尿崩症
#内分泌疾患
ADH:下垂体後葉から分泌される抗利尿ホルモン。腎の集合管に作用し水分の再吸収を促進→尿が濃縮。血漿浸透圧の上昇(脱水症),循環血液量の減少(肝硬変,腎性尿崩症,出血),薬物やストレスなどで上昇する.
【問診】
口渇、多飲、多尿(→糖尿病,尿崩症
夜間の排尿は1回程度,日中は30分から1時間ごと(→心因性多飲症
睡眠(夜間頻尿)(→心因性多飲に伴う多尿の否定
常用薬(→薬剤性尿崩症
通院治療歴:肝疾患で内服治療中(→グリチルリチン製剤,甘草を内服している可能性→低K血症(偽性アルドステロン症)→尿濃縮能低下
(陰性所見)
既往歴なし
【身体所見】
(陰性所見)
身長172cm.体温36.7℃.脈拍80/分,整.
血圧120/76mmHg.(→高血圧の有無
心音と呼吸音とに異常を認めない.
【検査】
尿量4,500mL/日,比重1.004(→低浸透圧性多尿(→尿崩症
高張性(→糖尿病
尿浸透圧:デスモプレシン〈DDAVP〉5μg点鼻投与前160mOsm/L,投与後460mOsm/L.
5%高張食塩水負荷でバゾプレシン分泌反応低下(→中枢性尿崩症 浸透圧刺激に対するバソプレシン分泌反応が障害されている.
水制限試験:水制限時の尿濃縮能をみる検査(→尿崩症と心因性多飲との鑑別
尿量減少と尿浸透圧上昇(→心因性多飲
尿量は減少せず,尿浸透圧も上昇しない(→尿崩症(中枢性,腎性)300mOsm/L以下のまま
頭部単純MRIのT1強調矢状断像で下垂体後葉(正常では高信号)の信号消失(→中枢性尿崩症
視野検査(→下垂体,鞍上部,下垂体茎,視床下部近傍の病変が原因となりうる
(陰性所見)
尿所見:蛋白(-).(→腎疾患
血液所見:赤血球520万,Hb 14.5g/dL,Ht 48%,血小板25万.血液生化学所見:総蛋白7.2g/dL,アルブミン5.2g/dL,尿素窒素24.0mg/dL,クレアチニン0.9mg/dL,尿酸7.5mg/dL,総コレステロール215mg/dL,AST 32IU/L,ALT 28IU/L,LD 220IU/L(基準176~353),Na 147mEq/L,Cl 105mEq/L,P 4.0mg/dL.
尿所見:糖(-)、血糖85mg/dL,HbA1c 5.6%(基準4.6~6.2)(→糖尿病に伴う多尿の否定
Ca 9.2mg/dL、K 4.2mEq/L(→電解質異常に伴う多尿の否定
【治療】
尿崩症 ←5%ブドウ糖液(デスモプレシンの併用)(喪失した細胞内液を補充する目的)ADH分泌低下により水の再吸収が阻害され,多尿となる.また,血漿浸透圧上昇と高Na血症が生じる
cf.
低張性脱水 細胞外液やNaなどの電解質を喪失した状態.血漿浸透圧低下と低Na血症を生じる.細胞外液成分の補充が必要であり,5%ブドウ糖液では低Naがさらに助長される.
等張性脱水 細胞内・外の水分が失われた状態である.血漿浸透圧と血清Na濃度は正常に保たれる.生理食塩水に近い組成の輸液製剤を投与する.
急性副腎不全 副腎機能低下によるステロイド欠乏で,低Na血症や細胞外液減少,血圧低下などが生じる.まずは生理食塩水(細胞外液成分)の補充.低血糖に対しては成人の場合は50%ブドウ糖液,小児では25%(乳児は10%濃度)の静注投与をすればよい.
ADH分泌不適合症候群〈SIADH〉 ADH不適合分泌より,水の再吸収が促進され,血漿浸透圧低下と低Na血症を生じる.5%ブドウ糖液投与で水分が補給されるとさらに症状は悪化する.
cf.2
脱水はNaと水分の喪失バランスにより,高張性(水喪失>Na喪失)と低張性(水喪失<Na喪失)に分かれる.実際には,両者混在の等張性脱水もある.
5%ブドウ糖液は電解質を含まず,体内では自由水と同じふるまいをするので理論的には高張性脱水に適する.
ただし脱水が高度→血圧低下を伴う→まず細胞外液成分の補充.生理食塩水は等張で細胞外液と同じふるまいをするので,Naや細胞外液補充の目的で投与する.
各種の輸液製剤は組成に応じてブドウ糖液と生理食塩水の中間的な存在である.
cf.3
体内の水分は体重の60%を占めている.うち20%は細胞外液(血漿5%,間質15%)であり,40%は細胞内液である.5%ブドウ糖液は,ブドウ糖が体内ですぐに代謝され,残った水が細胞内・外へ一様に分布するため,自由水補給液である.一方,生理食塩水は電解質の浸透圧が細胞外液とほぼ同じであり,細胞外液中にとどまる.上記の水分分布比より,血管内(血漿)に入るのは全投与量のそれぞれ1/12(5%ブドウ糖液),1/4(生理食塩水)である.
5%ブドウ糖液:1/12=血漿/細胞外液+細胞内液
生理食塩水:1/4=血漿/細胞外液
【鑑別疾患】
高Ca血症
低K血症
続発性アルドステロン症
仮面尿崩症:中枢性の尿崩症+下垂体前葉機能低下→ACTHの低下→グルココルチコイドが低下→水利尿の低下→尿量減少
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