予想通りに不合理
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レストランの前を通ったら、ふたりの人が席が空くのを待って外に並んでいたとする。 あなたは心のなかで、「これはいいレストランにちがいない。 人が並んで待っているくらいだもの」と考え、ふたりの後ろに並ぶ。 そこへまた人がやってくる。 その人も行列を見ると、 「すばらしいレストランにちがいない」 と考えて列の後ろに並ぶ。ほかの人たちも同じように列に加わっていく。 このような行動をハーディング (ハード herdは 「群集」の意味)という。 他人が前にとった行動をもとにものごとの善し悪しを判断して、 それにならって行動するときに起こる。 しかし、ハーディングには、 わたしたちが 「自己ハーディング」と呼んでいるべつの種類のものがある。これは、自分が前にとった行動をもとにものごとの善し悪しを判断するときに起こる。予想通りに不合理 ダン・アリエリー 72ページ この結果は、やりとりに金銭が絡まないとき、 わたしたちがあまり利己追求をせず、他者の幸福をもっと気にしはじめることを意味する。 値段がゼロのとき、 学生が自制して少ししか取らなかったことがこれをよく表わしている。値段がゼロだと製品 (この場合、 キャラメル) はより多くの人にとってより魅力的になるものの、 同時に、人々はほかの人の事をもっと考えたり、気にかけたりするようになり、 ほかの人の利益のために自分の欲望を犠牲にするようになる。 こうしてみると、 わたしたちは思いやりのある社会的動物だが、 ゲームの規則にお金が絡むと、この性向が抑えられることがわかる。予想通りに不合理 ダン・アリエリー 152ページ つまりこういうことだ。 需要の理論はたしかなものである――ただし、 値段ゼロを扱うときを除いて。 やりとりに金銭が絡まないとなると、かならず社会規範がついてくる。 社会規範は人々に他者の幸福を思いださせ、その結果、利用できる資源に負担をかけすぎない程度まで消費を抑えさせる。 ひとことで言えば、 値段がゼロで社会規範が問題になっているとき、 人々は世界を共同体のものとしてとらえる。 以上を全部ひっくるめた重要な教訓? 値段を持ちださないことが社会規範をもたらし、 社会規範があることでわたしたちは他者のことをもっと気にかけるようになる。予想通りに不合理 ダン・アリエリー 156ページ どの場合も、聡明な若い実験協力者たちは、 性的に興奮しているときと 「さめた」 状態のときとで、大きくちがう回答をした。 性的嗜好に関する一九の質問を見ると、 ロイたち実験協力者が性的に興奮しているときは、さまざまなやや変わった性行為をしたくなるだろうという予想が冷静なときのほぼ二倍 (七二パーセント増)になっていた。たとえば、動物との接触を楽しむという考えは、興奮していると、冷静なときの二倍以上も魅力的に映る。 不道徳な行為をする傾向に関する五つの質問を見ると、不道徳な行為に走るだろうという予想が、興奮しているときは冷静なときの二倍以上 (一三六パーセント増)だった。 同じように、コンドームの使用に関する質問では、コンドームの重要性についての注意を何年にもわたって叩きこまれているにもかかわらず、興奮状態のときは冷静な状態のときより二五パーセントも多くコンドームなしで突っ走ると予想した。 いずれの場合も、 実験協力者たちは、性的興奮が性的嗜好、 道徳性、 安全なセックスへの取りくみにおよぼす影響を予測できていなかった。予想通りに不合理 ダン・アリエリー・170ページ しかし、人々に支出を管理させるもっといい方法はないだろうか。 たとえば、 わたしは数年前、 クレジットカードの支出を減らす 「氷のコップ」という方法を耳にした。衝動買いを防ぐ家庭療法だ。 水のはいったコップにクレジットカードを浸し、 そのまま冷凍庫へ入れる。 すると、 衝動的に何か買いたくなったとき、 氷が解けるのを待たなければカードを取りだせない。 氷が解けるころには、買いたいという衝動がおさまっているというわけだ(もちろん、 カードを電子レンジに入れるわけにはいかない。 そんなことをすれば磁気ストライプが壊れてしまう)。予想通りに不合理 ダン・アリエリー• 198ページ それどころか、所有しているという誇りは、 家具の組みたての容易さと反比例していると言ってもさしつかえないだろう。高品位テレビにサラウンドスピーカーを接続する、ソフトウェアをインストールする、 あるいは、赤ちゃんを風呂に入れ、タオルでふき、ベビーパウダーをはたき、オムツをさせ、ベビーベッドに寝かしつける。友人であり研究仲間であるマイク・ノートン (ハーバード大学の助教) とわたしは、 大手家具店の名前をとって、この現象を「イケア効果」と呼んでいる。予想通りに不合理 ダン・アリエリー・225ページ 同じように客を誘惑する罠の例には、 「三〇日間返金保証」 というのがある。 新しいソファーを買うべきかどうか迷ったとしても、あとで心変わりしてもいいという保証があれば、迷いが吹きとんで、 結局は手に入れてしまうかもしれない。わたしたちは、ソファーを家に持って帰った時点で自分たちの見方が変化するだろうことも、ソファーを自分たちのものと考えるようになることも、 その結果、 ソファーを返すことを損失ととらえるようになることも予想できない。 何日かためしに使ってみるために持ち帰るだけだと思っても、 実際はソファーの所有者になりつつあり、どんな感情をかきたてられることになるか気づかないのだ。予想通りに不合理 ダン・アリエリー・228ページ 所有意識は物質的なものにかぎったことではない。ものの見方にもあてはまる。 政治に関することであれスポーツに関することであれ、 なんらかの思想の所有権を得たら、 わたしたちはどうするだろう。 おそらく、 大事にしすぎるほど後生大事にし、ほんとうの価値以上に高く評価するだろう。もっともありがちなのは、その思想を失うことに耐えきれず、なかなか手放せなくなることだ。 その結果、 残るものは何か。 かたくなで柔軟性のないイデオロギーだ。予想通りに不合理 ダン・アリエリー 228ページ 自分の所有物を過大評価してしまう傾向は、人の基本的な偏向であり、 自分自身に関係のあるものすべてにほれこみ、過度に楽観的になってしまうという、もっと全般的な性向を反映している。 考えてみてもらいたい。あなたは自分が人並み以上のドライバーだと思っていないだろうか。 たぶん定年後の生活にも困らないし、 高コレステロールに苦しんだり、離婚したりする可能性も低いし、何分か遅れたところで駐車違反切符を切られることもないと思っていないだろうか。 心理学ではこれを 「前向きな先入観」 と言うが、 べつの呼び方もある。 ガリソン・キーラーの人気ラジオ番組 〈プレイリー・ホーム・コンパニオン〉 に登場する架空の町にちなんで、 「レイク・ウォービゴン効果」 と呼ばれている。 キーラーによれば、レイク・ウォービゴンでは“すべての女性は強く、すべての男性はかっこよく、 すべての子どもは平均以上、 だ。予想通りに不合理 ダン・アリエリー 234ページ 金額が一ドルのときは、露店の前を通りがかった人のわずか一パーセントが実際に立ちどまって様子をうかがっていった。五ドルのときは少しだけ立ちどまる人が増え、 同じように五〇ドルまで少しずつ増えた。 ところが、金額が五〇ドルでも、立ちどまってお札を持っていったのは、 通りがかった人のたった一九パーセントにすぎなかった。 わたしたちはこの信用度の低さに驚き、やや失望もした。 一九パーセントではとても大成功とは言えない。無料のお金がテーブルに載っている (テーブルの下でのあやしい取引などではない) のだからなおさらだ。予想通りに不合理 ダン・アリエリー・312ページ ギュンター・ヒッシュとアリ・ホルタチス (ともにシカゴ大学の教授) とともにオンラインでの出会いの世界を調べたとき、男性がおもに気にするのは女性の体重で、女性がおもに気にするのは男性の身長と年収であることがわかった。また、 それほど意外ではないかもしれないが、オンライン上の女性は平均よりかなり軽い体重を申告し、 男性のほうは平均より背が高く、収入が多いと主張していた。 つまり、 男性も女性も相手が何を望んでいるか承知のうえで、 自分のプロフィールを書くとき、ほんのちょっぴりごまかしていると考えられる。予想通りに不合理 ダン・アリエリー 319ページ