活動に熱中する。 うつ病相:ほとんど一日中続く抑うつ気分/興味や喜びの喪失、食欲や体重の著しい変化、睡眠障害(不眠/過眠)、精神運動静止 or 焦燥、易疲労性、罪責感、嗜好や集中力の低下(決断困難)、希死観念などの持続。微小妄想(心気妄想、貧困妄想、罪業妄想)などもみられる。 気分安定薬:リチウム、バルプロ酸、カルバマゼピン、ラモトリギン 非定型抗精神病薬:クエチアピン、オランザピン、アリピプラゾール、ルラシドン
+心理教育、家族療法、認知療法、対人関係リズム療法
22-23. 統合失調症・精神病性症候群Ⅰ, Ⅱ 高橋先生
症状と診断:
思考障害
意欲障害:能動性低下、自発性低下、無為自閉
行動障害:独語、空笑、社会行動の障害
病識の欠如:治療拒否、拒薬、怠薬
前駆症状・初期症状:自生体験、聴覚過敏、緊迫困惑気分、漠とした被注察感 予後不良因子:思春期発症、慢性化、陰性症状、残遺状態
精神療法・心理社会的介入:心理教育、生活技能訓練
アカシジア(正座不能症):じっと座っていることも立っていることもできない状態で焦燥感を伴う。下肢にムズムズした異常近くを覚え、絶えず歩き回ったり、手足を動かしたり足踏みしたりする。 急性ジストニア:筋の不随意運動。頸部痙性捻転、舌の突出、四肢体感の捻転、眼球上転 悪性症候群:筋強直、発熱、意識障害、発汗、頻脈、WBC上昇、CPK上昇。 対応:抗精神病薬の中止、十分な補液、全身管理、ダントロレン(末梢性筋弛緩薬)の使用 分類:統合失調症スペクトラム障害および精神病性障害群(DSM-5)
緊張病性興奮、緊張病性昏迷(無言・無動)、拒絶、常同運動
統合失調症以外に、脳器質疾患や悪性症候群などで起こりえる。
疫学:初老・老年期の女性
症状:否定妄想:「胃もない腸もない」「内臓がない」「自分は死んでいる」 25. カタトニア 荻原先生
26. 精神科治療学Ⅱ/薬物療法 鷲塚先生
向精神薬
副作用:腎障害
副作用:筋弛緩作用(ふらつき、転倒)、前向性健忘、依存性(精神的/身体的)、せん妄 連用すると依存性や耐性を生じるため、一時的な使用にとどめることが望ましい。
睡眠薬:ベンゾが主流だったが、これらの有害事象が起こりにくい新しいタイプの薬が開発されている。
抗認知症薬