日本文学史概観(近世~近現代)
室町~江戸時代の散文
御伽草子
代表的なものに『一寸法師』や『物くさ太郎』、『鉢かづき』などがある。
仮名草子
御伽草子の後、教訓・啓蒙・娯楽を目的として書かれたのが「仮名草子」である。主に仮名で書かれたことが名称の由来となっている。 代表的なものに『伊曽保物語』(イソップ物語の翻訳)、『浮世物語』などがある。 浮世草子
本格的な近世小説は、「浮世草子」から始まるとされている。代表的な作者は井原西鶴で、彼は など、様々なジャンルで多くの作品を残した。
読本
「読本」とは、「絵本」に対する呼称で、漢語を多用した本格的な小説のこと。前記読本を完成したとされるのは上田秋成においてである。九編の怪奇小説からなる『雨月物語』はよく知られている。 洒落本・滑稽本・人情本
浮世草子からのもう一つの流れは、「洒落本」「滑稽本」「人情本」である。特に滑稽本の中の、弥次郎兵衛と喜多八の滑稽な旅の様子を描いた、十返舎一九の『東海道中膝栗毛』はよく知られている。 草双紙
「草双紙」とは、平易な仮名入りの絵本のことを指す。表紙の色によって、赤本・黒本・青本・黄表紙と名づけられた。特に黄表紙において、山東京伝『江戸生艶気樺焼』や恋川春町『金々先生栄花夢』などが知られている。 次第に長編化し、何冊かの合冊で出版されるようになったため、それを「合巻」という。 芸能・歌謡
能
室町時代までに、庶民の間で「田楽」(農村で田植えなどの際に儀式として演じられた芸能)や「猿楽」(滑稽さを主とした芸能)が広まっていたが、それらは次第に形を変えて「能」が成立した。「謡曲」と呼ばれるその台本は、七五調の流麗な詩句で構成される。 能の大成者としては観阿弥・世阿弥親子がいる。特に世阿弥は、『風姿花伝(花伝書)』や『花鏡』、『申楽談義』などの能楽論を著し、幽玄の世界を完成させた。 狂言
猿楽の滑稽な面を推し進めて成立したのが「狂言」である。次第に能と能の間に上演されるようになった。 歌謡
歌謡としては、『閑吟集』が有名。これは小歌(民間で歌われた、七五調を貴重とする自由な形式)の歌集である。 浄瑠璃
室町時代末期には、扇拍子や琵琶で牛若丸と浄瑠璃姫の恋愛が語られるようになり、それが「浄瑠璃」の起源であるといわれている。これに三味線の伴奏と人形操りが結びつき、生まれたのが「人形浄瑠璃」である。竹本義太夫が開いた竹本座には近松門左衛門を作家として招き、大変な人気を博すこととなった。彼の代表的な作品には、 世話物→『曾根崎心中』『冥途の飛脚』『心中天網島』などがある。 歌舞伎
江戸時代の初めに出雲阿国が始めたとされる「阿国歌舞伎」が歌舞伎の起源であるとされる。やがて「女歌舞伎」へと発展したが、風俗を乱すものであるとして規制された。次いで少年たちによる「若衆歌舞伎」が成立したが、これも規制の対象となった。その後、成人男性による「野郎歌舞伎」が成立し、歌舞伎は芸能・演劇として本格的な内容を備えるようになった。 代表的な作品としては、嫉妬して狂死した女性の怨霊が夫を祟るという怪談を扱った、鶴屋南北『東海道四谷怪談』などがある。 国学・儒学
国学
近世初期の和歌は、公家や武家によって継承された。こうした動きの中で、契沖が『万葉集』の研究書である『万葉代匠記』においてそれまでの歌学を批判し、国学の基礎をつくった。国学は、『古事記』や『万葉集』などの古典を研究し、日本固有の思想を究めようとする学問となった。 本居宣長の研究は、のちに平田篤胤へと受け継がれた。「春満→真淵→宣長」を国学の「三大人」、篤胤を加えて「四大人」と呼ばれたりするそうだ。 儒学
儒学の中でも、江戸時代に正式な学問とされたのが南宋の朱熹によって創始された「朱子学」である。江戸時代の初めには、林羅山らの朱子学者が登場した。その門下である新井白石は、朱子学者としても大きな役割を担ったが、文学史としては『折たく柴の記』という随筆作品が知られている。他にも朱子学者である室鳩巣は『駿台雑話』という随筆を残している。 その他の随筆
その他にも、江戸時代には優れた随筆が残されている。湯浅常山の『常山紀談』は名称たちの逸話を記したもの、松平定信の『花月草紙』は、人事や風物に関する感慨を綴ったもので今日でも高い評価を得ている。