法定通貨
概要
ストックフロー比率の低さ、フローの制約のなさ
政府は法定通貨での納税を国民に義務付けることで,法定通貨を延命できるかもしれない。しかし,法定通貨の価値崩壊を防ぐ唯一の方法は供給量の抑制だ。各国通貨を比較すると,広く通用する主要通貨は,そうでない通貨に比べて供給増加率が低いことがる。
ケインズ批判
経済学とは本来,人間がさまざまな制約の下,自らの置かれた状況を改善するために,どんな選択をするのかを研究する知的学問であった。しかし,ケインズによって,官僚の経済政策立案ツールへと貶められた。
国民による政府万能信仰
現代の経済学教育は経済は政府が管理するものという誤った前提に立つ。政府はどんな問題でも解決できる全知全能の神のような存在になった。機会費用という概念は政府には当てはまらない。政府介入が失敗することなどありえない。万が一,失敗しても,介入を強化する理由が増えるだけだ。経済の自由がなければ経済の繁栄もないという古典的自由主義の教えは静かに闇に葬られた。
決断にトレードオフがなくなる
政府の運営資金として法定通貨がある限り,政治決断にトレードオフはともなわない。大統領候補者はあらゆる理想を公約として掲げることができるため,もはや政党間の違いもなくなった。
法定通貨が現代の主要貨幣として機能しているのには,いくつか理由がある。第1に,法定通貨での納税が義務づけていること
第2に、口座開設や取引などの銀行業務が法定通貨でしか行えない。これは法定通貨に他の潜在的競合貨幣にはない優位性を与え,法定通貨の市場性を高める。
問題点
法定通貨の問題点は,その健全性が通貨供給を管理する政府の裁量に100%依存することだ。法定通貨の供給に物理的制約,経済的制約,自然界の制約は一切ない。あるのは政治的制約だけだ。
通貨保有者である国民の資産は,通貨発行者である政府と発行直後の通貨を入手できる特権階級に奪われる
政府が通貨供給拡大の誘惑に抗えないことは歴史が証明している。露骨な汚職,「国家緊急事態」,通貨膨張主義の蔓延など理由は何であれ,政府は常に紙幣を増刷し通貨保有者である国民の資産を横領する機会を伺っている。政府がやっていることは,銅の貨幣需要が増加した際に供給を大幅に拡大した銅生産者と同じだ。銅という貨幣の生産者が利する一方で,銅を価値貯蔵手段に選んだ人は罰せられた。
アベノミクスでの財政ファイナンス、コロナ禍での補助金、2022年防衛費倍増 所有者以外の第三者が貨幣の支配権を持つ場合,第三者は通貨膨張を介して,あるいは没収という直接的手段により貨幣所有者の資産を奪うという抗い難い誘惑に駆られる。貨幣の支配権を持つのが政府の場合,奪った資産は政治的目的を果たすために使われる。これは経済価値を創造する対価として報酬を得て資産を築いた国民から資産を没収し,何の価値も生まない貨幣管理を専業とする政治家と役人に与えるようなものだ。
生産的な経済活動で資産を築いた人を犠牲にして特権的富裕層がさらに豊かになる社会に未来はない。健全な貨幣の世界では,繁栄に続く唯一の道は価値創造である。そのため,社会資源は生産活動,資本蓄積,貿易に集中配分される。
中央銀行の役割
戦争
今振り返ると,従来の小規模戦争と第一次世界大戦の最大の違いは戦略でも地政学でもなく,財源だった。金本位制では,政府は保有する金以上の紙幣を容易に発行できる。この誘惑に抗うのは困難で,戦時中ならなおさらだ。資金調達法として,紙幣増刷は増税よりずっとハードルが低い。戦争開始から数週間のうちに,主要参戦国は金兌換を停止して金本位制を放棄し,法定通貨制度に移行した。 従来の小規模な戦争では,財源は国庫にある資産に限られていた。しかし,単に金兌換を停止するだけで,その制限がなくなり,国民の全財産を財源にできた。
国民が金を自ら保有管理していた時代,戦争の財源は国庫資産,増税,国債発行しかなかった。戦費調達が困難だったために,19世紀以前の戦争は小規模で期間も短かった。そのため,平和な時代が比較的長く続いた。 もしヨーロッパ諸国が金本位制を維持していたら,もし個人が金の管理を国に委ねずに自ら行っていたら,国は戦費をインフレーションではなく税金で賄わねばならず,歴史は変わっていたかもしれい。 しかし,金本位制が停止されたことで,戦争は財源枯渇と無縁になった。政府は国民の財産を増税を介して直接的に奪うかわりに,インフレを介して間接的に奪えるようになったのだ。こうして,政府は国民の全財産を使い果たすまで,延々と戦争を続けられるようになった。
参照
https://youtu.be/w1CKdHRNghs