プロジェクト状況の12類型
契約構造の8類型は、プロジェクト活動を理解するための最小単位であり、現実的には各類型の入れ子構造、多重・多層構造や組み合わせである 例えば、全体としては変革的な取り組みだが、その中核的な一部は委託、受託的なものである、といった具合である
わかりやすい例としては、企業のデジタル変革の取り組みである
組織全体が変わっていくために、あるデジタルツールを導入する、という構図である
導入プロジェクト自体は、委託受諾的なもので、それが引き起こす結果として、変革的な効果を期待される、という場合は、「全体としては第四類型、中核には第一類型」という構えとなる
全く逆のものを考えることも可能である
ある主体者が、別の主体者に、ある業務を委託するとする
受諾者がそれを引き受け、成就させるためには、既存の枠組みにとらわれていては、対応しきれない
そんなとき、受諾者は、自身のあり方を自ら変革し、その委託業務に当らなければならない
これが、「全体としては委託受諾関係だが、その核心的部分では、変革的である」という構えとなる
メイン・サブ関係としてこうしたものを数え上げていくと、都合12種類の分類分けが可能となる
①メイン:委託受諾 サブ:製品開発
この構図は、繰り返し類似した委託業務が発生する場合に見られる
委託内容をほどよく抽象化し、標準化、自動化すれば、受託側の利益率が向上する
著者の最初の就職先は、まさにそんなビジネスをやっていた
成形品の製品設計や、金型の型設計の工程を細かく分析し、工程短縮するためのシステム構築をするサービスをやっていた
一件一件のプロジェクトは、まさに一回限りの大騒ぎだけれども、数を重ねるうちに、様式美が確立され、受注から最終報告会に至るまで、標準パターンで進行するようになっていった、という
②メイン:委託受諾 サブ:事業開発
この構図は、委託契約を発足させた後に、環境や前提条件の変化によりコスト負担スキームが変わってしまい、その案件の受益者が誰なのか、改めて考えなければならなくなる、という流れで、結果的に「なってしまう」パターンであることが多い
著者の経験では、ドローンを用いた駐車場管理業務の改善プロジェクトが、このパターンに近かった
ハード、ソフト含めた、影響範囲の広いシステムの構築、導入を目標としていたわけだが、企業規模の大きさゆえに、教育ひとつとっても規模が大きく、認知度向上キャンペーンから始まって、ひとつの新たな事業の立ち上げの様相を呈したのだった
③メイン:委託受諾 サブ:変革
こちらは冒頭に記載した例なので、概要は省略するとして、具体例だけ挙げておくとする
これも事例が著者の経験談になってしまうが、例えば独立した後、研修の仕事を引き受け始めたころは、まさにこうした構図であった
単純に、プロジェクトマネジメント研修の委託を受け、開催する、というものであったのだが、当の自分自身が研修というものが好きではなくて、受講したこともほとんどなければ、もちろん登壇経験など皆無であったのだ
自分を変革することで、初めてミッションを遂行できるようになったのだが、その内実は実にジタバタ、ドタバタとしていた
④メイン:製品開発 サブ:委託受諾
これは、発注側の製品開発業務を、受諾者が手伝う、という座組みである
OEMというやつである
天地創造デザイン部、という作品は、延々とこの構図を描き続けている
⑤メイン:製品開発 サブ:事業開発
これは非常にややこしいことが起きているようだが、実例を挙げるとシンプルである
かつてのHONDAにとっての fitのようなものである
既存のカテゴリの範疇にありながらも、内側からそれを食い破り、新たな市場や世界観を創造する、というものである
⑥メイン:製品開発 サブ:変革
これは、上記の例に倣った表現をすると、トヨタにとってのPRIUSである
既存の枠組みの範疇における価値創造であるが、原理的にまったく新たな、新次元の地平を切り拓き、結果的に、自らも、社会も変えていく
⑦メイン:事業開発 サブ:委託受諾
これは、新規事業開発の外注である
デザインファーム、という言葉が一時期流行った(まだ流行っているのか?)が、それである
この構えについて考えると、新規事業を外注するのと、うまくいった新規事業をM&Aするのと、どっちが効率的なのか、という問題を考えたくなる
⑧メイン:事業開発 サブ:製品開発
特定の製品を主題的に開発しつつ、顧客や商流、ファイナンスも構築していこう、という取り組みである
あれもこれもやろうとしている構えなので、うまくいくイメージは持ちにくい
ある程度、販路や顧客が見えているところに、プロダクトを投入する、という流れが自然である
⑨メイン:事業開発 サブ:変革
成熟した企業の新規事業開発は、こうした構えになっていることがほとんどである
つまり、新規事業を生み出せる組織に生まれ変わりたい、生まれ変われなければ死を待つのみ、という構図である
「ねばならない」の心持ちでやると、大抵失敗し続け、負け意識にも蝕まれる
⑩メイン:変革 サブ:委託受諾
こちらは冒頭に例示した通りである
⑪メイン:変革 サブ:製品開発
企業の内部的な取り組みでいえば、組織変革を目指しているが、組織が大きいために、変革行動をスケールさせなければならない、という構図である
上手くいった例を見聞きしたことはない
業界単位で見ると、例えばスタジオジブリとは、こうした構図における秀逸な成功事例だったと言える
⑫メイン:変革 サブ:事業開発
これは、上記から、さらに難易度を上げた設定である
受益者を探索しつつ、さらにファイナンスも成立させなければならない
曲芸のような話であるが、大企業の企業内プロジェクトでこうした構図を取る場合、ナイーヴな変革担当室のスタッフは、こういう絵空事を信じ込んでしまいがちである
もちろん、なにもうまくいかずにごにょごにょと話が消えていくのが通例である