米国エネルギー省(DOE)
#用語解説
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United States Department of Energy - Wikipedia
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米国エネルギー省(DOE: Department of Energy)は、アメリカ合衆国のエネルギー政策の立案・実施や核兵器関連の研究開発を統括する省庁です。DOE と核融合の関係は、戦後の核関連研究の流れを受けつつ、1970年代以降に加速した核融合エネルギー研究投資に端を発します。以下では、DOE の前身から設立、核融合研究における主要プログラムや国際協力、近年の動向と課題を整理してまとめます。
1. 前身と設立の背景
1.1 原子力委員会(AEC)の時代
創設背景
第二次世界大戦中のマンハッタン計画(原爆開発プロジェクト)を経て、1946年に原子力エネルギーの平和利用などを所管する原子力委員会(Atomic Energy Commission, AEC)が発足。AEC は、軍事利用(核兵器開発)だけでなく、民生用原子力(原子力発電)や核融合研究の予算管理・研究統括を担った。
核融合研究の端緒
1950年代からアメリカやソ連、イギリスを中心に核融合研究が始まり、AEC はトカマク型装置の開発や基礎的なプラズマ物理研究に予算を投入していた。
1.2 エネルギー危機と DOE への改組
オイルショックと国家政策の転換
1970年代前半のオイルショックを受け、アメリカでは新たなエネルギー源の確保が国家的課題となった。その一環として核融合エネルギーが重要な研究対象となる。
DOE の発足(1977年)
ジミー・カーター政権時代の1977年に AEC を含む複数機関が統合され、米国エネルギー省(DOE)が誕生。DOE は「エネルギー安全保障」と「核兵器関連の安全管理および研究」を二本柱とし、その中で核融合研究を政府研究計画の重要領域と位置づけた。
2. DOE による核融合研究の発展
2.1 1970年代~1980年代: 大規模研究への投資
磁気核融合研究
トカマク型(ドーナツ型磁場閉じ込め装置)による核融合実験に巨額の研究費が投下され、プラズマの高温化・長時間運転をめざす実験が積極的に進められた。著名な施設としては、MIT のアルカトール (Alcator) 装置やプリンストン大学の PLT (Princeton Large Torus)、TFTR (Tokamak Fusion Test Reactor) などがある。
慣性核融合研究
レーザーやイオンビームを使い核融合燃料(重水素・三重水素ペレット)を高密度に圧縮して核融合を起こす慣性核融合(ICF: Inertial Confinement Fusion)研究も推進。ローレンス・リバモア国立研究所 (LLNL) の NOVA や NIF (National Ignition Facility) はその代表例である。
核兵器研究との融合
慣性核融合の研究は、核兵器のシミュレーションや爆縮挙動の解析にも通じる技術であるため、軍事的な観点からも予算が付いた。DOE 管轄の各国立研究所(LLNL, LANL, SNL など)はこの時代から一貫して核融合研究に深く関与。
2.2 1990年代: 冷戦終結後の再編と予算変動
冷戦終結の影響
ソ連崩壊後は軍事予算の削減傾向や財政再建を背景に、核融合研究費の大幅な増加はストップした。一方で、プラズマ物理学の基礎研究やシミュレーション技術などは継続的に進展。
ITER への参画準備
1985年、米国・ソ連・日本・EU が核融合国際実験炉(ITER)の構想に合意し、DOE は国際協力の枠組みづくりに関与。1990年代に入ると ITER の設計段階を通じて研究者・技術者の交流が活発化した。
3. 主な研究プログラムと施設
トカマク型装置
TFTR (Princeton Plasma Physics Laboratory, PPPL)
1982年稼働開始。DOE 支援の下、初の重水素–三重水素 (D–T) 核融合燃焼試験を実施し、1994年には世界記録の核融合出力 (10MW 相当) を達成した。
DIII-D (General Atomics 社, サンディエゴ)
DOE が資金提供する代表的トカマク。プラズマ制御や先進的運転シナリオの研究が盛ん。
Alcator C-Mod (MIT)
2016年まで運転。小型・高磁場トカマクとして、プラズマ理論や制御研究に寄与。
ステラレーター型装置
米国ではトカマクほどの大規模投資はないが、磁場設計の高度化によりプラズマ閉じ込めを高める可能性を模索。PPPL でも小規模ステラレーター実験が行われてきた。
慣性閉じ込め方式
NIF (National Ignition Facility, LLNL)
世界最大級のレーザー核融合研究施設。192本の大型レーザーを集束し、燃料ペレットを高圧縮・高温化して核融合反応を狙う。軍事関連(核実験代替)と平和利用の両面から大規模予算が投下された。2022年~2023年には「点火(ignition)閾値を超える核融合エネルギー」達成が報じられ、大きな話題となった。
4. 国際協力と ITER 計画
4.1 ITER 計画への参加
ITER (International Thermonuclear Experimental Reactor)
核融合実証炉の国際共同プロジェクト。現在フランス・カダラッシュで建設中。米国、欧州連合、ロシア、日本、中国、韓国、インドが主要参加国として協力している。
DOE の役割
米国側の資金拠出と技術提供を所管するのが DOE。ITER で用いられる先進的な超伝導マグネットやプラズマ制御システムなど、DOE 支援下の国立研究所・大学・産業界が共同で開発・製造を担う。
4.2 国際協力のメリット
技術移転・人材育成
ITER を通じて各国の核融合技術が集約され、人材交流や新技術の開発が促進される。DOE と各国立研究所は、ITER 設計・建設に欠かせない要素技術の提供を通じて国際的な連携体制を強化している。
リスク分散とコスト共有
核融合炉建設は莫大な費用と長期的な研究期間が必要。国際分担により財政的・技術的リスクを軽減し、大規模プロジェクトを実行可能とする。
5. 近年の動向と課題
5.1 民間企業の参入と DOE の支援
民間セクターの台頭
2010年代後半から、トカマク型・ステラレーター型・慣性核融合型を含む様々な核融合ベンチャーが台頭。アメリカ国内でも Commonwealth Fusion Systems (MIT 系ベンチャー) や General Fusion (カナダ系企業) などが注目を集める。
DOE の補助・規制整備
DOE は国防関連や国立研究所を中心とした研究のみならず、民間核融合スタートアップへの助成や連携プログラムも開始。原子力規制委員会 (NRC) などとの協働を通じて、将来的な核融合炉商用化に向けた規制・安全基準の整備も進められている。
5.2 エネルギー省の今後のビジョン
国家エネルギー戦略の一環
核融合は再生可能エネルギーや核分裂炉と並ぶ将来のクリーンエネルギー源として期待を集めている。DOE はグリーンエネルギー転換における重要分野と位置づけ、予算増を視野に入れた政策を展開。
2030年代以降の実証炉
ITER の成果や民間ベンチャーとの協力を踏まえ、2030年代~2040年代に本格的な核融合実証炉を運転開始することを目標に掲げる。DOE は大型国際プロジェクトの成果を国内エネルギー戦略へと展開しようとしている。
6. まとめ
米国エネルギー省(DOE)は、原子力委員会 (AEC) の流れを汲み、1970年代以降核融合研究の主要推進役を担ってきました。トカマク型を中心とした磁気閉じ込め方式や、NIF に代表される慣性閉じ込め方式の両面で大規模な投資と研究施設の運用を行い、国防関連技術とエネルギー安全保障を両立する枠組みを整備してきたのが特徴です。また、国際協力プロジェクト ITER にも参画し、世界的な研究ネットワークの要として技術・予算を提供しています。
近年は民間核融合ベンチャーの参入が活発化し、DOE も国立研究所との連携だけでなく民間との共同研究・開発投資を進めています。技術的には、プラズマ物理の制御や耐久材料の開発、商業化へのコスト課題など依然としてハードルは高いものの、慣性核融合での「点火」成功や ITER 計画の進展など、核融合エネルギーの実用化がより現実味を増している局面に差しかかっています。DOE は今後もエネルギー政策と国際安全保障の両面から核融合研究を推進する方針であり、2030年代後半以降の実証炉建設・運転を大きなマイルストーンとして見据えています。
感想
そっか、アメリカにはエネルギー省があって、そこが直接お金を援助してたのか
日本には、資源エネルギー庁 - 経済産業省がある
令和4年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2023)
大学や、民間企業にお金出すこと考えたら?
核融合の業界だけ、科研費いらないぐらい金配ろうぜ!!!!
科研費がなぜ悪者にされるのか