貨幣
概要
交換 手段 が 標準化 さ れる と、その 利用 者 数 の 増加 とともに 経済 圏 が 拡大 する。 経済 圏 が 広がる メリット には, 分業 と 貿易 による 利益 機会 拡大 が ある が, もっと 重要 な もの に 生産 活動 の 効率 化 と 生産 方式 の 持続 性 が ある。 生産者 は 資本財 の 生産 に 特化 し て, 最終 消費財 の 生産 を 先送り できる よう になり, 生産性 と 商品 品質 が 向上 する。 原始的 な 小規模 経済 では, 漁業 と いえ ば 漁師 が 海 に 入っ て 素手 で 魚 を 獲る こと で, 漁 に 出る のは せいぜい 数 時間 だっ た。 経済 が 発達 し て 高度 な 道具 や 資本財 が 利用 できる よう に なる と, 漁 に 従事 する 時間 が 大幅 に 伸び, 生産性 も 向上 し た。 現在 では, 建造 に 数年 かかる 高性能 な 漁船 を 使い, 数 十年 という 長期 にわたる 操業 が 可能 に なっ た。 高性能 な 大型 船 は 小型 船 では 行け ない 海域 に 出 て, 遠海 にしか 生息 し ない 希少 な 魚 を 捕獲 し たり, 小型 船 が 運行 でき ない 悪天候 でも 操業 できる。 資本蓄積 の おかげ で, 操業 時間 が 伸び, 労働生産性 も 向上, さらに 高度 な 道具 の ない 原始的 経済 では 生産 でき なかっ た 高 品質 の 商品 を 生産 できる よう に なっ た。 この 進化 の 背後 には 健全 な 貨幣 の 存在 が ある。 分業 を 可能 に する 交換 手段, 消費 よりも 投資 に 励む 未来志向 の 人 に 報いる 価値 貯蔵 手段, 経済 計算 を 容易 に する 価値 尺度 という 3つ の 機能 を きちんと 果たす 貨幣 が あっ た から こそ の 進化 だ。
3つの機能
価値の交換手段
価値の貯蔵手段
価値の尺度
欲求の一致の欠如
規模
交換対象の2つの価値が同等ではなく、財の分割もできない場合
期間
例えば食べ物は腐ってしまって、同等の価値に匹敵する大量を揃えられない
場所
家を交換したいからと言って家を移動できない
投資財と貨幣との違い
投資財は利益を生むが貨幣は利益を生まない
投資財はリスクをともなうが貨幣は通常極めて低リスクである
投資財は流動性が低く取引コストが高い
こうした理由から投資財が貨幣を代替できるわけではない
貨幣需要は常に存在する
貨幣保有から得られるこうした利便性の代価は,貨幣保有を選んだことで見送られた消費,あるいは見送られた投資から得られたかもしれない収益
イージーマネーとハードマネー
財の価値を保持するには,財の供給量が急増しないことが大前提となる。歴史上,貨幣として使われた財には供給量を抑制する仕組みがあった。貨幣の生産難易度が貨幣の健全性を決める。生産が困難で生産コストも高い貨幣はハードマネー(硬貨),生産が容易で生産コストも安い貨幣はイージーマネー(軟貨) と呼ばれる。
貨幣の健全性は供給に関する2つの数値,ストックとフローで決まる。ストックは過去の総供給量から消費や劣化で消滅した総量を引いた現存する総供給量,フローは新規供給量である。ストックをフローで割るストック・フロー比率は,貨幣の健全性および貨幣適性を示す優れた指標だ。ストック・フロー比率が低い財は価値貯蔵手段としての需要が増えると供給量が急増するため長期の価値保持が難しい。ストック・フロー比率が高い財は長期の価値保持が可能,すなわち,期間の市場性が高い。
ある財が価値貯蔵手段に選ばれると,価値貯蔵目的で財を購入する人が増え,財の価格は上昇する。価格上昇は財の生産者に増産を促す。このとき,財のストック・フロー比率が高ければ,すなわち,ハードマネーであれば,ストックに対するフローが少ないため,増産による供給量の増加は価格にほとんど影響しない。一方,財のストック・フロー比率が低い,すなわち,イージーマネーの場合,供給量の増加は価格下落に直結する。結果,貨幣価値が下がり,貨幣保有者の資産も減少,財は期間の市場性を失う。  供給量を容易に増やせるイージーマネーを価値貯蔵手段として選択した人が最終的に資産を失う現象を イージーマネーの罠 と呼ぶことにしよう。
生産コストが安い場合,貨幣を安価に製造して利益を得るという誘惑に勝てない生産者が財の増産を始め,最終的に貨幣保有者が資産を失うことになる。そうなると,その財を価値貯蔵手段に使う人がいなくなり,財は貨幣の役割を失う。
通貨膨張
歴史が実証する純然たる事実に,貨幣の生産方法を見つけた者は必ず貨幣生産を始めるというものがある。
貨幣生産は抗い難い誘惑ではあるが,それ自体は社会的価値を一切生まないため,資源と時間の浪費である。
貨幣供給量と経済規模の間には何の相関もなく,あらゆる規模の経済は所与の貨幣量で運営できる。
理想的な貨幣とは,供給上限が設定されており,それを上回る生産ができない貨幣だ。このような貨幣を基盤とする社会では,貨幣を合法的に獲得する方法は1つしかない。価値ある商品を生産し,商品と引き換えに貨幣を受け取ることだ。
優れた貨幣
ある財が交換手段に選ばれると,財そのものを保有または消費するための市場需要に加え,新たに貨幣需要が生まれるため,財の価格は上昇する。すると,財の生産者は価格上昇に釣られて増産に乗り出すので,供給量は増える。歴史上の優れた貨幣はどれもストックに対して新規供給量が極めて少ない財であった
金本位制
金生産は他の金属の生産より収益性が低いため,資本と人的資源の投資対象としては 最も 魅力がない。この事実こそが金を貨幣たらしめる真の理由である。金は極めて希少で見つけるのが難しく,価格が急騰しても供給はほんのわずかしか増やせない。そのため,貨幣としての金生産は他の金属貨幣と比べて収益性が低く,投入される資源も労働力も限られる。金以外の金属貨幣では,価値貯蔵手段としての需要増加により価格が上昇すると,生産者は増産で大きな利益機会を得る。
金 以外 の 金属 は 腐食 や 産業 用途 消費 で 消滅 する ため, ストック 対する 新規 供給 量 の 割合 は( 金 に 比べ て) ずっと 大きい。 ここ から 先 は 前述 の 銅 の 事例 と 同じ で, 金属 価格 が 下落 し, 貨幣 保有 者 の 資産 価値 も 下がる。 この 貨幣 保有 者 が 失う 価値 は 貨幣 需要 増加 に 応え て 産業 需要 を 上回る 量 を 生産 する 金属 生産者 の 利益 と なる。 つまり, 貨幣 保有 者 の 富 は 貨幣 生産者 に 奪わ れる こと に なる。 こんな 社会 では, 人々 が 貯蓄 や 価値 創造 に 励む わけ が ない。 貨幣 生産 の 暴利 を むさぼる 社会 には, 貧困 化 という 運命 が 待っ て いる。 最終 的 には 価値 創造 が 盛ん な 生産性 の 高い 社会 に 征服 または 吸収 さ れ, 消滅 する のが 落ち で ある。
参照
/book-everything/ビットコイン・スタンダード