金本位制
概要
供給量が極めて限られていること,これが歴史を通して金の貨幣の地位を揺るぎないものにしてきた。
優れた価値貯蔵手段とは,貨幣需要の創出で財の価格が上昇しても,価格下落を招くほどの増産ができない財である。
ストック・フロー比率が高い
金は貨幣間競争の圧倒的勝者だ。他の財にはない2つの物理的特性が金の貨幣の座を不動のものにした。1つは化学的安定性,つまり,破壊が実質不可能なこと,もう1つは合成不可能で極めて希少な鉱石からしか産出できないこと
金が最強の貨幣であるためには,1つ条件がつく。銀行が顧客から預かった金の量を上回る預かり証書を発行しないという条件
金本位制の問題点
金の集中管理によって国家の支配力が高まること
兌換券自体はイージーマネーであること
金の準備金を超えて兌換券を発行できない(が大抵それを超えて発行してしまう)
銀行で集中保管されるようになり,金は期間,規模,場所という3つの市場性すべてを備えたが,一方で現金としての機能を失った。銀行が預かり証書の発行,小切手の決済,金の保管を行うようになったことで,支払決済には銀行と政府の承認が必要になった。金が3つの市場性をすべて手に入れるための唯一の方法が銀行による金の集中管理だったことは悲劇でしかない。金の中央集中で健全な貨幣は新たな問題に直面する。国家による国民支配と貨幣主権の侵害である。
現物の金はハードマネーだが,中央銀行間の支払決済に使われる紙幣は名目上は金と兌換可能とされてはいたものの,金とは異なり生産が容易なイージーマネーだった。
ローマの興隆と衰退
ローマが莫大な富を武器に他国を征服して領土を拡大していた間,皇帝と兵士は戦利品で暮らすことができた。皇帝は人気取りのために,穀物など生活必需品の価格を抑える価格統制令を出したり,時には無料で配布する余裕すらあった。田舎でにコツコツ働いていた小作人は農場を去り,お金を使わずに良い暮らしができるローマに移住した。全く働かずに皇帝の気前の良さと価格統制に依存する非生産的な市民が増えた。しかし,次第に旧世界から豊かな土地はなくなり,領土拡大政策は行き詰まった。贅沢になる一方のローマ市民の生活と増え続ける軍人を支えるには,戦利品に代わる新たな資金源が必要だった。54~68年に国を統治したネロはこの問題の解決策を思いついた。それは第一次世界大戦後に英米が直面した問題に対してケインズが示した策にそっくりだった。
/icons/point.icon硬貨の悪鋳である。硬貨の質を下げれば,一瞬にして労働者の実質賃金は下がり,政府の必需品助成金負担は減り,財政支出の財源は増える。
状況は一時的に好転したが,しばらくすると人民の怒りを起点として価格統制,硬貨の悪鋳,物価上昇という悪循環が始まり,その後は悪循環がまるで季節がめぐるが如く規則正しく繰り返される破壊的スパイラルに陥った。
3~4世紀にインフレが進行すると,歴代皇帝は生活必需品の価格統制によりインフレを隠すという愚策をとった。硬貨の悪鋳に対して市場は価格上昇圧力で応えたものの,価格統制のせいで市場原理は働かず,生産者は商品を生産しても利益が出なくなった。価格自由化を認める新政令が出るまで生産活動は停滞を余儀なくされた。
硬貨の悪鋳はローマ帝国の終わりの始まりであった。ローマ帝国が陥った破壊的スパイラルは現代に生きる私たちも経験している。貴金属含有量を減らして硬貨の実質価値を下げてマネーサプライを増やすことで歴代皇帝は無分別な浪費を続けた。しかし,インフレと経済危機という硬貨の悪鋳の必然的結末からは逃れることはできず,一時凌ぎでさらなる硬貨の悪鋳に手を染めた。まさに自己破壊的な負のスパイラルである。フェルディナント・リップスはこれを現代にも通ずる教訓として以下のように表現している
硬貨の悪鋳という水増しは現代でも財政ファイナンス(国債)という形で行われている 硬貨の悪鋳によるインフレ(通貨価値の稀釈)で労働者の賃金は減り、政府の予算は増え、借金は薄まる。
ハードマネーはイージーマネーを駆逐する
すなわち,国内ではハードマネーであっても,国外ではイージーマネーである場合,その国の貨幣は外国のハードマネーに駆逐される運命にある。その過程でインドと中国の資産と資源の大半は外国に奪われてしまった。これは極めて重要な歴史的教訓
ビットコインを拒絶し,自分には無関係なものと切り捨てる人に伝えたい。あなたが所有する貨幣よりもハードな貨幣を所有する人がいる場合,あなたの行く末は火を見るより明らかで,その運命から逃れることは決してできない。歴史が実証してる。 参照