心サルコイドーシス
#循環器疾患 #サルコイドーシス
【問診】
55歳の男性.
主訴:息切れ、労作時呼吸困難、動悸、めまい
6ヵ月前に霧視を訴えぶどう膜炎の診断(→サルコイドーシス,Vogt-小柳-原田病,Behçet病など
【身体所見】
意識は清明.体温36.5℃.
脈拍40/分,整.(→徐脈性不整脈
血圧112/74mmHg.呼吸数16/分.SpO2 97%(room air).
脈拍68/分,不整.
心音でⅢ音を聴取する.呼吸音に異常を認めない.(→心不全(心収縮力減弱)
(陰性所見)
眼瞼結膜と眼球結膜とに異常を認めない,Hb 12.6g/dL(→貧血ではない
神経診察に異常を認めない.両下腿に浮腫を認めない.頸部リンパ節を触知しない.皮膚に異常を認めない.
【検査所見】
血液所見:赤血球423万,Hb 13.1g/dL,Ht 42%,白血球5,800,血小板18万.
血液生化学所見:総蛋白6.7g/dL,AST 25U/L,ALT 20U/L,尿素窒素24mg/dL,クレアチニン1.2mg/dL,血糖92mg/dL、
血清ACEの上昇(→サルコイドーシス
脳性ナトリウム利尿ペプチド〈BNP〉470pg/mL(基準18.4以下).(→心不全
CRP 0.1mg/dL.
12誘導心電図:心拍数42/分の完全房室ブロック(めまいの原因)(→心不全、心サルコイドーシス
致死性不整脈(房室ブロック,心室頻拍,心室細動)
左室駆出率低下による心不全
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A:洞調律である.QRSはⅠが正,Ⅱが負で左軸偏位.その原因は,Ⅱ,Ⅲ,aVFがrS型で,Ⅰ,aVLがqR型であることから,左脚前枝ブロックであるとわかる.胸部誘導のQRSはV1がrsR'型(実際はrが消えてしまっている),V5,V6に幅の広いS波があることより,完全右脚ブロックである.以上より,右脚ブロック+左脚前枝ブロックの2束ブロックであり,心サルコイドーシスにしばしば併発する心内伝導障害がみられる.
心エコー検査:左室拡張末期径60mm,左室駆出率38%,左室壁厚は中隔,後壁とも8mmで左室中隔基部の菲薄化を認めた.(→心サルコイドーシス
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B,C:拡張末期と収縮末期の図を比べると,収縮末期に左室内径があまり小さくなっていないことから,左室収縮機能が低下していることがわかる.また,心室中隔上部の壁厚が非常に薄くなっている.後者の所見は,心サルコイドーシスの特徴的な所見である.(左室局所壁厚減少)
胸部X線写真:両側肺門リンパ節腫大(→サルコイドーシス
心筋生検組織のH-E染色標本を次に示す.
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強拡大像全体に類上皮細胞の集簇(非乾酪性類上皮細胞肉芽腫)を認める.
■心サルコイドーシスの診断基準
他の臓器でサルコイドーシスと診断されており,以下の①,②のいずれかを満たす場合.
①主徴候5項目中2項目以上が陽性の場合
②主徴候5項目中1項目が陽性で,副徴候3項目中2項目以上が陽性の場合
【主徴候】
●高度房室ブロック(完全房室ブロックを含む)または致死的心室性不整脈(持続性心室頻拍,心室細動 VFなど)
●心室中隔基部の菲薄化または心室壁の形態異常(心室瘤,心室中隔基部以外の菲薄化,心室壁の局所的肥厚)
●左室収縮不全(左室駆出率50%未満)または局所的心室壁運動異常
●67Gaシンチグラフィまたは18F-FDG PETでの心臓への異常集積(サルコイドーシスによる炎症部位にGaが取り込まれる)
●ガドリニウム造影MRIにおける心筋の遅延造影所見
【副徴候】
●心電図異常で心室性不整脈(非持続性心室頻拍,多源性あるいは頻発する心室期外収縮),脚ブロック,軸電位,異常Q波のいずれかの所見
●心筋血流シンチグラフィ(SPECT)における局所欠損
●心内膜心筋生検で,単核細胞浸潤および中等度以上の心筋間質の線維化
【治療】
1st:副腎皮質ステロイド(免疫抑制薬)
植込み型除細動器〈ICD〉植込み術
【予後】
サルコイドーシス自体による死亡は10%以下で予後は悪くないが,死亡例の多くが心病変によるため,サルコイドーシス症例では心病変の有無が重要なポイントとなる.心サルコイドーシスでは,①脚ブロック,房室ブロックなどの伝導障害,②心室期外収縮,心室頻拍などの不整脈,③局所的あるいはびまん性左室壁運動低下,壁菲薄化,が重要所見である.