契約構造の8類型
概要
つまり、人間誰でも、知識の有無に関わらず、なにか新しいことをやろうとしたら、誰でも無意識のうちに、自然とこういう考え方をするものである
ただし、無意識に考えることだから、抜けたり手順を間違えたり、ということも、もちろんある
では、あらゆるプロジェクトがこの基本文法だけで語れるのかというと、必ずしもそうとは言い切れない
個別具体のプロジェクト状況やそれを観察する主体者の主観によって、各種の基本構造が当てはめられる粒度や尺度、時間軸や反復パターンといったものが、変化するからである
ここで着目せねばならないのが、プロジェクト活動における契約関係の構造である
プロジェクト活動が人間同士の協働により進められる場合に、協働の最小単位とは「取引」(対価を引き換えに作業や成果を提供すること)であり、取引とは契約(ルールを定めること、またその違反には罰則がともなうこと)によってこそ根拠が与えられるものである
人間の取引は、遠い昔から、等価交換であることが理想であると考えられてきた
つまり、拠出する資源、引き受けるリスク、果実の分配方法の三要素を鑑みて、全体として自分が損をしないようにしようとするものであり、互いが最善を尽くした場合に、その取引は等価交換となるのである(力による威嚇や意図的な認知操作によって一方的に搾取する場合等においては、一時的に等価交換の均衡が崩れることがあるが、それはまた別の論点として取り上げる)
人類は取引がフェアであることを本能的に求めるために、無意識のうちに、各種のプロジェクト状況の特性に応じた最適な契約構造を構築してきた
https://gyazo.com/0da38a0d784446e35f2a3c1bd7ad5e7b
第一の類型(委託、受諾的なもの)
甲乙関係が明確な、お願いする、される関係、つまり委託契約が前提
互いに要件を合意するため、または定義された要件を満たすため、またはその実現に向けての努力をするため、適切に変更管理や課題管理を行いながら、取引き関係を継続する
第二の類型(製品開発的なもの)
ある事業スキームのもとで、新たな製品や仕組みを生み出す
活動主体が独自にリリース目標を設定し、自治的な進行管理を行う
開発活動の原資を初期投資や販売収益から賄うことで継続する
第三の類型(事業開発的なもの)
ある製品や仕組みを、仮説的に設定した目標に対してリリースを企だてる
投資的な不確実性を前提として試行錯誤しながら開発並びに取引を試みながら、最終的な事業スキームの成立を目指す
第四の類型(変革的なもの)
顧客やエンドユーザのみならず、製品や仕組みの開発主体自身が開発成果物の受益者となるような取り組み
取り引き関係が甲乙式に定義できず、あらゆる参加者が甲でありかつ乙であるという二重性をはらむ
各構造には進行の要諦が異なり、図示すると、以下の形となる
各種の類型において、進行にあたって大事にしたいポイントは全然異なってくるのであり、進行の要諦とは、契約類型別に考えなければならない
これこそが、プロジェクトという言葉の、一言では言い切れぬ多様性の本質なのである
https://gyazo.com/b17aa92761d494df480fe66efcf926e4
単一の言説であらゆるプロジェクトが遂行できる、という主張が、世に溢れているわけだが、たとえばこういうふうに分類、分解してみただけでも、そうしたものが嘘だということがたちどころに判明する
特に注目すべきは、第一類型と第四類型、第二と第三、の関係性である
見事なまでに、成功要因は真逆の様相を呈しているのである
しかし、類型化はこの4つで十分なのだろうか
プロジェクト活動とは、主体者の自発的な意志によって始まる場合もあれば、環境変化に要請されて受動的に始まるものもあり、まさにこの自発と受動は「陰陽」の関係にある
4つの類型に対して、この陰陽の観点をかけあわせることで分類としてはより正確なものになるように思われる
第一類型
陰 乙が専門家として主導権を持つ
陽 甲が発注者として主導権を持つ
第二類型
陰 自然発生的、スモールステップ
陽 確立された事業構造のもと活動
第三類型
陰 基礎技術や原理から開始
陽 社会的な需要から開始
第四類型
陰 特定の仕掛け人の意志が発端
陽 外部環境変化が発端
以上の議論を踏まえて、改めて契約構造の8類型を図示する
https://gyazo.com/8efe68125a7230843a476b4ada65a400
このように分類してみると、プロジェクト活動には、系の閉鎖、開放という側面があるのだと分かる
第一類型は、閉鎖系である(当事者同士が明確であり、目的、手段の関係性が定義されることが開始条件)
第四類型は、開放系である(当事者が広範囲にわたり、目的、手段の関係性はことの進行により明らかとなる)
ニと三は、半開放系である
ここに、プロジェクト活動同士の主客関係や包含関係を導入すると、より正確に現実を描写することが可能となる
全体としては開放系の取り組みにおいて、その成否を握る中核的な活動が閉鎖系として実施されるということもある
その逆で、全体としては閉鎖系だが、部分的には開放系、というものもある
さておき、実際のところを考えると、どんなプロジェクトだって、あるマクロなプロジェクトの内部にミクロなプロジェクトを包含しているのである
例えば会社もまたひとつのプロジェクトである
世の中のあらゆる会社組織には、営業と製造の間に、経営と現場の間に、マーケティングとセールスの間に、必ず対立関係が生まれるのが通例だが、その根本的原因とは、会社そのものが、異なる時系列を持つプロジェクトの集合体であり、個別の活動の結節点において、勝利条件の食い違いが顕わになるせいなのだ、というふうに言える
そのように考えると、プロジェクトの定義は以下のように更新しても良さそうに思える
ある主体が環境との間に新たな関係性を構築するために
新たな人工物の元型(アーキタイプ)、祖型(プロトタイプ)、典型(ステレオタイプ)を生み出す
一連のプロセスである
この文章の著者について