進化心理学から考えるホモサピエンス
#進化心理学 #文献 #書籍
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感想
あらゆることを 「生存と繁殖」 に還元していて過激
全てはセックスのためである、みたいな世界観
仮説段階のものが多い
まあ過激な主張もありつつ、進化心理学はこれまでの社会科学の考え方とは違う視点でヒトの思考や感情の形成について説明を与えてくれるので、知っておくと良いと思う
脳科学の知見も入っている
nobuoka メモ
著者の 2 人はもともと 「合理的選択理論」 を専攻 (位置: 47)
社会学の一分野で、ミクロ経済学の理論を社会問題に応用したもの
本書は、人間の本性について (位置: 123)
人間の本性とは? : 私たちは (部分的には) 進化によって形成された独自の性質をもつヒトという動物として行動する
私たちの考え、感情、行動は、生まれてからの経験や環境だけでなく、気の遠くなるような長い年月の間に私たちの祖先が遭遇した出来事によって形づくられている
人間の本性は普遍的なものであり (人類全体に共通するものもあれば、男または女に共通のものもある)、私たちの考えや感情や行動はかなりの部分、すべての人間 (あるいは、すべての男かすべての女) に共通する
『〈わたし〉 はどこにあるのか: ガザニガ脳科学講義』 でも言われていたような話だ nobuoka.icon
本書では、質問と答えの形式で、日常生活でよく体験する事柄や社会現象、社会問題について進化心理学の立場から説明がなされる
進化心理学の議論では、2 つの誤謬を避けることが重要 (位置: 163)
自然主義的誤謬 : 「~である」 から 「~であるべきだ」 への論理的な飛躍
道徳主義的な誤謬 : 自然主義的な誤謬とは逆に、「~であるべきだ」から「~である」に飛躍すること、「こうあるべきだから、こうなのだ」と言い張ることである
本書で述べられる内容の多くは、ステレオタイプ的なもの (位置: 201)
ステレオタイプは、統計をもとに観察から導かれた一般論であり、事実であることが多い
当然、全ての場合にそれが当てはまるわけではないが、一般論としては正しい
「多くの女性より多くの男性の方が背が高い」 というのは統計的に正しいが、「全ての男性が全ての女性より背が高い」 わけではない。 その点に注意すること
進化心理学について
進化心理学は台頭しつつある新しい分野 (位置: 238)
一九八〇年代後半に先駆的な論文の数々が発表され、九二年にレダ・コスミデスとジョン・トゥービーらの論文を収めた『Adapted Mind: Evolutionary Psychology and the Generation of Culture (適応した心 進化心理学と文化の生成)』 が刊行された (しばしば進化心理学のバイブルと言われる)
この本の刊行をもって、現代進化心理学が誕生したと言っていい
(位置: 281) 「人間の本性」という言葉
一般的には人間のもつ本質的な性質といったあいまいな意味合いで使われる
進化心理学では厳密な定義がある : 進化によって形成された心理メカニズムないしは心理的な適応 (この 2 つはおおむね同じ意味) の全体が人間の本性
適応形質は自然淘汰と性淘汰による進化の産物
身体の器官は特定の問題を解決するように適応を遂げてきた
適応上の問題 : 適応によって解決される問題
生存と繁殖の問題 : 解決しなければ生存できず、子孫を残すこともできない
心理的な適応 (生まれつきもっている思考パターンや感情パターン) も脳にみられる
男の嫉妬深さも、進化によって形成された心理メカニズム
ヒトと大半の哺乳類では、胎児は母胎内で育つので、雌はお腹の子が自分の子だと安心していられるが、ヒトの男性も含め雄は、つがい相手の子が自分の子かどうか確信がもてない。 言い換えれば、自分の遺伝子を受け継いでいない子をそれと知らずに育てる 「間抜けな寝取られ男」 になりかねないのだ。
男性は恋人の性的な不貞に嫉妬することがわかっている。 その根底には寝取られ男になることへの警戒心がある。 それとは対照的に、女性は恋人が他の女性に感情的に引かれることに嫉妬する。 感情的なかかわりをもてば、自分と自分の子に投じられるはずの恋人の資源がライバルにとられるおそれがあるからだ。
進化心理学が登場するまでの社会科学の人間の行動に対するアプローチ :
人間は生物学の対象ではない
進化の影響は首から下まで
人間の本性は何も書かれていない書画版
人間の行動はほぼすべて環境と社会化によって形成される
進化心理学の人間の本性に対する見方 :
人間は動物である
脳は特別な器官ではない
人間の本性は生まれつきのもの
人間の行動は生まれもった人間の本性と環境の産物
「サバンナ原則」 : 私たちの脳は、祖先の環境になかったものや状況を理解できず、私たちはそうしたものや状況に必ずしもうまく対処できない (位置: 393)
最近の調査によれば、自分の好きなテレビ番組を毎回のようにみている人は、友人関係に対する満足度が高いという結果が出ている。 彼らは番組のレギュラー出演者を友達のように感じており、友達にしょっちゅう会っているような錯覚をいだいているようだ。 この現象は次のように説明できる。 サバンナ原則によれば、祖先の環境に適応した人間の脳は、生身の友達とテレビでよくみかける人物とをうまく区別できない。
適応があだになる場合もある (位置: 421)
現代ではセックスと生殖はしばしば別もの
セックスをしても生殖に結びつかないケースが多い : 確かな避妊法がいくらでもあり、多くの女性は経口避妊薬を飲んでいる
女性が性的不貞を働いても出産にはいたらない → 彼女たちの夫は他の男性の子供のために資源を浪費する心配はない
進化的心理メカニズムに従って行動する男のほうが、繁殖成功度がむしろ下がるのである
妻をとられまいとする心理が極端な形をとれば、妻なり妻の浮気相手に暴力を振るうことになる → 刑務所に入れられ、妻と物理的に引き離されれば、繁殖成功度は必然的に下がる
過去には適応的だったパートナー関係維持行動が現代では合理的でない例だ nobuoka.icon
現代では合理的でないというのは本当にそうなのかはわからん
男女は違う育て方をされるから違ってくるのではなく、違っているから、違う育て方をされる (位置: 536)
ジェンダーの社会化は性差の原因ではなく、結果
2 つの単純な生物学的事実が、さまざまな性差のすべてをもたらしていることがわかっている (位置: 538)
その 2 つ :
異形配偶 : 雌の配偶子 (卵子) が雄の配偶子 (精子) よりも大きく、数が少ないこと
有性生殖を行う生物種では、雌はより大きな配偶子をつくる性として定義されている。 もう一方が雄
受精卵が母胎内で育つこと
異形配偶と母胎内で受精卵が育つこと → 男の間では女に比べて大きな適応度 (生涯繁殖成功度) の格差が生まれる
適応度の最低ラインに位置する男、つまり一生子供をつくれない男のほうが、一生子供を産めない女よりはるかに多い
適応度の最高ラインに位置する男は、1 人の女性が生涯に産めるよりも遥かに多くの子どもをもてる
自然の状態ではヒトの配偶関係はポリジニー (一夫多妻) になる (位置: 563)
婚姻制度の用語の定義には、社会科学者の間ですら混乱がある
モノガミー (単婚) は一夫一妻の婚姻形態
ポリジニーは一夫多妻、ポリアンドリーは一妻多夫
ポリガミー (多婚) は日常会話ではポリジニーの同義語として用いられることが多いが、正確には一夫多妻、一妻多夫の両方を指す
進化の歴史を通じて、ごく最近まで、ヒトの婚姻形態はさほど極端ではない一夫多妻だった
一部の男が 「公平な分け前」 以上の配偶相手を独占できる一方で、配偶相手をもてない男たちも出てくる
女はほぼ全員生殖ができるのに、男はそうは行かず、その代わり生殖できる男は多くの子を残せる
子がゼロのケース (繁殖上の完全な敗者) は男には比較的多く、女ではほとんどないのはそのため
男が女よりもはるかに攻撃的、競争的、暴力的なのは、ジェンダーの社会化のせいではなく、男の適応度格差が大きいため
男は、他の男と競争することで、繁殖ゲームではるかに多くの得点を稼げる
『ボーイズ 男の子はなぜ 「男らしく」 育つのか』 だとマン・ボックスやジェンダー規範の影響が語られているけど、どうなんですかね (まあ両方だと思うが) nobuoka.icon
位置: 630
すべての人間の自然言語は、ノーム・チョムスキーの言う文法の 「深層構造」 を共有している。
位置: 777
政治的な行動、あるいは宗教行動、経済行動とみなされるような行動でも、そのモチベーションの根源には、セックスと配偶関係がある。
母親の健康は父親の健康以上に子供の成長に重要
人間の胎児は母親の胎内で 9 ヵ月間成長し、誕生後も母親が数年間授乳をする
そのために男は健康な女と配偶関係を結ぼうとする
女性の健康や妊娠しやすさ (繫殖価) を外見で判断していたのではないかという仮説
髪は健康状態を反映しやすい → 長い綺麗な髪であれば、ここ進年健康であったという判断材料
ブロンドを好むのは、綺麗なブロンドは若い証拠で、年を取ると赤くなるため
金髪の特色は、年齢に伴ってはっきりと色合いが変わることだ。 少女時代は明るい金髪でも、大人になるとたいがいは茶色っぽい髪になる。 大人になるまで金髪を保てるのは、ごく稀なケースだ。 つまり金髪の女性と配偶関係を結びたがる男たちは、無意識のうちにより若い女 (平均的に言って、より健康で、より多産な女) を求めている
普遍的に男性はウエスト・ヒップ比 (ウエストサイズをヒップサイズで割ったもの) が低い女性を好む → これも健康かどうかの指標という仮説
豊満な胸 : 大きくて重たい胸は、年をとるとはっきりわかるほど垂れ下がるので、大きくて垂れ下がっていない胸は、女性の年齢 (ひいては繁殖価) を示すわかりやすい指標になるのではないか、という仮説
ポーランドの女性を対象にした調査で、大きな胸にくびれたウエストをもつ女性は、二種類の生殖ホルモン ( 17 βエストラジオールとプロゲステロン) の血中値が高く、多産であることがわかったの だ。 つまり、男性はウエストの細い女性を好むのと同じ理由で胸の大きな女性を好むということだ。
美の基準も普遍的なもの (位置: 1,034)
魅力的な顔の条件が二、三ある
左右対称であること
平均的な顔であること
魅力的な顔はそうでない顔よりも左右対称
顔の左右対称性は、発達過程で寄生虫や病原菌や毒素にさらされると低下 し、突然変異や近親婚など遺伝的な問題によっても低下する
ポルノ産業について (位置: 1,071)
性的バラエティー (多くの相手とのセックス) に対する願望は、男のほうが女よりはるかに大きい
調査によれば、若い男が 2 年間に性的関係をもちたいと思う女は 8 人ぐらい
若い女が求めるのは 1 人である
サバンナ原則により、脳は生身の女性と映像に映る女性を区別できない
映像であっても興奮してしまう
その女とはセックスはおろか、おそらくは出会うこともないだろうとは、頭ではわかっていても、本能的には理解できない
「本能で理解できない」 というの、だいぶ面白い nobuoka.icon
女性にとって望ましくない相手とのセックスの潜在的なリスクは男性にとってのリスクより大きいため、女性は見ず知らずの相手とのセックスに非常に慎重
ポルノを見ただけでは妊娠する恐れがないことを本能では理解できないので、男性がポルノを消費するのと同じ理由で女性はポルノを敬遠する
(位置: 1,183) ヘーゼルトンとバスのエラー管理説
仮説の前提 : あいまいな状況では人間は誤った判断をしがち
問題はそれによって大きな痛手をこうむるかどうか
誤った判断をしても、それによる損失が少なければ問題ない (生存や繁殖の成功度にはさほどひびかない)
→ 誤った判断が避けがたい場合、それによる代償が最小限になるよう、自然・性淘汰が働く
男性には、相手の女性が自分に気があるとうぬぼれる方向に性淘汰が働くはず
肯定的な誤解をした男性は、相手にふられ、場合によってはばかにされ、平手打ちの一つもくらわされる程度
否定的な誤解をすれば、セックスをして繁殖成功度を高めるチャンスを逃す
後者の代償のほうが前者のそれよりはるかに大きい
エラー管理説は男女間の心理的な駆け引きについての仮説だが、他の領域での人間の行動にもあてはまりそう
(以下整理中)
黄色のハイライト | 位置: 1,225
結婚は人間の専売特許ではない。結婚式など、結婚に付随するものの一部はさておき、婚姻関係そのもの、言い換えれば、予測可能で規制された雌雄の配偶パターンは、多くの動物、とりわけ鳥類に共通している。ちなみに、欧米の結婚に特有なもの、すなわち教会での挙式や結婚証明書は、人間社会でも普遍的に存在するわけではない。
黄色のハイライト | 位置: 1,233
一夫多妻は女性にとって都合がよく、男性にとっては一夫一妻のほうがメリットがあるという
黄色のハイライト | 位置: 1,239
一妻多夫性をとる数少ない伝統社会のほぼすべてが、「フラタナル・ポリアンドリー」、すなわち兄弟で一人の妻を共有する形態をとって
黄色のハイライト | 位置: 1,270
雄の精巣の大きさ(体に対する相対的な大きさ)は、雌の貞節度を知るかなり正確な指標であることがわかっている。雌が浮気性であればあるほど、雄は相対的に大きな精巣をもつ。雌が短期間に多くの雄と交尾する動物では、複数の雄の精子が卵子に達するために競争を繰り広げることになる。他の雄の精子を押しのける手っとりばやい方法は、数で圧倒することだ。したがって、精巣が大きくなる。
黄色のハイライト | 位置: 1,339
女性は初潮を迎えると身長の伸びがほとんど止まるため、早く初潮を迎えると、小柄になる。つまり、一夫多妻では女の子たちが早く初潮を迎えるために、小柄になり、サイズの性的二型が生じたというのだ。この説をさらに裏づける証拠として、多様な文化圏で行った調査の結果、一夫多妻の社会の女性は単婚社会の女性より身長が低いが、男性の身長はあまり差がないことが確認されている。
黄色のハイライト | 位置: 1,383
アメリカでは、離婚後に再婚できるかどうかを占う最も決定的なファクターは性別だ。多くの場合、男性は再婚し、女性は再婚しない。
黄色のハイライト | 位置: 1,404
一夫多妻社会では、大半の男は妻をもてない。運がよければ、一人はもてるかもしれないが、その妻は一夫一妻社会でもつことができた妻よりも、はるかに繁殖価の劣る女になるだろう。一夫多妻制では、それより望ましい女はすべて、より望ましい男の妻になっているからだ。そう、大半の男たちにとって、一夫多妻は決して羨ましい制度ではないので
黄色のハイライト | 位置: 1,408
社会学と人口統計学の調査で、息子がいる家庭では離婚率が低くなることがわかっている。一人でも息子がいれば、娘だけの夫婦よりも離婚率は有意に低く
黄色のハイライト | 位置: 1,413
息子の繁殖成功度を高めるためには、たとえわずかであれ自分の富を息子に受け継がせる必要がある。それとは対照的に、娘の繁殖成功度を高めるために、父親が(母親も)できることはあまりない。
黄色のハイライト | 位置: 1,430
女性はどうやってこの二つのタイプを見分けるのか。この男なら自分と自分の子供に資源を与えてくれるとどうやってわかるのか。よい父親になるには二つの資質が必要だ。まず資源を手に入れ、蓄積する能力。そしてそれを妻子に与える気前のよさだ。投資をする能力があり、かつまた投資をする意思があることを確かめるには、高価な贈り物を要求すればいい。資源を得る能力があり、資源を与える意思のある男だけが、進化生物学で「求愛の貢ぎ物」と呼ばれる高価なプレゼントをするはず だ。
黄色のハイライト | 位置: 1,438
父親タイプと女たらしを見分けるための求愛の貢ぎ物は、高価であって、なおかつ実用的な価値のないものでなければなら
黄色のハイライト | 位置: 1,445
ゲーム理論を使った最近の分析で、「法外な」贈り物、つまり「コストはかかるが価値のない」贈り物が求愛をスムーズにすることが確認されている。しかも、この研究によれば、男性は実用的価値のない贈り物をすることで、いわゆる「黄金泥棒」、つまり贈り物と引き換えに求愛に応じる素振りをしながら、贈り物だけもらって去っていく女性をふるい分けることもできるという。この手の女性は実用的な価値がある贈り物にしか関心がないからだ。
黄色のハイライト | 位置: 1,456
男は繁殖成功度を最大限に高めるために二つの戦略のうちのいずれかをとる。長期的な配偶関係を結び、配偶相手のもとにとどまり、子供に投資する(父親戦略)か、多くの相手と短期的な配偶関係を結び、その結果生まれた子供に投資をしない(女たらし戦略)である。
黄色のハイライト | 位置: 1,484
家族は親が子に投資する場――子供が生まれ、血のつながった親、もしくは血がつながっていないが、実の子だと信じている親に育てられる場――である。進化心理学は、この領域で驚くべき発見を成し遂げた。親は子に意識的にさまざまな投資をするが、一部の投資は無意識のうちになさ
黄色のハイライト | 位置: 1,500
進化生物学の最も著名な原則の一つ、トリバース=ウィラード仮説を提唱し た。高い地位にある裕福な親は息子を多くつくり、地位の低い貧しい親は娘を多くつくるという説で
黄色のハイライト | 位置: 1,521
最近では、オリジナルのトリバース=ウィラード仮説を理論的に 敷衍 した、「一般化トリバース=ウィラード仮説」が提唱されている。新たな仮説の背後にあるアイデアは、もとの仮説のそれと同じだが、新仮説は富と地位以外のファクターも取り入れている。親が子供に伝えられる資質をもち、その資質が娘よりも息子に役立つなら、息子が多くなるバイアスがかかり、娘に役立つなら、娘が多くなるバイアスがかかるというものだ。
黄色のハイライト | 位置: 1,528
一般化トリバース=ウィラード仮説によれば、技術者や数学者、科学者など男性脳を強くもつ親からは息子が多く生まれ、看護師、ソーシャルワーカー、教師など女性脳を強くもつ親からは娘が多く生まれるはずだ。実際、それを実証するデータがある。
黄色のハイライト | 位置: 1,555
客観的にみて、女性のほうが押しなべて男性より美しいことに気づかれるだろう。なぜか。  簡単なことだ。もし肉体的魅力は親から子に遺伝するもので、美しい親からは美しい子、魅力的でない親からは魅力的でない子が生まれ、さらにもし美しい親からは息子よりも娘が多く生まれるなら、当然ながら世代を重ねるうちに、女性は平均して男性よりも美しく
黄色のハイライト | 位置: 1,595
三〇年間にわたって、北米の三カ国(カナダ、メキシコ、アメリカ)で別々に実施された調査で、母親とその親族が、赤ん坊をみて父親似だと言う確率は、母親似だという確率よりもはるかに高かっ た。赤ん坊が実際には父親に似ていない場合でも、母親と母方の親族は父親似だと主張する。実際に似ているかどうかはともかく、妻とその親族がこぞってそう言えば、父親は生まれた子供は自分の子供だと思うだろう。
黄色のハイライト | 位置: 1,599
大半の社会で、赤ん坊は母方ではなく父方の姓を継ぐ。この習慣も、父親に父性を確信させることに役立つ(ロシアでは、子供は父方の姓ばかりか、父親のミドルネームまで受け継ぐ)。夫婦別姓が慣行となっている社会でも、ほとんどの場合、子供は母方ではなく父方の姓を継ぐ。
黄色のハイライト | 位置: 1,632
男にとっても女にとっても(すべての生物にとって)繁殖の成功は重要だが、生涯にもてる子供の数が男女で違うから、一人ひとりの子供の重要度は、父親にとってよりも、母親にとってはるかに大きくなる。女の生涯の繁殖可能性に対して、一人の子供が占めるパーセンテージは、男のそれよりはるかに大きいのである。
黄色のハイライト | 位置: 1,654
人間関係に関する複数の調査で、女性は親しい人として、同僚よりも身内を多くあげることがわかって
黄色のハイライト | 位置: 1,679
母親の身内は、子供と血縁関係にあることがはっきりしているので、子育てに協力するモチベーションが強く働くが、父親の身内は、父性の不確実性から、子供が自分たちの遺伝子を継いでいるかどうか確信がもてない。
黄色のハイライト | 位置: 1,692
発達心理学では二〇年近く前から、子供のとき、とくに五歳以前に両親が離婚すると、女の子は早めに初潮を迎えることが知られている。離婚家庭の女の子は、セックスを経験するのも早く、より多くの相手とセックスをする傾向があり、一〇代で妊娠する確率が高く、最初の結婚は離婚に終わる確率が高い。
黄色のハイライト | 位置: 1,711
遺伝子によって設定された一定の幅の中で、実際にいつ初潮がくるかは、環境条件に影響されると考えていい。そして、非常に大きな影響を及ぼすファクターの一つが父親の不在である。父親不在で育った少女たちが学ぶのは、男性は女性と長続きする関係を築かず、子供に投資しないということだ。そのため、彼女たちは初潮を早く迎え、できるだけ多くの男性と短期的な関係を結ぶという乱婚的な繁殖戦略をとろうとする。男はあてにならないと思っているからだ。それとは対照的に、父親がいる家庭で育った少女たちが学ぶのは、男性は女性と永続的な関係を築き、子供に投資するということであり、彼女たちはより堅実な戦略をとり、初潮を遅らせて、子供に投資してくれるパートナーと長期的な関係を結ぶ。
黄色のハイライト | 位置: 1,732
多様な文化圏で実施された調査で、一夫多妻の社会と一夫一妻制ではあるが離婚率が高い社会では(第4章でみたように、欧米の一夫一妻制社会でも離婚率が高ければ、事実上は一夫多妻制となる)、少女たちが初潮を迎える時期が早いことがわかっている。
黄色のハイライト | 位置: 1,748
一つは、「親は子供を殺さない」というものだ。犯罪統計では義理の親子と実の親子を区別していないため、子殺しとされる事件の多くは、実際には義理の親が子供を殺したケースであり、親が血のつながった子供を殺す事件は非常に稀で
黄色のハイライト | 位置: 1,750
親はときとして困難な選択を迫られる」というものだ。たとえ裕福な親でも、子供に与えられる資源には限りがある。一人の子供に一ドル、一分、ちょっとした労力を投じれば、その分だけ他の子に与えられるお金や時間、労力が削られる。そのため、進化的な心理メカニズムは、親に最も効率的な投資をさせるように働く。つまり、将来的に繁殖に成功する見込みがあまりない子供を犠牲にして、見込みのある子に投資させる。
黄色のハイライト | 位置: 1,772
一夫多妻の社会では、一部の雄が雌と交尾をする権利を独占し、他の雄はあぶれてしまう。雌はほぼすべて子孫を残せるが、雄の中には自分の遺伝子を次世代に伝えられない個体が出てくる(第2章で述べたように適応度の格差、つまり繁殖ゲームの勝者と敗者の差は雄と雌で違う)。このように雄はへたをすると繁殖上の完全な敗者になりかねないため、他の雄と激しい競争を繰り広げる。この雄同士の競争が、殺人、暴行などの暴力的な行為につながる。女が女を殺す事件や男が女を殺す事件に比べ、男が男を殺す事件が多いのはこのため
黄色のハイライト | 位置: 1,783
女は地位の高い、評判のよい男を選ぶので、男にとって地位と評判は繁殖成功度に直接的に影響する。そのため男は(無意識のうちに)自分の名誉を守ることに固執し、ときには極端な行動に走る。このようにデイリーとウィルソンは、男同士の殺人の根源にあるのは、繁殖目的で女に近づくために、(おおむね無意識のうちに)命がけで地位と名誉を守ろうとする男の心理メカニズムであると論じている。
黄色のハイライト | 位置: 1,833
キャンベルは最新の著作 で、男と女の犯罪を理論的に統合するところまで踏み込んでいる。攻撃で得られるメリットについては、男も女も同じだというのだ。男同士の競争に勝って高い地位に就いた男は、配偶相手にアクセスする権利を得て、セックスのチャンスを多くもてる。女同士の競争に勝った高位の女は、高位の男が提供する資源と手厚い保護を優先的に確保
黄色のハイライト | 位置: 1,846
一般的に女が男ほど稼がないのは、必要なぶんだけしか稼ごうとせず、金を稼ぐよりもやりがいのあることがあるからだ。男は女の気を引くために、必要以上に稼がなければならない。それと同じように、女は生存に必要なぶんだけを盗めばよく、力の誇示や地位の獲得のために犯罪を利用するわけではないので、男ほど盗む必要がない。
黄色のハイライト | 位置: 1,861
犯罪学の分野で「年齢=犯罪曲線」という普遍的な現象が知られるようになってから二五年近く
黄色のハイライト | 位置: 1,870
年齢=犯罪曲線の注目すべき特徴として、この曲線が犯罪だけにあてはまるものではないということがあげられる。「公開され(多くの潜在的な配偶相手の目にとまる)、高い代償を伴う(その代償を払うことができる者は少ない)、数量化できるあらゆる人間行動」に、この曲線は
黄色のハイライト | 位置: 1,898
繁殖を開始する以前(第一子をつくる前)なら、競争のコストはほとんどない。たしかにライバルとの闘いで死ぬか負傷することがあり、それによって繁殖ゲームの敗者になる可能性はある。だが、競争しなくても敗者になるのだ。一夫多妻の繁殖システムのもとで(人間社会はずっとそうだった)、配偶相手をめぐる闘いに参加しなければ、ゲームから外され、結果的に敗者となる。言い換えれば、競争すれば負ける可能性があるが、競争しなければ負けが決まっている。だから死や負傷の危険があっても、競争の代償はたかだか知れている。
黄色のハイライト | 位置: 1,908
言い換えれば、子供の誕生によって、男の繁殖努力は、配偶相手の獲得から子育てにシフトするので
黄色のハイライト | 位置: 1,915
年齢=犯罪曲線と年齢=才能曲線はともに、競争のメリットと競争のコストの差として説明できる。若い男は、思春期後半から成人初期に競争のメリットの増加に伴い、急速に暴力的、犯罪的になり、創造的になる。その後、競争のコストが増え、メリットを相殺するようになるにつれ、同じように急速に生産性は衰えてゆく。
黄色のハイライト | 位置: 1,935
雌が雄よりも子供に多くの投資をする動物では(ヒトをはじめ哺乳類はすべてそうだ)、配偶関係は雌の選択で決まる。雌が望んだときに、望んだ相手と交尾をするのであり、雄が望んだときではない。
黄色のハイライト | 位置: 1,938
男だけがセックスと配偶関係を決める社会を想像してみてほしい。男が望むときに、望む相手とセックスをする社会だ。そうした社会では何が生まれるだろう。何も生まれない。なぜなら、誰もがノンストップでセックスに没頭するからだ! そのような社会には文明は生まれない。人々はセックス以外の営みをしないからである。ちなみに、これは、ゲイの男性が性的に非常に活発なことの進化心理学的な説明ともなる。ゲイの男性はストレートの男性よりもはるかに多くのセックスパートナーをもち、はるかに頻繁にセックスをする。ゲイの関係には、「ノーと言う女」がいないから だ。
黄色のハイライト | 位置: 1,955
犯罪と創造的な活動には他にも共通点がある。結婚を契機に衝動が収まることだ。  犯罪学では長年、結婚すると犯罪者が「落ち着き」、違法行為から足を洗うことが知られてきた。独身の犯罪者はずっと違法行為を繰り返す。犯罪学では、この現象をトラビス・ハーシー(ゴットフレッドソンとともに年齢=犯罪曲線を発見したハーシー)が提案したアイデア、すなわち社会的なコントロールという視点から説明することが多い。
黄色のハイライト | 位置: 1,968
生涯のいずれかの時点で結婚した科学者の年齢=才能曲線と、独身を貫いた科学者のそれを比較すると、結婚が生産性を低下させることがはっきりわかる。独身の科学者の五〇%は、五〇代後半でも二〇代後半と同様に、精力的に論文を発表しているが、既婚の男性科学者ではこの割合は四・二%になってしまう。独身の男性科学者の生産性がピークに達する年齢の中間値は三九・九歳で、既婚者の三三・九歳よりも明らかに高い。
黄色のハイライト | 位置: 2,000
彼ら自身はその理由を知らないが、自然とそうした心境になるのだ。  進化心理学で言えば、目的は繁殖の成功(結婚と子供の誕生)である。男がすることは、犯罪であれ科学研究であれ、すべてこの究極の目的を達成するための手段なのだ。この見地に立てば、なぜ結婚によって犯罪者と科学者の生産性が低下するのかという問いそのものが的外れに
黄色のハイライト | 位置: 2,050
男性は五〇代にさしかかる頃に、「中年の危機」と呼ばれる心理的な危機を迎えるとよく言われる。これは必ずしも正しくない。多くの中年男性が中年の危機を経験するのは事実だが、それは彼らが中年になったからではなく、妻が中年になったからである。
黄色のハイライト | 位置: 2,058
中年男が突然真っ赤なスポーツカーを乗りまわすようになるのは、自分の若さを取り戻したいからではなく、閉経した妻に代わる若い女を引きつけようとして、自分の財力をひけらかすためで
黄色のハイライト | 位置: 2,072
すべては、私たちの脳に組み込まれた進化的な心理メカニズムから生まれる。政治・社会的な現象も、人間の本性と生物学的特徴のマクロなあらわれなので
黄色のハイライト | 位置: 2,170
男女の賃金格差は目にあまると、フェミニストは言っていた。しかし、これらの数字は、男女の生まれつきの気質の違いを考慮に入れていない。金を稼ぐことに同じように強いモチベーションをもつ男女を比較した、より慎重な統計では、現在は九八%となっている。今や統計的に有意な男女の賃金格差はほとんどないという結果が出ている。男のほうが明らかに稼ぎがいいというのはもはや過去の話である。
黄色のハイライト | 位置: 2,180
ケンブリッジ大学の心理学者で自閉症の研究者サイモン・バロン=コーエンは一連の論文や著作、一般向けの科学書『共感する女脳、システム化する男脳』(NHK出版)の中で、自閉症の人は「極端な男性脳」をもつという仮説を提出している。この仮説は多くの(すべてではない)自閉症の臨床例(対人関係の領域では深刻な欠陥があるが、他の領域では正常、あるいは非常にすぐれた能力をもつなど)を説明するのみならず、自閉症者の圧倒的多数が男性であるという事実もこれによって説明できる。
黄色のハイライト | 位置: 2,184
バロン=コーエンの仮説は、まず二つの重要な概念、男性脳と女性脳を定義する。男性脳はシステム化に適した脳であり、女性脳は共感に適した脳である。システム化、共感とは何か。  「システム化とは、システムの分析、探究、建設であり、システム化型の人は本能的に物事の仕組みを考え、システムのふるまいを制御する法則を導きだそうとする。その目的はシステムを理解し、予測し、新たなシステムを創造すること だ」。バロン=コーエンは六つのシステムをあげている。技術的なシステム(人工物、機械)、自然のシステム(生態系、地理)、抽象的なシステム(論理、数学)、社会的なシステム(法律、経済)、組織化のシステム(分類、命名)、運動のシステム(楽器演奏、ダーツを投げるなどの身体的な動き)だ。彼の言うシステムとは非常に包括的で、人間ではなく事物と関連したすべてを含むように思える。論理的、組織的なルールによって制御されるあらゆるものをシステムと呼んでいるよう だ。
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に対して、「共感」とは、他者の感情と思考を察し、適切な感情でそれに反応することである。他者の感情に対して、それにふさわしい感情的な反応をするときに、共感が起きる。その目的は他者を理解し、他者の行動を予測し、他者と感情的に結ばれることである。言い換えれば、共感するとは、他者の思考と感情にその場で自然に波長を合わせることであり、共感力にすぐれた人は、相手の感情の変化とその原因を察知し、どうすれば相手の気分をよくしたり害したりするかがとっさにわかる人であり、思いやり、配慮、理解、慰めなど、その場にふさわしい感情で、相手の気分の変化に直感的に反応できる人である。共感力にすぐれた人は、他者の感情に気づくだけでなく…
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バロン=コーエンは、共感よりもシステム化に秀でた人の脳を「タイプS」脳、または「男性脳」(男性脳をもつ人が男性とは限らない)、共感にすぐれた人の脳を「タイプE」脳、または「女性脳」(女性脳の持ち主は女性に限らない)と
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ブラウンによると、セクハラには二つのタイプがある。「代償」タイプ(「俺と寝たら、昇進させてやる」)と、「敵対的な環境」タイプ(仕事場の雰囲気が「あからさまに性的な」もので、女性が安心して気分よく働けない)だ。フェミニストや標準社会科学モデル派の学者は、セクハラを父権主義その他の悪しきイデオロギー との関連で説明したがるが、ブラウンはこの二つのタイプのセクハラは詰まるところ進化的な心理メカニズムと配偶戦略の性差に起因すると考え、イデオロギーではなく生物学的基盤にその源を探ろうと
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男性が生涯にもちたいセックスパートナーは平均二〇人近くだが、女性は五人未満 だ。平均的な男性は女性と知り合って一週間で彼女とセックスすることを真剣に考えるが、女性は六カ月の交際期間を必要とする。
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女性は性的欲求を控え目に表現し、「形だけの抵抗」を試みる傾向がある。ある調査では、女子学生の四〇%近くが、男性の性的な誘いに対して、本音では彼とセックスしたいと思っていても、最初はノーと言うと答え た。ノーと言ったケースの三分の一以上で、最終的には女性は誘いに応じ、合意の上でのセックスにいたっていた。
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男性の同僚や雇用者から虐待的、脅迫的、屈辱的な扱いを受けたという女性の訴えの多くは正当なものだが、女性が労働市場に参入するよりもずっと前から、男たちは男同士の間での虐待的、脅迫的、屈辱的扱いに耐えてきたと、ブラウンは言う。虐待や脅迫、屈辱をなめさせることは、残念なことに、男同士の競争の場で、男たちがよく使う戦術の一部だからだ。言い換えれば、男性が女性を同性と違ったやり方で扱う(これが「差別」の定義であり、法律の規定するセクハラもそうした差別行為とされる)からではなく、その逆――男女を差別しないことが嫌がらせになっているわけ
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集団間の紛争については、一見すると矛盾するような二つの事実が発見されている。人種差別意識は生得的だが、人種を識別する基準は生得的ではないというのだ。より正確に言えば、自民族中心主義(自分の所属する集団が、他の集団よりすぐれているとみなす傾向)は、進化によって形成された人間が普遍的にもつ心理である。
黄色のハイライト | 位置: 2,314
宗教 は心理的な適応の一形態(私たちの言葉で言えば、進化的な心理メカニズム)であり、自然淘汰と性淘汰によって形づくられたと言いたいところだ。実際、あらゆる人間社会に宗教があり(宗教は文化的に普遍なものの一つである)、人が信仰をもつかどうか、とりわけ大人になってからもつかどうかは、かなりの程度遺伝子で決まり、脳の特定部位が宗教的な思考や体験に関与していることもわかっている。しかし、宗教を適応として説明しようとすると、壁にぶつかる。適応であるからには、それによって解決できるような問題がなければならない。信仰をもつことで寿命が延びたり、繁殖成功度が高まるだろう か。今のところ、宗教によって解決される適応上の問題を指摘した論考はない。
黄色のハイライト | 位置: 2,331
偶発的な出来事か意図的な事件か、どちらとも考えられる場合、私たちの祖先は二通りの誤りのうちどちらかを犯す可能性がある。偶発的な出来事なのに、なんらかの意図が働いていると考えるケース(肯定的な誤り)と、なんらかの意図が働いているのに偶発的な出来事と考えるケース(否定的な誤り) だ。  肯定的な誤りをすれば、必要以上にびくびくし、ありもしない捕食者や敵を探すことになる。否定的な誤りをすると、油断して捕食者や敵に襲われたり、殺されかねない。否定的な誤りがもたらす代償のほうが生存確率と繁殖成功度にはるかに深刻なダメージを与える。したがって、ただの無害な物理現象にすぎないような場合でも、何者かの意図が働いていると考えるような心理メカニズムが選択されてきたと推測される。
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このように否定的な誤りよりも肯定的な誤りをしがちで、その結果、多少被害妄想っぼくなる人間の傾向を、「アニミズム的な偏向」とか、「媒介者探知のメカニズム」と呼ぶ研究者もいる。彼らによれば、超自然的な力を信じる宗教の進化的な起源は、否定的な誤りよりも肯定的な誤りをすることが多い、脳の〝癖〟にある。否定的な誤りの代償が肯定的な誤りの代償よりはるかに大きいため、人間の脳には、さまざまな自然の物理現象の背後に何者かの意図を感じとるようなバイアスがかかっているというのである。そのため、私たちは原因がはっきりしない自然の物理現象の背後に〝神の手〟をみてしまう。
黄色のハイライト | 位置: 2,345
ここまでの議論で「パスカルの賭け」を思いだした方もいるだろう。一七世紀のフランスの哲学者ブレーズ・パスカル(一六二三~一六六二年)は、神の存在は確かめようがないが、にもかかわらず神を信じることが理にかなっていると論じた。神は存在しているのに、神を信じなければ(否定的な誤り)、死後に地獄の責め苦にあうことになる。一方、神が存在していないのに、神を信じた場合(肯定的な誤り)は、祈りを捧げることで多少時間とエネルギーを無駄にするだけですむ。否定的な誤りの代償は肯定的な誤りの代償よりもはるかに大きい。したがって、神を信じるほうが理にかなっているというわけ
黄色のハイライト | 位置: 2,395
複数の調査で男女を問わず、危険な賭けを好むかどうかと宗教性とは密接な関係があるという結果が出ている。女性は男性よりもリスク回避の傾向が強く、信心深いが、それのみならず、リスク回避の傾向が強い男性はそうでない男性よりも宗教性が強く、リスク回避の傾向がとくに強い女性はそうでない女性よりも宗教性が強いのである。さらに、無宗教であることがリスクとなるような社会(キリスト教原理主義やムスリムの社会など)では宗教上の性差が比較的大きく、より寛大な宗教の自由があり信仰をもつかどうかを個人の意思で選べる社会や、無宗教であれば地獄に落ちるといった縛りがあまりない社会(仏教社会など)では、宗教上の性差は比較的小さい。
黄色のハイライト | 位置: 2,405
リスク選好、宗教性、犯罪性における性差は、すべて繁殖戦略の性差に直接的に起因する。人生のあらゆる局面で、男はリスクを冒す。リスクを回避すれば繁殖ゲームの完全な敗者になりかねないから
(位置: 2,441) 一夫多妻 (と、その結果としての地上における繁殖機会の欠如) と、天国で多くの処女に迎えられるという約束とがあいまって、多くの若いイスラム教徒の男を自爆テロに駆り立てるというのが、進化心理学の説明
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ホイットマイヤーは、婚姻する可能性のある他者、自分の子供がその子供と婚姻する可能性がある他者、さらには自分の孫がその孫と婚姻する可能性のある他者を助ける遺伝子に注目している。そして、そのような他者を助ける遺伝子が、進化の過程で選択されて受け継がれてきたことを数学的に証明している。そうした「拡大家族」もしくは部族の福利に貢献することは、遺伝的な子孫(遠い子孫と近い子孫)に利益をもたらすことになる。民族集団と呼ばれているものは、本質的にはそのような拡大家族である(民族集団のメンバー間で婚姻関係を結ぶことが多いので)と、ホイットマイヤーは述べて
黄色のハイライト | 位置: 2,504
民族中心主義に傾きがちな私たちの性癖、〝自分と同種〟の人々を助け、支援する傾向は、おそらく生得的なものだということだ。人間はまっさらな書字版だと考える社会科学者たちは、人間はもともと偏見をもたないが、子供時代の社会化(多くの場合は人種差別的な両親の影響)で差別的、自民族中心主義的になると主張する。しかし、ホイットマイヤーをはじめ多くの進化心理学者は、この主張に与しない。
黄色のハイライト | 位置: 2,513
性別や世代は固定的なカテゴリーであるが、人種や民族は〝私たち〟対〝彼ら〟を分ける固定的なカテゴリーではないことがわかっ た。生まれつきの自民族中心主義的な性癖は消し去れないにしても、特定の民族、宗教、国家、文化集団間の敵意や葛藤は容易になくせる。どうやって? 異なる集団のメンバー同士が結婚すればよい。私たちの脳は、婚姻関係によって結ばれた拡大家族の一員であれば、自分たちの仲間とみなすよう設計されている。それまで敵対関係にあった集団間に婚姻関係ができれば、やがて敵意は消える。
黄色のハイライト | 位置: 2,527
独身の若い女性に趣味を聞くと、かなりの確率で旅行と答えるが、独身の若い男性ではその確率はぐっと低くなる。まとまった休みがあれば外国に行くという若い女性は多いが、男性は非常に少ない。
黄色のハイライト | 位置: 2,531
実は、若い独身女性の外国旅行好きと、ネオナチの多くが若い独身男性であることは、コインの裏表のようなものである。いずれも、動物学で「レッキング」と呼ばれる現象と関係がある。  レックはスウェーデン語で「遊び」という意味である。動物学では、集団の一方の性(ほぼ常に雄)が、他方の性(ほぼ常に雌)の前で、遺伝的資質の優劣を競い、誇示し、見せびらかす一連の複雑な行動を指す。レックの終わりに雌は勝者を選び、もっぱらその雄と交尾を行う。レッキングに勝った雄が繁殖機会を独占し、他の雄は繁殖できない。
黄色のハイライト | 位置: 2,551
人間の男がレックを行うときには、遺伝的な資質に加え、潜在的な稼ぎの能力や蓄積した富を見せびらかす。ライチョウやアンテロープなどレックをする他の種と違って、ヒトの雄はおもに体以外の手段でレックをする。高級車を乗りまわしたり、高価な腕時計をしたり、ブランド物のスーツを着る、携帯電話やPDA(携帯情報端末)などの電子機器をもつ、なにげない会話で自分の業績を自慢するなど だ。若い男はまた、音楽、美術、文学、科学など「数量化でき、公表できて、コストのかかる」活動ですぐれた実績を上げ、その「文化的なディスプレー」によって、自分の遺伝的な資質や潜在的な経済力をアピールする。
黄色のハイライト | 位置: 2,573
女性の地位と配偶者としての価値である。若さと肉体的魅力という、女性の地位と繁殖価を決定する二大要因は、文化的に普遍である。それらは生得的なものだから だ(第3章の「『美は見る人の目に宿る』はなぜ嘘なのか」の項を
(位置: 2,583) 配偶者がいることは、男性があらゆる文化で普遍的に誇示できるただ一つの飾り、ないしはレッキング手段
雌は他の雌のメガネにかなった雄を選ぶ (つまり、互いの選択をまねる)
グッピーからメダカ、クロライチョウ、ウズラ まで、多様な種の雌が、他の雌と配偶行動を行ったばかりの雄と配偶したがる
人間の女性にも同様の現象がみられることを示唆する研究結果がある
(位置: 2,622) ライトが「同性愛をどう説明すればいいのか」と問いかけてから一三年後の今でも、同性愛に関する定説となった決定的な説明は存在しない。
進化心理学ではなく、それと関連した分野である行動遺伝子学から、一つの仮説が出ている
遺伝子学者のディーン・ヘイマーらが突き止めた、男性の同性愛の遺伝的なルーツ : 染色体の一定の領域、Xq 28 という遺伝子上の配列が同性愛に関与している
(位置: 2,633) ゲイ遺伝子は、男性とセックスをしたいという欲求を生み出す
その持ち主が男であれ女であれ
男性の同性愛の遺伝子が、ゲイの男性ではなく、彼らの姉妹やその他の親族によって次世代に伝えられたという考え
遺伝子の持ち主が男であれば同性愛者になる (次世代には彼らの遺伝子は伝わらない)
持ち主が女なら、彼女たちはその遺伝子をもたない女たちよりも多くの男性のセックスパートナーをもち、より頻繁にセックスをするので、より多くの子供を産む
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サロウェーは一九九六年の著書『Born to Rebel: Birth Order, Family Dynamics,and Creative Lives(生まれつきの反逆児――出生の順番、家族の力関係、創造的な生活)』で、きょうだいは家族の中でそれぞれ異なるニッチ(生態的地位)を占めると述べている。第一子(長男長女)は、生まれたときに親が与える資源をきょうだいと奪い合わずにすむ立場で、多くの場合は親をお手本にして育つ。また、その延長上として、権威ある人物をお手本にするようになる。第二子以降は、生まれたときにすでにきょうだいがおり、親に見習うというニッチはすでに兄や姉が占めているので、親とは距離を置き、反逆児になることで、独自のニッチを開拓しなければなら
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ハリスは一九九八年の著書『子育ての大誤解――子供の性格を決定するものは何か』(早川書房)で、親の育て方が子供の性格を形づくる決定的な要因であるという普遍的な思い込みを周到な議論で打ち砕い た。ハリスによれば、親による社会化が子供に与える影響は取るに足らない。同年代の友達の影響が非常に大きいからだ。ハリスの主張は、政治家やメディアの猛反発をくらったが、行動遺伝学の研究結果とは一致している。行動遺伝学によれば、遺伝、家庭環境、家庭外の環境が子供の発達を左右する割り合いは大ざっぱに言って五〇/○/五〇だという。
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親は子供の数を最大限にするのではなく、孫の数を最大限にすることで、自分の適応度を最大限に高めようとする。この徹底してダーウィニズム的な視点から言えば、性的に成熟するまで生き残れない、あるいは伴侶を見つけて生殖する能力がない子供に投じた資源はまったくの無駄に
(位置: 2,791) 大規模な戦争の最中と直後には、女の子よりも男の子の出生数が多い
(位置: 2,815) 身長と知能には相関性がある
なぜそうなのかは学者の間でも意見が分かれているが、長身の人のほうが知能が高い
(位置: 2,853) この本では、女性の性的魅力として、若さと美しさだけが取り上げられているが、言うまでもなく男性がパートナーに求めるのはそれだけではない
男は精子をばらまくだけでは成功とは言えず、生まれた子供が生殖可能年齢まで育たなければ、ばらまいた精子は無駄になる
ちゃんと子供を育ててくれる相手を選ぶ必要 → したがって、よき母親となる資質、たとえば賢さや愛情深さもパートナー選びの重要な要件で、女性の性的魅力の一部
(位置: 2,859) セックスの目的は繁殖だけではない
ヒトはもちろんのこと、ボノボなど霊長類の調査でも、性的行為がコミュニケーション手段になっていることが報告されている