なぜ男女の賃金に格差があるのか
発行年 : 2023 年
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1900 年代から現在までの大学教育を受けた女性たちが、キャリアと家庭 (結婚・子育て) の問題にどう向き合い、どのような障壁に直面してきたかを、著者自身の研究成果に基づいて考察している 大卒の男女ともに、「夫婦ともに仕事を持ち、ともに家事や子どもの世話をするのが最良の結婚」 と考える割合が過半数
現実には、下記のような点 (時給プレミアムが存在すること) で、家庭内の専門性を高める (片方が仕事を主とし、片方が家庭を主とする) 方が有利
1. オンコール、繁忙、緊急、夜間、週末といった時間を仕事から要求され、それに応じた方が時間当たりの収入が増える
改善されつつある
アップ・オア・アウトの決断が 30 代半ばやそれ以降 → パートナーや終身在職権を獲得してから家庭を持つことが難しい
あまり改善が見られない
もっと深い変革が必要
重要なのは男性の参画
カップル公平性を採ることもできるし、捨てることもできる
夫婦合算の収入が大きくなければ、そのままの状態を維持できる (カップル公平)
大きい場合、カップル公平を取るためのコストが高すぎてカップル公平を捨てざるを得ない
カップル公平性が捨てられると、職場における男女平等もそれに追随しがち
問題は次の両方
労働市場における仕事の報酬の在り方
家庭における仕事と世話の性別による役割分担
解決策
1. 柔軟性のコストを下げる
オンコールや週末勤務に見合うだけの給与が支払われなければその仕事を受けようと思わない
家族の収入面では若干低くなる
夫婦の公平性という点では非常に豊かになる
補完的な解決策として、親の育児コストを下げる
2. 社会規範を変えて、トレードオフが性別に依存しないようにする
性別による経済的成果を均等にするのに役立つ
カップルの公平性の問題を解決しない
変わるべきなのは、女性や家族だけではなく、この国の仕事とケアのシステムも
内容メモ
1 章 キャリアと家庭の両立はなぜ難しいか
現在においても、女性の収入と昇進には横やりが入っているように思われている
役員の女性割合を増やすとか、育児休業を取得する技術リーダーを増やすといったことは男女の賃金格差を解消することの役には立っていない 現代ではそのような露骨なものの証拠は見られないが、多くの女性が差別や偏見に直面していないことを意味しているわけではない
男女の賃金格差がどこで発生するのか?
働き出してすぐは、男女の賃金格差はほとんどない (取る選択が多少異なることによるわずかな格差がある)
大卒後 10 年ほど経ってから大きな差が明らかになる
キャリアの成功と楽しい家庭のバランスを取ろうとする女性にとっての根本的な問題は時期が重なること
キャリアへの投資は早い段階でかなりの時間を投入することだが、その時期がまさに出産すべき年齢
1940 年代から 1960 年代の大卒女性が早婚 (初婚年齢が 23 歳ごろ) だったことは、女性が制御できる効果的な避妊法がない世界において婚前妊娠によるリスクを低減させるため
1970 年頃からピルが広まっていき、初婚年齢は上がり始めた 長時間労働、柔軟性が低い仕事には大きな報酬が与えられる
女性が参入しづらいポストこそが、過去数十年で収入が増加した立ち位置
夫婦の公平が切り捨てられ続けることも意味している
「平等な結婚」 (夫婦ともに柔軟性の高い仕事) か、「収入の多い結婚」 (片方が柔軟性が低く収入の高い仕事、片方が柔軟性の高い仕事) のどちらを選ぶか?
2 章 世代を越えてつなぐ 「バトン」
ここでは、「家庭」 とは子どもを持つこと
19 世紀後半以降の 100 年の歴史を 5 つのグループに分ける
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第 3 グループは前後の世代に比べて結婚が早く子供の数が多い
仕事は生涯にわたるキャリアではないことが多かった
第 4 グループは、親世代からの影響を受けた
親世代は仕事のスキルが錆びついた状態で離婚したりなど
自分のキャリアのためだけでなく、自分や子どもの生活のためにも市場で通用するスキルが重要と学んでいた
結婚が永続的なものではない前提
家族を作るのは簡単なこと、という意識でキャリア形成を優先
しかし、出産を遅らせ過ぎた人が多かった
第 5 グループは、第 4 グループの計算違い (先延ばしにした家族形成が達成されにくい) を観察していた
結婚に関しては第 4 グループと似ているが、子どもを産む割合が高い
3 章
国の収入の見積りに女性の無給労働を含めることを支持
公的な統計に無給の家事労働者と介護者の労働を含めるか苦悩 → 最終的に含まない決断
価値見積りに信頼できる根拠が利用できない
第 1 グループの女性は結婚や出産の割合が低いが、これは好みの問題ではなく制約などによる選択肢の問題
子どもかキャリアのどちらかしか選べなかった
社会的規範や雇用規制により、既婚女性は仕事を持つことができないことがしばしばだった
縁故採用についての規制 : 妻が自分の夫と同じ機関、部門、会社、政府機関の地位に就くことを防ぐもの 冷蔵庫や洗濯機などの家電がなく、家庭を回すことが大変だった
30 % が生涯未婚、50 % が子無し
大卒女性は自活できるため、結婚割合が低かったと考えられる
結婚相手に求める基準が高い
大卒の女性はキャリアと結婚の両立に楽観的だったが、キャリアと母親業の両立には自信がなかった
4 章 キャリアと家庭に橋をかける
1933 年に大学を卒業した 8 人の女性の物語 (第 2 グループに属する)
結婚率と出生率が低い第 1 グループと両方とも高い第 3 グループの橋渡しの世代
第 2 グループはキャリアと家庭の両方を求めた世代
第 2 グループの最初は結婚率も出産率も低く、最後は結婚率も出産率も高い
前半を 1898 年 ~ 1914 年の生まれ年、後半を 1915 年 ~ 1923 年の生まれ年に分けて考えるのが有効
背景にある変化
都市部では下水道が整備
職場にも機器が導入されていった
オフィスにおける産業革命
大規模な分業
一般のホワイトカラー部門の増大
従来、男性が労働市場で働き、妻子を養うことを推奨する社会的規範
仕事の多くが過酷だった時代
社会的弱者を保護し、他の市民の負担を軽減するためのもの
この時代には、多くの人の労働条件が改善された
第 1 グループと第 2 グループでは、白人と黒人で差異が大きい
どちらもグループでも、黒人女性は仕事も結婚も出産もしている
夫となる黒人男性が白人男性よりも稼ぎが少ないので仕事をしていたのではないか
黒人女性は奴隷時代も解放時代も常に働いており、白人女性と比べて妻が働くことの社会的スティグマが少なかったのではないか
黒人が多く住んでいた南部でマリッジバーの普及が少なかったため
1950 年代に教師や事務職でのマリッジバーはほとんどなくなった
他の職業では根強く残った
5 章 「新しい女性の時代」 の予感
ベティは 1950 年代を過去よりも後退した時期 (教養ある女性が大学に通って卒業することが逆転した) だとしたが、実際にはそうではない
1950 年代から 1960 年代初頭に大卒した女性は、子どもが小さいうちから働くことに疑問
就労の難しさは、質の良い手ごろな価格の保育サービスが得られないことにも起因
子どもが大きくなってから (本人が 40 歳前後) 労働力率は急上昇 1940 年代から結婚年齢が低下
出産回数も増えた
1950 年代に卒業した女性は、長期的なキャリアを追うことはなかったが、いずれ働くつもりで準備はしていた
子が生まれたら仕事をやめて、後で再就職
最大の制約は 「幼い子を持つものは家にいるべきで、働けば子が苦しむ」 という当時の規範
フリーダンは、1950 年代の大卒女性のキャリアを、それ以前の大卒女性の一部としか比較していなかった
そのため、1950 年代の大卒女性の職業的野心が以前より低くなったという誤った主張になった
それ以前は、結婚・出産か就職のどちらかだったが、1950 年代には両方手に入れられるように
フリーダンの著書の発売が早かったため、1950 年代の大卒女性のその後をちゃんと調査できていない
当時は、大卒女性でも子どもが就学するまでは母親が家にいるべきだと考えていたし、妻は自身のキャリアより夫のキャリアを優先すべきと考えていた
6 章 静かな革命
1965 年までに、30 歳未満の既婚女性の 40 % 以上が服用
1960 年代から 1970 年代初頭の女性解放行進やデモのような騒々しい運動とは異なり、静かな革命は多くの人に支持された
1970 年代初頭に大学を卒業した女性たちは、その 10 年前以降 (以降であってる?) に卒業した女性たちとは大きく異なった
家庭よりもキャリアを優先することで、充実した給与の長く続けられる職業を得られる可能性が高まると考えた
そのために結婚を先延ばしにして、出産を遅らせる
第 4 グループの女性たちは、家庭を持つことは人生の中でも簡単な目標のように思えていた
当時は 35 歳を過ぎると妊娠率が急激に下がるという医学的データが確立されていなかった 昔の女性が早婚だったのは、妊娠のリスクへの対策
ピルの有益な影響のひとつに、結婚年齢を上げて、離婚を減らしたことがある https://gyazo.com/1d6fe395cafc4b5c5f72fefe155f858f
一方的な離婚を認める法律の導入に対して、1970 年代の夫婦は、互いと家事への投資を減らすという対応 1970 年代後半には、第 4 グループの女性たちは自分たちのアイデンティティを主張 : 旧姓を守るように 静かな革命がもたらしたものは、職種の変化とキャリア志向
高収入の仕事に就くようになった
かつての教師や図書館司書、看護師、ソーシャルワーカーの割合が下がり、弁護士や経営者、医師などの割合が増えた
キャリアを優先するあまり、子どもを持つことを忘れてしまった
7 章 キャリアと家庭を両立させる
第 5 グループは出産を遅らせることのコストについて把握していたが、出産をさらに遅らせた
30 代後半から 40 代前半に多くの赤ちゃんを産む
家庭もキャリアも両方手に入れられた人が多いとはいえ、若い間はフルタイムで働くことが困難
8 章 それでも格差はなくならない
上司や同僚による差別や、女性の交渉能力の低さが大きく影響しているわけではない
年齢を重ね、結婚し、子どもを持つことで広がっていく
家庭での責任に男女差があるため、女性は労働時間が短く、(家族関係の) 呼び出しに対応しやすい柔軟性のある職業を選びやすい
男性は、一般的に時間的制約が大きくても給料の高い職を選ぶ
仕事の時間的要求が少ない職の方が、男女の賃金格差が少ない
例外として、競争の激しさが影響することも
金融業界は時間的要求は少ないが、競争が激しい → 男女の賃金格差が大きい
健康関連は時間的要求が多く専門性も高いが、競争が激しくない → 男女の賃金格差が小さい
1970 年代以降、所得格差の拡大が一般的になり、時間に対する要求が高い仕事の賃金が高くなった
女性にとって参入が困難で、過酷な仕事が、最も儲かりやすい仕事になった
男女の所得格差の原因は 2 つの領域で追及されるべき
夫婦が育児をどのように分担するか
仕事における時間の柔軟性のコスト
コストが大きいほど、夫婦のどちらかが仕事に特化する
9 章 職業別の格差の原因
時間に対する要求が高い仕事の場合
法律家の報酬を見ると、時間を投入するほど大きく報われる 全体の労働時間が長くなると、時間当たりの収入が大きく増える
時間給、民間企業に留まる可能性、パートナーになる確率は、すべて性別にはあまり関係がなく、時間のインプットと家庭の要求に大きく左右される
夫が富裕層の場合は妻は仕事を辞めやすい ⇔ 夫の稼ぎが妻より少ない場合、妻は仕事を辞めにくい
平等に仕事を抑えて子どもの面倒を見ることもできるが、それだと 2 人とも高いキャリアを目指しづらい
論理的には、片方がキャリアから身を引くのが論理的な行動
時間的要求の大きい職業では、より多くの時間働き、顧客と密接に接することができると、時間当たりの報酬が不釣り合いに多くなる
同じ時間を仕事に費やすとしても、男性の方が時間の融通が効かない仕事をする傾向にあるため、平均して男性の方が収入が大きくなりやすい
女性が時間の融通の効きやすい仕事に就きやすい根底にはジェンダー規範がある 著者らの調査による論理とデータによると、男女の収入の差は、職場での偏見や家族に優しい政策の欠如、その他の手っ取り早い解決策などとは直接的には関係がない
薬剤師は給料が高い職業
20 世紀半ばの薬剤師の状況は、現在の金融業界の一部や弁護士や会計士と似ていた (時間に対する要求が大きい)
薬剤師と顧客の関係が今より親密で、薬は顧客のために特別に調合されるものだった
現在では薬剤師が個人的なサービスを提供することがなくなった (利用者も、同じ人に担当してもらいたいと思うことはないはず)
パートタイム勤務をすることによる時給のペナルティがほぼなくなった
労働者間の代替が、長時間・オンコール勤務による不相応に高い時給を下げる鍵
全ての職業が薬剤師のようになれば、他の職の人も苦しまずに済む (夫婦公平と男女平等)
10 章 仕事の時間と家族の時間
会計や法律、金融、コンサルティング、学問の世界では女性と男性の競争の場は不平等になっている
これらの業界の昇進ルールでは、早期に大量の時間を投入する必要がある
家庭を持って子育てすることと相性が悪い
昇進までにその職を去る女性が多い
偏見やえこひいきなどもあるが、一番主要な理由は時間的な要求
解決策
コロナ禍により、柔軟な働き方が生産性を低下させないことが明らかになった 人がどのように時間を使うか
父親も母親も子どもと過ごす時間を増やしている
従業員が雇用主に変化の要求を伝える方法のひとつは、より良い条件の他の会社と契約すること
女性医師は長い訓練年数がかかるが、それ以下の訓練年数の他の職業より子どもの数が多い
他の職よりお金がある
男性医師の労働時間が長い専門科ほど女性比率が低い
女性医師は男性医師と比べて時間給がかなり低い
収入減の多くは専門医の選択によるもの
ひとりの患者にかける時間が長いためという研究もある
若いうちの労働時間の短さも要因としてあるのでは?
多くの専門分野の医師が短時間勤務できるようになった
かつての獣医師は夜間や休日に診療していたが、現在ではヒトの診療と同じようにケアされる
仕事と家庭が時間枠を奪い合うことの解決策
柔軟性のコストを下げること → 柔軟な仕事を選びやすくなる
親の育児コストを下げること
質の高い保育に多額の資金を提供する
社会規範を変えて、トレードオフが性別に依存しないようにする コロナ禍により、ケア部門と経済部門の繋がりが明確に
子どもたちが学校や保育園に戻れないと、経済を再開できない エピローグ
過去 100 年の間に、家庭と仕事の両立が進められてきた
コロナ経済では、子どもか家庭のどちらかを選ばざるを得ない、という主張もある
WFH (在宅勤務) がワーク・フロム・ヘルになっている人々の不満もある 1971 年ごろから使われ出して、最初のピークは 1975 年
2010 年ごろには 1975 年の 1/5 程度に
2010 年代に再び急上昇
期待値が上がり、願望が変わった
コロナ後にどうなるかはまだわからない
ケア部門の閉鎖によるところが大きい
1930 年代にはケアと経済が密接に関係している意識はなかった
働かないことに報酬を支払うもの
アメリカは、幼い子どもの世話は地域社会の責任、という考え方を受け入れてこなかった
男性も、女性がしてきたように職場に要求し、妻が仕事で主導権を握れるように家庭で主導権を握る必要
職場における待遇だけが問題ではなく、家庭内の夫婦の公平性も問題
これまで受け渡されてきたバトンに、もっと注意を払うべき時が来ている
謝辞
訳者あとがき
日本の女性の家事・育児の時間が、男性と比べて格段に多い
日本はデンマークやスウェーデン、ドイツなどと比較して収入の落ち込みが大きく、回復も弱い