財政指標はたくさんあるので都合よく使われる
OECD エコノミストの Leibfritz et al.(1994, p. 63)は,全体的な財政状況を把握するには複数 の財政指標をみる必要があると指摘する.
単一の指標だけで財政状況に関する情報を 完全に把握することは不可能
多様な指標をみることによって状況を判断すれば,各指標 のもつ欠陥を補うことができる
そこで彼らは,これまで指摘されてきた財政指標を 表 3 のように列挙する.
どの指標を選択するかに際しては,常に単純性と包括性の間で のトレードオフに直面するとしている.
財政状態を表す財政指標が複数存在するという単純な事実は,時には重要な政治的意味を持つことになる.財政指標を政治的に利用することで財政状態の実情を欺き,国民に全く違った印象 を与えるために利用されるのである
例えば,アベノミクスの三本の矢のうちの第 2 の矢とされた財政出動を例に挙げよう. 最も注目を集める当初予算ベースでは拡大しているが、補正後予算ベースや決算ベースの歳出では「財政出動」はほぼ増えないかマイナスだった
誇張した数値
例えば,2016 年 8 月 2 日に発表された「未来への投資を実現する経済対策」の事業規模は28.1兆円とされたが, うち財政措置は13.5兆円で,さらに国費は6.2兆円とされた 具体化した2016年 8 月24日の第 2 次補正予算規模では国費は3.3兆円であり,うち0.5兆円は前年度剰余金受入・税外収入であった.
28兆円の事業規模を掘り下げていくと,13.5兆円,6.2兆円,3.3兆円へと縮小する
例えば,ある事業の予算に従来10兆円が割り当てられていたとしよう.しかし,財政赤字対策が求められる状況下で,この10兆円を削減する代わりに
財政投融資を通じて年利率10% で10 兆円の借り入れを行い 毎年生じる利払費 1 兆円(10兆円×10%)分を一般会計から利子補給した
としよう.すると,10兆円の事業費は変わらず,一般会計の負担は10兆円から 1 兆円まで削減され,大幅な歳出削減措置がとられたような印象を与える.
「現在価値10兆円分」→「毎年 1 兆円の支払いを伴い,その総額の現在価値が10兆円に相当するもの」に切り替えただけ
こうした事例は,かつて道路予算においてみられた.
事実上の出費は抑えられていないので、長くは続かない
政府や政治家は,財政健全化努力に行き詰まった場合,あの手この手を 使って急場しのぎをしようとする.その手口を冷静にみて判断しないと,表面的な解決策を究極的な解決策と誤解してしまうことになる.
日本では,今のところ 弊害が表面化していないとの理由で,諸外国では容認されていない巨額の財政赤字や政府債務残高の問題が事実上放置されてきた. それどころか,財政規律として存在したいくつかの原則(ルー ル)を廃止ないし形骸化することで財政健全化努力を減殺してきたのである
財政法がいくつか形骸化しているという指摘
これまでは財政法第 4 条を根拠に,建設国債の発行額はその許容額まで発行されてきた.しか し,建設国債の発行だけでは歳入が不足するため,特例法を制定し,年度内に一定額の国債が発 行できるようにしてきた.
「終わりに」を読むとそのようだ。ただしCOVID-19以前の主張だから、以後にどういう主張になるかは不明
日銀の長期国債買入額 の大きさは,長期国債の新規発行分のすべてを吸収した上に,日銀以外の保有額も毎年ほぼ同額吸収したものに相当する
2015-2016
これは日銀による間接引き受けである
赤字国債発行額は1997年度に比べて1999年度以降 3 ~ 4 倍増となり,国債依存度は当初ベース・実績ベースでも10~20% ポイント上昇してしまった.2002年 1 月から2008年 2 月までは73カ月に及ぶ戦後最長の景気拡張 があったにもかかわらず,である.
建設国債の償還の60年は、公共事業の便益が60年続くという考え方 赤字国債は10年償還だったのは将来世代の利益にならないからだった
60年にしたということは将来世代への負担の転嫁である
1960年代前半までは,財政の収支均衡が基本原則とされた.しかし,収支均衡の維持が困難にな り,成長通貨の供給という観点からも一定の財政赤字が容認されることになると,
1970年代半ば までは「建設国債の原則」と「市中消化の原則」に従って財政運営がなされるようになった.
本稿で論じたように,この「建設国債の原則」も事実上放棄されていく.