洞察問題解決
そこでは,思考を二つの種類に分類している.
過去に経験した解法に基づく
過去に経験した問題解決に基づいており,習慣や行動が再生されることによってなされる まったく新しい解を創造する
生産的思考は新たな関係性に気づくことであり,この生産的思考は人間の創造性に深く関与していると考えられる 洞察問題解決は,後者に属する思考の一つの形態である[Mayer 92] 再生的思考が生産的思考を阻害する場合がある
例えば,習慣によって間題解決に対する構え・態度(Einstellung) が一度できてしまうと,他により簡単な解決方法があったとしても,それに気づかず非効率な,または解にたどり着かない方法をとってしまうことが知られている [Luchins 50] また,同様に機能的固着(functional fixedness) と呼ばれるような,対象の習慣的な機能に固着した見方をしてしまうことによって,その対象のもつ潜在的な使用方法を用いることができなくなることが知られている [Duncker 45, Scheerer 63]. 洞察問題解決の特徴
インパスは,過去の問題解決経験が負の要因として働くことによってもたらされる[Dominowski 95, Ohlsson 92, Smith 95].
なぜなら,洞察問題は,過去に有効であった方法を用いても解くことができないためである. にもかかわらず,問題解決者は,過去の問題解決経験にこだわり,誤ったオペレータを繰り返し適用して問題を解決しようとする.
2. 失敗事例の利用不可能性
間題解決者は,インパスの中で,繰り返し失敗を経験する. しかし,自分の手法に固執して,失敗のような負のフィードバックから学習することができない.
3. 重要なデータの無視
問題解決者は,解の発見に有用なデータを無視する.
解を知っている第3者が傍目から見ていると,「そこにもう答えがあるのに何で解けないの」といったような状況がしばしば生じる[開98,Kaplan 90].
4. 飛躍的解決
問題解決のプロセスは漸進的に進むのではなく,飛躍的に展開する.インパスに陥った状態から,あたかも突然解がひらめいたように問題が解決される[Davidson 95, Metcalfe 87].
しかも,後からなぜ解が発見されたのかの説明を求められても,その理由を報告することができない.
5. 洞察後の了解
一般的には,洞察間題はけっして困難な課題ではない.答えを知らされると,多くの問題解決者は,「こんな簡単な問題がなぜわからなかったのかがわからない」といった感想をもつ.
しかも,一度解法を学習すると,次には何なく類似の問題を解くことができるようになる.
6. 感情的体験の随伴
洞察問題解決においては,解に気づいた瞬間に,驚きや感動など,ある種の感情的な体験を伴うことが少なくない. 7. 問題表象の転換
洞察の前と後では,間題解決者の問題に対する捉え方(問題の構造の理解,定式化の方法など)が根本的に変化してしまうことが少なくない.
洞察問題解決においては,洞察前後で,問題自体が別々のものになってしまうのである[Mayer 95].
8. 創造性への関与
これはここまで述べてきたような意味での特徴とは異なるが,このような洞察問題解決は,人間の創造性に深く関与するプロセスであると言われている[Mayer 92]. ゲシュタルト心理学における洞察の捉え方では,まず, ①間題の構造や過去の経験により,間題解決に必要な関係性の発見が阻害され,
②インパスに陥り,そして,
③対象となる問題を新たな観点から捉えなおし,再構成化することにより,洞察が導かれると考えられている[Mayer 92, Scheerer 63].
ガウスの逸話
1~100すべて足せ
1~100と100~1を足すと100個の101ができる→2で割って5050
解法諸説あり
再構成化のプロセス
洞察問題解決では,まずインパスの段階が生じる.インパスの段階では,問題解決者は,解の存在しない不適切な問題空間を繰り返し探索する.
問題解決者は,失敗を繰り返しながらも,なかなか誤った問題空間の探索から離れることができない
洞察が生じるためには,そのような心的制約を緩和(relaxation)しなければならない.
解を発見するためには,誤った問題空間の探索から,解が存在する問題空間の探索への切替えが起こらなければならない. 3. 類推の利用
現在直面している問題の状況と,過去にすでに解決に成功した問題の状況との類似関係に気づくことによって,過去の経験を現在の問題解決に適用することにより洞察が導かれることがある.
洞察問題解決とは、解決の当初には行き詰まりの状態に陥るものの、その状態から脱却するために試行錯誤を重ねていくうちに、解が突然ひらめくというタイプの問題だと言われています。この問題解決過程を解明するための実験が古くから心理学において実施されてきましたが、近年になって、問題解決を妨害するような制約にはまるのが行き詰まり状態であり、試行錯誤によって徐々にその制約が緩和され、本人には無自覚なまま解に到達していることが実験的に明らかになってきました。植田研究室では、制約が徐々に緩和していき問題解決のreadiness(準備ができていること)が高まっていく過程を、近赤外光脳機能計測装置を用いて明らかにしつつあります。これまで、脳の特定の部位で、問題解決の前半よりも後半で脳活動が活発になっているという結果が得られています。