ロースクール制度の失敗
司法制度改革審議会(1999年7月~2001年6月)における検討中から、法曹養成制度の改革は既存制度を維持しようとする勢力の抵抗にさらされた。法曹養成制度の改革を支持する改革推進者の中にも、 既存制度の根幹(法学部、大学教育を前提としない法曹養成制度、司法研修所)を維持しようとする「保守的改革者」と、
既存制度の根幹をも改革しようとする「進歩的改革者」が存在した2。
著者はこちらを自認している
我々にも2000年には夢があった。広い知的・社会的背景をもった学生たちが、プロフェッショナル・スクールとして明確に位置づけられた法科大学院において、充実した臨床法学教育プログラムを含む自己完結的な法学教育を受け、純粋な資格試験として運営される司法試験を経て、司法研修所での修習を強制されることなく法曹として羽ばたいてゆく、という夢である。
2009年に韓国で導入された法学専門大学院制度は、私が日本で実現したいと考えた制度に極めて近いものであった。
保守的改革者が政策形成過程を支配した。
その結果、司法制度改革審議会は2010頃に新規法曹を3,000人誕生させるという目標を設定し、それが閣議決定とはなったものの、法科大学院制度自体は、多くの欠陥を含む形で誕生した。
⑴法学部を従来のままで維持し、法科大学院に事実上法学部出身者が多数を占めるであろう2年短縮コースの設置を認める、
⑵法科大学院を修了せずに司法試験を受験することを認める予備試験を、何らの受験資格制限もなしに導入する、
これらはなぜ欠陥といえるのか?基素.icon
経済力に乏しい人
実務経験を有する人
のための試験ではなく、実際の合格者の属性は
職業別では、大学在学中が107人で30.5%、法科大学院在学が164人で46.7%、法科大学院修了・中退が47人で13.4%、その他が33人で9.4%であった。
だから著者は批判している
現在政策決定過程で影響力を持っている人々は、旧司法試験とのアナロジーで予備試験を捉えていて、現状よりもさらに進んで、予備試験に法科大学院に代わる地位を与え、さらには法科大学院を廃止して端的に旧司法試験を復活させようと考えていると思われる... 予備試は難しいのだから、当然こうなるだろうな基素.icon
実務経験は試験勉強よりたいてい狭い
本当の実務の難しさは問われない部分だろうし
⑶司法修習期間は短縮するものの、全員が司法修習を受ける制度を維持し、臨床法学教育を実施しない法科大学院の開設を認める、といったことである3。
法科大学院に対しては適切な教育を行って7割から8割の合格率を達成することを要求していながら、その前提として不可欠なはずの法科大学院定員と司法試験合格者数のバランスを達成するための文科省と法務省の調整はまったく行われなかった。
文科省は要件を満たした設置申請はすべて認める方針を採用し、2004年から2005年にかけて、74校が設立され、合計5,825人という予想外に多くの定員となった。 2004年10月
司法試験委員会(=法務省)には3,000人合格という目標を達成し、7割から8割という合格率を実現させる意思がないことが明らかとなった。 2008年以後司法試験合格者数を2千名少々に固定し、2010年頃に新規法曹を3,000人生み出すという閣議決定を無視した。
実際、2年短縮コースの1期生が受験した2006年の第1回司法試験の合格率は48.3%にすぎず、以後の合格率はそれよりも急激に低下していくことが明らかとなった。
近年は受験者数が最盛期の半分と激減したことで合格率が増えてる基素.icon
https://gyazo.com/14d82b13e1365323d363242cdd1c39a8
2006年からのデータ
法科大学院設立で盛り上がったが、そのあと減少と読める基素.icon
その結果、法科大学院の人気はたちまち低下し、2004年には出願者の累計が72,800人であったのに対して、2006年には40,341人に減少した。
文科省と法務省は試験合格率の低さはロースクールの教育力欠如と批判しているらしいが、論理的な誤りだ基素.icon
合格率をあげるためには以下の要素しか影響しない
1. 合格者が増える
2. 受験者を減らす
いずれも達成できない。今からでも買えられるのは法務省の対応だけ
法務省が合格者数を2000人固定にしているのだから1の要素はない
受験者を減らすのはロースクールを減らすしかない。2は少子化や、法曹が不人気になることでしか達成できない
文科省によるローへの予算カット
2011年から削減が始まった
2012年 文科省、合格率基準を満たさないロースクールへの補助金をカットを発表(6校が対象)
その後も強化され、13校が学生募集停止予定
削減率は定員が小さい小規模校ほど大きくなった
ロースクールの教育力が増しても、大学間の序列が変化するだけで1も2もかわらない
バカげた主張を本当にしているの?、中学生でも気づくような事実に上級官僚が気付かないはずがない基素.icon
日弁連は民事訴訟件数の減少によって弁護士が困窮化していることを理由(2割の課税所得が年間70万円以下という統計が根拠。ただし業務実態は不明)に司法試験合格者数を削減要求している 2013年7月 政府による年間3000人合格の閣議決定の撤回
国民の弁護士アクセス改善政策の放棄
ロースクールの3/4が学費と数年の時間を払った挙句に法曹になれずに終わる。これは消費者問題だ
ロースクールの学生は、法曹になるために法務博士が必要だからはいるが、目的が達成できない
東京以外の弁護士10人未満の市区町村(弁護士過疎地)に弁護士を供給しているのは愛知大学と北海道大学(50-60%)であり、それ以外の上位12校は10%程度に過ぎないことが調査でわかった
著者は過疎地の弁護士アクセスを供給するために、韓国のように上位校のロー定員を抑制してほかに分散させようというような考えのようだ基素.icon
私はロースクールをつくって、修了資格を司法試験の条件にしたことが失敗の一番大きい原因だと思っています。誰でも、自由に、何回でも受けられる非常にオープンな制度を変えてしまったことで、受験者数も激減しています。 なぜ何回でも受けられるのに受験者数が減るの?基素.icon
須網氏:法曹志望者が激減したのは、他の職業との競争に負けたということでしょう。
私たちが法曹になった頃に比べ、今は会社に入っても若いうちからなんでもできる。転職も活発です。
ロースクール制度だけを原因にするのは、ずれていると思います。
ローへの制度変更には、おそらく弁護士も大学にも被害者意識がある。ただ、これからは恨みを再生産するようなことをしても将来はないでしょう。
私が当初、ロー制度に賛成したのは、日本の法律家はかわいそうじゃないかと思ったからです。弁護士になった後に、米国とベルギーに行きました。米国型・欧州型はあるけれど「学問の自由に裏打ちされた大学が法曹養成に関わる」ことが一般的でした。
翻ってロー以前の日本の大学は、最初から法律家を育てようと思っていなかった。日本と諸外国では、法律家を養成するために投入されている資源の量が全然違う。もっと資源を投入してもいいと思ったんです。
具体的にはどうあるべきだった?法律家を育てようとしていないとはどういう意味?基素.icon
学者の中に、研究能力があって、実務もやっている人はほとんどいない。
しかし、実務家に訴訟はできるにしても、現行法に対する批判的な理解は別です。法曹養成をうたうなら、試験対策以外のことを教える機関であるべきではないでしょうか。今のシステムは、非常に大切なものをなくしていると感じています。
法律をgivenな制約としてツールとして使うのが法曹の仕事のうち大きなウェイトをしめそうだから、ゴールが見えない基素.icon
吉田京子弁護士
ロースクールを出てからの教育で言うと、司法研修所の問題は大きいと思います。最高裁が取り仕切る以上は彼らに都合の良い教育しかできないわけですし、裁判官や検察官の興味・関心はもっぱらリクルーティングです。最高裁の下にある研修所で変えていくのは難しいでしょう。 米田憲市・鹿児島大教授
法曹養成課程に求められていることは、そもそも司法試験合格を目指した授業は当然で、「理論」と「実務」を架橋したコンテンツです。「3+2(編注:学部3年、ロー2年と短縮化した法曹コース)」が導入されてから、このバランスがすごく悪いと思っています。カリキュラム全体が司法試験に直結しない科目をいかに削るかという流れになってしまっている
米田憲市・鹿児島大教授
谷口雄太さん
ローの授業が予備校と差別化できることは何なのか。やはり答案を書くのに、塾の論証集をベースに使うことは多いし、周りもそうです。受かることが第一目的なので、ローに行くモチベーションをどう保てばいいのか分からなくなる時もあります。
受かることが第一目的である限り、ローに行くモチベーションは保てないのでは基素.icon
司法試験の受験者数が激減しており、この点はネガティブな側面だと思っている。ロースクール制度を議論した際のキーワードは『多様性、公開性、公平性』だったが、いまや多様性が確保できない制度になってしまった。
夜間コースのあるロースクールは限られており、特に社会人が仕事をしながらロースクールで法曹を目指すことが難しくなっている」
「制度設計そのものに無理があった。当初は大学の法学部を卒業していない未修者コースの人が3年、卒業している既修者コースの人が2年で修了することになっていた。つまり、法学部で4年間勉強してきた人にたった1年で追いつくということを意味する。その時点で、破綻することは容易に想像できた」
「ロースクールの教員は、学問・研究のために大学に残った研究者と、実務家(実際に弁護士などとして活動している人)からなるが、どちらも教育者ではない。教育の経験やノウハウがほぼない人に、法律を学んだことのない者を相手にわずか1年で法学部での4年間の蓄積に追いつくだけの成果を求めるのは、もともと無理だった」