村上春樹にクィアを読む
moriteppei.icon 『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』も、フツーに読んだらミソジニーがひどいし、いわゆる「冷蔵庫の女」だし、女性に感情介護と「ちんちんよしよし」しかさせてないし、レイプされた女性の発言を偽証と割り切ってるし、もう最低だから、そっちにばかり目が当然行くのだけど、他方でバイセクシャルは出てくるし、灰田とつくるは「夢の特徴をすべて備えた現実」でオーラルセックスで果てるし、シロは「誰も好きではない」「女であることをやめたがっていた」と語られるし、つくると「年上の女性」の関係は、情報を開示した上での複数のお付き合いなのでポリアモリーとも言える。そもそもタイトルが「色彩」だし.....とか。 アカはバイセクシャル。
灰田とつくるの「夢」の中でのオーラルセックス
シロ、女性であることをやめたがっていた、誰も好きじゃない。
「年上の女性」との関係。ポリアモリー。
すみれはレズビアンではなく、相手が女性であることは「たまたま」だということが強調される。 だから相手がたまたま女性であるというようなことは、その時点ではすみれにとってまったく問題にはならなかった。 村上春樹. スプートニクの恋人 (Japanese Edition) Kindle 版. 12ページ すみれは溜息をつき、しばらく天井を眺め、それから煙草に火をつけた。考えてみれば妙なものだ。22歳になって初めて真剣に恋に落ちたら、その相手がたまたま女性だっただなんて。 村上春樹. スプートニクの恋人 (Japanese Edition) (pp.43-44). Kindle 版. 恋に落ちた相手はすみれより17歳年上で、結婚していた。さらにつけ加えるなら、女性だった。村上春樹. スプートニクの恋人 (Japanese Edition) (p.5). Kindle 版. すみれ自身も自分のアイデンティティについて「よくわかっていない」という描写がなされる。
「このあいだ新聞に出てたんだけど」 、 すみれはぼくの発言をあたまから無視して言った。 「レズビアンの女性は生まれつき、耳の中のある骨のかたちが普通の女性のそれとは決定的に違っているんだって。 なんとかいうややこしい名前の小さな骨。 つまりレズビアンというのは後天的な傾向ではなく、 遺伝的な資質だということよね。アメリカの医者がそれを発見したの。 彼がどんないきさつでそんなことを研究しようと思いたったのか見当もつかないけれど、 いずれにせよそれ以来わたしは、その耳の奥のろくでもない骨のことが気になってしかたないのよ。 わたしのその骨はいったいどんな形をしているんだろうかって」村上春樹. スプートニクの恋人 (Japanese Edition) (pp.). Kindle 版. 68ページ 耳の骨を確かめれば自分のセクシャリティがわかることになる。すみれは自分がレズビアンなのか、そうではないのかが知りたい。
「時間と経験」とすみれは言って、 空を見上げた。「時間はこうしてどんどん過ぎ去っていく。 経験?経験の話なんかしないで。 自慢じゃないけどわたしには性欲だってないのよ。 性欲のない作家にいったいどんなことが経験できるっていうの? そんなの食欲のないコックと同じじゃない」 村上春樹. スプートニクの恋人 (Japanese Edition) Kindle 版. 22ページ 他方で「性欲自体がそもそもない」「ミュウだけがなぜか性欲の対象になる」というあり方も示唆される。