伊藤真
校舎も法廷教室も教授陣も揃えて設立要件はすべて満たし、後は数人の大学教授からなる諮問機関の承認を得るだけのところまでこぎ着けました。それまで海外のロースクールを視察したり、いくつもの大学と交渉したり、どれだけ大変な準備期間だったか、今思い出すだけでもぞっとします。
準備万端で連絡を待っていたところ、まさかの不認可。理由もわからず茫然自失でした。学生のとき司法試験短答に落ちたとき以来の大きなショックを受けました。後で聞いたら、機関のメンバーだった大学教授の中に伊藤真にだけは絶対にロースクールをやらせないと強行に反対した人がいたことがわかりました。そこまで嫌われていたとは知らず、国家権力の恐ろしさを思い知るとともに、自分の甘さを心底悔いました。
国家のガバナンスでいえば、三権のうち
国会は選挙制度によって新たな人材育成が担保されているし、
行政も公務員試験があって人事院がその公正さの維持を担っています。
ところが、司法に関してはずっと縦割りで、
司法試験は法務省、
法科大学院は文部科学省、
司法修習は最高裁
とバラバラに人材育成をしています。
ロースクールを作ろうとしたが不認可になった
認可のプロセスに関係していたある大学教授が「伊藤真にはロースクールはつくらせない」と強硬に反対したという話を、あとから複数の関係者から聞きました。私のように修士号や博士号といったアカデミックなバックグラウンドもない人間が、司法試験に受かっただけで法学を教えるなんて、とんでもないという考えだったのかもしれません。
私は、日本国憲法の「個人の尊厳」や「個人の尊重」といった価値を実現するような法曹を一人でも多く育てたい。そのためには、私の講義を一人でも多くの受験生に聞いてもらいたいのです。